第2回営業編|Dynamics 365+Copilot|Where we are ? ― Copilotが変える「仕事の時間」と「顧客への向き合い方」

こんばんは。室長こと、吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。

お盆が明けましたね。実家のある皆さんは、帰省し、ご家族でゆっくりできた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

室長は生憎お仕事と体調不良で、机の前にずっといるお盆となってしまいました。

少し休みたいなとも思いますが、目の前のタスクをこなすのに毎日精一杯な感じです。

出社の際に、帰省先のお土産等を持参して、仲間たちと和気あいあいと過ごされている皆さんを少し羨ましく想像しています。

そんなお盆明けの職場にも、もう一つの風景があります。特に営業担当者の方には、お馴染みの「朝の時間」です。

「先方からの返信待ちだったあの案件、どこまで進んでいたか」「休み前に送った提案書、もう確認してもらえただろうか」

この時期の営業担当者には、特有の「朝の時間」があります。

メールボックスを開いて、CRMを開いて、前回の商談メモを掘り起こして。確認だけで午前中が終わることもあります。

その「確認の時間」が、変わりつつあります。今回は第2回営業編です。

このシリーズのプロローグ(#プロローグ)では3層の枠組みを整理しています。まだお読みでない方はそちらからどうぞ。


「顧客と向き合う時間」は、思ったより少ない

「一日の仕事のうち、顧客と直接向き合っている時間はどのくらいですか?」

営業担当者に聞くと、感覚より少ない数字が返ってきます。

商談や訪問で一日が埋まっているように見えても、実際にはこうした時間が積み上がっています。

商談後のCRMへのデータ入力
社内向けの商談報告(上司への報告・議事録展開)
次のアクションの整理と関係者への連絡
フォローアップメールの作成
提案書・見積書の準備

これらはどれも必要な仕事です。ただ、顧客と直接向き合っている時間ではありません。

Dynamics 365 Salesの標準Copilotと標準Agentは、この「必要だけど時間がかかる仕事」を変えることに集中しています。

今回は、その全体像をお伝えします。

📅 本記事の情報は 2026年8月18日時点 のものです。この領域は進化が非常に速く、数週間で機能追加・名称変更・GA昇格が起こります。最新状況はMicrosoft Learnおよび公式リリースノートでご確認ください。

📖 本稿でいう「Copilot」と「Agent」の整理
Copilot
営業担当者が要約・メール作成・会議準備などをAIにアシストしてもらう機能。人が依頼し、人が結果を確認して業務を進めるモデル。
Sales Agent / AI Agent
特定の営業プロセスを目的として、情報収集・分析・推奨・エンゲージメントなどを行うエージェント。Agentによっては、設定された条件のもとで顧客へのアウトリーチなど、人が都度操作しなくても処理を進める。

⚠️ Agentだからすべて自律実行するわけではありません。Agentごとに「推奨する」「分析する」「自律実行する」の実行範囲・設定・データアクセス・メール送信条件が異なります。各Agentの説明で確認してください。

📌 本稿では「Dynamics 365 SalesのCopilot機能・AI Agent」を扱います。Microsoft 365 Copilot内で提供される「Sales agent in Microsoft 365 Copilot」は別製品・別ライセンス体系であり、本稿の対象外です。


標準Copilot:毎日の営業業務を支援する3つの代表機能

Dynamics 365 Salesに含まれる標準Copilot機能の中から、特に営業担当者の日常に影響が大きい3つをご紹介します。

📋 レコードサマリー

営業機会・リード・取引先などのレコードを開くと、AIが自動でサマリーを生成します。レコード種別に応じて、活動履歴・関連タスク・直近のコミュニケーション履歴などが一画面に整理されます。なお、生成されるサマリーの品質は、CRM内のデータ品質・レコード間の関連付け・ユーザーのアクセス権限に依存します。入力されていない情報・参照権限のない情報はサマリーに反映されません。

こんな場面で: 休み明けに顧客ページを開いたとき。商談直前の5分の予習として。久しぶりに接触する既存顧客を確認するとき。

前提: Sales Enterprise / Premium ライセンス / Copilot機能の有効化(管理者による設定)

✉️ メール支援(コンテキスト付き下書き)

商談後のフォローアップ、次回アポイントの依頼、提案送付の案内など、営業の文脈を理解した上でメールの下書きを生成します。CRMのデータ(直近のやりとり・商談フェーズ・顧客情報)を参照するため、一から書くより格段に速い。

こんな場面で: 商談後すぐにフォローメールを送りたいとき。複数案件のフォローが重なっているとき。長らく連絡していない顧客へのリアクティベーションに。

前提: Sales Enterprise / Premium ライセンス / Copilot機能の有効化。なお、AgentによるメールのAI送信・自律エンゲージメントにはServer-side synchronizationが別途必要。

🎯 ミーティング準備・議事録

Microsoft Teamsの会議と連携し、商談前にCRMのデータから「この顧客との直近の動き」「未解決の課題」「主要なキーパーソン」を自動整理します。商談後は、Teams会議の内容をもとにAIが議事録やアクションアイテムの整理を支援します。構成や利用機能によってはDynamics 365 Salesへの反映も可能であり、商談後の入力作業を大幅に削減できます。

こんな場面で: 移動中に次の商談の予習をしたいとき。チーム営業で担当者が変わるとき。商談後の入力工数を減らしたいとき。

前提: Sales Enterprise / Premium ライセンス / Microsoft 365 / Teams連携。利用する機能によってはMicrosoft 365 Copilotや追加の設定が必要。Dynamics 365 Sales Copilot側とMicrosoft 365側の機能境界は要確認。


標準Agent:営業プロセスを変えるAI Agent群

Dynamics 365 Salesには、営業プロセスを支援する複数の標準AI Agentが提供されています。

今回は、その中でも営業担当者の日常業務に直接関係する5つを取り上げます。

Agentには、情報収集や判断支援を中心とするものもあれば、Sales Close AgentやSales Qualification Agentのように、条件次第で顧客へのアウトリーチやフォローアップまで自律的に実行するものもあります。

「担当者を支援する」だけでなく、「担当者に代わって動く」領域まで広がっているのが、2026年8月時点のSales Agentの実像です。

5つのAgentを、営業プロセスの流れに沿って見ていきます。

① Sales Qualification Agent(販売資格審査)
GA — 正式リリース済み

何をするか: 新規リードに対して、Web情報の収集と企業・担当者の評価を自動で行います。予算・組織適合性・企業規模・担当者情報など、設定された複数のシグナルをもとに初期評価を行い、適格なリードを営業担当者に引き渡します。調査のみを行う「Research-onlyモード」に加え、パーソナライズされたメール送信・リードとの応答・フォローアップまで自律的に実行する「Research and engageモード」も提供されています。

こんな場面で: インバウンドリードが大量に来たとき。展示会後のリストを優先度づけしたいとき。SDRの初期スクリーニング工数を減らしたいとき。

前提条件: Sales Enterprise または Sales Premium / Agentの有効化・データ / メール連携等が必要。自律的なエンゲージメント(Research and engageモード)を利用する場合はServer-side synchronization等の追加設定あり。

② Sales Opportunity Agent(営業機会)
PRP — 本番環境向けプレビュー

何をするか: 進行中の営業機会に対して、CRMの更新情報・メールスレッド・会議インテリジェンス・Webリサーチなどのデータを統合し、案件の優先順位付け・リスクの識別・適切なアクションの提示を行います。複数の案件を横断的に把握し、「今どこに注力すべきか」を担当者・マネージャー双方に示します。なお、旧称「Opportunity Research Agent」から現在の名称に変更されています。ここでいう「アクションの提示」は、AgentがCRMを自動更新するという意味ではありません。利用可能な情報から推奨される次の行動を担当者・マネージャーに提示するものであり、実際の判断と更新は担当者が行います。

こんな場面で: 複数の商談を同時に抱えているとき。マネージャーが部下の案件全体をレビューするとき。四半期末に向けてパイプラインを整理したいとき。

前提条件: Preview。利用可能なライセンス・容量・地域等の条件を要確認 / 案件データの入力精度(フェーズ・金額・クローズ予定日が適切に入力されていないと精度が落ちる)

③ 営業クロージング Agent(Sales Close Agent)
PRP — 本番環境向けプレビュー

何をするか: クロージングフェーズに入った案件に対して、「意思決定者の特定」「未解決の懸念点」「競合状況の整理」「次のステップ」を自動でまとめます。メールや会議関連情報などの利用可能なデータからコンテキストを読み取り、クロージングに必要な情報を整理します。さらに、設定したルールやプレイブックに基づいて、パーソナライズされた顧客へのアウトリーチ・フォローアップ・異議対応まで自律的に実行する機能も提供されており、営業サイクルの一部を自律支援するAgentとして位置付けられています。

こんな場面で: 定型性が比較的高い案件を多数扱う場面や、フォローアップ・顧客エンゲージメントを自動化したい場合。(大型複雑案件よりも、高頻度・比較的定型的な案件でのクロージング自動化を主要シナリオとして設計されています)

⚠️ Sales Close Agentは「ライセンスを割り当てれば動く」機能ではありません

Agentが組織を代表して顧客へのアウトリーチ・フォローアップを実行するためには、単なる機能有効化を超えた構成が必要です。

Identity:Entra IDアプリケーション登録 → AgentがテナントのIdentityとして動くための認証基盤
Data:Dataverse Application User → AgentがDataverse上の営業データにアクセスするための実行主体
Messaging:共有メールボックス + Server-side synchronization → AgentがExchangeを通じて顧客へメールを送信・同期するための基盤
Capacity:Copilot Studio capacity(prepaid / pay-as-you-go)→ Agent実行の利用量課金
Availability:地域・言語の要件確認

これらは営業部門だけで完結しません。IT管理者・システム担当者との設計・構成が前提です。

④ Sales Research Agent(セールスリサーチ Agent)
PRP — 本番環境向けプレビュー

何をするか: Dynamics 365 Salesのデータを中心に、利用可能な営業データや関連情報をもとに、自然言語で複雑な営業上の問いを調査・分析するリサーチ機能です。「この四半期、どの業界の案件で失注率が高いか」「停滞している案件にはどんな共通点があるか」といった問いを自然言語で投げかけることができます。接続可能なデータソースや範囲は、Copilot Studio、環境設定、データ接続、利用条件によって異なるため、導入時に個別確認が必要です。

こんな場面で: 失注パターンや停滞案件の共通点を分析したいとき。営業マネージャーが四半期レビューの準備をするとき。自社の営業データから仮説を立てて検証したいとき。

前提条件: 対象となるDynamics 365 Salesライセンス / Copilot Studio capacity・課金条件 / データソースの接続設定(管理者)

⑤ Recommended Actions Agent(推奨アクション Agent)
Preview

何をするか: Sales Opportunity AgentなどのSales Agentが生成したアクションを横断的に評価し、営業担当者が優先して取り組むべきアクションを提示します。「今日どの案件から動くべきか」の優先順位付けを担い、各Agentが提案するアクションを整理して一覧で確認できるようにします。

こんな場面で: 業務開始時に「今日何から動くか」を決めたいとき。複数のAgentが提案するアクションをまとめて確認したいとき。

前提条件: Sales Premium ライセンス / AI機能の有効化 / 他のSales Agentとの組み合わせで機能が最大化される


ライセンスと前提条件の整理

「ライセンスを持っている」だけでは、Agentは動かない

Dynamics 365 SalesのAI機能を検討するとき、最初に押さえておきたいのが「ライセンス」と「利用条件」は同じものではないという点です。

「Sales Enterpriseを契約しているから使える」「Sales PremiumだからすべてのAgentが使える」という理解では、2026年時点のDynamics 365 SalesのAI機能を正確には説明できません。現在のSales Agentは、Salesライセンスを土台にしながら、Agentごとのライセンス要件、Copilot Studio、キャパシティ、Dataverse、メール連携、Microsoft Entra ID、Server-side synchronization、データポリシー、提供地域・言語、そしてPreviewの提供条件など、複数のレイヤーで成立しています。

Microsoft Learnでも、Sales Enterprise / Sales PremiumにはSales Agentの基本機能が含まれる一方、Premium機能についてはMicrosoft 365 Copilotライセンスが必要とされています。つまり、「Dynamics 365のSKU」だけを見て判断するのではなく、その機能がどのライセンス境界に属しているのかを見る必要があります。そこで、本稿ではライセンスを次の5つの観点に分けて考えます。

AI営業基盤を構成する5つのレイヤー

Layer 1 Dynamics 365 Sales ライセンス
Sales Professional / Enterprise / Premiumなど、Salesアプリケーションそのものの利用権。

Layer 2 AI / Copilotの資格
Dynamics 365 Salesに含まれるAI機能と、Microsoft 365 Copilotなど別途ライセンスが必要な機能を切り分ける。

Layer 3 Agent実行基盤
Copilot Studio、キャパシティ、課金モデルなど。Agentを「作る・動かす」ための基盤。

Layer 4 システム構成
Dataverse、Microsoft Entra ID、Application User、Exchange、Server-side synchronization、共有メールボックスなど。

Layer 5 提供条件
GA / Preview、地域、言語、容量、データソース、Preview Termsなど。ここは製品ロードマップによって変化する。

この5層を分けて考えると、「Sales Premiumを買ったのにAgentが動かない」という一見矛盾した状況も説明できます。

まず「Salesライセンス」と「AI機能」を分けて考える

Dynamics 365 Salesには、Sales Professional、Sales Enterprise、Sales Premiumなどのライセンス体系があります。Microsoft Learnの現行情報では、Sales Enterprise、Sales Premium、Microsoft Relationship SalesにはSales Agentの基本機能が含まれるとされています。一方、Premium機能を利用する場合にはMicrosoft 365 Copilotライセンスが必要とされています。

ここで重要なのは、「Salesライセンスがある」=「Dynamics 365 Sales内のすべてのAI機能が使える」ではない、ということです。さらに、Copilotの機能についても次の観点を分けて考える必要があります。

・Dynamics 365 Salesに含まれる機能
・Microsoft 365 Copilotに関係する機能
・Copilot Studioを利用するAgent機能
・Agentの実行に伴うキャパシティ/従量課金

したがって、ライセンス設計では「EnterpriseかPremiumか」という1軸だけで判断するのではなく、「誰が」「どの機能を」「どの方式で」「どの程度自動化して」利用するのかまで落とし込むことが重要です。

標準CopilotとSales Agentでは、ライセンスの考え方が違う

今回紹介した標準CopilotとSales Agentを、同じ「AI機能」として一括りにしないことも重要です。

標準Copilotでは、レコードの要約、メール作成支援、営業活動のコンテキスト理解など、営業担当者の判断・作業を支援するAIが中心です。この領域では、Dynamics 365 Salesのライセンスに加えて、対象機能の有効化や管理者設定、Microsoft 365 / Teamsとの連携などを確認します。

Microsoft 365 Copilotとの境界にも注意が必要です。たとえばDynamics 365アプリ内でMicrosoft 365 Copilotを利用する場合、Dynamics 365 EnterpriseまたはPremiumライセンスが前提となり、一部の高度なCopilot機能(提供名称・範囲は変更される可能性があります)にはMicrosoft 365 Copilotライセンスが必要とされています。

「Copilot」という名前だけでは、どのライセンスが必要なのか判断できません。

Sales Agentは「ライセンス+実行基盤」で考える

Sales Qualification AgentなどのSales Agentになると、さらに一段階複雑になります。たとえばSales Qualification Agentでは、Microsoft Learn上でCopilot Studioライセンスが前提条件として明示されています。また、Agentを構成するための管理者権限やデータポリシー、必要なコネクタの設定も必要です。

Dynamics 365 Salesのライセンスだけではなく、Agentを実際に構築・実行するための基盤まで見なければなりません。これはPower Platform / Copilot Studioを理解しているかどうかで、ライセンス説明の深さが大きく変わるポイントです。

5つのAgentを「ライセンス」ではなく「利用条件」で見る

今回取り上げた5つのAgentについては、単純な○×表よりも、次のように理解することを推奨します。

Agent 製品上の位置付け ライセンス以外に確認するポイント
Sales Qualification Agent
(適格化 Agent)
Sales Agent GA Copilot Studio、Agent設定、データポリシー、Agent User。Research and engageにはEntra IDアプリ + SSS等のメール基盤
Sales Opportunity Agent
(商談分析 Agent)
Sales Agent PRP Preview条件、対象ライセンス、キャパシティ、利用可能地域・環境
Sales Close Agent
(クロージング Agent)
Sales Agent PRP Copilot Studio、Entra ID App、Dataverse Application User、共有メールボックス、SSS
Sales Research Agent
(データ分析 Agent)
Sales Agent PRP Copilot Studio、データソース、キャパシティ、接続設定
Recommended Actions Agent
(推奨アクション Agent)
Agent横断 Preview Preview、対象Agent、アクション処理量に応じたCapacity消費

ここで特に注意したいのが、「Previewだから使えない」という理解も正確ではないことです。たとえばSales Close Agentは、Microsoft Learn上でProduction-ready previewとして提供されています。Production-ready previewは本番環境での利用を想定したプレビューですが、GAとは異なり、追加のPreview Termsが適用され、仕様変更の可能性があります。

したがって、「Preview=本番利用不可」と単純化するのではなく、Previewには、GAとは異なる契約条件・サポート・仕様変更リスクがあると理解することが専門家として正確です。

提供状態(GA / PRP / Preview)の定義

ステータス 本番利用 意味 記事での扱い
GA 一般提供。正式リリース済み 本番利用を基本前提として説明。ただし各機能の追加条件は別途確認
PRP Production-ready Preview。本番環境での利用を想定したプレビュー 本番利用は可能だがGAと同義ではない。仕様変更の可能性あり。supplemental terms of use適用。各Agentの提供状況は個別確認
Preview パブリックプレビュー。評価・検証段階 本番利用は原則非推奨。導入判断時に変更可能性を明記

「GAだから安定、Previewだから使えない」という単純な二分法ではなく、提供ステータスと本番運用上のリスクを分けて考える必要があります。

特にSales Qualification Agentは「2段階」で見る

Sales Qualification Agentは、ライセンス説明の教材として非常に分かりやすいAgentです。このAgentには、Research-onlyResearch and engageという2つのモードがあります。

Research-only

リードを調査し、適合性を評価。営業担当者への引き渡しやドラフトメールの作成まで行う。

Research and engage

パーソナライズされたメール送信、顧客からの返信への対応、フォローアップまでAgentが実行。共有メールボックス・SSSの追加構成が必要。

自律性が上がるほど、システム要件も増えます。同じ「Sales Qualification Agent」でも、「リサーチするAI」と「顧客に実際にメールを送り、応答するAI」では導入設計がまったく違います。この差を説明できることが、単なるライセンス紹介とエンタープライズ導入を理解した解説との境目です。

Sales Close Agentになると「ITプロジェクト」になる

Sales Close Agentを構成する場合、Microsoft Learnでは次の要素が構成要件として挙げられています。

Microsoft Entra IDでのアプリケーション登録 / Dataverse Application User / AISalespersonセキュリティロール / 共有メールボックス / Server-side synchronization / 必要なデータポリシー / Copilot Studio / Dataverse / 必要に応じたSharePoint / OneDrive等のナレッジソース

Sales Close Agentは「営業部門がSales Premiumを買えば使える機能」ではありません。Salesライセンスを起点として、Agent実行基盤とMicrosoft 365 / Power Platform / Dataverse / Exchange側の構成を組み合わせ、初めて自律型の営業Agentとして成立します。

これは、ライセンス担当者だけでなく、Dynamics 365管理者、Power Platform管理者、Microsoft 365 / Exchange管理者、セキュリティ担当者まで巻き込むべき領域です。

 「Capacity」をライセンスと混同しない

Agentを導入すると、もう一つ避けて通れないのがCapacityです。Agentによっては、利用量に応じてCopilot Studio等のキャパシティを消費します。たとえばRecommended Actionsでは、処理対象となったアクション数に応じて使用量がカウントされる仕組みが説明されています。

ライセンス費用(Dynamics 365 Sales、M365 Copilot等)
Agent実行に伴うCapacity / Consumption(Copilot Studio)
Microsoft 365 / Power Platform等の追加ライセンス
Dataverse / ストレージ等の基盤コスト

 「使えるか?」ではなく「どこまで自律化できるか?」

ここまで整理すると、Sales AIのライセンス設計で本当に重要な問いが見えてきます。それは「このAgentは使えますか?」ではなく、「このAgentに、どこまで仕事を任せるのか?」です。

自律性レベルと必要な基盤

Level 1:読む CRMデータを要約する
Level 2:考える 案件リスクや次のアクションを提案する
Level 3:作る メールや提案内容のドラフトを作る
Level 4:実行する メールを送信する、フォローアップする
Level 5:自律する 顧客とのやり取りを継続し、条件に応じて人へ引き渡す

Sales Qualification AgentのResearch-only / Research and engageの違いは、まさにこの「自律性」の差として捉えることができます。そして自律性が高くなるほど、ライセンス → Identity → Data → Mail → Security → Governanceまで検討範囲が広がります。

実際の導入では「6つの質問」を先に確認する

「このAgentを使いたい」と言われたとき、IT部門やDX推進部門は何を確認すればよいのか。少なくとも次の6項目から確認することをおすすめします。

導入前の6つの確認事項
① どのSalesライセンスを持っているか

Sales Professional / Enterprise / Premiumのどれか。まずここがスタート。

② その機能に追加ライセンスが必要か

Microsoft 365 Copilot、Copilot Studio、Power Platform等の追加要件を確認。

③ Capacity / Consumptionはどうなるか

PoCのみか、全営業担当者が毎日利用するか。ここで必要な容量・コストが変わる。

④ どのデータをAgentに渡すのか

Dataverseのみか、SharePoint・Web・外部システムか。データソースが増えるほど接続・権限・DLP・ガバナンスの検討が必要。

⑤ Agentが「読むだけ」か「書く・送る」まで行うか

顧客へメールを送信するAgentでは、Exchange・共有メールボックス・SSS・権限・監査・承認プロセスまでが設計対象になる。Sales Qualification AgentのResearch and engage、Sales Close Agentがその典型。

⑥ GAなのかPreviewなのか

Previewなら仕様変更・提供条件・サポート範囲・Preview Termsまで含めて判断が必要。

導入前に確認しておきたいチェックリスト

□ SalesライセンスのSKU / エディションを確認した
□ 対象AI機能のEntitlementを確認した
□ Microsoft 365 Copilot / Copilot Studio等の追加ライセンスを確認した
□ Capacity / Consumptionの課金方式を確認した
□ Dataverseのデータと権限を確認した
□ Agent User / Application Userの設計を確認した
□ Microsoft Entra ID側のアプリ登録要件を確認した
□ Exchange / Server-side synchronizationの要否を確認した
□ Agentが「読む・提案する・書く・送る」のどこまで実行するか定義した
□ DLP / データポリシーを確認した
□ 利用地域・言語・提供条件を確認した
□ GA / Previewの区別を確認した
□ Previewの場合、Preview Termsを確認した
□ PoC環境と本番環境を分離して検証した

ここまでを一言でまとめると

Salesライセンスを起点として、対象機能のEntitlement、Copilot / Agent実行基盤、Capacity、データ、Identity、メール基盤、セキュリティ、Preview条件まで含めて初めて「利用可能」と判断する。

特に自律型Agentでは、ライセンスの問題が、そのままアーキテクチャとガバナンスの問題になります。だからこそ、営業 × DX推進 × Dynamics 365管理者 × Power Platform管理者 × Microsoft 365 / Exchange管理者が同じテーブルで要件を確認することが重要です。

※本章のライセンス、Preview、Capacity、機能提供状況は2026年8月時点のMicrosoft公開情報を基準としています。Dynamics 365 / Copilot StudioのライセンスおよびAgentの提供条件は更新されるため、本番導入時には最新のMicrosoft Learnおよびライセンスガイドで最終確認してください。


あなたの営業チームの①②③は、どこまで進んでいますか?

プロローグで整理した3層の枠組みを、営業の文脈で問い直します。

営業チームへの3つの問い
① 標準Copilotを使っていますか?
レコードサマリーを開いてみましたか?メール支援で下書きを試しましたか?Dynamics 365 Sales Enterprise / Premiumライセンスを前提とする機能ですが、機能によって管理者設定・追加ライセンスなど条件が異なります。「ライセンスがあれば即利用開始」ではなく、まず管理者に利用可否を確認しましょう。
② 営業領域のAgentを知っていましたか?
自社のライセンス・Copilot Studio capacity・環境設定を確認しましたか?特に自律的な顧客エンゲージメントを行うAgentはIT部門との連携が必要です。
③ カスタムAgentを検討したことがありますか?
自社固有の営業プロセス—独自の評価基準、社内承認フロー、特定業界の知識—は、標準Agentではカバーできないことがあります。Copilot Studioで自社向けに構築する選択肢があります。
①は今日から。②はIT部門と一緒に。③は設計から始める。
③ カスタムAgent(Copilot Studio)を検討するなら

標準のSales Agentが「Microsoftが設計した営業プロセスの型」に合っているのに対し、カスタムAgentは「自社の営業プロセスの型」に合わせて作ることができます。独自の評価基準・社内承認フロー・業界固有の知識ベース・社内システムとの連携——これらが必要になったとき、カスタムAgentが選択肢として浮かび上がります。

🛠️ 実装・開発で押さえておきたいこと

Copilot Studioを開く前に、「AIに何をさせるか」の業務要件整理と合意形成が先決です。データ連携の設計(Dataverse・SharePoint・外部APIなど)が品質の土台を決めます。AI出力の品質検証フロー・エラー処理・ヒューマンレビューの組み込みは、最初の設計段階から織り込んでおく必要があります。全社展開よりも、特定チーム・特定用途での先行導入を前提に段階的に進める方が成功率が高くなります。

📋 ライセンス調達で確認すべきこと

Copilot Studioの容量(Copilot Credits / prepaid pack等)は、Agentの利用量を見積もって試算します。Power Automateを使った外部連携フローを組む場合は、Power Platformライセンスの追加要件が発生することがあります。知識ベース・ログ・履歴データの蓄積に伴うDataverseストレージの増加も事前に見込んでおきましょう。顧客データを扱う場合は、データ居住地・アクセス制御・コンプライアンス要件を調達前に確認することが不可欠です。


今回の営業編を、3層で整理する

プロローグで紹介した枠組みで、今回ご紹介した内容を整理します。あなたの会社の営業チームは、どの層まで活用できていますか?

① 標準Copilot

Sales Enterprise 以上
管理者設定が前提

  • レコードサマリー
  • メール支援
  • ミーティング準備・議事録
② 標準Agent

対象Salesライセンス + Copilot Studio / Capacity
Agentごとの利用条件とIT構成が前提

  • Sales Qualification Agent GA
  • Sales Opportunity Agent PRP
  • Sales Close Agent PRP
  • Sales Research Agent PRP
  • Recommended Actions Agent Preview
③ カスタムAgent

Copilot Studio で構築
設計・開発・ライセンス調達が必要

  • 例)自社基準リード審査Agent
  • 例)社内承認フロー連携Agent
  • 例)業界特化の提案ロジックAgent

まとめ

今回は営業編として、標準Copilotの3つの機能と、営業プロセスを支援する5つのAgentをご紹介しました。

「顧客と向き合う時間を増やす」という問いに対して、Dynamics 365 Salesが出している答えは明確です。

確認・入力・リサーチ・整理といった「顧客の外側にある時間」を短くして、商談・提案・関係構築に使える時間を増やす。

その方向性は、標準Copilotでも標準Agentでも一貫しています。

ただし、機能を知っているだけでは足りません。

特に標準Agentは、動かすための前提条件・ライセンス・IT管理者との連携が揃って初めて動き始めます。

「知っているけれど使えていない」という状態が最もよくあるパターンです。

現在のDynamics 365ロールの中でも、営業領域はMicrosoftが特に注力している領域の一つです。

Wave 2でさらに積み上がる前に、今の現在地を把握しておくことには十分な価値があります。

あなたの営業チームは、今日何時間、顧客と向き合えましたか?

営業の仕事は、数字だけでは語れない大変さがあります。

断られても、また前へ。予算を削られても、また前へ。

顧客のために動き続けることの積み重ねが、やがて結果として現れる。そういう仕事です。

Copilotが減らせるのは、その仕事の「時間」の一部です。

でも、顧客と向き合う時間が増えれば、その分だけ前へ進む力も増えるはずです。

営業の皆さん、Let’s Enjoy our DX365LIFE!

次回は第3回カスタマーサービス編です。

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dx365jp
  • dx365jp
  • 25年ほど、Microsoft Dynamics 365 【ERP(NAV/AX)+CRM】の導入コンサルティングに従事し、日本を含む34か国において導入コンサルティングを経験してきました。グローバル環境における“プロジェクト”と“マーケティング”を生業としております。

    最近は、【CRM/MKTG(攻めのDX)⇔ ERP(守りのDX)】+【ローコード】というDX365な活動に奮闘中です。Microsoft Dynamics 365 ビジネスで地球を92周中です。#DX365 #DynamicsIoT

    Microsoftの運営する外部技術者グローバル組織「Microsoft MVP(*日本163名/世界3674名)・ Microsoftのトラスティッドアドバイザーである「Microsoft Regional Director (*日本4名/世界167名)」として、複数のITコミュニティーにて活動中。(*2026/08/08時点)

    プロフィールはこちら→bit.ly/Dynamics365JP