Dynamics 365 Customer Insights – Data — 2026年9月時点の現在地と今後の展望

こんばんは。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
“室長”こと、吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。
昨日のCustomer Insights – Journeysのブログの最後に、こう書きました。「Journey Creation AgentやOutreach Optimization Agentの価値は、Customer Insights – Dataが提供する統合顧客プロファイルの上に成り立ちます」と。
その「統合顧客プロファイル」とは何か。どこから来て、何を統合して、Agentにどう届くのか。今日はその話です。週の終わりに、もう一段下の土台を掘り下げてみましょう。
各製品の現在地を整理するシリーズとして、Business Central、Finance & SCM、Commerce、Project Operations、Sales、Customer Service、Contact Center、Field Service、Customer Insights – Journeysに続く第10回です。
最後までお付き合いいただけますと幸いです。
注記:本稿の内容は、2026年9月時点で公開されているMicrosoft Learn リリースプランおよびAI at Work Roadmapの情報をもとにした整理および筆者の見解です。機能によって一般提供(GA)・プレビュー・段階的展開・追加設定が必要なものがあります。機能の提供状況、対象地域、ライセンス、前提設定は変更される場合があります。実際の導入にあたっては、対象環境のリリースノート、Microsoft Learn、管理センターの設定をご確認ください。
Dynamics 365 Customer Insights – Data — 2026年9月時点の現在地と今後の展望
―2026 release wave 1(2026年4〜9月)における新機能・改善点と今後の方向性―
筆者の見方では、2026年のCustomer Insights – Dataは「統合顧客プロファイルがAIエージェントのグラウンディングデータとして機能し始めた年」だった
Dynamics 365 Customer Insights – Data(CI-Data)は、顧客データプラットフォーム(CDP)として、複数のデータソースから顧客情報を統合・クレンジングし、一人の顧客として紐付けられた統合プロファイルを生成する製品です。このシリーズのBusiness Central、Finance、Sales、Customer Serviceといった各製品が「フロントで業務を動かす」存在だとすれば、CI-Dataは「それらの業務が残したデータを統合し、インサイトに変換する基盤」です。
2026 release wave 1のCI-Dataで最も意味のある変化は、MCPサーバーという形でAIエージェントへの接続口が開いたことです。これにより、各業務製品に組み込まれたAgentやCopilot Studioで構築したカスタムAgentが、CI-Dataが生成した統合プロファイルや予測インサイトを文脈として参照できるようになります。前回のJourney Creation AgentとOutreach Optimization Agentが「誰に・いつ・何を届けるか」を最適化する際に拠り所とするデータ基盤が、ここにあります。以下、カテゴリ別に整理していきます。
≪Agentのグラウンディングデータとして — Customer Insights MCPサーバー≫
2026 Wave 1のCI-Dataにおける最大のトピックが、AIエージェントへの統合プロファイル提供です。
Customer Insights MCPサーバー — AIエージェントが統合プロファイルにアクセス
2026年6月30日にPublic Previewが開始された「Increase AI accuracy by grounding agents in customer insights」は、Customer Insights – DataのMCPサーバーを通じて、AIエージェントや会話型AI体験が統合プロファイルとインサイトにアクセスできるようにする機能です。
MCPサーバーはModel Context Protocol(MCP)を利用し、Copilot StudioなどのAgentからCustomer Insights – Dataの統合顧客プロファイル、セグメント、メジャー、予測インサイトなどをツールとして参照できるようにします。具体的にAIエージェントが参照できる主な情報は以下のとおりです。
たとえば、営業担当者がリードフォーム上に埋め込まれたAIに「このリードについて何か情報はありますか」と問いかけると、CI-Dataの統合プロファイルからそのリードが既存の顧客(VIP会員・ロイヤルティポイント保有者)に紐付いていることを示し、CLVスコアや解約リスク、所属セグメントを提示する——というシナリオが実現します。Copilot Studioで構築した独自Agentにも同様に機能します。リリース計画上は管理者・メーカー・マーケター・アナリスト向けに自動で有効化される機能ですが、AgentからMCPサーバーを利用するにはCopilot Studio側でCustomer Insights MCP Serverをツールとして追加するなど、利用シナリオに応じた設定が必要です。
≪データ基盤の拡張 — Microsoft Fabric OneLakeコネクタ≫
統合プロファイルの質は、取り込めるデータの幅と速度に依存します。Wave 1では、Microsoft Fabricとの接続がより緊密になりました。
Microsoft Fabric OneLakeをデータソースとして使用
2026年5月29日にPublic Preview、2026年7月31日にGAとなった「Use Microsoft Fabric OneLake as a data source」は、Microsoft Fabric OneLakeに保管された顧客データをCI-Dataに直接取り込めるコネクタです。
OneLakeコネクタはDeltaデータフォーマットに対応した増分取り込みをサポートしており、Delta形式のデータに対する増分取り込みをサポートしており、大規模データの取り込み効率を高めます。OneLakeのショートカットやミラーリングを使えば、Snowflakeなど外部システムのデータもFabric経由でCI-Dataに統合できます。複雑なETLパイプラインを構築・運用するコストと手間が削減されます。管理者・メーカー・マーケター・アナリスト向けに自動で有効化されます。
≪セグメントとインサイトの精度向上≫
「誰に届けるか」の精度が、マーケティングとセールスの成果を左右します。Wave 1では、セグメント定義の使いやすさと、インサイトの活用範囲が広がりました。
セグメント条件設定時のフィールド値選択の改善
2026年4月24日にGAとなった「Easily select field values when working with segment conditions」は、セグメント条件を設定する際にフィールドの有効な値をリストから選択できるようにする機能です。
Dataverseのチョイスフィールド(GenderCode、ShippingMethodなど)では、従来はエンジニアでなければ把握しにくい数値コードを入力する必要がありました。この改善により「Male (1) / Female (2)」のように表示名とコードのペアでリスト選択できます。数値・文字列フィールドについても、ユニーク値が200件未満であれば既存の値をドロップダウンから選択できます。セグメントの設定ミスが減り、マーケター・アナリストが自力で条件を組める範囲が広がります。自動で有効化されます。
過去のキャンペーンシグナルを使ったオーディエンスのリファイン
2026年5月22日にPublic Preview、2026年7月31日にGAとなった「Target right audience based on signals from earlier campaigns」は、Customer Insights – Journeysのキャンペーンエンゲージメントデータ(メール開封・リンククリックなど)をCI-Dataのセグメント条件として活用できる機能です。
従来は、CI-JのキャンペーンインタラクションデータをCI-Dataで使うためには、DataverseからFabricへのエクスポート、その後CI-Dataへの取り込みというデータフローを構築・維持する必要がありました。この機能により、CI-Jのキャンペーンシグナルを、CI-Dataのセグメント条件に直接活用できるようになりました。
「高CLVスコアのセグメントのうち、直近キャンペーンでメールを開封したが購入しなかったコンタクト」を抽出し、より強い条件(割引率を上げるなど)でリターゲティングするセグメントを作成する、といった精緻なオーディエンス設計が可能になります。また、CI-Dataのエクスポート機能を使ってGoogle・Metaなど外部マーケティングプラットフォームに向けてセグメントを送ることもできます。自動で有効化されます。
リアルタイムWebトラッキングとパーソナライゼーション — 匿名から既知へ
Release Planに2026年9月GA予定として掲載されている「Real-time web tracking and personalization for known and unknown users」は、Webサイト訪問者の行動データ(既知ユーザー・匿名ユーザー双方)をCI-Dataで継続的に収集し、その行動に基づいてWebサイトをパーソナライズする機能です。
トラッキングスクリプトをWebサイトのヘッダーに設置すると、匿名ユーザーの行動がCI-DataにUnknown Profileとして記録されます。パーソナライズはノーコードのWebパーソナライゼーションツール連携またはプロコードAPIの2つのアプローチを選択できます。匿名ユーザーがメールアドレスや電話番号を提供した時点で(購入・会員登録など)、それまでの匿名行動データを引き継いだ統合プロファイルが生成されます。これにより、「以前から製品ページを繰り返し閲覧していたが初めてフォームを送信した」という文脈を失わずに、その後のセグメント・メジャー・APIなどで既知顧客として活用できます。自動で有効化されます。
≪運用品質の改善 — パフォーマンスダッシュボードとアラート管理≫
CI-Dataは毎日処理を実行して統合プロファイルを更新し続けます。その処理状態を把握し、問題を早く発見できるかどうかが、CIチームの日常業務の質に直結します。Wave 1では、この運用面でも改善が加わりました。
パフォーマンスダッシュボード — 日次処理の全体像をひとつの画面で
2026年5月29日にGAとなった「Track and manage daily processing in the performance dashboard」は、CI-Dataの日次処理状況をエンド・ツー・エンドで可視化する新しいダッシュボードです。左ナビゲーションのトップレベルページとして表示されます。
直近の実行のカラーコード付きステータス、ガントチャートによる並行・依存タスクの時系列表示、処理時間の履歴比較など、データ担当者が毎日確認すべき情報が一画面に集約されています。処理時間の増加が「データソースのレコード数が10倍になった」ことに起因するのか、「スキーマ変更によるエラー」なのか、一目で把握できます。自動で有効化されます。
アラートノイズの削減 — 一時的エラーと永続的エラーの区別
2026年5月29日にGAとなった「Reduce alert fatigue with noise-free notifications」は、CI-Dataが一時的な障害を自己修復できるようになった結果として、管理者への不要なメール通知を削減する機能です。
従来、処理中のエラーはすべて「Failed」として記録・通知されていたため、自然に回復する一時的な問題でも管理者へアラートが飛んでいました。今回のアップデートで「PermanentFailed(永続的な失敗)」というステータスが追加され、本当に対処が必要な問題だけを通知できるようになります。Azure Log Analyticsなどのログ監視サービスを利用している組織は、通知条件を「Failed」から「PermanentFailed」に更新することで、オンコール担当者のアラート疲れを軽減できます。自動で有効化されます。
≪今後の展望≫
2026年9月以降、Dynamics 365の新機能情報は従来のRelease PlansではなくAI at Work Roadmapへ移行しました。Wave 1のリリースプランに記載されており、2026年9月時点でPreviewまたは今後GAが予定されている主な機能は以下のとおりです。
| 機能 | 状況 |
|---|---|
| Customer Insights MCPサーバー(AIエージェントのグラウンディング) | Public PP Jun 2026 |
| リアルタイムWebトラッキングとパーソナライゼーション | Release Plan GA予定 Sep 2026 |
MCPサーバーはPublic Preview段階で、GAのスケジュールは2026年9月時点では未定です。ただし「AIエージェントが顧客コンテキストを取得できる」という方向性は明確で、筆者の見方ではCI-Dataのポジションは、データを統合・分析する基盤から、AIエージェントが顧客コンテキストを取得するための基盤へと広がりつつあります。
今ここにある変化
CI-Dataの2026 Wave 1を一言で表すと、「データ基盤の上にAI接続口が開いた」です。統合プロファイルを生成するだけでなく、MCPサーバーを通じてAgentやCopilotに顧客コンテキストとして提供する——この接続が実現したことで、マーケティングや営業のAgentが「誰に・何を・なぜ」伝えるかをより深い文脈に基づいて判断できるようになります。Webトラッキングによる匿名→既知の変換、CI-Jキャンペーンシグナルのセグメント活用、OneLakeコネクタによるデータ統合の加速も、この方向性を強化する投資です。
Customer Insights – DataはCustomer Experience製品群の基盤であるだけでなく、Dynamics 365全体のAgentに顧客コンテキストを供給する役割を担い始めています。SalesのAgent、Customer ServiceのAgent、Contact CenterのAgent、CI-JのAgent——それぞれが顧客を深く理解するために、この基盤を必要とします。
このシリーズも残すはHuman Resourcesと総集編です。Human Resourcesについては次の記事でお届けします。
Let’s Enjoy our DX365LIFE!
