CRM×AI|第5回 Dynamics 365 Customer Insights – Journeys × AI — マーケティングをAgentと設計する

おはようございます。室長こと吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。

キリンカップ、日本代表勝ちましたねー。ニュージーランド相手に2-1。とてもいい試合でした。エースが決めると勝てますね。次はリベンジ、ブラジル戦ですか。楽しみです。ワールドカップでいじられた塩貝選手を使ってあげて欲しいですね。

さて、前回はDynamics 365 Customer Insights – Dataを、Golden DataからCustomer 360を組み立てるCustomer Intelligence層として考えました。誰を顧客として統合するのか。どのRelationship、Activity、Measure、Segmentで状態を表すのか。そして、その理解をどの業務やAgentへ渡すのか。Customer 360は一枚の画面ではなく、顧客を理解し続ける運用能力だと整理しました。

しかし、顧客を理解できても、企業の行動が変わらなければ顧客体験は変わりません。点検時期が近いことも、最近の問い合わせで不満が残っていることも、顧客がWebで新しい製品を見ていることも分かっている。それでも、部門ごとに別々のメッセージを送り、同じ日に何度も連絡し、顧客がすでに行動した後も古い案内を続けるなら、Customer 360は「よく見える顧客台帳」で止まります。

今回の主役はDynamics 365 Customer Insights – Journeysです。ただし、メール配信やキャンペーン管理の機能一覧を書くつもりはありません。考えたいのは、Customer 360の顧客理解を、適切なメッセージ、適切なタイミング、適切なチャネル、必要な人への引き継ぎへ変える設計です。そして2026年、Journey Creation AgentとOutreach Optimization Agentが登場したことで、マーケティングの設計と運用を、人とAgentがどう分担するかという問いが現実になりました。

 

CRM×AIシーズン1|顧客を知るから、動けるCRMへ

Customer 360の顧客理解を、顧客接点と業務行動へ変える。

第1回では、CRMが顧客台帳から顧客変革基盤へ進む全体像とAI Native CRM 6層モデルを整理しました。第2回では、Customer Identityが崩れると、AIは優秀でも顧客を間違えることを考えました。第3回では、FabricのMedallionアーキテクチャを使ってGolden Dataをどう育てるかを整理しました。第4回では、Golden DataからCustomer 360を組み立てるCustomer Intelligence層の設計を考えました。今回はさらに進み、その顧客理解を顧客接点と業務行動へ変える仕組みを考えます。

今回を書くにあたって、Agentic Engineering #03「エージェントはデータをどう使うか—CRMとERPのデータモデル」が引き続き基点にあります。AgentがデータをContextとして使う設計論は、JourneyがCustomer 360の理解を顧客接点の行動へ変える今回の議論と直結します。また、第4回で整理したCustomer 360の設計——Unified Profile、Measures、Segments、MCP Server——が、今回のJourneyへ渡すContextと同意評価の前提となります。さらに、マーケティング編|Customer Insights – JourneysのCopilotとAgentで整理したJourney Creation AgentとOutreach Optimization Agentの現在地が、今回のAgent設計判断の直接的な前提になっています。

CRM×AI シーズン1|顧客を知るから、動けるCRMへ
第5回:Dynamics 365 Customer Insights – Journeys × AI — マーケティングをAgentと設計する
本稿
第6回:Dynamics 365 Sales × AI — 商談を動かすAgent
公開予定
第7回:Dynamics 365 Customer Service × AI — 問い合わせを解決するAgentの設計
公開予定
第8回:Dynamics 365 Contact Center × AI — 電話とチャットの向こう側
公開予定
第9回:Dynamics 365 Field Service × AI — 現場に出るAgentの条件
公開予定
総集編 CRMとERPの間に、企業変革がある
公開予定
今回の結論

Customer Insights – Journeysは、配信順序を自動化するだけの仕組みではありません。顧客の状態と出来事を起点に、対象、同意、文脈、タイミング、チャネル、次の業務行動を編成し、結果をCustomer 360へ戻す意思決定ループです。Agentはその設計と最適化を支援しますが、目的、ブランド、例外、公開、停止、結果への責任は人が持ちます。

※ 本稿は2026年9月時点の情報をもとに執筆しています。Journey Creation AgentおよびOutreach Optimization AgentはPreviewであり、提供地域・言語・前提ライセンス・管理者設定は変更になる場合があります。対象環境で最新情報をご確認ください。


Customer 360が整っても、顧客接点は自動では変わらない

AI Native CRMの地図で見るJourney

図1:AI Native CRM 6層モデル
図1:CRM×AIシリーズ共通の地図。本稿では、第1層「顧客接点・Revenue/Serviceプロセス」を担うCustomer Insights – Journeysと、Agentによる設計・最適化支援を読み解く。

第4回までで、Customer Identity、Golden Data、Unified Profile、Measures、Segmentsを積み上げてきました。ここまで来ると、「誰に連絡すべきか」は以前より正確になります。しかし、実際の顧客接点には、もう一段の設計が必要です。

誰を対象にするかだけでは足りません。なぜ連絡するのか。今は連絡してよいのか。どのチャネルが適切か。すでに別の部門が対応していないか。顧客が反応したら何を止め、何を始めるのか。反応がなければ、次に送るのか、人へ戻すのか。この判断を一つの流れとして表したものがJourneyです。

したがって、Journeyは企業が決めたメッセージを顧客へ押し出すベルトコンベアではありません。顧客の状態変化を受け取り、企業側の行動を組み替えるオーケストレーションです。マーケティングの自動化というより、顧客関係の意思決定を実行可能な形へ翻訳する仕組みと考えた方が本質に近いと思います。

図2:Journeyは顧客状態を変える意思決定ループ
図2:Journeyはメッセージの順番ではない。目的、対象またはTrigger、同意、顧客文脈、タイミング、行動、結果を一つの意思決定ループとして設計し、反応を次の顧客理解へ戻す。

Customer Insights – Journeysを「誰・何・いつ」の先まで読む

Customer Insights – Journeysでは、セグメントを起点にするJourneyと、顧客や業務の出来事を起点にするTriggerベースのJourneyを設計できます。メール、SMS、Push通知、カスタムチャネル等を組み合わせ、待機、条件分岐、終了条件、業務レコードの作成などを通じて、顧客接点を編成します。

製品を理解する入口としては、「誰に」「何を」「いつ」が分かりやすいでしょう。しかし、実務設計では、その前後に少なくとも四つの問いが加わります。

問い Customer Insightsで使う主な要素 設計上の意味
何のために Journeyの目的、Goal、終了条件、KPI 顧客に起こしたい良い変化と、企業成果を定義する
誰に/何が起きたら Segment、Trigger、Audience 対象条件と開始条件を分ける
送ってよいか Consent、Purpose、Topic、Channel 対象条件と利用許可を分ける
何を理解して Profile、Relationship、Activity、Measure、直近反応 メッセージと分岐に必要な顧客文脈を選ぶ
いつ・どこで Wait、Quiet Time、Frequency Cap、Time zone、Channel 即時性ではなく顧客にとって適切な時間と頻度を設計する
何をするか Email、SMS、Push、Custom Channel、Record/Task 顧客への連絡だけでなく営業・サービスの行動へ接続する
結果をどう戻すか Journey analytics、Interaction、Outcome、Export 反応、未反応、停止、商談化等を次の理解へ戻す

表1:Journeyは「誰・何・いつ」に、目的、許可、文脈、行動、学習を加えて初めて業務設計になる。


SegmentベースとTriggerベースをどう使い分けるか

SegmentベースのJourneyは、共通条件を満たす顧客集合へ継続的または計画的に働きかける場面に向きます。点検期限が一定期間内に到来する顧客、イベント対象地域の会員、一定期間購入がない顧客などです。対象はCustomer Insights – DataやDataverseの状態に応じて変化します。

TriggerベースのJourneyは、フォーム送信、イベント登録、購入、ケース解決、商談状態の変化など、顧客や業務で何かが起きた瞬間から始めます。ここでは、出来事の速さだけでなく、Triggerへ誰を結び付けるのか、重複イベントをどう扱うのか、同じ顧客が何度参加できるのか、既に目的を達成した顧客をどう終了させるのかが重要です。

観点 Segmentベース Triggerベース
開始 条件を満たす対象者を評価して参加 顧客または業務イベントの発生で参加
代表例 定期案内、更新候補、離反防止、イベント招待 フォーム送信、購入、ケース解決、予約、状態変更
強み 対象の全体像と母集団を管理しやすい 顧客の重要な瞬間へ反応しやすい
主なリスク Refresh前の古いSegment、対象の重複、終了忘れ 誤Trigger、Identity不一致、再入場、イベント順序
確認事項 目的、母集団、更新頻度、有効期間、除外条件 イベント定義、顧客の特定、再入場、終了条件、例外処理

表2:Segmentは「状態」を、Triggerは「出来事」を起点にする。どちらもIdentity、Consent、終了条件が必要である。


同意は最後のチェックではなく、Journeyの設計条件

対象Segmentへ入っていることと、メッセージを送ってよいことは同じではありません。Customer Insights – Journeysでは、メールアドレスや電話番号等のContact Pointを基準に同意を管理し、Compliance Profile、Purpose、Topic、適用モデルを使って、送信可否を評価します。

これは単なる法務チェックではありません。顧客が、どのブランドから、どの目的で、どの話題を、どの宛先とチャネルで受け取ることを望んでいるかを、Journeyへ実装する設計です。同じ人物でも、業務連絡は受け取りたいが販促は不要、メールはよいがSMSは不要、製品情報はよいがイベント案内は不要という選択があり得ます。

AIが魅力的なコンテンツや最適なタイミングを提案しても、利用目的と同意が合わなければ送るべきではありません。Agentへ渡す自由度を高めるほど、変更できない境界を先に決めます。

理解できることと、利用できることを分ける
Customer 360にデータが存在することは、そのデータをすべてのJourneyで利用できることを意味しません。Identity、利用目的、Contact Point、Purpose、Topic、地域、ブランドの境界を、実行時に評価できる形へ落とします。


Journey Creation Agentは何を変えるのか

Journey Creation Agentは、自然言語で目的、対象、期間、チャネル等を説明すると、既存のSegment、Trigger、Content Assetを参照し、Journeyの構造、待機、分岐、チャネルの並びを提案するAI支援機能です。2026年9月時点ではPreviewであり、利用地域、バージョン、権限、AI HubやCopilot容量等の前提を対象環境で確認する必要があります。なお2026年9月時点では日本語非対応、英語のみです。

重要なのは、Agentがマーケティング戦略を代わりに持つわけではないことです。目的が曖昧なら、作られるJourneyも曖昧です。対象SegmentやTriggerの意味が不明なら、正しそうに見える構造でも、顧客と業務の意図がずれます。既存コンテンツが古ければ、古い内容をきれいに並べるだけです。

Journey Creation Agentの価値は、キャンバス操作を短縮することだけではありません。マーケターが頭の中に持っていた目的、開始条件、待機、分岐、終了条件を会話として外へ出し、レビュー可能な構造へ変えることです。Agentが不足情報を問い返し、人が提案を確認・修正してから公開する。この過程そのものが、マーケティング設計を標準化する入口になります。

図3:人・Agent・Journey Runtimeの責任分界
図3:AI/Agentはマーケティングの目的や責任を置き換えない。人が目的・対象・内容・制約を決め、Journey Creation Agentが構造を、Outreach Optimization Agentがタイミングを支援し、Customer Insights – Journeys Runtimeが同意・Quiet Time・頻度上限を適用して実行する。

Outreach Optimization Agentは「いつ送るか」をどう変えるか

Outreach Optimization Agentは、過去のエンゲージメントパターンを分析し、メールの送信タイミングを最適化するJourney Stepです。2026年9月時点ではPreviewです。履歴が十分でない環境ではフォールバックを使い、設定されたQuiet TimeとContact Point Consentを尊重します。

ここでも過大評価は禁物です。現在の中心は、定義されたJourneyの中でメールを送るタイミングを調整することです。顧客の自由記述を理解してブランド戦略を変えるものでも、メッセージ内容の妥当性を保証するものでもありません。最適化したいGoal、対象、終了条件、フォロー回数、コンテンツ品質は人が決めます。

送信時間を最適化することは、単に開封率を上げる話でもありません。不要な時間帯の接触や過剰なフォローを減らし、顧客の生活時間を尊重しながら、必要な情報が届く可能性を高めることです。KPIも、開封やクリックだけでなく、商談化、予約、解決、配信停止、苦情、顧客疲労まで含めて読みます。

領域 Agentが支援すること 人が決めること
目的 目標に沿った構造・タイミングの候補 顧客価値、業務成果、終了条件、優先順位
対象 既存Segment/TriggerをJourneyへ組み込む 誰を含め、誰を除外し、なぜ対象にするか
構造 Step、Wait、Branch、Channelの提案 業務プロセス、例外、人への引き継ぎ
コンテンツ 既存Assetを構造へ割り当てる ブランド、表現、オファー、正確性、最終承認
タイミング 履歴パターンからメール送信時間を最適化 Quiet Time、頻度、期限、地域、リスク許容度
公開・停止 実行状況や結果を判断材料にする 公開、変更、停止、顧客影響への責任

表3:Agentは候補と最適化を担う。目的、許可、ブランド、例外、公開、停止の責任は人が持つ。


Customer 360とJourneyを同期する「三つの時計」

Customer Insights – DataのProfile、Measure、Segmentは更新処理を通じて変化します。Customer Insights – Journeysは、実行時にそれらを読み取り、PersonalizationやConsent評価へ使います。更新途中にJourneyが顧客を処理すると、ProfileやMeasureがまだ書き込まれていない、Segmentの状態とProfileの時点がそろっていない、といった不整合が起こり得ます。

さらに、データが最新でも、顧客にとって不適切な時間なら送るべきではありません。企業の更新時間、Journeyの実行時間、顧客の生活時間は別々に動きます。これが「三つの時計」です。

図4:Customer360とJourneyを同期する三つの時計
図4:Customer Insights – Dataの更新、Journeyの実行、顧客の現地時間は別々の時計で動く。Quiet Time、Refresh Buffer、Frequency Cap、Consentを一つの運用として設計し、完全に更新された顧客文脈を適切な時間と頻度で利用する。

Quiet Timeは、夜間や休日の配信を避けるだけでなく、Customer Insights – Dataの更新ウィンドウを覆うように設定する使い方もできます。ただし、更新時刻は固定の開始時刻だけでなく、処理時間や依存ノードによって変わります。開始前とHydration完了後にBufferを置き、実績を監視しながら調整します。

Frequency Capは複数Journeyにまたがる過剰接触を抑える重要なガードレールです。顧客は社内のキャンペーン単位を知りません。販売、サービス、イベント、会員、ブランドが別々に最適化すると、顧客には「同じ企業から何度も来る」と見えます。チャネル、Purpose、ブランド、地域を横断して、顧客一人の接触量を考える必要があります。


リアルタイムとは「すぐ送る」ことではない

リアルタイムJourneyという言葉から、Triggerが発生したら即座にメッセージを送る姿を想像しがちです。しかし、本当に重要なのは速度ではありません。顧客の状態が変わったとき、正しいIdentityと文脈を使い、許された目的とチャネルで、意味のある時間に行動することです。

例えば、顧客がサービス予約を完了した直後に、同じ予約を促すメールを送れば、システムは速くても体験は遅れています。苦情対応中の顧客へ販促を続ければ、Segmentが正しくても企業としては顧客を理解していません。商談が成立したのにナーチャリングを止めなければ、Journeyの終了条件が業務結果とつながっていません。

リアルタイムの再定義
リアルタイムとは、最短時間で送ることではありません。顧客と業務の変化へ、正しい時点のデータを使って、不要な接触を止め、必要な行動へ切り替えられることです。


自動車業界で考えるService Recovery Journey

自動車業界の一般例で考えます。高価値顧客の車両が長期間入庫しておらず、直近の問い合わせでは不満が残り、コールセンターの接触回数も増えている。Customer Insights – Dataでは、Unified Profile、VehicleとのRelationship、最終入庫日のMeasure、ネガティブなFeedback、要フォローSegmentが作られています。

ここで単純に割引メールを送ると、顧客の不満を無視した販促に見える可能性があります。Journeyの目的は「点検予約を増やす」だけではなく、「未解決の不満を確認し、信頼を回復し、安全な車両利用へつなぐ」と置くべきです。

段階 設計例 人とAgentの役割
目的 信頼回復、未解決問題の確認、安全な入庫、継続関係 人が優先順位とKPIを決める
開始 要フォローSegment、または不満Feedback/Case解決後Trigger Agentは既存条件をJourneyへ組み込む
適格性 商用/取引Purpose、Topic、Contact Point Consentを確認 Runtimeが送信時に評価する
第1行動 担当者へ顧客文脈を要約し、確認Taskを作成 Agentが要約し、人が電話・謝罪・調整を担う
分岐 未解決ならServiceへ引継ぎ、解決後に予約案内 Journeyが状態で分岐し、例外は人へ戻す
タイミング Quiet Time、顧客地域、過去反応を考慮 Optimization Agentは許可範囲でEmail時刻を支援
結果 解決、予約、入庫、未反応、Opt-out、苦情を記録 結果をCI-Dataと次のJourneyへ戻す

表4:Journeyの目的を「配信」ではなく顧客状態の改善に置くと、マーケティング、営業、サービスの役割が一つの流れへつながる。


JourneyからSales、Serviceへ仕事を渡す

Customer Insights – Journeysの価値は、デジタルメッセージだけで閉じません。顧客の反応や条件に応じて、Lead、Opportunity、Case等の業務レコードを作成し、営業・サービス側の人やAgentへ仕事を渡せます。

この接続で重要なのは、レコードを作れることではなく、何を引き継ぐかです。顧客がどのJourneyのどのStepにいたのか。何を見て、何をクリックし、何に反応しなかったのか。どのProfile、Measure、Segmentを根拠に対象となったのか。何を説明し、何を繰り返してはいけないのか。単なる「新規Task」ではなく、次の担当者が顧客との会話を継続できるContextを渡します。

次回のDynamics 365 Salesでは、この接続をさらに進め、マーケティングシグナルを商談の次の行動へどう変えるか、Sales Agentと営業担当者の境界を考えます。


AgentとJourneyで失敗しやすい十の設計

失敗 顧客・業務への影響 見直すこと
目的を「メール送信」にする 顧客状態が変わらなくても成功扱いになる 顧客価値、業務成果、終了条件を定義する
SegmentとConsentを同一視する 対象条件に合うが送信許可のない顧客へ接触する Contact Point、Purpose、Topicを実行時に評価する
Triggerを速さだけで評価する 誤イベント、重複、順序違いで誤ったJourneyが始まる Identity、再入場、冪等性、取消条件を設計する
Agentの提案をそのまま公開する ブランド、例外、法務、業務条件の見落としが残る Preview、レビュー、テスト、承認を必須にする
最適化を開封率だけで見る 顧客疲労や配信停止を無視する Revenue、Retention、苦情、Opt-outまで見る
CI-Data更新中に送る 古いMeasureや空のPersonalizationを使う 更新窓、Hydration、Quiet Time、Bufferを合わせる
Journeyごとに頻度を決める 複数施策が重なり過剰接触になる 企業・ブランド横断のFrequency Capを持つ
顧客の行動後も送信を続ける すでに購入・予約・解決した顧客へ不要な連絡を続ける GoalとExit、Message Expirationを設計する
デジタル接点だけで完結する 謝罪、交渉、複雑な相談が自動化に埋もれる Human HandoffとSales/Service連携を置く
結果をCustomer 360へ戻さない 同じ失敗を次のJourneyで繰り返す Interaction、Outcome、同意変更を学習へ還流する

表5:Agentを追加しても、目的、同意、時間、終了、人への引き継ぎが設計されていなければ顧客体験は改善しない。


マーケティングをAgentと設計する十二の原則

1.配信ではなく顧客状態の変化から始める
「何通送るか」ではなく、顧客と業務をどの良い状態へ変えたいかを定義します。

2.SegmentとTriggerを使い分ける
共通状態に働きかけるのか、重要な出来事へ反応するのかを分けます。

3.対象と利用許可を分ける
条件に合うことと、Purpose・Topic・Channelで連絡できることを別に評価します。

4.Journeyへ必要なContextだけを渡す
Profile、Relationship、Activity、Measureのうち、その判断に必要なものを選びます。

5.GoalとExitを先に決める
目的達成、購入、予約、解決、拒否、期限切れでJourneyを止める条件を定義します。

6.Agentへ目的と制約を渡す
対象、期間、チャネル、ブランド、回数、例外を明示し、曖昧な依頼を避けます。

7.Agentの提案を公開前にレビューする
構造、Content、Wait、Branch、Consent、終了条件を人が確認します。

8.三つの時計を同期する
CI-Data更新、Journey実行、顧客の生活時間をQuiet TimeとBufferで合わせます。

9.頻度をJourney横断で管理する
顧客から見た企業全体の接触量をFrequency Capで制御します。

10.Human Handoffを例外扱いにしない
共感、交渉、謝罪、高影響判断は最初から人の仕事として組み込みます。

11.KPIを顧客価値と経営成果へつなぐ
開封・クリックだけでなく、商談、解決、Retention、信頼、Opt-outを見ます。

12.結果を次のCustomer 360へ戻す
反応、未反応、停止、苦情、成約を次のSegment、Measure、Journeyへ還流します。


読者別に、何が変わるのか

読者 第5回で担う判断
マーケター 目的、対象、Content、チャネル、終了条件を顧客価値から設計し、Agentの提案を承認する。
Customer Insights実装者 Segment/Trigger、Consent、Journey、Quiet Time、Frequency Cap、Analyticsを一つのRuntimeとして設計する。
データエンジニア Profile、Measure、SegmentのFreshness SLAとHydration完了をJourney運用へ共有する。
Sales/Service担当 Journeyから渡されるContextを使い、顧客との会話を途切れさせず、結果を戻す。
AI/Agent設計者 Agentが参照するAsset、権限、Preview条件、Human Review、監査、停止を設計する。
IT企画・アーキテクト CI-Data、CI-Journeys、Dataverse、Sales、Serviceの責任分界と運用Ownerを決める。
CxO 接触量ではなく、Revenue、Retention、顧客の信頼、ブランドリスクへの影響で投資を判断する。

表6:マーケティングをAgentと設計するとは、マーケターだけでなく、データ、業務、AI、経営の責任を接続することである。


Customer Insights – Journeysは、顧客理解を企業の行動へ変える

Customer 360が「顧客を理解し続ける能力」だとすれば、Customer Insights – Journeysは、その理解を顧客接点と社内業務の行動へ変えるオーケストレーションです。

誰を対象にするか。何が起きたら始めるか。送ってよいか。どの文脈を使うか。今送るべきか。どのチャネルで届けるか。どこで人へ戻すか。何が起きたら止めるか。その結果を次のCustomer 360へどう返すか。Journeyは、この一連の判断を実行可能な形へ落とします。

Journey Creation AgentとOutreach Optimization Agentは、その設計と運用を変え始めています。ただし、Agentがマーケティングの目的と責任を引き受けるわけではありません。Agentは人の意図を構造とタイミングへ翻訳し、反復を速くします。人は、顧客価値、ブランド、同意、例外、公開、停止、結果への責任を持ちます。

最初に問うべきこと

あなたの会社のJourneyは、企業が送りたいメッセージを並べた配信フローでしょうか。それとも、顧客の状態と反応に応じて、営業、マーケティング、サービス、Agentの行動を組み替える意思決定ループでしょうか。

次回は、Dynamics 365 Sales × AIへ進みます。Journeyで生まれた顧客シグナルを、商談の優先順位、次の行動、会議、フォローへどう変えるのか。営業担当者を置き換えるのではなく、Sales Agentと人が商談をどう動かすかを考えます。

次回を読む前に

・あなたの会社のJourneyは「配信フロー」か「意思決定ループ」か確認してみてください
・JourneyからSalesやServiceへ渡すContextに何が含まれているか整理してください
・Frequency CapとQuiet Timeを企業横断で設計しているか確認してください


Let’s Enjoy our DX365LIFE!


次回以降:第6回「Dynamics 365 Sales × AI — 商談を動かすAgent」。Journeyで生まれた顧客シグナルを商談の優先順位と次の行動へどう変えるか。Sales AgentとCopilot for Salesが営業担当者とどう仕事を分担するかを考えます。
※Journey Creation AgentとOutreach Optimization AgentはPreviewです(2026年9月時点)。提供地域、言語、バージョン、権限、AI Hub、Copilot容量、ライセンス、前提設定は対象環境で最新情報を確認してください。

dx365jp
  • dx365jp
  • 25年ほど、Microsoft Dynamics 365 【ERP(NAV/AX)+CRM】の導入コンサルティングに従事し、日本を含む34か国において導入コンサルティングを経験してきました。グローバル環境における“プロジェクト”と“マーケティング”を生業としております。

    最近は、【CRM/MKTG(攻めのDX)⇔ ERP(守りのDX)】+【ローコード】というDX365な活動に奮闘中です。Microsoft Dynamics 365 ビジネスで地球を92周中です。#DX365 #DynamicsIoT

    Microsoftの運営する外部技術者グローバル組織「Microsoft MVP(*日本163名/世界3674名)・ Microsoftのトラスティッドアドバイザーである「Microsoft Regional Director (*日本4名/世界167名)」として、複数のITコミュニティーにて活動中。(*2026/08/08時点)

    プロフィールはこちら→bit.ly/Dynamics365JP