Dynamics 365 Project Operations — 2026年9月時点の現在地と今後の展望

こんばんは。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
“室長”こと、吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。
今日は、マニラ出張の最終日です。
ホテルの部屋に戻ってスーツケースに荷物を詰めながら、これを書いています。明日の夜帰国します。長かったようで、あっという間だった一週間でした。出張後半は疲れもたまって、目もしんどくて、大画面モニターへの恋しさを毎晩感じながら過ごしましたが、それも今夜で終わりです。
それにしても——明日、パシフィックネーションズカップの決勝があるんです。日本 vs フィジー。帰りのフライトと放送がぶつかりそうなので、深夜帰国後にJSportsで見ることになりそうですが、勝っていてほしい。いや、絶対に勝ってほしい。格上のフィジー相手に、いざ下剋上。日本代表への期待を胸に、出張最終日の今日もブログを書きます。
さて。毎年この時期は、Wave2の季節でした。Microsoftがリリース計画を公開し、各アプリの新機能を追いかける、年2回の祭り。今年もその時期ですが、「年2回の祭り」は終わりました。Waveという形式が廃止され、情報はAI at Work ロードマップへ移行しています。
ただ、製品は動き続けています。形式が変わっても、私たちが追うべき「今、何ができるのか」は変わりません。ということで今年も、各アプリの現在地を整理していきます。すでにBusiness Central、Finance & SCM、そしてCommerceは書きました。今日は、Dynamics 365 Project Operationsです。
最後までお付き合いいただけますと幸いです。
注記:本稿の内容は、Dynamics 365 Project Operations(Dataverse 4.168.3456.2 / Finance 10.0.48)時点で公開されている情報をもとにした整理および筆者の見解です。機能によって一般提供(GA)・プレビュー・段階的展開・追加設定が必要なものがあります。デプロイメントタイプ(ERP統合型 / Core)によって提供内容が異なります。機能の提供状況、対象地域、ライセンス、前提設定、対応プラットフォームは変更される場合があります。実際の導入にあたっては、対象環境のリリースノート、Microsoft Learn、機能管理設定、ライセンス条件を必ずご確認ください。
Dynamics 365 Project Operations — 2026年9月 現在地と今後の展望
―Dynamics 365 Project Operations(Dataverse 4.168.3456.2 / Finance 10.0.48、2026年6月GA)における新機能・改善点と今後の方向性―
Project Operationsよ、君は三つの顔を持っている
Dynamics 365 Project Operationsの話をするとき、まず確認しておかなければならないことがあります。「Project Operations」という製品名のもとに、アーキテクチャがまったく異なる複数のデプロイメントタイプが存在するということです。
一つ目は「ERP統合型(Integrated with ERP)」です。Project Operations本体はDataverse上で動作しますが、Finance and Operations apps(Azure SQL)とDual-writeで双方向に連携しています。プロジェクト会計・仕入先請求書照合・財務次元・総勘定元帳への計上など、FO側の財務機能をフル活用できるのが特徴です。会計精度が求められる製造業・建設業・専門サービス業に向いています。
二つ目は「Core」(かつて「Lite」と呼ばれていたデプロイメントモデルが現在の名称)です。Dataverse上で動作し、ERPとの統合は行いません。見積・契約・リソース管理・タイムエントリー・プロフォーマ請求を中心に業務を構成できる軽量なデプロイメントです。Power PlatformやCustomer Engagement appsとの親和性が高く、比較的シンプルなプロジェクトビジネスや段階的な導入に向いています。
三つ目は「ERP内包型(PMA: Project Operations for Manufacturing)」です。これはDynamics AX時代からのProject management and accountingモジュールをそのまま引き継いだものであり、Finance and Operations(Azure SQL)の内部にネイティブで組み込まれています。DataverseもDual-writeも関与しません。上の二つとはアーキテクチャの血筋がまったく異なり、言わばAXのプロジェクトモジュールが「Project Operations」ブランドの傘に入った格好です。製造オーダーと連動したプロジェクト原価管理が求められる製造業向けに位置付けられています。
同じ「Dynamics 365 Project Operations」という製品名でありながら、三つのタイプでアーキテクチャも業務範囲もまったく異なります。新機能の情報を読む際には「この機能はどのデプロイメントタイプで提供されているのか」を意識することが非常に重要です。以下に三つのアーキテクチャを整理します。
| デプロイメント | 動作基盤 | 財務・会計 | 接続方式 |
|---|---|---|---|
| ERP統合型 Integrated with ERP |
Dataverse | Finance & Operations (Azure SQL) |
Dual-write |
| Core 旧 Lite |
Dataverse | なし (プロフォーマ請求まで) |
— |
| ERP内包型 製造オーダー / PMA |
F&O / Azure SQL (ネイティブ) |
Finance & Operations (一体) |
ネイティブ |
※ PMA(Project Operations for Manufacturing)はDynamics AX由来のProject management and accountingモジュールがベース。Finance & Operations上にネイティブで組み込まれており、Dataverseは関与しません。本稿の対象はCore・ERP統合型です。PMAについてはDynamics 365 Finance & SCMのアップデート記事をご参照ください。
※ 本稿で取り上げる複数予算草案・Modern Time Entry Gridは、ERP統合型・Core 両デプロイメントが対象です。ERP統合型特有の機能は後述します。すべての機能が両タイプで共通するわけではありません。
≪プロジェクト予算管理≫
Enable Multiple Project Budget Drafts — 複数の予算草案で「比較」と「検討」を
プロジェクトに対して複数の予算草案(ドラフト)を作成・管理できるようにする機能です。これまでのProject Operationsでは、プロジェクトに対して有効な予算は一つに限られており、代替案を検討したい場合には別ファイルで管理したり、バージョン管理を独自に工夫する必要がありました。今回の機能により、「楽観シナリオ」「中間シナリオ」「保守シナリオ」といった複数の予算案を並行して管理し、比較・検討してから最適な案を承認申請に進めることができるようになります。
プロジェクトマネージャーや提案チームにとっては、見積段階で複数の前提条件(リソースの調達コスト、スコープの広さ、期間の長短など)を試算し、ステークホルダーに選択肢を提示するというプロセスが一般的です。しかしこれまでは、そのプロセスをProject Operations上で完結させる手段がなく、Excelや別途のファイルで代替案を管理しながら、最終的に一案だけをシステムに入力するという二重管理が発生していました。
今回の機能では、複数の予算草案がプロジェクト画面の左ナビゲーションペインから直接アクセスできるようになります。草案ごとに予算の内容を入力・比較し、Budgetタブから各ドラフトを管理でき、権限および草案の状態に応じて承認申請・削除などの操作を行えます。承認に回すのは最終的に選ばれた一案でよく、他の草案は参考として残しておくことができます。
この機能はERP統合型・Core(旧Lite)の両デプロイメントで利用できます。機能管理(Feature management)または管理設定から有効化が必要です。予算管理ドキュメントについては、Microsoft Learn のProject Budget Managementを参照してください。
室長の感想を一言で言えば、「やっと来た」です。プロジェクトの提案フェーズや計画フェーズで複数シナリオを並べて意思決定するというのは、どのプロジェクトビジネスでも普通に行われることです。それがシステムの制約でExcel管理になっていた部分が、ようやく標準機能として整備されました。シンプルに見えて、実務への影響は大きい改善だと思います。
≪タイムエントリー≫
Modern Time Entry Grid がデフォルトに — タイムエントリー体験の刷新
Project Operationsのタイムエントリー画面(Time Entry Grid)において、新しいモダンインターフェース(Modern Time Entry Grid)がデフォルトのUIになります。MicrosoftはModern Time Entry Gridをデフォルトのタイムエントリーインターフェースとして移行を進めており、今回のリリースでその標準化が図られます。また、画面上で列の表示・非表示を切り替えられる機能が追加されており、非表示にした列のデータは保持されたまま、表示だけを切り替えることができます(列の表示/非表示機能については環境・バージョンによりPreview / Early Accessでの提供となる場合があります)。
タイムエントリーは、プロジェクトビジネスにおける実績コストの起点です。コンサルタント・エンジニア・プロジェクトスタッフが日々の作業時間を入力するこの画面は、プロジェクト原価計算・請求・リソース稼働率分析のすべての出発点になります。週に何度も操作する場面だからこそ、UIの使いやすさが現場のデータ品質に直結します。
Modern Time Entry Gridは、週単位のカレンダービューで作業時間を入力できるグリッド型UIです。プロジェクト・タスク・カテゴリを選択して時間を入力していく操作感は、旧来のリスト形式より直感的です。今回「カラムの表示/非表示」が追加されたことで、自分の業務に不要な列を隠してシンプルに使えるようになります。
この機能はERP統合型・Core(旧Lite)の両デプロイメントで利用できます。詳細はModern Time Entry Grid のドキュメントを参照してください。
≪2026年 Wave 1 主要リリース振り返り≫
6月のWhat’s New(Dataverse 4.168.3456.2 / Finance 10.0.48)に含まれる機能は上記の2つですが、2026年4〜9月(Wave 1期間)では、これ以外にも多数の機能がGAになっています。室長が注目した機能をいくつか紹介します。
フィールド実行との連携 — プロジェクトとField Serviceをつなぐ
2026年7月末に二つの機能が同時にGAになりました。一つは「Track real project progress from field execution」——現場でのモバイル実行データをProject Operationsのプロジェクト進捗に反映できるようにする機能です。もう一つは「Create work orders from project tasks」——Project Operationsのプロジェクトタスクから、Dynamics 365 Field ServiceのWork Order(作業指示書)を直接作成できるようにする機能です。
これらの機能は、プロジェクト管理と現場施工・保守の業務が交わる企業に大きな意味を持ちます。設備設置プロジェクト、建設・施工、インフラ保守といった業態では、プロジェクト計画上のタスクと、現場で実際に行われる作業が別のシステムで管理されることが多く、進捗の可視化や実績の反映に工数がかかっていました。Project OperationsとField Serviceを連携させることで、プロジェクトタスクから作業指示書を生成し、Field Service側で実行された作業指示書に紐付く承認済みのタイムエントリーなどを通じてプロジェクト側の実績と整合させる構成が、標準機能として可能になります。
MPPファイルのインポート — 既存プロジェクトをインポート先として選択可能に
2026年8月4日にGAとなった「Import projects in MPP files into existing projects」は、Microsoft Project(MPP形式)のファイルをProject Operationsの既存プロジェクトをインポート先として取り込めるようにする機能です。これまでMPPファイルのインポートは新規プロジェクト作成時に限定されていましたが、今回から既存プロジェクトをインポート先として選択できるようになります。なお、対象プロジェクトの状態や既存WBSの有無など、インポート可否や動作には条件があります。Microsoft Projectからの移行や、外部で作成されたスケジュールをProject Operationsに取り込む運用が、よりフレキシブルに行えるようになります。
タイムエントリーの細かな改善 — 制限値・タイムゾーンの設定が追加
2026年7月24日にGAとなった二つの機能が、タイムエントリーの運用精度を上げます。「Configure maximum daily time entry duration」は、1日あたりの入力可能な最大時間数を管理者が設定できる機能です。たとえば「1日あたり最大12時間」の上限を設定し、入力・変更時に検証する運用ルールをシステムで制御できるようになります。「Enable time-zone-independent behavior in the time entry grid」は、タイムエントリーグリッドの日付・週区切りをタイムゾーンに依存しない形で扱う機能です。グローバルチームで複数タイムゾーンをまたいでタイムエントリーを行う場面で、日付・週区切りの不整合を抑制することができます。
ERP統合型での財務・会計機能の追加(2026年6〜7月GA)
ERP統合型(Integrated with ERP)を使っている環境では、2026年6月に複数の財務・会計機能がGAになりました。主要なものをまとめます。
| 機能名 | GA時期 | 概要 |
|---|---|---|
| Use stocked products on projects | Jun 5, 2026 | 在庫品目をプロジェクトで使用できるようにする。資材調達を伴うプロジェクトで、在庫管理とプロジェクト原価を統合して管理できる |
| Resolve invoice proposal blocked in workflow | Jun 5, 2026 | ワークフローでブロックされた請求書プロポーザルを解除する手段が標準で提供される。承認フローの詰まりを運用でさばけるようになる |
| Enable project resources on general journal entries for modern projects | Jun 15, 2026 | モダンプロジェクト(新形式)の総勘定元帳仕訳にプロジェクトリソースを記録できるようにする。原価の帰属がより詳細に管理できる |
| Post project invoice proposals using multithreaded batch tasks | Jun 15, 2026 | 請求書プロポーザルのバッチ転記をマルチスレッド処理で実行できるようにする。大量処理時のスループット改善を狙ったパフォーマンス改善 |
| Enable flexibility when determining financial dimension defaults | Jun 15, 2026 | 財務次元のデフォルト値を決定する優先順位の設定に柔軟性を持たせる。プロジェクト・コントラクト・リソースなど複数のソースから財務次元を取得する際の設計が整理される |
※ 上記はERP統合型(Integrated with ERP)のみを対象とした機能です。Coreデプロイメントでは提供されません。
≪今後の展望≫
Waveという形式が廃止された2026年8月以降、Dynamics 365アプリの将来機能に関する公開ロードマップ情報は大きく減少しています。Project Operationsについては、執筆時点(2026年9月)でAI at Work Roadmapに公開されている項目は1件のみです。
Waveという大きな枠組みがなくなったことで、「次の半年で何が来るか」という見通しが立てにくくなっているのが正直なところです。ただ、方向性としては明確です。Field ServiceとProject Operationsの連携深化、Copilot・Agentのプロジェクトビジネスへの組み込み、そして今回のロードマップ項目が示すように「機能の発見性と管理性の向上」——これらが2026〜2027年にかけてのProject Operationsの主軸になると見ています。
Project Operationsよ、君はどこに向かっているのか
今回のリリースで新機能として追加されたのは2つです。「複数の予算草案」と「モダンタイムエントリーグリッドのデフォルト化」——地味に見えるかもしれませんが、どちらもプロジェクトビジネスの実務の核心に触れる改善です。
複数予算草案は、提案・計画フェーズの意思決定をシステムで支える機能。モダンタイムエントリーグリッドは、日々の実績入力をより自然に行えるUX改善。そしてWave 1で並行してGAになったフィールド実行連携・MPPインポート・財務処理の改善群は、Project Operationsが対応できるプロジェクト類型の幅を着実に広げています。
Project Operationsは、プロジェクト型ビジネスの「売り」から「実行」「請求」「原価計算」まで、一気通貫でサポートしようとする製品です。本稿の対象であるERP統合型はFO財務との深い連携で会計要件に対応しやすくし、Coreは軽量なDataverse基盤でCEアプリとの親和性を活かす。アーキテクチャが異なる三つのデプロイメントがそれぞれの文脈で着実に進化していることを、今回のリリースは示しています。
プロジェクトビジネスをDynamics 365で支えようとしているパートナーと顧客にとって、Project Operationsの進化の方向性を見届けることは、今後の設計判断に直接役立つはずです。
次回は、Dynamics 365 Salesです。
Let’s Enjoy our DX365LIFE!
