第8回人事総務編|Dynamics 365+Copilot|Where we are ? ― Copilotが変える「仕事の時間」と「顧客への向き合い方」

こんばんは。室長こと、吉島良平(Microsoft MVP for Business ApplicationsMicrosoft Regional Director)です。

以下は、よく聞く話です。

新しく加わった社員が、パソコンの前で手を止めていました。

社員情報は正しく登録されているだろうか。

休暇制度はどこで確認できるのか。

必要な研修は何か。

就業規則や福利厚生の資料はどこにあるのか。

パソコン、アカウント、社員証、入館権限は準備されているのか。

人事担当者は従業員レコードを確認し、オンボーディングチェックリストを割り当てます。

総務担当者は備品と施設利用を確認します。

IT担当者はアカウントと端末を準備します。

上司と受入部門は、初日の予定と研修内容を整えます。

一つ一つは難しい仕事ではありません。

しかし、部門をまたぐ手続きが一つでも止まると、新しい社員は「次に何をすればよいのか」が分からなくなります。

そして人事・総務には、同じような問い合わせが毎日届きます。

「有給休暇は何日残っていますか。」

「住所を変更したいのですが、どこから申請しますか。」

「この規程はどこにありますか。」

「この申請は、誰の承認で止まっていますか。」

問い合わせに答えることは大切です。

ただし、人事・総務の本来の価値は、手続きそのものではありません。

社員が会社で力を発揮できる状態をつくり、働く人と向き合うことです。

このシリーズでは、社内の別部門も「顧客」と捉えています。

人事・総務にとっての顧客は、会社で働く従業員です。

Dynamics 365 Human Resources、Microsoft 365、Power Platform、Copilot StudioとAgentは、その従業員体験と、人事・総務の時間の使い方を変え始めています。

ただし、人事と総務は同じ製品領域ではありません。

人事にはDynamics 365 Human Resourcesがあります。

一方、Microsoft Dynamics 365に「総務」という独立したアプリケーションはありません。

総務業務では、Teams、Outlook、OneDrive、SharePoint、Power Apps、Power Automate、Copilot Studioなどを組み合わせ、業務と情報の流れを設計する必要があります。

ということで、第8回のテーマは、人事・総務におけるCopilotと、これからのAgent活用です。

手続きの時間を減らし、人と向き合う時間を増やす

本稿は第8回目です。お付き合いいただき本当にありがとうございました。

第5回では、Project Operationsにおける人と時間、原価、収益のつながりを整理しました。

第6回では、Supply Chain ManagementとCommerceにおけるモノの流れと、在庫、調達、販売の判断を扱いました。

第7回では、それらの業務から生まれる数字をFinanceでどう締め、どう読むかを考えました。

そして今回は、人そのものを扱います。

採用から入社、異動、休暇、福利厚生、学習、評価、退職まで。

人事は従業員のライフサイクルを支えます。

総務は、規程、文書、申請、設備、備品、社内案内など、従業員が日々働くための環境を支えます。

人事・総務が見ている対象は違っても、目指すものは同じです。

従業員が、必要な情報と手続きを迷わず見つけ、本来の仕事へ集中できる状態をつくること。

このシリーズのテーマは、「Copilotが変える『仕事の時間』と『顧客への向き合い方』」です。

人事・総務において、それはこう言い換えられます。

手続きの時間を減らし、人と向き合う時間を増やす。

ここでいう「人と向き合う」とは、問い合わせ件数を減らすことだけではありません。

社員の成長を支援し、働き方の変化を理解し、組織の課題を見つけ、必要な対話へ時間を使うことです。

このシリーズ「Dynamics 365+Copilot|Where we are?」は、各ロールごとにCopilot・Agentの現在地を整理する全12回のシリーズです。3層の全体像はプロローグにまとめています。

📅 本記事の情報は2026年8月23日時点のものです。GA・PRP・Previewの状態、対象バージョン、地域・言語、ライセンス、容量、管理者設定は変更される可能性があります。最新状況はMicrosoft Learnおよび公式リリースノートでご確認ください。

人事・総務編でも使う3層の枠組み

今回も、プロローグで提示した3層の枠組みで整理します。

※この3層は本シリーズ独自の整理であり、Microsoftが製品仕様として定義する正式な分類ではありません。

人事・総務における3層の枠組み
①標準Copilot
Dynamics 365 Human Resourcesやfinance and operations appsに組み込まれたAI要約など、Microsoftが標準機能として提供する支援機能です。
②標準Agent
Microsoftが提供する業務特化型Agentです。今回はDynamics 365 Human Resources Onboarding agentと、Microsoft 365側のEmployee Self-Service agentを区別して扱います。
③カスタムAgent
Copilot Studio、Power Platform、SharePoint、Dataverse、外部システムなどを組み合わせ、自社固有の申請、問い合わせ、貸与品、施設、規程、オンボーディングをつなぐAgentです。
人事はDynamics 365 Human Resourcesを中心に、総務はMicrosoft 365とPower Platformを含む企業基盤へ広がります。
📖 本稿でいう「人事」「総務」「Copilot」「Agent」の整理
Dynamics 365 Human Resources
人事管理、休暇と欠勤、福利厚生、報酬、学習、パフォーマンス、従業員・マネージャーのセルフサービスなど、従業員のHire-to-retireライフサイクルを支える業務アプリケーションです。
総務を支えるMicrosoftクラウド
総務という単独のDynamics 365アプリはありません。SharePointとOneDriveで文書を管理し、TeamsとOutlookで連絡・協働し、Power AppsとPower Automateで申請・台帳・承認を補完します。
Copilot
業務画面やMicrosoft 365アプリの中で、情報の要約、文書作成、検索、分析などを支援します。利用できるデータと機能は、製品、画面、権限、ライセンスによって異なります。
AI Agent
特定の目的、ルール、データ、ツールを与え、候補の抽出、推奨、確認依頼、アクション、エスカレーションなどを担う実行主体です。人事では個人情報と機微情報を扱うため、人による確認と権限設計が重要です。

⚠️ Human Resourcesの機能、Microsoft 365の機能、Copilot Studioで構築するAgentを混同しません。総務向けの申請アプリや問い合わせAgentを作成しても、それはDynamics 365 Human Resourcesの標準機能になるわけではありません。

📌 人事・総務は、一つのロールではない
人事担当

従業員、雇用、職位、休暇、福利厚生、報酬、評価、入社・異動・退職などを管理します。

総務担当

社内規程、申請、施設、備品、貸与品、入館証、証明書、社内問い合わせなどを担います。

IT・ID管理担当

アカウント、端末、Teams、SharePoint、アプリ、権限、入社・異動・退職に伴うIDライフサイクルを管理します。

セキュリティ・コンプライアンス担当

データ分類、アクセス制御、DLP、監査、脅威検知、インシデント対応、Agentガバナンスを担います。

従業員・マネージャー

セルフサービス、申請、規程確認、オンボーディング、チームメンバーへの支援を行います。

人事・総務の業務フローで見る|CopilotとAgentはどこに入るか

人事・総務の仕事は、単一部門の中で完結しません。採用候補者、新入社員、上司、人事、総務、IT、財務が一つの流れの中で動きます。AIの価値も、単一画面ではなく、この従業員ライフサイクルと社内サービスの流れで見る必要があります。

従業員ライフサイクルとAI支援
① 採用・内定・入社準備
候補者情報、入社日、雇用条件を確認し、従業員レコード、オンボーディングタスク、休暇プラン、報酬情報の準備へつなげます。
② オンボーディング
人事、総務、IT、上司、新入社員が、それぞれのタスクを完了します。Onboarding agentはTeams上で人事担当者と新入社員を支援しますが、確認済みの情報だけがHuman Resourcesへ書き戻されます。
③ 日常の従業員セルフサービス
従業員は個人情報、休暇、福利厚生、学習、目標、タスクなどを確認・更新します。休暇サマリーは複数画面を確認する時間を短くします。
④ 総務申請・規程・社内サービス
規程・マニュアルはSharePoint、申請・台帳はPower Apps、承認・通知はPower Automate、日々のコミュニケーションはTeamsとOutlookで支えます。総務業務のSystem of Recordを先に決めることが重要です。
⑤ 異動・成長・評価・退職
人事情報の変更、学習、パフォーマンス、組織変更、オフボーディングを管理します。AIは情報整理を支援できますが、評価、処遇、配置などの正式判断は組織のルールと人の責任で行います。
人事・総務のAIは、社員の代わりに判断するためではなく、社員が迷わず手続きを進め、人が必要な対話へ集中するために使う。

前半:Dynamics 365 Human Resourcesの標準Copilot

休暇残日数を複数画面から探す時間を短くする

🏖️ Employee self service leave summaryGA

従業員セルフサービスの「自分の情報」に、休暇残日数と失効対象となる休暇のAIサマリーを表示します。繰越ルールが設定された休暇タイプの現在残高と、今後の休暇申請を踏まえた失効対象を要約し、従業員が休暇計画を考えるための材料を提供します。

重要な境界:サマリーは休暇制度の規程そのものを変更せず、休暇申請を自動承認する機能でもありません。残高計算とルールはHuman Resources側の設定に基づきます。

こんな場面で:従業員が年度末前に失効予定の休暇を把握したいとき。人事への残高確認の問い合わせを減らしたいとき。

前提:finance and operations apps 10.0.40以降の対象PQU/従業員ロール/休暇プランと繰越ルールの設定/言語・地域の対応状況を確認

AIの前に、従業員セルフサービスを整える

👤 Employee self service workspace標準機能|AIではない

従業員セルフサービスは、従業員が個人情報、休暇、福利厚生、給与情報、学習、目標、パフォーマンス、タスクなどへアクセスするための標準ワークスペースです。AI機能ではありませんが、人事への問い合わせを減らし、従業員自身が情報へアクセスする基盤になります。

人事・技術上の意味:セルフサービスで解決できない業務をそのままAgentへ渡しても、回答の根拠と更新先が曖昧になります。まずHuman Resources側のデータ、権限、申請経路、承認を整えます。

Dynamics 365 Human Resources Onboarding agent

🚀 Onboarding agentPreview

何をするか:Microsoft Teamsの中で、人事担当者と新入社員を一つのオンボーディングジャーニーとしてつなぎます。人事担当者向けと新入社員向けの二つの体験があり、確認済みの情報をDynamics 365 Human Resourcesへ書き戻します。

人事担当者向け:従業員レコードのドラフト作成、オンボーディングチェックリストと休暇プランの推奨、報酬情報の入力、複数候補者の進捗確認を支援します。

新入社員向け:個人情報、住所、連絡先、本人確認資料などの確認・入力をガイドし、オンボーディングタスク、学習資料、社内リソースをTeams上で提示します。

重要な境界:Agentが下書きと推奨を生成しても、自動的に確定するわけではありません。人事担当者と新入社員が内容を確認し、確定した情報だけがHuman Resourcesへ反映されます。

⚠️ Public Previewとして扱う

Onboarding agentはGAでもPRPでもありません。Preview機能として仕様変更、提供条件、サポート条件を確認し、Sandbox環境で評価します。

前提:Human Resources 10.0.48以降の最新品質更新を適用したSandbox環境/Dataverse環境とのリンク/Copilot Studioライセンス/Feature ManagementでOnboarding agentを有効化/Power Platform admin centerからソリューションをインストール/接続参照・クラウドフロー・Teams公開の設定

ここで、人事・総務編らしい境界が見えてきます。

むしろ、総務はMicrosoft 365、SharePoint、Teams、Power Platform、Copilot Studio、Dataverse、Entra IDを横断する領域です。

人事・総務を支えるMicrosoft基盤
領域 主な役割 人事・総務での例
Dynamics 365 Human Resources 人事のSystem of Record 従業員、雇用、職位、休暇、福利厚生、報酬、評価
SharePoint 文書・ナレッジ 就業規則、社内規程、申請ガイド、FAQ
Teams・Microsoft 365 従業員接点 問い合わせ、通知、共同作業、日常業務
Power Apps・Dataverse 申請・台帳・業務アプリ 貸与品、入館証、座席、施設、慶弔、証明書発行
Power Automate 承認・通知・連携 申請承認、期日通知、部門間タスク、エスカレーション
Copilot Studio 従業員向けAgent 規程照会、申請案内、IT窓口、人事へのハンドオフ
Microsoft Entra IDとアクセス 本人確認、アクセス制御、入社・異動・退職時のID管理

中盤:総務はDynamics 365の外側をどうつなぐか

Dynamics 365 Human Resourcesは人事のSystem of Recordになれます。

しかし、総務の仕事は一つの業務アプリケーションへ収まりません。

規程や申請書はSharePoint。

個人の作業ファイルはOneDrive。

問い合わせと連絡はTeamsやOutlook。

備品、施設、来訪、証明書、社内申請などは、Power AppsとPower Automateで補完できます。

ここで大切なのは、「Microsoft 365なら何でもCopilotが自動化する」と考えないことです。

情報の保管場所、正本、権限、承認、保存期間、監査を決めた上で、CopilotとAgentを載せます。

Microsoft 365 Copilotで、働く場所にAIを持ち込む

✨ Microsoft 365 CopilotGA

Microsoft 365 Copilotは、Word、Excel、PowerPoint、Outlook、TeamsなどのMicrosoft 365アプリとMicrosoft Graph上の業務データを利用し、文書作成、要約、会議・メールの確認などを支援します。人事・総務では、案内文、FAQ、会議の整理、社内コミュニケーションの下書きなどに利用できます。

重要な境界:Copilotはサインイン利用者がアクセスできる情報だけを参照します。ただし、既存の権限が広すぎれば、Copilotから見える範囲も広くなります。人事情報と総務文書のアクセス権を事前に見直します。

前提:対象となるMicrosoft 365ライセンスとMicrosoft Copilotライセンス/Microsoft Entra ID/対象アプリ・サービスの要件/Exchange Online・OneDriveなど機能ごとの前提/既存の権限・共有設定・保持・機密ラベルの確認

SharePointとOneDriveを、規程と文書の土台にする

📚 SharePoint agents(社内規程・FAQ向け)GA

SharePoint agentsは、SharePointサイト、ページ、ドキュメントライブラリの情報をもとに、利用者がアクセス権を持つ範囲で質問と回答を支援します。総務では、就業規則、社内手続き、施設利用、情報セキュリティ、福利厚生案内など、正本が明確なナレッジ領域で活用できます。

重要な境界:Agentは既存のアクセス権に従います。古い規程、重複文書、過剰共有が残っていれば、回答品質と情報露出のリスクになります。

前提:Microsoft Copilotライセンス、または対象となる従量課金構成/SharePointの権限・共有・ライフサイクル管理/正本・版管理・所有者・更新日の整備

🧩 Copilot in SharePointPreview

Copilot in SharePointは、自然言語からSharePointサイト、ページ、リスト、ライブラリ、対話型レポート、Officeファイルの作成や、コンテンツへの質問、ワークフロー実行を支援するPreview機能です。

営業・技術上の境界:SharePoint agentsの一般提供と、Copilot in SharePointのPreviewを同じ提供状態として説明しません。総務ポータルの本番設計では、利用する機能ごとに提供状態を確認します。

申請・承認・通知はPower Platformで補完する

🔄 Power Apps+Power Automate+SharePoint/Dataverse

Power Appsで申請画面や台帳を作り、SharePointまたはDataverseへデータを保存し、Power Automateで承認、通知、更新をつなぐことができます。Power AutomateのApprovalsでは、承認・却下、全員承認、最初の回答、カスタム回答、順次承認などを構成できます。

総務で考えられる対象:備品申請、名刺、証明書、施設利用、来訪、社宅、慶弔、文書承認、社内イベントなど。ただし、これは標準の「総務モジュール」ではなく、自社で設計する業務アプリです。

重要な境界:Power AutomateのCopilotはフロー作成者を支援しますが、生成したフローを無検証で本番運用するものではありません。承認者、代理、期限、再申請、取消、監査、エラー処理を設計します。

人事・IT・総務の問い合わせ窓口を一つにする

💬 Employee Self-Service agentGA(段階的展開中)

Employee Self-Service agentは、従業員のHR、IT、業務上の問い合わせと定型タスクを一つの会話窓口へまとめるMicrosoft 365側のAgentです。Copilot Studioでカスタマイズし、HRIS、ITSM、ID管理、ナレッジ基盤などへコネクタやAPIで接続します。

HR向けスターターでは、福利厚生、規程、組織リソースなどのポリシーベースの回答と案内を支援します。IT向けスターターでは、アカウントやデバイスなどのサポートを支援します。複雑または機密性の高い内容は、人事・IT担当者へエスカレーションする設計が必要です。

重要な境界:これはDynamics 365 Human ResourcesのOnboarding agentとは別の製品機能です。Onboarding agentはTeams上の入社プロセスを支援し、Employee Self-Service agentはより広い従業員問い合わせと定型タスクの窓口を目指します。

前提:一般提供の段階的展開状況/Microsoft 365 Copilotまたは対象となるCopilot Studio従量課金・容量構成/Microsoft Teams/Copilot Studio環境/コネクタ・認証・RBAC/人事・IT・法務・プライバシー部門による知識源と機密問い合わせの設計

提供状態(GA/PRP/Preview)の定義

ステータス 本番利用 意味 記事での扱い
GA 一般提供。正式リリース済み 本番利用を基本前提として説明。ただし、ロールアウト、ライセンス、容量、地域、管理者設定、権限、接続など、各機能の追加条件は個別に確認
PRP Production-ready Preview。本番環境での利用を想定したプレビュー GAと同義ではありません。仕様変更と追加使用条件を確認。本稿で確認したHR固有機能にはPRPを付けていません
Preview 評価・検証段階 本番利用は原則慎重に判断。機能制限、Sandbox要件、地域・言語、変更可能性、追加使用条件を明記

提供状態は機能単位で確認します。同じMicrosoft 365やDynamics 365の中でも、SharePoint agentsはGA、Copilot in SharePointはPreview、Human ResourcesのOnboarding agentはPreviewというように状態が異なります。

ここまでを一言でまとめると

Human Resourcesは従業員データと人事プロセスの中核です。Microsoft 365は従業員が働く場所です。Power PlatformとCopilot Studioは、その間に残る総務・IT・社内サービスをつなぐ拡張基盤です。

カスタムAgentをどう考えるか

総務には独立したDynamics 365アプリがないため、カスタムAgentの余地は大きく見えます。

しかし、Agentの前に業務のSystem of Recordを決めます。規程はSharePoint、従業員情報はHuman Resources、申請データはDataverseまたはSharePoint、チケットはITSMなど、参照元と更新先を明確にします。

規程・手続き案内Agent

SharePointの正本を参照し、就業規則、福利厚生、施設利用、申請方法を案内する設計例です。法的判断や個別人事判断は担当者へ引き継ぎます。

総務申請ナビゲーションAgent

申請内容に応じて必要事項を案内し、Power AppsやPower Automateの申請・承認へつなぐ設計例です。Agentが正式承認者を飛び越えないようにします。

入退社オーケストレーションAgent

人事、IT、総務、上司にまたがるタスクを確認し、未完了項目を通知・エスカレーションする設計例です。人事情報とID・端末・施設権限の責任境界を分けます。

⚠️ 上記はMicrosoft標準Agentの名称ではなく、Copilot Studio、Power Platform、Microsoft 365を使って検討できるカスタム実装例です。個人情報、機微情報、評価、報酬、健康、法務相談などを扱う場合は、最小権限、DLP、保持、監査、利用者への説明、人へのエスカレーションを先に設計します。

ここから先は、セキュリティとガバナンスの話です。

後半:人事・総務を支えるセキュリティとガバナンス

人事・総務は、企業の中でも特に機微性の高い情報を扱います。

住所、連絡先、本人確認書類、報酬、休暇、健康や配慮に関する情報、評価、家族情報、銀行情報。

Agentが便利になるほど、閲覧、検索、要約、転記、通知、実行の範囲も広がります。

だから人事・総務では、AIの機能要件と同じ重さで、セキュリティ要件を設計する必要があります。

Agentに仕事を任せる前に、Agentを一人のデジタルワーカーとして管理する。

誰が所有するのか。どのIDで動くのか。何へアクセスできるのか。どの操作を実行できるのか。何を記録し、誰が監査するのか。いつ停止・廃止するのか。これらを先に決めます。

セキュリティを5つの層で考える

人事・総務Agentのセキュリティ設計
①Identity|Microsoft Entra
人とAgentのID、認証、権限、条件付きアクセス、ライフサイクル、最小権限を設計します。
②Data|Microsoft Purview
データ分類、秘密度ラベル、DLP、監査、eDiscovery、データライフサイクル、インサイダーリスクを設計します。
③Threat|Microsoft Defender
不審なAgent動作、プロンプトインジェクション、資格情報漏えい、過剰権限、悪意あるツール呼び出しなどを検出・調査します。
④Security Operations|Microsoft Sentinel
人、端末、クラウド、アプリ、Agentから得られるセキュリティシグナルを統合し、検知、調査、ハンティング、対応へつなげます。
⑤Control Plane|Microsoft Agent 365
組織内のAgentを可視化し、ライフサイクル、アクセス、ポリシー、観測性、セキュリティを一元的に管理するコントロールプレーンです。

Microsoft Purview|人事データを「見せてよい範囲」に閉じ込める

人事Agentの精度を上げるために、規程、従業員情報、問い合わせ履歴、評価資料などを知識源へ追加したくなります。

しかし、検索できることと、見せてよいことは同じではありません。

Microsoft Purviewは、AIとAgentの利用に対して、データ分類、秘密度ラベル、DLP、監査、インサイダーリスク管理、通信コンプライアンス、eDiscovery、データライフサイクル管理などを提供します。

人事Agentの第一歩は、プロンプトを書くことではありません。
人事データを分類し、どのデータを誰がどの目的で利用できるかを決めることです。

Microsoft Defender|Agentの振る舞いを守る

Agentは、データを読むだけでなく、ツールを呼び出し、操作を実行するようになります。

そのため、従来のマルウェア対策だけではなく、Agent固有の脅威を考える必要があります。

Microsoft Defenderは、Agentのテレメトリ、ツール利用、実行パターンをもとに、不審または悪意ある動作を検出・調査する機能を提供します。

プロンプトインジェクション、資格情報漏えい、悪意あるコンテンツ伝播、不審なアクセスなどは、人事データを扱うAgentでは特に無視できません。

Microsoft Sentinel|人事案件を監視するのではなく、セキュリティ事象を統合する

ここは誤解しやすいポイントです。

Microsoft Sentinelは、人事評価や従業員の行動を監視するための製品ではありません。

クラウド、ID、端末、アプリ、ネットワーク、Agentなどからセキュリティデータを集約し、脅威の検知、調査、ハンティング、対応を支援するSIEMです。

人事・総務の文脈では、機微情報への不審なアクセス、侵害されたID、異常なAgent動作など、セキュリティ上の事象を他のシグナルと関連付けて調査する位置付けです。

Microsoft Agent 365|人と同じようにAgentにも管理責任を持たせる

Agentが増えると、誰が作ったのか分からないAgent、所有者が退職したAgent、必要以上の権限を持つAgent、使われていないAgentが生まれます。

Microsoft Agent 365は、組織内のAgentを監視、管理、セキュリティで保護するためのコントロールプレーンです。

Agentレジストリ、ライフサイクル、アクセス制御、ポリシー、観測性を通じて、Agentを企業の管理対象へ入れます。

💡人事・総務とAgent 365が相性のよい理由

人事部門が従業員の入社、異動、退職を管理するように、Agentにも作成、所有者変更、権限変更、レビュー、停止、廃止というライフサイクルがあります。人のガバナンスとAgentのガバナンスを並べて考えられる点が重要です。

Human-in-the-Loopをどこへ置くか

人事・総務では、すべてをAgentへ任せるべきではありません。

Agentへ任せやすい領域 人の判断を残す領域
規程の検索と該当箇所の提示 規程の解釈と個別事案への適用
申請方法と必要書類の案内 例外承認と公平性の判断
オンボーディング項目の推奨 採用、報酬、評価、配置に関する意思決定
部門横断タスクの通知と追跡 懲戒、苦情、健康、配慮、法務案件
公開可能なナレッジの要約 機微情報の開示可否と目的外利用の判断

AIが答えられるから答えさせるのではありません。

人が判断すべきことを、意図して人へ残す。

これが、人事・総務Agentの設計原則です。


Agentを「ライセンス」ではなく「利用条件」で見る

Agent名 製品上の位置付け ライセンス以外に確認するポイント
Human Resources
Onboarding agent
Preview
Dynamics 365 Human Resources向けMicrosoft標準Agent。人事担当者と新入社員のオンボーディングをMicrosoft Teams上でつなぎ、確認済みの情報をHuman Resourcesへ書き戻します。 Preview条件 / Human ResourcesのAgent設定 / 人事担当者向け・新入社員向け体験の有効化 / Teamsへの導入 / Welcome message・資料リンク・Trigger lead daysなどの設定 / 推奨・抽出結果の人による確認
Employee
Self-Service agent
GA(段階的展開中)
Microsoft 365 CopilotとCopilot Studio側の従業員向けAgent。HR、IT、ナレッジ、外部業務システムへの共通窓口として組織ごとにカスタマイズします。 段階的な利用提供 / Copilot Studio環境 / 必要な管理・作成ロール / HR・ITスターターの導入と公開 / 知識ソース・コネクタ・認証 / Microsoft 365管理センターからの対象ユーザーへの展開 / 人へのハンドオフ設計

ライセンスと管理者設定の現実

「Human Resourcesを契約すれば、人事・総務のCopilotとAgentがすべて使える」ではありません

Dynamics 365 Human Resources、Microsoft 365 Copilot、Copilot Studio、Power Apps、Power Automate、SharePoint、Teamsの利用条件は別々です。対象ユーザー、作成者、容量、従量課金、環境、接続、セキュリティ、地域、言語、Preview条件を機能ごとに確認します。

ライセンスは「製品名」ではなく「誰が、何を、どの方式で使うか」で確認する

  • Human Resourcesの業務機能を使う人
  • Microsoft 365 Copilotを使う人
  • SharePoint agentsやCopilot Chatの共有データAgentを使う人
  • Copilot StudioでAgentを作成・公開・実行する人

というように利用者を分けて整理します。

特にAgentは、ユーザーライセンスだけでなく、Copilot Studioの容量・従量課金やMicrosoft 365 Copilotの従量課金が関係する場合があります。

導入見積では「全社員に同じAIライセンスを付ける」前に、利用シナリオごとの対象人数とメッセージ消費量を分けて試算します。

導入前の6つの確認事項

導入前の6つの確認事項

【業務境界】人事と総務を同じ製品として扱っていないか

Human Resourcesの人事プロセスと、Microsoft 365・Power Platformで補完する総務プロセスを分けます。

【提供状態】GA・PRP・Previewを機能ごとに確認したか

Onboarding agentはPreview、Employee self service leave summaryはGAです。SharePoint agentsとCopilot in SharePointも同じ状態ではありません。

【System of Record】従業員・規程・申請・チケットの正本を決めたか

同じ情報を複数システムで更新させず、Agentがどこから読み、どこへ書くかを決めます。

【個人情報】権限・DLP・保持・監査・機密ラベルを設計したか

人事情報は特に機微性が高いため、Copilot導入前に過剰共有と不要なアクセス権を見直します。

【人の判断】どこで人へエスカレーションするか

評価、処遇、採用、懲戒、健康、法務、ハラスメントなどの判断をAgentへ委ねず、担当者へ安全に引き継ぎます。

【ライセンス・容量】利用者と作成者を分けて確認したか

Human Resourcesの利用権、Microsoft 365 Copilot、Copilot Studio、Power Apps、Power Automateの作成・実行条件を分けて確認します。SharePoint agentsやMicrosoft 365 Copilot ChatのAgentは、Microsoft 365 Copilotライセンスだけでなく、対象シナリオでは従量課金を選択できるため、ユーザー単位のライセンスとAzure課金・メッセージ消費を混同しません。

⚠️ 人事・総務のAgentでは「アクセスできる」と「アクセスさせてよい」は別です。

たとえば、AgentがHuman Resources、SharePoint、Teams、ITSM、外部HRISに接続できるとしても、すべての従業員情報や文書を参照させる必要はありません。給与、評価、個人情報など、機微性の高い情報については、利用者、用途、必要なデータ範囲を限定し、人による確認やエスカレーションを組み込みます。

📌 Agent導入で最初に決めるべきこと

① Agentの所有者は誰か
② Agentはどのデータにアクセスするのか
③ どの操作を自律的に実行できるのか
④ どの操作で人の承認を必要とするのか
⑤ 問題が発生した場合、誰が調査するのか
⑥ Agentを停止する権限を誰が持つのか
⑦ 所有者が異動・退職した場合、誰が引き継ぐのか

導入前に確認しておきたいチェックリスト

□ Human Resourcesで管理する業務と、総務で補完する業務を分けたか
□ Human Resources、SharePoint、Dataverse、ITSMのSystem of Recordを決めたか
□ Employee self serviceで従業員自身が確認・更新できる範囲を決めたか
□ 休暇プラン、繰越、失効、承認ルールが正しく設定されているか
□ Employee self service leave summaryの対象バージョンとPQUを確認したか
□ Onboarding agentをPreviewとして扱い、GAやPRPと誤認していないか
□ Onboarding agent用のHuman Resources 10.0.48以降のSandbox環境を用意したか
□ Dataverseリンク、Copilot Studioライセンス、ソリューション、接続参照、フローを確認したか
□ Onboarding agentの推奨と下書きを人が確認する運用か
□ 人事担当者向けと新入社員向けのTeams体験を個別に検証したか
□ Microsoft 365 Copilotの対象ライセンスとアプリ要件を確認したか
□ SharePointの過剰共有、古い文書、重複規程、所有者不明サイトを整理したか
□ SharePoint agentsとCopilot in SharePointの提供状態を分けて説明しているか
□ OneDriveを組織規程の正本として扱っていないか
□ Power Appsの申請と台帳に所有者、保守責任、廃止基準があるか
□ Power Automateの承認に代理、期限、取消、再申請、エラー処理があるか
□ Employee Self-Service agentとHR Onboarding agentを同じAgentとして説明していないか
□ Employee Self-Service agentの段階的展開状況とライセンス・容量を確認したか
□ 個人情報と機微情報へ最小権限を適用しているか
□ HR、IT、法務、プライバシー、情報セキュリティの責任者を決めたか
□ 機密性の高い相談をAgentが人へエスカレーションできるか
□ Agentの回答根拠となる規程の正本、版、所有者、更新日を管理しているか
□ AI出力を採用・評価・処遇・懲戒の正式判断にそのまま使用しない運用か
□ 利用者への説明、問い合わせ窓口、ログ、監査、削除・訂正の手順を決めたか
□ Agentの所有者、アクセス権、定期レビュー、停止・廃止の手順を決めたか

ここまでを一言でまとめると

人事・総務のAIは、問い合わせ窓口だけを作る話ではありません。正しい従業員データ、正しい規程、正しい申請経路、正しい権限を整え、その上で人が必要な対話へ時間を戻す設計です。

人事・総務の3層マッピング

① 標準Copilot
/標準AI支援

製品に組み込まれた支援

• ESS休暇サマリー GA
• Microsoft 365 Copilot GA
• SharePoint agents(社内規程・FAQ向け) GA
• Copilot in SharePoint Preview

② Microsoft提供Agent

業務特化型のAgent

• Dynamics 365 Human Resources Onboarding agent Preview
• Employee Self-Service agent GA(段階的展開中)
• HR/ITスターター
• 人へのハンドオフ

③ カスタムAgent

Copilot Studio+Power Platform

例)規程・手続き案内Agent
例)総務申請ナビゲーションAgent
例)入退社オーケストレーションAgent
例)社内サービス統合Agent

まとめ

第8回では、人事と総務を一つの製品として扱わず、それぞれの現在地を整理しました。

Dynamics 365 Human Resourcesは、従業員データとHire-to-retireの人事プロセスを支える中核です。

Employee self service leave summaryは休暇情報を確認する時間を短くし、Onboarding agentはTeams上で人事担当者と新入社員の入社手続きをつなごうとしています。

一方、総務には独立したDynamics 365アプリがありません。

SharePointとOneDrive、TeamsとOutlook、Power AppsとPower Automate、Copilot Studioを組み合わせ、規程、文書、申請、承認、問い合わせの流れを設計します。

Employee Self-Service agentは、人事・IT・社内サービスを一つの会話窓口へまとめる可能性を持っています。

ただし、HR Onboarding agentとは別の機能であり、提供状態、ライセンス、容量、接続先、権限、エスカレーションを個別に確認する必要があります。

人事・総務が扱うのは、従業員の個人情報と、会社で働くための重要なルールです。便利さだけでなく、正確性、プライバシー、説明責任、本人による確認を設計に含めます。

そしてAgentが増えた後は、Microsoft Agent 365のようなコントロールプレーンで、Agentの所有者、活動、アクセス、ライフサイクルを管理する視点も必要になります。

この論点は、第10回の経営者・意思決定者編で詳しく取り上げます。

💬 一つ聞いてもいいですか?

あなたの会社では、人事・総務の担当者が、同じ問い合わせに何度答え、同じ情報を何度入力し、

同じ申請の進捗を何度確認していますか?

CopilotやAgentが短くできるのは、その「探す時間」「転記する時間」「進捗を確認する時間」の一部です。

しかし、本当に価値があるのは、その先です。

人事担当者が、手続きの処理だけではなく、社員の成長、配置、働き方、組織づくりについて対話すること。

総務担当者が、問い合わせを受け続けるだけではなく、社員が迷わず働ける環境そのものを改善すること。

人事・総務におけるCopilotとAgentの価値は、単に作業件数を減らすことではありません。従業員に向き合う時間を、組織へ返すことです。

手続きの時間を減らし、人と向き合う時間を増やす。

人事・総務の皆さん、Let’s Enjoy our DX365LIFE!

次回は第9回、SMB(中小企業)ユーザー編です。

少ない人数で、顧客と深く向き合うために、Business CentralとCopilot・Agentの現在地を整理します。

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  • 25年ほど、Microsoft Dynamics 365 【ERP(NAV/AX)+CRM】の導入コンサルティングに従事し、日本を含む34か国において導入コンサルティングを経験してきました。グローバル環境における“プロジェクト”と“マーケティング”を生業としております。

    最近は、【CRM/MKTG(攻めのDX)⇔ ERP(守りのDX)】+【ローコード】というDX365な活動に奮闘中です。Microsoft Dynamics 365 ビジネスで地球を92周中です。#DX365 #DynamicsIoT

    Microsoftの運営する外部技術者グローバル組織「Microsoft MVP(*日本163名/世界3674名)・ Microsoftのトラスティッドアドバイザーである「Microsoft Regional Director (*日本4名/世界167名)」として、複数のITコミュニティーにて活動中。(*2026/08/08時点)

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