Dynamics 365 Sales — 2026年9月時点の現在地と今後の展望

こんばんは。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
“室長”こと、吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。
マニラ出張から無事帰国しました。深夜JSportsでパシフィックネーションズカップ決勝の録画を観ました。録画だとわかっていても心拍数が上がりますね。録画なのに、泣いてしまいました。下剋上最高。ラグビーボールは最後まで何処に転がるかわかりません。ホント、ビジネスと一緒ですね。そして、人生そのものです。
さて、気持ちを切り替えて。今日はDynamics 365 Salesです。
今年は、年2回のWaveというリリースサイクルが2026年8月に廃止され、製品情報はAI at Work ロードマップへ移行しました。ただ、製品は動き続けています。各アプリの現在地を整理するシリーズとして、Business Central、Finance & SCM、Commerce、Project Operationsに続く第5回です。
最後までお付き合いいただけますと幸いです。
注記:本稿の内容は、2026年9月時点で公開されているMicrosoft Learn リリースプランおよびAI at Work Roadmapの情報をもとにした整理および筆者の見解です。機能によって一般提供(GA)・プレビュー・段階的展開・追加設定が必要なものがあります。機能の提供状況、対象地域、ライセンス、前提設定は変更される場合があります。実際の導入にあたっては、対象環境のリリースノート、Microsoft Learn、管理センターの設定をご確認ください。
Dynamics 365 Sales — 2026年9月時点の現在地と今後の展望
―2026 release wave 1(2026年4〜9月)における新機能・改善点と今後の方向性―
2026年のSalesは「エージェントの年」だった
Dynamics 365 Salesは、Customer Engagement系アプリの一員として、Microsoft Dataverseをデータ基盤とするCRMプラットフォームです。Sales、Customer Service、Field ServiceなどCE系アプリはDataverse上でネイティブに動作し、Finance and Operations appsとは異なるアプリケーション・データ基盤を採用しています。DataverseをハブにMicrosoft Graph・Microsoft Fabric・Copilot Studioなどと連携した統合データ基盤が、今回のWave 1でAI・Agentを深く組み込む上での強みになっています。
2026 release wave 1(4〜9月)のDynamics 365 Salesを一言で表現するなら、「エージェントの年」です。筆者の目で見ると、リリースプランに掲載された機能のほとんどが、何らかのAI・Agentに関連しています。新しい標準Copilot機能の整備、そして3つの主要Agentの拡充——Sales Qualification Agent(リード管理)、Sales Opportunity Agent(商談管理・リスク低減)、Sales Research Agent(営業管理・データ活用)——が今回の主役です。
以下、カテゴリ別に整理していきます。
≪Copilot 標準機能の整備≫
2026年4〜5月にかけて、Sales画面での基本操作をAIで補助する標準Copilot機能がまとめてGAになりました。
スマートグリッド — 自然言語でレコードを検索・フィルター・ソート
「先月クローズしたエンタープライズ案件を金額順に見せて」——そういった問いかけを自然言語でグリッドに入力するだけで、フィルタリングとソートが完了します。「Find, filter, and sort using natural language with smart grid」として2026年4月30日にGAになりました(Public Previewは2025年3月から)。これまでビューの切り替えや高度な検索設定が必要だった操作を、言葉でショートカットできるようになります。管理者がオン・オフを制御できる機能で、組織全体に展開するには管理設定が必要です。
フォームフィルアシスト / スマートペースト — データ入力を効率化
リリースプラン上で2026年4月30日GAとして掲載された「Form fill assist toolbar」と「Smart paste」は、営業担当者の日常的なデータ入力の手間を減らす機能です。フォームフィルアシストツールバーは、Copilotがフォームの空欄を自動補完する候補を提示します。スマートペーストは、メールや会議メモなど外部のテキストをコピーして貼り付けるだけで、関連フィールドへの自動マッピングを行います。「エラーで入力を怒られるまで何を入れればいいかわからない」という体験を、Copilotが補完することで軽減します。なお、Smart pasteについては現行の製品ドキュメントでPreviewとして案内されているケースもあるため、実際の提供状態は対象環境の最新情報でご確認ください。どちらも管理者による有効化が必要な機能です(Public Previewは2025年7月から)。
Visualize with Copilot — 意思決定のためのビジュアライゼーション
2026年4月30日GAの「Visualize with Copilot」は、Sales画面上でCopilotにチャートや視覚的なまとめを生成させる機能です。パイプラインの状況、案件の分布、達成率といったデータをビジュアルで即座に確認でき、マネージャーの週次レビューや担当者の自己モニタリングに活用できます。管理者による有効化が必要です(Public Previewは2025年3月から)。
Copilot デバッグレポート — 管理者の運用を支援
2026年4月11日GAの「Generate debug reports for Copilot in Dynamics 365 Sales」は、Sales向けCopilotの設定や動作をデバッグするためのレポートを生成する機能です。Copilotが期待通りに動作しない場合の原因特定を、管理者が自力で行えるようにします。地味ながら、Copilotを組織展開する上での運用品質を支える機能です。
≪リード管理 — Sales Qualification Agent≫
Sales Qualification Agent(SQA)は、インバウンドリードの評価・調査・アウトリーチを自律的に行うAgentです。マーケティングから流入したリードを担当者に割り当てる前に、Webサイト・社内データ・外部データを参照して調査レポートを生成し、次のアクションを提案します。
アウトリーチメールのパーソナライズ — 返信率の向上へ
2026年7月GAの「Personalize outreach emails generated by Sales Qualification Agent」は、SQAが生成するアウトリーチメールに、リードごとの調査内容(業界トレンド、企業の最新ニュース、担当者の役割など)をもとにしたパーソナライズを加える機能です。汎用的な「はじめまして」メールではなく、受信者の状況に即した内容で自動生成することで、返信率の向上を狙います。生成されたメール内容は担当者が確認・編集してから送信する構成が標準ですが、設定に応じてAgentによる自律的なエンゲージメントも構成できます。実際の動作は環境設定と利用シナリオによって異なります。管理者による設定が必要です。
Sales Home でのリード調査と次のアクション表示
2026年9月GAの「Get lead research and next best actions in Sales Home」は、Salesのホーム画面でSQAによるリード調査サマリーと推奨アクションを直接確認できる機能です。担当者は個々のリードレコードを開かなくても、その日の優先リードとすべき対応をホーム画面から把握できるようになります。管理者による有効化が必要です。
複数のSales Qualification Agentを同一環境にデプロイ
2026年9月GAの「Deploy multiple Sales Qualification Agents in a single environment」は、一つのDynamics 365 Sales環境に複数のSQAインスタンスを展開できるようにする機能です。たとえば、地域別・製品ライン別・顧客セグメント別にSQAの設定を分けたいというニーズに対応します。これまでは1環境に1エージェントの制約があったため、セグメントごとに異なる評価ロジックを持つ運用が難しかった組織には大きな改善です。管理者による設定が必要です。
≪商談加速 — Sales Opportunity Agent≫
Sales Opportunity Agent(2026年Wave 1プランでは「Opportunity Research Agent」という名称でも登場します)は、進行中の商談のリスクを監視し、次のアクションを提案するAgentです。ディールのヘルス状態、失注リスク要因、ステークホルダーとのエンゲージメントギャップなどを分析し、担当者にガイダンスを提供します。2026年Wave 1では、このAgentに関する機能が最も多くリリースされました。
Opportunity Research Agent — 商談の深堀り分析
2026年4月15日GAの「Uncover insights and risks to close more deals with Opportunity Research Agent」は、商談ごとのリスク要因・インサイトを深堀りするAgentです。商談に関する各種シグナルや関連データを分析し、インサイト・リスク要因・ディールガイダンスを整理します。Public Previewは2025年10月から提供されており、GAにより本格展開が可能になりました。管理者による設定が必要です。
デルタファーストガイダンス — 変化点に絞った指示で営業をサポート
2026年7月30日GAの「Stay updated with delta-first guidance in Sales Opportunity Agent」は、前回のエージェントアクション以降に変化した事柄だけを抽出し、担当者に差分ベースのガイダンスを提供します。商談が進むにつれてAgentからの情報量が増えすぎるという課題を、「何が変わったか」だけを伝えるデルタファーストのアプローチで解消します。同日GAの「Chat about sales opportunity agent insights from inside Sales agent」と組み合わせることで、Agentのインサイトに対してチャット形式で追加質問することも可能です。
カスタムリスク基準の追加 — 組織固有の失注シグナルを学習
2026年8月GAの「Ability to add custom risk criteria in Sales Opportunity Agent」は、組織が独自に定義したリスク基準をAgentに組み込める機能です。「特定の役職者が商談に関与していない」「案件開始から90日経過しても次フェーズに進んでいない」といった自社のベストプラクティスを反映させることで、より組織文化に沿ったリスク評価が可能になります。管理者・アナリストによる設定が必要です。
過去の商談パターンを活用したインサイト
2026年9月GAの「Use historical deal patterns to get better insights in Sales Opportunity Agent」は、過去のクローズ済み商談(成約・失注双方)のパターンをAgentが参照し、現在進行中の商談のリスク評価精度を高める機能です。「このフェーズで止まった案件は失注率が高い」「このタイプの顧客企業は検討期間が長い」——そういった過去の成約・失注パターンをAgentが参照し、現在の商談のインサイトやリスク評価に活用します。管理者による設定が必要です。
推奨アクションの実行を効率化 / 管理者向けデプロイ簡素化
2026年9月GAの「Carry out suggested actions faster and more effectively」は、AgentやCopilotが提示した推奨アクション(メール送信、フォローアップの設定など)をより少ない操作で実行できるようにする機能です。「確認→実行」するまでのステップを減らし、担当者の操作負荷を下げます。また2026年6月30日GAの「Accelerate Sales Opportunity Agent deployment with simplified admin configuration」により、管理者によるAgentのデプロイ設定が大幅に簡素化されました。これまで複数の設定画面をたどる必要があった初期設定が、一貫したフローで完結できるようになっています。
≪営業管理・データ活用 — Sales Research Agent≫
Sales Research Agentは、営業オペレーション担当者やマネージャーによるパイプライン分析、傾向把握、ポートフォリオ計画などを支援するAgentです。経営層や事業責任者が営業データをもとに意思決定を行う場面でも活用できます。個々の商談を管理するAgentではなく、営業活動全体をリサーチ・俯瞰するためのAgentとして位置付けられています。
営業管理インサイト / Fabric レイクハウス連携
2026年4月30日GAの「Get sales operations insights in Sales Research Agent」は、Sales Research Agentを活用してパイプラインの健全性・達成予測・リスクポートフォリオを分析するための機能です。同日GAの「Connect Fabric lakehouse data to AI-powered sales research」は、Microsoft Fabricのレイクハウスに蓄積された外部データ(受注履歴、顧客属性、市場データなど)をSales Research Agentの分析に取り込む機能です。CRM内のデータだけでなく、社内の様々な分析データを横断した営業インテリジェンスが可能になります。どちらも管理者・アナリストによる設定が必要で、実運用にはFabric環境との接続設定が前提です。
≪営業担当者の日常業務改善≫
商談のコピー — 繰り返し取引をスムーズに
2026年8月6日GAの「Copy opportunities for repeat deals」は、既存の商談レコードを複製して新しい商談を素早く作成する機能です。同じ顧客への追加販売、類似構成でのリピート取引、テンプレートとなる商談の流用など、営業担当者が「また同じ内容を入力しなければ」と感じていた場面をショートカットします。既存商談のロールアップ情報(製品明細、担当者、顧客情報など)を引き継ぎ、必要な部分だけ修正して使えるのが利点です。自動で有効になる機能です。
会議インテリジェンスで商談データを充実
2026年7月GAの「Enrich opportunity data with AI-powered meeting intelligence」は、Teams会議の文字起こしや要約をもとに、Copilotが商談レコードのフィールドを自動補完・更新する機能です。商談のフォローアップを忘れがちな担当者にとって、会議で確認した情報がそのまま商談レコードに反映されることで、CRMデータの鮮度を保つための手間が大幅に減ります。管理者による有効化が必要です。
シーケンス実行中のメールテンプレート選択を改善
2026年5月30日GAの「Reduce seller friction in Sequences with in-flow email template picker」は、Sequencesの実行フロー中に、その場でメールテンプレートを選択・適用できるようにする機能です。これまでシーケンスのステップでメール送信が来たとき、テンプレートを選ぶには別画面に遷移する必要がありましたが、今回フロー内でインラインに選択できるようになります。自動で有効になる機能です。
Microsoft 365 Copilot との統合 — Sales skills in Cowork
2026年6月15日GAの「Use Dynamics 365 Sales skills in Microsoft 365 Copilot Cowork」は、Microsoft 365 Copilot(Teams・Outlook等)から、Dynamics 365 SalesのデータをCopilotが直接参照・操作できるようにするスキル統合です。たとえばTeamsのチャット画面でCopilotに「この顧客の商談状況を教えて」と聞いたとき、D365 Salesのデータが返ってくるようになります。M365 CopilotとD365 Salesの両ライセンスが必要で、自動で有効になります。
≪今後の展望≫
Wave廃止後のDynamics 365 Salesに関する公開ロードマップ情報は、2026年9月時点では限定的です。AI at Work Roadmapには一部の項目が掲載されていますが、Wave時代のような体系的なリリース計画の公開は行われていません。
ただ、Wave 1のリリースプランに記載されており、執筆時点でまだPreviewまたは10月以降のGA予定とされている機能がいくつかあります。
| 機能 | 状況 | 概要 |
|---|---|---|
| Plan your sales portfolio with Sales Research Agent | Preview Sep 2026 GA Oct 2026 |
Sales Research Agentを使ってポートフォリオ全体の戦略立案・分析を行う機能。市場・顧客セグメント・チャンス領域を整理するマクロ分析が対象 |
| Prioritize hottest leads with next best actions(SQA) | Preview Aug 2026 GA未定 |
SQAが判定したリードのホット度・優先度をもとに、担当者が対応すべきリードを上位から提示する機能 |
| Clone and share Sales Development Agent configuration | Preview Aug 2026 GA未定 |
Sales Development Agentの設定をクローンし、別チームや別セグメントで共有・再利用できる機能 |
| Streamline Quick Campaigns for one-time bulk email outreach | Preview Sep 2026 GA Oct 2026 |
一時的なバルクメール配信のためのQuick Campaigns機能を刷新。配信前の確認ステップを強化し、誤送信リスクを低減する |
Wave廃止後のロードマップ可視性低下という課題はSalesでも同様です。ただ、方向性は読み取れます。Sales Qualification AgentからSales Research Agentまで、「リードの発掘から受注まで」の営業プロセス全域をAgentが支援する構造が整いつつあります。また、M365 Copilot統合が進むことで、Sales担当者がD365 Salesを直接操作する場面と、Teams/Outlookから自然言語でデータにアクセスする場面が並立するようになっていくと見ています。
Sales、今ここにある変化
2026年のDynamics 365 Salesは、機能の量という意味でも、方向性という意味でも、「Agentが営業プロセスに入り込む元年」と呼べるリリースサイクルでした。スマートグリッド・スマートペースト・フォームフィルアシストといった標準Copilotが入力の手間を減らし、Sales Qualification Agentがリードの質評価を自動化し、Sales Opportunity Agentが商談リスクを継続監視し、Sales Research Agentが営業オペレーション全体の分析を支援する——このレイヤー構造が今回でかなり整いました。Microsoftが「Every seller gets a team of agents」と表現するように、リード管理・商談管理・営業分析という従来は複数の人や仕組みが担ってきた役割を、複数のAgentが分担して支援する構造が形になってきています。
一方で、現実的な注意点もあります。今回のAgentはいずれも「管理者による設定が必要」で、ライセンスを持っているだけで自動的に動き始めるものではありません。デプロイには適切な設定、データの整備、そして担当者へのトレーニングが伴います。技術的には整いつつあるAgentが、現場の業務プロセスに本当に根付くかどうかは、導入を支えるパートナーと顧客の取り組み次第です。
次回は、Dynamics 365 Customer Serviceです。
Let’s Enjoy our DX365LIFE!
