Dynamics 365 Customer Service — 2026年9月時点の現在地と今後の展望

こんばんは。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
“室長”こと、吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。
ソフトバンクが3年連続でパ・リーグ優勝を決めました。9月17日、通算24回目(パ・リーグ優勝22回、1リーグ時代2回)ですか。3年連続?強いですね。
ソフトバンクといえば、国内最大級の通信会社でもあります。あれだけの顧客数を持つ企業のカスタマーサービスをイメージするだけで、「問い合わせ件数」「対応チーム規模」「自動化の必要性」が自然と頭に浮かびます。
同じ週、日銀が追加利上げを決めました。政策金利1.25%。植田総裁が「局面が変化した」と述べた翌日、3メガバンクは普通預金金利を0.5%に引き上げる方向を示しました。住宅ローン、預金、繰り上げ返済—顧客にとっては「自分のお金の話」です。こういう日、銀行のカスタマーサービスも問われます。
業種は違えど、Customer Serviceが求められる場面は同じです。今日はDynamics 365 Customer Serviceの回です。
各製品の現在地を整理するシリーズとして、Business Central、Finance & SCM、Commerce、Project Operations、Salesに続く第6回です。
最後までお付き合いいただけますと幸いです。
注記:本稿の内容は、2026年9月時点で公開されているMicrosoft Learn リリースプランおよびAI at Work Roadmapの情報をもとにした整理および筆者の見解です。機能によって一般提供(GA)・プレビュー・段階的展開・追加設定が必要なものがあります。機能の提供状況、対象地域、ライセンス、前提設定は変更される場合があります。実際の導入にあたっては、対象環境のリリースノート、Microsoft Learn、管理センターの設定をご確認ください。
Dynamics 365 Customer Service — 2026年9月時点の現在地と今後の展望
―2026 release wave 1(2026年4〜9月)における新機能・改善点と今後の方向性―
筆者の見方では、2026年のCustomer Serviceは「AgentとWEMの年」だった
Dynamics 365 Customer ServiceはSalesと同じく、Customer Engagement(CE)系アプリの一員です。ケース(問い合わせ)の管理、ナレッジ記事、SLA、エスカレーション——これらのデータはMicrosoft Dataverseをデータ基盤として動作します。Finance and Operations appsとは異なるアーキテクチャであり、Dataverseを中心に、Microsoft 365やMicrosoft Graphのシグナルを活用できる統合基盤が、今回のAI・Agent統合の基盤となっています。
なお本稿では「Dynamics 365 Customer Service」を対象とします。音声・チャット・SMSなどのオムニチャネル機能を包括する「Dynamics 365 Contact Center」は別製品として次回取り上げます。両者は機能的に重なる部分もありますが、リリースプランでは分けて掲載されています。
2026 release wave 1(4〜9月)のDynamics 365 Customer Serviceを俯瞰すると、2つの軸が目立ちます。一つは、メールの分類・自律解決・次のベストアクション提示といったAIによる担当者支援の深化。もう一つは、Workforce Engagement Management(WEM)における品質評価・ガバナンス機能の大幅な拡充です。
以下、カテゴリ別に整理していきます。
≪Copilot 標準機能の整備≫
担当者が日常的に使う画面での標準Copilot機能として、2026年春にいくつかの機能がGAになりました。
顧客感情インジケーター — ケース対応の優先度判断を支援
2026年4月GAの「View customer sentiment indicators on a case」は、ケースの詳細画面に顧客感情の分析結果(ポジティブ・ニュートラル・ネガティブ)を表示する機能です。問い合わせのテキストや過去のやり取りをAIが分析し、担当者が対応の温度感を把握しやすくします。感情が悪化しているケースを早期に捕捉し、エスカレーション判断を支援することが主な用途です。管理者による有効化が必要です。
ケース解決フローのシミュレーション — 本番前の動作確認を容易に
2026年4月GAの「Simulate case-resolution flows before production」は、ケース解決のAIフロー(ルーティング、分類、推奨アクション)を本番環境に適用する前に、テスト環境でシミュレーションできる機能です。管理者・実装担当者が設定変更の影響を確認できるため、試行錯誤を安全に行えるようになります。
Case Management Agent — シャドウモードで分類精度を事前検証
2026年5月GAの「Use shadow mode for Case Management Agent predictions」は、Case Management Agentの分類予測を本番には反映させず、バックグラウンドで記録・評価するシャドウモードです。AIが「このメールはXカテゴリに分類します」と判断する内容を、実際の処理には影響させずに蓄積し、管理者が精度を確認できます。AIの分類を本番に切り替える前の検証プロセスとして機能します。実際の導入ではシャドウモードで精度を確認し、評価・パイロット運用を経て本番展開するという段階的なアプローチが推奨されます。管理者による設定が必要です。
データ感度ラベル — 機密情報を含むメールを適切に保護
2026年5月1日GAの「Protect sensitive information in emails with data sensitivity labels」は、Microsoft Purviewのデータ感度ラベルをDynamics 365 Customer Service内のメールにも適用する機能です。個人情報・機密情報を含むケースメールを「Confidential」等のラベルで管理し、組織のデータガバナンスポリシーとの整合性を保ちます。コンプライアンス要件のある業界での利用が特に想定されます。管理者・コンプライアンス担当者による設定が必要です。
≪メール分類の自動化 — Case Management Agent≫
Case Management AgentはAIを使って受信メールを分類し、適切なキューや担当者へルーティングするAgentです。2026年Wave 1では、分類の精度と柔軟性を高める機能が順次GAになりました。
定義済みカテゴリによるメール分類 — 自動ルーティングの基盤
2026年4月10日GAの「Classify emails in predefined categories for support automation with Case Management Agent」は、管理者があらかじめ定義したカテゴリ(例:「返品・交換」「技術サポート」「請求に関する問い合わせ」)に従い、受信メールをAIが自動分類する機能です。分類結果に基づいてケースのルーティングや優先度設定を自動化でき、担当者が手動でケースを振り分ける手間を削減します。管理者による設定(カテゴリ定義・有効化)が必要です。
カテゴリとサブカテゴリによる階層分類 — ルーティングの精度向上
2026年8月21日GAの「Classify emails by category and subcategory with Case Management Agent」は、定義済みカテゴリをさらにサブカテゴリで細分化する機能です。「技術サポート」→「モバイルアプリ」「クラウド連携」「設定エラー」といった階層構造で分類することで、より専門性の高い担当チームへの正確なルーティングが可能になります。大規模なサービス組織で複数のサポートチームが専門領域を持つ場合に特に効果を発揮します。管理者による設定が必要です。
≪メールの自律解決 — AIによる顧客問い合わせ対応≫
顧客メールをAIが自律的に解決 — 今回の大きな一歩
2026年6月26日にPublic Previewが開始され、2026年9月のGAが計画されている「Resolve customer emails autonomously with AI」は、今回のWave 1でCustomer Serviceが最も大きく踏み込んだ機能です。受信した顧客メールを担当者が対応する前に、AIがナレッジ記事や過去の解決済みケースを参照して回答・解決を試みます。構成や判定条件に応じて顧客への返信などの処理を進めます。解決できないケースや設定した条件を下回る場合は、担当者側へ引き継ぎます。完全自動での処理か、承認フローを挟む構成にするかは、管理者が設定する自律性の範囲によって変わります。
この機能はDynamics 365 Customer Serviceのナレッジ管理と連動しており、ナレッジ記事の整備状況が解決率に直接影響します。また、自律的な送信を行うため、どの種類の問い合わせにAI解決を適用するか、送信前の確認フローをどう設計するかは、管理者が慎重に設定する必要があります。本番適用においてはパイロット運用から始めることが推奨されます。リリースプランでは2026年9月のGAが示されていますが、実際の提供状態は対象環境の最新情報でご確認ください。
≪次のベストアクション — Customer Intent Agent≫
担当者の次の一手をAgentが提案
2026年8月19日GAの「View next best actions with Customer Intent Agent」は、進行中のケースに対して担当者が次に取るべき行動をAIが提案する機能です。顧客の問い合わせ内容・感情・過去のやり取りをCustomer Intent Agentが分析し、ナレッジ記事の提示、メールのドラフト、ケースノートの更新といった次のベストアクションを担当者の画面に提示します。
Customer Intent Agentは、顧客が何を求めているか(インテント)を理解する上での中核的なAgentです。単なるFAQの検索補助ではなく、ケースの文脈全体を踏まえた行動提案を行う点が特徴です。担当者は提案を参照しながら最終的な判断を行います。管理者による有効化が必要です。
≪担当者の作業統合 — Copilot Cowork と Service Agent in M365 Copilot≫
Copilot Coworkでサービス担当者の業務を一元化
2026年6月16日GAの「Use Copilot Cowork to orchestrate insights and actions for representatives」は、Microsoft 365 CopilotのCowork機能を使って、Dynamics 365 Customer Serviceのケース情報・ナレッジ・アクションを担当者向けに統合するものです。Teams・OutlookといったM365の作業環境から、Copilotに「このケースの状況を教えて」「解決策を提案して」と問いかけることで、Customer Serviceのデータに基づいた回答が得られます。対象となるMicrosoft 365 / Dynamics 365のライセンスおよび管理者による統合設定が前提です。また、AIがすべてを自動処理するのではなく、人による確認ポイント(human-in-the-loop)を設計に組み込める構成になっています。
Service Agent in Microsoft 365 Copilot — 担当者向け統合エクスペリエンス
2026年6月30日GAの「Service Agent in Microsoft 365 Copilot」は、Microsoft 365 CopilotのインターフェースからDynamics 365 Customer Serviceのケース管理・知識検索・Agentアシスタント機能にアクセスできるようにするものです。Microsoft 365 Copilot上からDynamics 365 Customer Serviceの情報や機能を活用する統合エクスペリエンスです。Customer Serviceを「置き換える」のではなく、M365 Copilotから必要な情報・機能にアクセスできる間口を広げるものです。管理者による設定が必要で、対応するライセンス体系の確認が必要です。
≪スーパーバイザーのためのWEM — 品質評価とガバナンス≫
Workforce Engagement Management(WEM)は、Dynamics 365 Customer ServiceのSupervisor・Workforce Management領域を支える仕組みで、通話・メール対応の品質評価、録音・録画管理、人員計画・予測などを対象とします。WEMの各機能はCustomer Serviceと連携して動作しますが、ライセンス構成や前提となるモジュールの要件はCustomer Service本体とは別に確認が必要です。2026年Wave 1では、品質評価まわりの機能が特に充実しました。
注:本章の「エージェント」はWEMの文脈で使われる人間のサービス担当者(カスタマーサービス担当者)を指します。これまでの章で取り上げたAI Agentとは別の用語です。
評価基準の整備 — クリティカル設問とサンプリング
2026年4月17日にGAになった「Define critical questions in evaluation criteria」と「Manage evaluation volume using sampling」の2機能は、WEMの品質評価プロセスの土台を整えるものです。クリティカル設問の定義機能では、評価項目の中で「この設問が不合格なら全体評価も不合格とする」という必須基準を設定できます。サンプリング管理機能では、評価対象件数を統計的に適切な割合で絞り込めます。大規模なコンタクトセンターで評価コストを現実的な水準に保ちながら、品質基準を維持するための仕組みです。
メール対応の品質評価 — Quality Evaluation Agent(Preview)
2026年4月17日にPublic Previewが開始された「Evaluate emails with Quality Evaluation Agent」は、メールによるケース対応を自動的に品質評価するAgentです。評価基準に従い、AIが担当者のメール対応を採点し、評価結果を記録します。スーパーバイザーが手動で評価していた負荷を軽減し、より多くの対応に対して一貫した品質チェックを行えるようになります。本機能は2026年9月時点でPublic Previewの段階であり、GAの日程は未定です。
ガバナンス強化 — ポリシーの適用と管理
2026年6月26日GAの「Enforce governance policy」を起点に、7月にかけてガバナンス関連の機能が連続してGAになりました。ガバナンスポリシーの強制適用は、品質評価プロセスにおける一貫したルールの適用を管理者が制御するための機能です。続いて2026年7月3日GAの「Manage policy strictness to enforce governance policies」では、ポリシーの厳格度(自動適用か警告にとどめるか等)を設定できます。同日GAの「Enforce governance policies on email attachments」は、添付ファイルを含むメールにも同じポリシーを適用する拡張です。
評価結果の編集・集計・スコアリング
2026年7月3日GAの「Modify and override submitted evaluations」は、提出済みの品質評価結果を事後に修正・上書きできる機能です。評価者が判断を誤った場合や、担当者からの異議申し立てへの対応が可能になります。同日GAの「Automatically generate evaluation summary from final results」は、評価セッション全体の集計サマリーを自動生成します。さらに2026年7月17日GAの「Enable question-level weighting for quality evaluation scoring」は、評価項目ごとに重みづけを設定し、より精度の高いスコアリングを実現します。
画面録画の管理強化
2026年7月GAの「Enable enhanced screen recording controls for admins」は、担当者の画面録画設定に関する管理者向けの制御機能を拡充します。録画の開始・停止のタイミング、特定の画面の除外設定、録画データの保持ポリシーなどをより細かく制御できます。個人情報保護の観点から録画範囲を適切に制限しながら、品質評価に必要な録画を確保するバランスを管理者が取りやすくなります。
≪スーパーバイザーのためのWEM — 人員計画と需要予測≫
AIクレジット消費量の予測 — コスト見積もりを事前に
2026年5月20日GAの「Estimate AI credits for agents from forecasted demand」は、予測される問い合わせ量に基づいて、AI Agentが消費するAIクレジットの概算を算出する機能です。Dynamics 365 Customer ServiceのAI機能の多くはAIクレジット(キャパシティ)を消費するため、繁忙期・閑散期の需要変動に応じた予算管理が重要です。この機能により、キャパシティ計画を立てる際の費用見積もりを事前に行えます。なお、本機能の利用にはWorkforce ManagementおよびAIベース予測機能の導入が前提となります。
プランニンググループによる人員計画の精度向上
2026年8月にGAになった一連の機能(「Associate forecast scenarios with planning groups」「Create capacity plans for planning groups」「Filter the adherence tracker by planning group」)は、いずれもプランニンググループ単位での人員計画・管理を強化するものです。プランニンググループとは、スキルセット・シフト・チャネルなどで区分された担当者グループです。需要予測シナリオとプランニンググループを紐付けたり、グループ別のキャパシティプランを作成したり、アドヒアランス(勤務計画の順守状況)をグループ単位でフィルタリングできます。複数チームを持つカスタマーサービス組織の運営精度が高まります。
≪今後の展望≫
Wave廃止後のCustomer Serviceに関する公開ロードマップ情報は、2026年9月時点では限定的です。ただ、Wave 1リリースプランに記載されており、執筆時点でPreview中または2026年10月以降のGA予定とされている機能があります。
| 機能 | 状況 | 概要 |
|---|---|---|
| Detect intraday volume spikes with workforce alerts | Preview Aug 2026 GA Oct 2026 |
問い合わせ量が予測を大幅に超えた場合に、スーパーバイザーへ自動アラートを送信する機能。製品障害等による問い合わせ急増への初動対応を支援する |
| Monitor intraday performance against the forecast | Preview Aug 2026 GA Oct 2026 |
当日の実際の問い合わせ量・処理量を予測値と比較し、リアルタイム監視できる機能。スーパーバイザーが日中の人員配置を動的に調整するための判断材料を提供する |
| Review historical quality metrics in a unified dashboard | Preview Sep 2026 GA未定 |
品質評価の履歴データを統合ダッシュボードで確認できる機能。期間別・担当者別・カテゴリ別の品質推移を一画面で把握し、改善施策の立案に役立てる |
Wave廃止後のロードマップ可視性低下はCustomer Serviceでも同様です。ただ、方向性は読み取れます。メールの自律解決・ケース分類・次のベストアクション提示という「担当者の作業を整理・軽減する」AI側と、品質評価・ガバナンス・予測という「スーパーバイザーの管理精度を上げる」WEM側の両輪が、今回のWave 1で着実に強化されました。AI側は「いかに担当者に届く仕事の質を上げるか」であり、WEM側は「いかに組織全体のサービス品質を維持・測定するか」です。この2軸の強化は、カスタマーサービス組織が「規模を保ちながら品質を下げない」という課題に対して、Microsoftが現在進めている方向性の一つと捉えることができます。
Customer Service、今ここにある変化
2026年のDynamics 365 Customer Serviceは、「AIが対応の入口を変える」と「AIが品質管理の目を増やす」という2つの変化が同時に進んだリリースサイクルでした。Case Management AgentによるAIメール分類、Customer Intent Agentによる次のベストアクション提示、そして自律メール解決——担当者の画面に届く問い合わせは、かつてより整理された状態で届くようになっています。一方、WEMの品質評価・ガバナンス機能の大幅な拡充により、スーパーバイザーは担当者の対応品質をより体系的・効率的に評価できるようになりました。
また、もう一つの視点があります。MicrosoftはCustomer Serviceを単体製品として語るだけでなく、Contact Center・Copilot・Customer Insights・Teamsと組み合わせた「サービスプラットフォーム」として語ることが増えています。顧客の意図を捉え(Customer Intent Agent)、ケースを処理し(Case Management Agent)、品質を評価し(Quality Evaluation Agent)、次のタッチポイントでパーソナライズする(Customer Insights)——この流れを一つの基盤で動かすというのが、Microsoftの描くCustomer Serviceの将来像です。本稿で取り上げた機能の多くは、その基盤を構成するピースとして位置付けられます。
ただし、現実的な前提も確認しておく必要があります。自律メール解決はナレッジ記事の整備が前提です。AI分類の精度はカテゴリ定義の質に依存します。どの機能も管理者設定が必要で、本番適用前のシミュレーション・シャドウモード・パイロット運用が推奨されます。技術的な機能が整っても、運用設計とデータ整備が伴わなければその価値は引き出せません。
次回は、Dynamics 365 Contact Centerです。
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