Dynamics 365 — 2026年9月時点の現在地と今後の展望|総集編

こんばんは。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
“室長”こと、吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。
9月26日(Human Resources編)をもって、2026年9月シリーズ全11回が出揃いました。Business Centralから始まり、Finance & SCM、Commerce、Project Operations、Sales、Customer Service、Contact Center、Field Service、Customer Insights – Journeys、Customer Insights – Data、そしてHuman Resources—11製品、11回分の整理を終えて、今夜はその総集編です。
それぞれの製品が何者で、2026 Wave 1でどこへ向かったか。そして11製品を束にしたとき、Dynamics 365というプラットフォームが描こうとしている全体像は何か。最後まで読んでいただけますと幸いです。
注記:本稿は2026年9月時点の公開情報をもとにした各製品の整理と筆者の見解です。各製品の詳細は各回の個別記事をご確認ください。機能の提供状況、対象地域、ライセンス条件は変更される場合があります。
Dynamics 365 — 2026年9月時点の現在地と今後の展望|総集編
— 11製品が描いたビジネスの全行程 —
Dynamics 365は、一つの企業の「人」と「顧客」と「お金」の全行程に存在しています
ある企業を思い浮かべてください。
その企業では今朝、人事担当者が新しいプロジェクトマネージャーの採用手続きを進めています。LinkedInとの連携や外部採用ソリューションとの統合により、採用から内定書・eサインまでのプロセスを一貫化します。入社後はHRの休暇・欠勤データがProject Operationsのリソース計画・時間管理に反映されます—これがHuman Resourcesが2026年に整えた採用フローです。
同じ朝、営業チームはSalesのCopilotに商談サマリーを生成させながら、今日訪問するキーアカウントの準備をしています。Customer Insights – Dataが一枚にまとめた顧客プロファイル—Webの行動履歴、過去の購買、サポート問い合わせ—がSalesの画面に統合されて表示されます。Customer Insights – Journeysが昨夜送ったパーソナライズされたメールには、その顧客が開封して資料をダウンロードしたというシグナルが届いています。Sales、Customer Insights – Data、Customer Insights – Journeysが顧客との接点で連携しています。
その顧客が製品を導入した後、問い合わせが入ります。Customer ServiceのAgentが初期対応と問題の分類を担い、複雑なケースは人間のエージェント(担当者)にエスカレーションされます。チャットや電話はContact Centerが音声とデジタル両方で受け、技術的な問題は現場に技術者を派遣するField Serviceへとつながります。
その企業が小売業ならば、店舗・EC・POSはCommerceが管理し、在庫・受注情報をSCMと同期します。受注から請求、調達から物流まで—大企業ならFinance & Supply Chain Managementが財務とサプライチェーン全体を支えます。プロジェクト型のビジネスならProject Operationsが稼働率と収益認識を管理します。そして企業規模がまだ小さければ、Business Centralを中心に、財務・販売・在庫・プロジェクトなどの基幹業務を一つのERP基盤にまとめることもできます。
Dynamics 365は、一人の従業員が入社し、一人の顧客が購買し、一つの企業が成長する—その全行程に関わっていました。
このシリーズを読む前に知っておくこと
2026 Wave 1(4〜9月)の各製品を11回にわたって整理してきました。どの製品も「AIを入れました」だけでなく、「業務のどこに、どう入ったか」を丁寧に追いました。AgentがGAになった製品もあれば、土台固めに注力した製品もあります。すべての製品が同じ速度で進化しているわけではありません—それが現実の姿です。
11回 一言サマリー一覧 — あの回を、一言で
各製品を一言で振り返ります。詳細は各回の記事でご確認ください。
| # | 製品 | 2026 Wave 1 を一言で | 公開日 |
|---|---|---|---|
| 1 | Business Central | AL言語とExpense AgentでSmall but Mightyを地で行く進化。SOAP廃止で近代的APIへ。中小企業の「できること」を静かに広げた年。 | 8/30 |
| 2 | Finance & SCM | AI Foundationをインフラとして位置づけ、Collections Coordinator・Account Reconciliation・Procurement Agentを一気にGA。複雑な財務・調達の自動化に向けた布石を打った年。 | 9/15 |
| 3 | Commerce | Store CommerceのPOS強化、マーチャンダイジングAI、B2Bセルフサービスポータルで、店舗・本部・ECをデータでつなぐ工事を進めた年。 | 9/18 |
| 4 | Project Operations | AIがプロジェクトの見積もりとリソース配置に入り込み始めた。Copilotが計画の「ドラフト」を担い、人はレビューと意思決定に集中できる構造が生まれつつある年。 | 9/19 |
| 5 | Sales | Lead Scoring AgentとAccount SummaryでCopilotが商談の準備・記録・優先順位付けを肩代わりし始めた。営業が「次に何をすべきか」を考える時間をAIが支援する構造に変わりつつある年。 | 9/20 |
| 6 | Customer Service | AgentがルーティンCSを担い始め、人は判断と共感に集中できるようになりつつある。Case Summarizationと次のアクション提案でAIが「状況を整理する」役割を担い始めた年。 | 9/21 |
| 7 | Contact Center | 音声とデジタル両方にAIが入り、コンタクトセンターの仕事の定義が変わり始めた。Copilotがナレッジサジェストと会話分析・センチメントシグナルを活用してオペレーターの応答品質を底上げする構造が現実になった年。 | 9/22 |
| 8 | Field Service | 現場にCopilotが届いた年。技術者がモバイルで作業指示を受け、Copilotが手順を提案し、完了後の報告をサマリーする—現場の「孤独な判断」をシステムが支え始めた。 | 9/23 |
| 9 | CI – Journeys | Journey設計にAgentが入り込み、マーケターの仕事の粒度が変わり始めた。Copilotがジャーニーを提案し、コピーを生成し、セグメントを最適化する—マーケターの役割が再編されつつある年。 | 9/24 |
| 10 | CI – Data | 統合顧客プロファイルがAgentのグラウンディングデータとして機能し始めた。データのサイロを溶かして一枚のプロファイルにまとめ、SalesやCustomer ServiceのCopilotがその統合プロファイルをグラウンディングに活用し始めた—Dynamics 365のAI Agentに顧客理解を与える「顧客データ基盤」としての役割が明確になった年。 | 9/25 |
| 11 | Human Resources | LinkedIn求人投稿・ATSエージェンシー統合・オファー管理eサインの三連携で採用フローを一本化。採用・オンボーディング・休暇など、HRの業務基盤と周辺連携を着実に強化した年。 | 9/26 |
製品間データフロー図 — 11製品のつながりを一枚に
11製品はそれぞれ独立して動くのではなく、データと業務の流れでつながっています。以下はその代表的な業務・データ連携パターンを図にしたものです。
※ 矢印は代表的なデータフローの方向を示します。実際の統合はDataverse、Dual-write、Microsoft Fabric、REST API等により実現され、製品・ライセンス・設定によって異なります。HR → Project Operations 間の休暇データ同期はDataverse経由です。CI-Data は Sales・Customer Service・Contact Center などのCopilotやAgentが顧客理解を得るための統合プロファイル(grounding情報)を提供します。
DX365LIFEで並行して走ってきた他のシリーズ
9月の製品別アップデートシリーズは「今、各製品は何者か」を整理しました。ただ、製品の現在地を知るだけでは、導入・設計・移行・保守の判断はできません。DX365LIFEでは、その「なぜ・どう」に答えるために、2026年4月以降に複数のシリーズを並行して走らせてきました。以下の8シリーズです。
これらは独立して読めますが、組み合わせることでDynamics 365の「製品の現在地 × AI活用 × 技術実装 × 設計パターン × データ移行・保守設計 × AIエージェントの未来」という多角的な視点が揃います。IT企画・経営企画の方には、今回の9月シリーズ(製品別)だけでなく、Copilot「Where we are?」シリーズの第10回経営者CxO編と、「改めて考えるDynamics 365」シリーズを合わせて読むことをお勧めします。
ロール別・業種別 読み順ガイド — どの回から読むか
「どの製品から読めばいいか分からない」という声をよくいただきます。あなたの仕事に最も近いロール・業種から始めることをお勧めします。
| あなたのロール / 業種 | まず読む | 次に読む | さらに深く |
|---|---|---|---|
| ● 顧客接点・CRM系 | |||
| 営業担当 | 第5回 Sales | 第10回 CI-Data | Copilot第2回 営業編 |
| マーケター | 第9回 CI-Journeys | 第10回 CI-Data | Copilot第1回 マーケ編 |
| カスタマーサービス担当 | 第6回 Customer Service | 第7回 Contact Center | Copilot第3回 CS編 |
| フィールドサービス技術者 | 第8回 Field Service | 第6回 Customer Service | Copilot第4回 FS編 |
| EC・小売担当 | 第3回 Commerce | 第9回 CI-Journeys | Copilot第6回 Commerce編 |
| ● 財務・SCM・プロジェクト系 | |||
| 財務・経理担当 | 第2回 Finance & SCM | 第4回 Project Operations | Copilot第7回 財務編 |
| 調達・SCM担当 | 第2回 Finance & SCM | 第3回 Commerce | Copilot第6回 SCM/Commerce編 |
| プロジェクト型ビジネス | 第4回 Project Operations | 第11回 HR | Copilot第5回 PO編 |
| ● HR・中小企業 | |||
| 人事・採用担当 | 第11回 HR | 第4回 Project Operations | Copilot第8回 HR編 |
| 中小企業(全般) | 第1回 Business Central | 第5回 Sales | Copilot第9回 SMB編 |
| ● IT・企画系 | |||
| IT企画・経営企画 | Copilot第10回 CxO編 | 改めて考えるD365 #01〜#03 | Agentic Engineering プロローグ |
| IT管理者・アーキテクト | 改めて考えるD365 #01〜#03 | 本シリーズ全11回(第1回〜) | Agentic Engineering全9本 / 保守設計 |
Wave 1で見えてきたMicrosoftの方向性
11製品を並べて見えてきたことがあります。
11製品を横断して見ると、2026 Wave 1では「各製品の業務プロセスにAgentを組み込む」という方向性が明確になりました。ただし、すべての製品に同じ速度でAgentが入ったわけではありません。Finance & SCMやSalesのように多くのAgentがGAを迎えた製品がある一方で、HRのように「土台の整備」に注力した製品もあります。Commerce のように「Agentより基盤」を選んだ製品もあります。
それは失敗ではありません。AgentはデータとプロセスとAI推論の三つが揃って初めて機能します。人事データが正確でなければHRのAgentも精度が出ないし、在庫データが整っていなければCommerceのAIも機能しません。土台を固める製品と、その上にAgentを乗せる製品—Dynamics 365のポートフォリオは、その両方が同時に進んでいます。
もう一つ見えてきたのは、「Agent同士の連携」がまだ始まったばかりだという事実です。現在はSalesなどのAgentがCustomer Insights – Dataの統合顧客プロファイルをグラウンディングに活用する構造が見え始めています。筆者の見立てでは、Agent同士が業務プロセスをまたいで直接連携するには、まだ時間がかかります。2026 Wave 1は「各製品でAgentを着火させた年」であり、Wave廃止後のAI at Work ロードマップ以降は「Agentを製品間でつなげる年」になるのではないかと見ています。
あなたの会社のDynamics 365は、どこにいますか?
このシリーズを書きながら、ずっと考えていたことがあります。「現在地を知る」ことは、次の一歩を決めるために不可欠です。Agentを導入すべきか、土台を整えるべきか、それとも製品の統合を先に進めるべきか—それはあなたの会社のデータの質と、業務プロセスの成熟度と、ライセンスの構成によって異なります。答えは一つではありません。
まとめ
Business Centralから始まったこのシリーズが、今夜の総集編で一区切りを迎えました。
9月の間、毎晩一製品ずつ書き続けてきました。11製品、11回分の整理を終えて思うのは、Dynamics 365というプラットフォームは「製品の集合体」ではなく「一つの企業活動の全行程を支える生態系」だということです。採用、営業、マーケティング、購買、サポート、現場対応、財務—これらを一つのプラットフォームでつなぐという思想が、個々の製品アップデートのひとつひとつに宿っていました。
2026 Wave 1が証明したのは、Agentが「将来の話」ではなくなったということです。Finance & SCMのAgentがAR(売掛金回収)を動かし、SalesのAgentが商談を拾い、CSのAgentが顧客対応を支援する—それが今、現実として動き始めています。ただし「動き始めている」と「使いこなせている」は別の話です。データの質、業務プロセスの整備、ライセンスの構成—Agentが真に機能する条件は、まだ多くの現場で整っていません。現在地を知るとは、Agentの存在を知ることだけでなく、自社の準備状態を正直に把握することでもあります。
このシリーズが、皆さんのDynamics 365の現在地を確認する一助になれば幸いです。
Let’s Enjoy our DX365LIFE!
次回予告:9月28日/29日は、セキュリティ・監査証跡等について連載ものをお届けする予定です。お楽しみに。
