Business Central V29—AIエージェント・SOAP廃止・Expense Agentまで一気に整理

こんばんは。室長こと、吉島良平(Microsoft MVP for Business ApplicationsMicrosoft Regional Director)です。

ネパールとチベットの国境を襲った大規模な土石流—。
多くの命が失われた今回の惨事に、心からお悔やみを申し上げます。
亡くなられた皆さまのご冥福をお祈りするとともに、今なお行方が分からない方々の一刻も早い救助を願っています。

環太平洋を中心に大規模な地震が続いていることも、気がかりでなりません。
「火の輪」とも呼ばれるこの地域では、プレートの活動が活発化しており、いつどこで大きな揺れが起きてもおかしくない状況が続いています。
日本も例外ではありません。

先日(8月28日)、政府の地震調査委員会が近畿地方の直下型地震の発生確率を公表しました
今後30年以内にM6.8以上の地震が発生する確率は50〜60%。
大阪・神戸・京都を含む「近畿三角帯」では最大60%とされ、六甲・淡路島断層帯の名前も出てきます。

私は阪神大震災を経験しています。
当時は三ノ宮のSOGOの裏に住んでいて、翌日がテストで徹夜していました。
朝5時46分—最初は落雷だと思いました。
それくらい、音が凄まじかった。
人生で最大の恐怖を感じた瞬間でした。

揺れが収まってから近所を見ると、マンションのドアが変形して開かなくなっている方が何人もいました。
近くに住む知人たちと声をかけ合い、ドアをこじ開けて、ご年配の方々を近くの小学校へ避難させました。
西宮北口まで歩いていると、全く知らない方が「にぃーちゃん、水とかあるか?」と声をかけてくださいました。
その方は東灘でお父さんが生き埋めになっていて、掘りに行くところだと言っていました。
あんな状況で、他人をケアする余裕がある—なぜか涙が止まらなくなりました。

六甲・淡路島断層帯に「まだずれる可能性がある」と専門家が言葉にするとき、やはり他人事では読めません。
あの街が、また揺れるかもしれない。

国内でも、8月29日から福井県を中心に線状降水帯による記録的な大雨が続き、3市に大雨特別警報(レベル5)が発令されました。
9つの河川が氾濫し、道路の冠水や避難指示が広い範囲で発令されています。
被災された皆さまの安全と、一日も早い復旧を心よりお祈りしております。

一方こういう災害時においても、受注は入り、請求書は処理され、経費精算は溜まっていきます。
業務を支えるシステムも、進化を止めません。
本稿では、BC V29のアップデートを整理していきます。


Wave 2の発表はなかった。でもBC V29は来た

以前の記事(「年2回の祭り」が終わる—Dynamics 365 Waveの廃止)でお伝えしたとおり、今年からDynamics 365のリリースウェーブ通信が廃止されます。
2026 Wave 2という「発表文書」はありません。
しかし、製品のアップデート自体はこれまでどおりのスケジュールで届きます。

Business Central V29は2026年10月に一般提供(GA)開始予定です。
Early Access Previewはすでに2026年8月14日から利用可能になっており、テナントへの先行適用が始まっています。

📣 Early Access Preview バージョン情報(2026年8月14日時点)

Platform 29.0.53497.0 / Application 29.0.53512.0(2026年8月14日時点。Build番号は更新により変動します)

V29は大きく以下のテーマで構成されています。
順に整理していきます。

  • AIエージェントの深化とMCP Server
  • B2B注文処理の自動化拡大
  • Microsoft UI PagesのSOAP公開機能削除
  • Expense Agentとそのアーキテクチャ
  • Eインボイシング・ガバナンス・Shopify・財務機能


AIエージェントの深化とMCP Server

V29のAIエージェントを理解するには、V28で何が起きたかを振り返る必要があります。

V28では、BCに4つのAIエージェントが標準搭載されました(D365 BC V28 GAの記事はこちら)。
支払処理を担うPayables Agent、受注業務を支援するSales Order Agent、経費精算を自動化するExpense Agent、そして自社業務に合わせたカスタムエージェントを構築するためのAgent Designerです。

これらはすべて「Human-in-the-loop(人間が最終判断)」の設計思想で動きます。
エージェントが処理を進めながら、重要な判断ポイントでは必ず人間に確認を求める—という構造です。
「AIが勝手に動く」のではなく、「AIが準備して人間が承認する」モデルです。

V29では、このV28で導入されたエージェント群がより深い自律性と範囲を持つよう拡張されます。
Payables AgentとSales Order Agentがエンドツーエンドの処理をより少ない手動レビューで完結できるよう改善され、AIが担える「工程の幅」が広がります。

MCP Serverで「外からBCを呼び出す」時代へ

V29のもうひとつの大きな変化が、Business Central向けMCPサーバーの提供です。

🔗 Business Central MCP Server

https://mcp.businesscentral.dynamics.com

Model Context Protocol(MCP)経由でBC上のデータをAIツールやワークフローから参照・操作できます。既定ではread-onlyです。作成・更新・削除・業務アクションは管理者がAPIごとの権限を構成した場合に利用できます。

MCP(Model Context Protocol)は、AIモデルが外部ツールやデータソースと標準化された方法でやり取りするためのプロトコルです。
BCにMCPサーバーが用意されることで、外部のAIエージェントやM365 Copilot Chatなどから、BCのデータを自然言語で照会したり、業務処理を起動したりすることが可能になります。

これまでBCとの連携は「BC内部からCopilotを呼び出す」方向が主流でした。
MCPサーバーによって「外部AIからBCを呼び出す」方向が標準化されます。
エージェント時代のERP連携の新しい在り方です。


B2B注文処理の自動化拡大

V28のSales Order Agentは、顧客からのメールを起点とした受注処理の自動化に焦点を当てています。
顧客からのメールを受け取り、発注内容を読み取り、BCの販売注文を自動生成する—という流れです。
V29ではこのエージェントがさらに成熟し、より少ない手動レビューでエンドツーエンドの受注処理が完結できるよう強化されます。

また、BCのB2B注文処理に関連する機能として、Shopify ConnectorにおけるB2Bシナリオへの対応拡張も進んでいます。
以下に、それぞれの機能を整理します。

機能 処理方式 V29での状況
Sales Order Agent 顧客メールを起点に受注処理を自動化 V29でさらに強化。複数Agent同時稼働、スマートなアイテムマッチング、セットアップ改善などが進む
Shopify Connector(B2B) Shopify B2B Company SyncやB2B Order Processing Shopify ConnectorでのB2Bシナリオ対応が拡張。企業向け専用価格・与信・受注フローをBCと連携できる

製造業・卸売業・小売業など、B2B取引が多い業種にとって、Sales Order Agentによる受注処理の自動化は工数削減に直結します。
特に「受注担当者がメールを確認してBCに手入力する」という作業が残っている企業では、その恩恵を受けやすいはずです。

ShopifyでB2B注文を受けてBCで処理・在庫管理・会計まで行うフローが整備されつつあります。
B2C向けのShopify連携はすでに実績がありますが、B2B側のシナリオも着実に広がっています。


Microsoft UI PagesのSOAP公開機能削除(管理者は今すぐ確認を)

V29で最も注意が必要な変更がこれです。
影響範囲によっては、V29適用前に緊急対応が必要になるケースもあります。

⚠️ 破壊的変更(BC V29・2026年10月GA)

Business Central V29では、MicrosoftのUI標準ページ(Microsoft UI Pages)をSOAPウェブサービスとして公開する機能が永続的に削除されます。
SOAP Web Service全体については、V29以前より非推奨(Deprecated)扱いとなっており、将来的な削除が別途予告されています。

まず「SOAP」とは何かを簡単に整理します。
SOAP(Simple Object Access Protocol)は、システム間のデータ連携に使われる古いプロトコルです。
BCでは長年、他システムとのデータ連携手段としてSOAPウェブサービスを公開する機能が提供されてきました。
特にBC(旧Navision / NAV)の時代から連携している基幹システムや、古いバージョンのISVソリューションには、このSOAP接続を使っているケースが少なくありません。

V29で削除されるのは、Microsoft UI PagesをSOAPウェブサービスとして公開する機能です。
この機能を利用している連携については、V29適用後に動作しなくなります。
自社の連携がどの方式で公開されているかを、今のうちに確認してください。

何に移行すべきか

MicrosoftはSOAPからの移行先として、Business Central API(API Pages / Queries)を第一推奨としています。
用途によってOData V4 Web Servicesも利用できます。
Business Central API v1.0はV28(2026年前半リリース)で削除対象となっており、現在はAPI v2.0への移行が推奨されています。
API v2.0ではSystemIdなどGUID(グローバル一意識別子)ベースのキーが採用されており、システム間連携に最適化されています。

比較軸 SOAP(廃止方向) Business Central API / OData V4(移行先)
通信方式 XML over HTTP JSON over HTTPS(RESTful)
認証方式 Basic認証(レガシー) OAuth 2.0 / Microsoft Entra ID
モダンAI連携 非対応 対応(MCPサーバーとの親和性も高い)
BC V29での扱い 完全削除 継続提供・推奨

誰が影響を受けるか

Microsoft UI PagesをSOAP公開している連携が存在する場合、V29適用後に動作しなくなります。
特に以下のようなケースは要確認です。

BC環境が長年稼働していて、Navision・NAV・BC旧バージョンから移行した経緯がある場合、当時構築した連携コードにSOAPが使われていることがあります。
また、パートナー提供のISVソリューション(AppSource製品・カスタム拡張)が内部でSOAPを使っているケースも存在します。
パートナーへの確認が必要です。

今すぐやること

□ BC管理センター → 「Webサービス」ページで公開中のSOAPサービスを確認する
□ 社内・パートナーが構築した連携ソリューションにSOAP利用がないか棚卸しする
□ AppSourceのISVソリューションについて、SOAP利用の有無をベンダーに確認する
□ SOAP公開の連携が見つかった場合、Business Central API / OData V4への移行計画を今すぐ立てる
□ Early Access Preview環境(V29)で先行テストを実施し、影響を事前に把握する

Early Access Previewは今から利用できます。
本番環境への影響を確認するには、今のうちにサンドボックス環境でV29を試しておくことが現実的な対応です。


Expense Agent—AIモデルの選択とそのアーキテクチャ

V28でPublic Previewが始まったExpense Agentは、V29でさらに成熟・拡張されます。
このエージェントはBCに元々なかった「経費精算」という機能領域を、AIを前提とした設計で新たに加えたものです。

Expense Agentとは何か

Expense Agentは、レシートの取り込み・情報抽出・分類・経費明細の作成・経費報告書への集約など、経費精算プロセスの多くをAIが自動化し、担当者の確認・承認までのフローを支援するエージェントです。

ここで重要なのが、このエージェントはBCのユーザーではない人のために設計されているという点です。
既存のBCエージェント(Payables AgentやSales Order Agent)はBC内部で作業するユーザー向けでした。
Expense Agentは違います。

想定されているユーザーは、フィールドワーカー・ドライバー・外出の多い営業担当者・技術者・PCをほとんど使わない現場スタッフなど、BCそのものを使わない人たちです。
彼らが経費精算のためだけにERPを操作しなくてもよい設計になっています。

どこから使えるか

利用方法 対象ユーザー 備考
専用Webアプリ
app.expenses.dynamics.com
BC非ユーザー(現場スタッフ等) Webアプリ・メール・Copilot chatの利用についてはBusiness Centralライセンス不要。スマートフォンからレシートを撮影・送信するシナリオを想定
Outlook メールを日常的に使う社員 レシートをメール転送するだけで経費報告書に反映される
M365 Copilot Chat M365 Copilotライセンス保有者 チャット上から経費申請・確認が可能(展開中)
BC画面内 BCユーザー(経理・承認担当者) 経費報告書の確認・承認・転記を担う財務担当者向け

AIモデルは地域によって異なる

Expense Agentが使用するAIモデルは、Business Central環境の地域によって異なります。
米国のBusiness Central環境ではAnthropicのAIモデル(Claude)を使用します。
その他の国・地域ではOpenAI GPTモデルが使用されるため、追加のAIサブプロセッサ設定は不要です。
自社のBCテナントがどの地域で運用されているかによって、必要な管理者設定が変わります。

Expense Agent 利用前の確認事項

① 【米国環境のみ】Microsoft 365管理センターでAnthropicをAIサブプロセッサとして承認する
米国のBusiness Central環境でExpense Agentを利用する場合、M365 Admin Center(設定 → 組織の設定 → AIサービス)でAnthropicをサブプロセッサとして明示的に有効化する必要があります。これはデータがAnthropicの処理基盤を経由することを組織として承認する手続きです。その他の国・地域ではこの設定は不要です。

② Copilot Creditsの消費量を把握する
処理は消費課金型で、レシート1枚あたり50 Copilot Creditsが消費されます。月あたりの経費レシート枚数をもとに試算してから導入を検討することをおすすめします。例えば100人の社員が月に平均5枚のレシートを提出する場合、月25,000 Copilot Creditsが消費されます。

BCに経費精算機能がなかった時代は、別のシステムや紙運用で対応していた企業も多いはずです。
Expense Agentはそこへの直接的な答えです。
ただし「とりあえず有効化してみる」には向いておらず、コスト・ガバナンス・対応言語・対象国・AIサブプロセッサの要否を確認したうえで計画的に導入することが重要です。
V29時点での対応言語・地域の拡張状況は、GAリリース時に改めて確認することをおすすめします。


その他の注目アップデート

Eインボイシング—グローバルコンプライアンスの強化

Business Centralでは、各国・地域の電子インボイス規制に対応するため、E-invoicing機能が継続的に拡張されています。
世界的に電子インボイス義務化の流れが加速するなか、BCのEインボイシングは各国規制に合わせた対応を随時追加しています。
対象国・地域の最新対応状況はGAリリース時にMicrosoft Learnで確認することをおすすめします。

日本国内では現在インボイス制度が導入されていますが、BCのEインボイシング機能は欧州・アジア・中東など海外拠点を持つ企業に特に影響があります。
グローバルに展開する企業においては、各拠点の法令対応状況を確認するよい機会です。

Shopify連携—B2Bシナリオへの対応拡張

Business CentralのShopify Connectorでは、B2B Company SyncやB2B Order Processingへの対応が拡張されています。
これまでB2C(消費者向け)が中心だったShopify連携に、企業間取引のシナリオが加わりました。

Shopify B2B機能を使ってビジネス顧客向けに専用の価格・与信・受注フローを設定している企業にとって、BCとのシームレスな連携は実務上の大きな改善になります。
「ShopifyでB2B注文を受けて、BCで処理して、在庫・会計を管理する」というフローが整備されつつあります。
最新の対応状況はGAリリース時に確認してください。

サプライチェーン・在庫管理の強化

Business Centralでは、サプライチェーン管理と在庫管理領域においても継続的な機能強化が行われています。
製造・物流業の業務フローをより細かくカバーする方向での改善が続いており、V29での具体的な追加機能はGAリリース時に確認することをおすすめします。

ネイティブ財務機能の拡張

BCはもともと中堅・中小企業向けERP製品として財務会計を中心に据えてきました。
Business Centralでは標準財務機能の継続的な強化が行われており、外部アドオンへの依存を減らす方向での改善が続いています。

外部アドオンを減らしてBCをシンプルに保つ—という観点からも、ネイティブ財務機能の拡張は長期的に見てTCO(総保有コスト)削減につながる動きです。


まとめ

「Wave 2の発表」という形式はなくなりました。
しかし、BC V29として届けられるアップデートの量と質は、従来のWaveと変わりません。
むしろ、Expense AgentやMCP Serverのように、AIと連携基盤の両面で一歩踏み込んだ内容が揃っています。

今回のV29で最優先で確認すべきはMicrosoft UI PagesのSOAP公開機能の削除です。
この機能を使っている連携が存在する場合、V29適用後に動作しなくなります。
これだけは「いつかやろう」では間に合いません。
V29のEarly Access Previewはすでに利用可能です。
サンドボックス環境で影響を今のうちに確認しておくことを強くおすすめします。

Expense Agentは、経費精算の現場を大きく変える可能性を持っています。
ただし、AIモデルの地域差異・Anthropicサブプロセッサの承認要否・Copilot Creditsのコスト試算・対応言語の確認という点を先に整理したうえで、小さくPoC(概念実証)から始めることが現実的です。

MCP ServerとSales Order Agentの進化は、BCを「AIエコシステムの中心に置く」という方向性を示しています。
MCP Serverを通じたM365 CopilotやAIエージェントとの連携シナリオが、標準機能として現実のものになりつつあります。

Wave 2の「お祭り」はなくなりました。
でも、AIエージェント・MCP Server・Expense Agent・B2B注文処理の自動化—V29のアップデートリストを眺めていると、BCが止まっていないどころか、むしろ加速していることが伝わってきます。
発表の形が変わっただけで、製品はしっかり進化し続けています。

世の中には、どれだけ備えても防ぎきれないことがあります。
一方で、準備さえすれば確実に防げることも、確かにある。
できることとできないことを分けて考え、できることだけは必ずやっておく—それが自分なりの答えです。

BCの運用は、後者です。
SOAP廃止の影響確認、Early Access Previewでの先行テスト、API移行計画の策定—これらはすべて、今からできることです。
「まだ時間がある」と思っているうちに、V29のGA(2026年10月)は来ます。
備えていれば、慌てない。
備えていなければ、本番環境で気づく。

難しいニュースが続く夜でも、日常の業務は動き続けます。
その業務を支えるシステムへの備えを、今夜少し進めてみてください。
—今日もLet’s Enjoy our DX365LIFE!

dx365jp
  • dx365jp
  • 25年ほど、Microsoft Dynamics 365 【ERP(NAV/AX)+CRM】の導入コンサルティングに従事し、日本を含む34か国において導入コンサルティングを経験してきました。グローバル環境における“プロジェクト”と“マーケティング”を生業としております。

    最近は、【CRM/MKTG(攻めのDX)⇔ ERP(守りのDX)】+【ローコード】というDX365な活動に奮闘中です。Microsoft Dynamics 365 ビジネスで地球を92周中です。#DX365 #DynamicsIoT

    Microsoftの運営する外部技術者グローバル組織「Microsoft MVP(*日本163名/世界3674名)・ Microsoftのトラスティッドアドバイザーである「Microsoft Regional Director (*日本4名/世界167名)」として、複数のITコミュニティーにて活動中。(*2026/08/08時点)

    プロフィールはこちら→bit.ly/Dynamics365JP