第1回マーケティング編|Dynamics 365+Copilot|Where we are ? ― Copilotが変える「仕事の時間」と「顧客への向き合い方」

こんにちは。室長こと、吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。
いやぁ、今年の夏も暑い。厳しいですね。子供のころは夏、結構好きだったのですが、最近は夏と冬とどっち?と聞かれると、冬がいいと応えてしまいそうです。
さて、8月の半ばを過ぎると、マーケティング担当者には独特の緊張感があります。
私も今年のTechnosoft Automotive Days(グローバルオンラインイベント)の開催に向けて準備を本格化しました。
マーケティングな皆さんも、下半期のキャンペーンカレンダーが本格的に動き始める時期ですから、多様な企画・施策があたまをよぎると思います。
ひとつのキャンペーンメールを顧客に届けるまでに、どれだけの「準備の時間」が積み上がっているかを考えると、
メール文面の作成・修正・社内承認
ジャーニーのステップ設計と設定
配信タイミングの検討と調整
前回キャンペーンの効果分析と次への反映
これらはどれも必要な仕事です。ただ、顧客に「届ける」ことそのものではありません。
Dynamics 365 Customer InsightsのCopilot機能とAI Agentは、この「届けるまでの準備の時間」「顧客への向き合い方」を変えることに集中しています。今回は第1回・マーケティング編として、その全体像をお伝えします。
このシリーズのプロローグ(#プロローグ)では3層の枠組みを整理しています。まだお読みでない方はそちらからどうぞ。
📅 本記事の情報は 2026年8月18日時点 のものです。この領域は進化が非常に速く、数週間で機能追加・名称変更・GA昇格が起こります。最新状況はMicrosoft Learnおよび公式リリースノートでご確認ください。
⚠️ Agentだからすべて自律実行するわけではありません。Agentごとに実行範囲・設定・データアクセスの条件が異なります。各Agentの説明で確認してください。
📌 本稿では「Dynamics 365 Customer InsightsのCopilot機能・AI Agent」を扱います。Customer Insights – Journeys(旧Dynamics 365 Marketing)とCustomer Insights – Data(旧Dynamics 365 Customer Insights)は2023年9月以降、同一ライセンスに統合されています。Microsoft 365 Copilot内で提供されるマーケティング関連機能は別体系であり、本稿の対象外です。
標準Copilot:マーケティング業務を支援するCopilot機能
Dynamics 365 Customer Insightsは、Customer Insights – Journeys(CI-J)とCustomer Insights – Data(CI-D)の2つの主要な機能領域で構成されており、それぞれにCopilot機能が用意されています。本稿では理解しやすさのため、CI-Jをマーケティング実行、CI-Dを顧客データ統合・分析の中心として整理しますが、実際には両者はデータやセグメントを通じて連携します。
⚠️ Customer Insightsの契約に含まれる機能であっても、実際の利用可否は機能ごとの提供地域・環境・管理者設定・データ準備状況・提供ステータスによって異なります。各カードの「前提」はその機能を使い始めるための主要条件ですが、追加の前提が存在する場合があります。
Customer Insights – Journeys(CI-J)側のCopilot機能
Customer Insights – Data(CI-D)側のCopilot機能
CI-Dは顧客プロファイルを統合・分析するCDP(顧客データプラットフォーム)です。CI-Jのキャンペーンを支えるデータ基盤として機能し、Copilotを通じてデータへの問いかけやセグメント生成を自然言語で行えます。
環境状態の要約を支援するAI機能(Environment Status Summary 等): CI-D環境の設定状況・稼働状態をAIが要約して表示。管理者がデータパイプラインやプロファイル統合の問題を素早く把握するための機能。マーケターよりもCI-D管理者・データエンジニアが主な利用対象。機能名称は更新される場合があります。
製品機能への質問応答を支援するAI機能(Answers to Capability Questions 等): CI-Dの使い方や機能についてアプリ内で自然言語で質問でき、ドキュメントを検索せずに回答を得られる。製品を学習する段階のユーザーや、機能を確認したいときの補助的な機能。機能名称は更新される場合があります。
標準Agent:マーケティングプロセスを変えるAI Agent
Dynamics 365 Customer Insights – Journeys には、マーケティングプロセスを支援するAI Agentが提供されています。
2026年8月18日時点では、本稿ではJourney Creation AgentとOutreach Optimization Agentの2つを取り上げます。
提供されるAgentは今後追加・変更される可能性があります。いずれもプレビュー段階です。
これらのAgentは「操作の代わりに設計する」アプローチを体現しています。
マーケターがジャーニーの各ステップを手動で組み上げるのではなく、「何を達成したいか」を伝えることで、AgentがAIの判断で構成や実行タイミングを担います。
ライセンスと前提条件の整理
Customer Insightsのライセンスは、Salesとは仕組みが違う
Dynamics 365 SalesがユーザーID単位のシートライセンスであるのに対し、Dynamics 365 Customer InsightsはテナントレベルのライセンスでInteracted People数をベースに課金されます。この違いを最初に押さえておくことで、AI機能の利用条件の全体像が理解しやすくなります。
さらに2023年9月以降、Customer Insights – Journeys(旧Dynamics 365 Marketing)とCustomer Insights – Data(旧Dynamics 365 Customer Insights)は統合され、一つのDynamics 365 Customer InsightsライセンスでJourneysとData両方のアプリが利用できます。ライセンス構造が統合された一方で、AI機能についてはAgentごとに有効化・Capacity・Previewの条件が異なります。
この5層を分けて考えると、「Customer InsightsのライセンスはあるのにAgentが使えない」という状況も説明できます。
1. ライセンスの課金単位を理解する
Dynamics 365 Customer Insightsのライセンスには、Interacted Peopleという概念が中心にあります。Customer Insights – Journeysで組織が対象としてインタラクションを行う人を基準としたライセンス上の計測単位です。具体的なカウント方法や対象インタラクションの定義は契約・ライセンスガイドで確認が必要です。実務上は「何ユーザーが操作するか」よりも、「どの程度の顧客規模に対してマーケティングインタラクションを行うか」がライセンス設計の中心になります。
・ベースライセンスの付帯例: 10,000 Interacted People / 100,000 Unified People(CI-Data)
・ライセンスにはInteracted Peopleの規模に応じた月間インタラクションのエンタイトルメントがあります。メールだけでなく利用するチャネルやインタラクションの定義も含め、具体的な上限値は契約時点のライセンスガイドで確認してください
・課金はテナント単位(個人単位のシート費用ではない)
・複数環境を利用する場合は、環境ごとのライセンス・容量・エンタイトルメントの扱いを事前に確認してください
したがって、ライセンス設計では「何人分のシートが必要か」ではなく、「何人の顧客にインタラクションを送るか」「月に何通送るか」で必要な規模を決定します。ただし、課金単位はこの1軸だけではありません。実務でよく見落とされる追加のコスト軸が複数あります。
※ ライセンス体系・エンタイトルメントはCustomer Insightsで特に変化しやすい部分です。上記の数値・条件は2026年8月18日時点のものであり、最新のMicrosoftライセンスガイドで必ずご確認ください。
Customer Insightsのコスト設計では、Interacted People + Copilot Credits + Dataverse + スループット要件 + Attachの適用可否を組み合わせて試算することが出発点となります。利用規模・機能の組み合わせによって構成が変わるため、具体的な見積もりはライセンスガイドとMicrosoft担当者への確認を推奨します。
2. AI HubはAI AgentとAI機能の重要な管理ポイント
AI Hubは、Customer Insightsで提供されるAI AgentやAI関連機能の管理・設定を行う重要な管理ポイントです。ただし、すべてのCopilot機能がAI Hubだけで同一の方法で有効化・管理されるわけではなく、機能によっては環境設定・管理者設定・データ準備など追加の前提条件があります。
Journey Creation AgentやOutreach Optimization Agentを使い始めるには、管理者がAI HubでAgentを有効化し、使用するCopilot Creditsのキャパシティを設定する必要があります。この設定なしにAgentのオプションはユーザーに表示されません。
「Previewだから試してみたい」では動きません。AI Hubでの有効化とCapacity設定が先決です。
3. AgentはCopilot Creditsを消費する
AI Agentの利用には、Copilot Creditsまたはその他の容量条件が必要になる場合があります。最新の課金・消費モデルはMicrosoftのライセンス情報で確認してください。
ライセンス費用(Dynamics 365 Customer Insights)
+ Agent実行に伴うCopilot Credits消費(Copilot Studio / prepaid or pay-as-you-go)
+ Interacted People追加(スケールアップ時)
+ Dataverse / ストレージ等の基盤コスト
4. Journey Creation Agentの固有要件
Journey Creation Agentには、他の機能にはない固有の要件が2点あります。
① 英語のみ対応(2026年8月18日時点)
会話入力・Agentの応答ともに英語のみ。日本語でのプロンプト入力は現時点で未サポート。日本語対応の提供時期については最新のMicrosoft Learnで確認が必要。
② 外部AIモデルの利用条件(2026年8月18日時点)
Journey Creation Agentでは、Microsoftが指定する生成AIモデルおよびサービス構成が利用されます。外部モデルの利用に関する組織ポリシー・データ処理条件・管理者設定はテナント単位での対応が必要です。設定箇所・手順はリリース時期により変更される可能性があるため、導入時は最新のMicrosoft Learnで確認。IT管理者・コンプライアンス担当者との事前合意が先決。
これらは営業部門・マーケティング部門だけで完結しません。グローバル管理者・Power Platform管理者・コンプライアンス担当者との事前確認が必要です。
提供状態(GA / PRP / Preview)の定義
| ステータス | 本番利用 | 意味 | 記事での扱い |
|---|---|---|---|
| GA | ○ | 一般提供。正式リリース済み | 本番利用を基本前提として説明。ただし各機能の追加条件(有効化・データ品質等)は別途確認 |
| PRP | ○ | Production-ready Preview。本番環境での利用を想定したプレビュー | GAと同じサポート・変更保証を意味するものではない。supplemental terms of use適用。仕様変更の可能性あり。2026年8月18日時点でCI-Jの標準Agentに該当なし |
| Preview | △ | パブリックプレビュー。一般提供前の評価段階 | 本番データや業務プロセスで利用する場合は、当該機能のTerms of Use・サポート条件・データ処理条件を個別に確認すること。Journey Creation Agent・Outreach Optimization Agentが該当。仕様変更・機能制限・Preview Termsに注意 |
「GAだから安定、Previewだから使えない」という単純な二分法ではなく、提供ステータスと本番運用上のリスクを分けて考える必要があります。
5. 「使えるか?」ではなく「どこまで準備できているか?」
Customer InsightsのAI機能を導入する際に本当に重要な問いは、「このAgentは使えますか?」ではなく、「このAgentを使えるだけの準備が整っているか?」です。
6. 2つのAgentを「ライセンス」ではなく「利用条件」で見る
今回取り上げた2つのAgentについては、単純な○×表よりも、次のように理解することを推奨します。
| Agent | 製品上の位置付け | ライセンス以外に確認するポイント |
|---|---|---|
| Journey Creation Agent (ジャーニー作成 Agent) |
CI-J Agent Preview | Preview条件(supplemental terms of use)、英語のみ対応、外部AIモデルの組織オプトイン・データポリシー確認、Copilot Credits消費、AI Hub設定 |
| Outreach Optimization Agent (配信最適化 Agent) |
CI-J Agent Preview | Preview条件(supplemental terms of use)、AI Hub設定、対象ジャーニー・セグメントのデータ品質、Copilot Credits消費 |
2つのAgentはいずれもPreviewです。「Previewだから使えない」という理解も正確ではなく、Preview条件・supplemental terms of use・仕様変更リスク・サポート範囲を把握した上で、本番利用の可否を組織として判断することが重要です。
ここまでを一言でまとめると
Customer InsightsのAI機能は、「ライセンスがあるか」だけでは判断できません。利用する機能ごとに、提供状態・環境設定・AIサービスの利用条件・容量条件・データ準備・組織のコンプライアンス要件を確認して初めて、実際の利用可否を判断できます。
特にAgentを使う場合、マーケティング担当者 × IT管理者 × コンプライアンス担当者が同じテーブルで要件を確認することが重要です。
※本章のライセンス、Preview、Capacity、機能提供状況は2026年8月18日時点のMicrosoft公開情報を基準としています。Customer InsightsのライセンスおよびAgentの提供条件は更新されるため、本番導入時には最新のMicrosoft Learnおよびライセンスガイドで最終確認してください。
導入前に確認しておきたいチェックリスト
□ Customer InsightsライセンスのSKU(フルライセンス / Attachライセンス)を確認した
□ Interacted Peopleの上限と現在の月間インタラクション数を確認した
□ 旧スタンドアロンライセンス(Dynamics 365 Marketing等)からの移行状況を確認した
□ AI HubでCopilot機能(Query Assist / Content Ideas / Content Rewrite)の有効化状態を確認した
□ AI HubでAgent(Journey Creation / Outreach Optimization)の有効化要件を確認した
□ Copilot Creditsの調達・割り当て方式(prepaid / pay-as-you-go)を確認した
□ Journey Creation Agentで利用される外部AIモデルの使用に対するコンプライアンス許可を確認した
□ M365 Admin Center / Power Platform Admin Centerでの外部AIモデルのopt-in状態を確認した
□ Journey Creation Agentが英語のみ対応であることを組織として受け入れられるか確認した
□ セグメント・コンテンツアセットがAgent実行前に存在することを確認した
□ Dataverseのデータ品質・権限設定を確認した
□ Journey Creation Agent / Outreach Optimization AgentがPreviewであることを確認した
□ Previewのsupplemental terms of useを確認した
□ PoC環境と本番環境を分離して検証した
あなたのマーケティングチームの①②③は、どこまで進んでいますか?
プロローグで整理した3層の枠組みを、マーケティングの文脈で問い直します。
今回のマーケティング編を、3層で整理する
プロローグで紹介した枠組みで、今回ご紹介した内容を整理します。あなたの会社のマーケティングチームは、どの層まで活用できていますか?
まとめ
今回はマーケティング編として、標準Copilotの3つの機能と、マーケティングプロセスを支援する2つの標準Agentをご紹介しました。
「届けるまでの準備の時間」を短くするという方向性は、CopilotでもAgentでもCustomer Insightsの一貫したテーマです。
セグメントを言葉で作り、メール文面をAIに下書きさせ、ジャーニーを会話で設計し、配信タイミングを自動最適化します。
これらが組み合わさることで、マーケターが「届ける内容そのもの」に集中できる時間が増えます。
ただし、機能を知っているだけでは足りません。
特にAgentはAI Hub有効化・Copilot Credits・外部AIモデルのオプトイン(Journey Creation Agent)・英語対応の制約など、IT部門・コンプライアンス部門と連携しなければ動き始めません。
「知っているけれど使えていない」という状態が最もよくあるパターンです。
Customer Insightsは2026年のWave 2でさらに機能が追加される予定です。今の現在地を把握した上で、次のWaveを迎えてください。
マーケティングの仕事は、届けることだけでは終わりません。
届いた後に、読んでもらい、反応してもらい、次のアクションにつなげる。
そのサイクルを回し続けることが、マーケターの本質的な仕事です。
CopilotとAgentが削減できるのは、そのサイクルを回すための「準備の時間」です。
準備が速くなれば、次のサイクルも速く回せる。
それがDynamics 365 Customer InsightsのAI機能が目指していることです。
マーケティングの皆さん、Let’s Enjoy our DX365LIFE!
次回は第2回・営業編です。営業担当者の「確認の時間」を変えるCopilotとSales Agentの全体像をお届けします。
