エージェントはデータをどう使うか—CRMとERPのデータモデル|連載第3回

こんにちは。室長こと、吉島良平Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。

皆さん、いかがお過ごしでしょうか? 今週末は、ラグビートップリーグの準決勝がありますね。クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(リーグ戦3位)と埼玉パナソニックワイルドナイツ(リーグ戦2位)、コベルコ神戸スティーラーズ(リーグ戦1位)と東京サントリーサンゴリアス(リーグ戦4位)が魂かけて闘いますね。リーグ戦の結果通りになるのか、下剋上があるのでしょうか。会場にはいけないので、JSportsで楽しみたいと思います。

ラグビーの強いチームには共通点があります。ノールックパスができる選手、ノールックでそれをキャッチできる選手、そしてアンストラクチャー(試合が崩れた混乱状態)な状況でも瞬時に正しい判断ができるチームです。なぜそれができるかというと、仲間がどこにいるか、次に何が来るか、フィールド全体の状況を「データとして体に染み込ませている」からです。

エージェントも全く同じです。ノールックパスができるエージェントを作れるかどうかは、どのデータを持っていて、どうアクセスできるかにかかっています。今日は第2回に続く第3回、「エージェントはデータをどう使うか」をお届けします。


Series #03 — Agentic Engineering × Dynamics 365

エージェントはデータをどう使うか

CRMとERPのデータモデルを読み解く——ノールックパスができるエージェントの作り方

2026年5月
第3回
Dynamics 365
Data Model
Microsoft Fabric
Azure

第1回でエージェントの定義と自律性の段階を、第2回でHuman-in-the-Loopの設計原則を整理しました。しかしここまでの議論には、実は大きな前提が隠れています。「エージェントが正しく判断できる」という前提です。エージェントがノールックパスを出せるのは、仲間の位置・スピード・次の動きを把握しているからです。それと同じで、エージェントが自律的に正しい判断をするためには、必要なデータに、必要なタイミングで、正確にアクセスできなければなりません。今回はCRMとERPのデータモデルを整理し、エージェントが「何をデータとして使うのか」「どこにアクセスするのか」「どう設計すれば判断の品質が上がるのか」を考えます。

Data quality

エージェントの判断はデータの品質で決まる

エージェントの自律性がどれだけ高くても、判断の根拠となるデータが間違っていれば、エージェントは自信を持って間違えます。これはラグビーで言えば、フィールドの状況認識が間違ったままノールックパスを出すようなものです。受け取る側がいない場所にパスが飛んでいきます。

エージェントが使うデータには、大きく3つの品質要件があります。

Q1

正確性(Accuracy)

データが現実を正しく反映しているかどうかです。在庫データが実際の在庫と乖離していれば、エージェントが「在庫あり」と判断して受注を自動確定させても、実際には出荷できないという事態が起きます。「データの正」をどこに置くかを設計段階で明確にしておくことが重要です。

Q2

鮮度(Freshness)——リアルタイム経営への道

データがリアルタイムかどうかです。ここは単なる技術的な話ではなく、経営の話です。「月末にまとめてデータを入力する」という運用をしている会社では、エージェントを導入しても意味がありません。月の途中でエージェントが参照するのは先月末のデータであり、今月何が起きているかをエージェントは知ることができません。アンストラクチャーな状況で判断するどころか、試合開始前のスタジアムの写真を見て「今日の試合の状況」を語るようなものです。エージェントの導入はリアルタイム経営への移行を否応なく迫ります。これは技術の問題ではなく、組織と運用の問題です。

Q3

文脈(Context)

数値だけでなく、その数値の背景・意味をエージェントが理解できるかどうかです。「この顧客の売掛残高が高い」というデータは、与信リスクを意味するのか、それとも大口顧客ゆえの正常な状態なのか。数値だけでは判断できません。顧客の属性・取引履歴・与信区分といった文脈データが揃って初めて、エージェントは正確な判断ができます。

CRM — Data model

CRMのデータモデルを読み解く

Dynamics 365 CRMのデータモデルは、「顧客との関係性」を中心に設計されています。エージェントがCRMのデータを使って判断するとき、主に次の3つのレイヤーのデータを参照します。

レイヤー①:マスターデータ(誰と取引しているか)

Account(取引先企業)・Contact(担当者)・Lead(見込み客)がこれにあたります。顧客の基本属性・業種・規模・与信区分・セグメント情報が含まれます。エージェントが「この顧客はVIPか」「新規か既存か」「与信リスクはあるか」を判断する根拠になります。

レイヤー②:アクティビティデータ(何が起きているか)

Email・Phone Call・Meeting・Task・Appointmentがこれにあたります。顧客とのコミュニケーション履歴・最終接触日・商談の進捗状況が含まれます。Sales CopilotがMicrosoft 365(Teams・Outlook)のデータと連携してこのレイヤーを自動的に充実させていくのが、Wave 1の大きな変化のひとつです。

レイヤー③:トランザクションデータ(何が動いたか)

Opportunity(商談)・Quote(見積)・Order(受注)・Invoice(請求)がこれにあたります。商談の金額・フェーズ・確度・見積の内容・受注状況が含まれます。エージェントが「この商談の受注確度はどれくらいか」「見積はすでに送付済みか」「承認フローは必要か」を判断する根拠になります。

CRMデータの弱点

CRMのデータモデルは顧客との関係性の管理には優れていますが、在庫・原価・財務といったトランザクションの深い部分はERPが持っています。エージェントがCRMのデータだけで判断しようとすると、「見積は作れるが原価が正確でない」「受注は確定できるが在庫が確認できない」という状況が起きます。これがCRMとERPのデータ連携が重要になる理由です。

ERP — Data model

ERPのデータモデルを読み解く

Dynamics 365 ERPのデータモデルは、「モノと金の動き」を中心に設計されています。CRMが「顧客との関係性」を扱うのに対し、ERPは「実際に何が・いくらで・どこに・いつ動いたか」という事実を記録します。

レイヤー①:マスターデータ(何を・誰と取引するか)

品目(Item)・サプライヤー(Vendor)・顧客(Customer)・倉庫(Warehouse)・勘定科目(Chart of Accounts)がこれにあたります。品目の標準原価・調達リードタイム・最低発注量、サプライヤーの与信区分・支払条件・取引実績が含まれます。エージェントが「この品目はどのサプライヤーから調達するか」「標準原価はいくらか」「リードタイムは何日か」を判断する根拠になります。

レイヤー②:在庫・原価データ(今どうなっているか)

手持在庫・引当済み在庫・発注残・原価計算結果がこれにあたります。エージェントが見積を生成するとき、または発注を判断するときに最もリアルタイム性が求められるデータです。月末まとめ入力の運用ではエージェントの判断品質が根本から損なわれます。バーチャルテーブルでCRMエージェントがERPのこのレイヤーをリアルタイム参照できる設計が、Wave 1の核心のひとつです。

レイヤー③:トランザクションデータ(何が動いたか)

Purchase Order(発注書)・Sales Order(受注伝票)・Invoice(請求書)・Journal Entry(仕訳)・Bank Transaction(銀行取引)に加えて、製造業では Production Order(製造伝票)、サービス・ディーラー業ではService Order(修理伝票)もこのレイヤーに含まれます。

製造伝票はどの製品を・いつ・何個・どの資材を使って製造したかを記録します。エージェントが「この受注に対して製造を指示するか」「製造中の品目の進捗はどうか」「資材の引当は足りているか」を判断する根拠になります。

修理伝票はどの顧客の・どの資産(車両・機器等)に対して・どんな修理を・どのパーツを使って実施したかを記録します。自動車ディーラーのTASアーキテクチャでは、修理伝票の完了がCRMのアフターサービス案内エージェントのトリガーになります。「修理が完了した顧客に次回点検の案内を自動送付する」「パーツの消耗履歴から次回交換時期をエージェントが予測してアラートを出す」といったシナリオがこのデータを使って実現できます。

製造委託と支給材のデータモデル

製造業でエージェントを設計するとき、見落とされがちだが実装上非常に重要なのが「製造委託」と「支給材」のデータモデルです。

外部の協力工場に製造を委託するケースでは、Dynamics 365で外注発注(Subcontracting Purchase Order)として管理されます。エージェントはこの外注発注のステータス——委託先への指示が出たか、進捗はどうか、入荷予定はいつか——をリアルタイムで監視し、遅延を検知した場合は担当者にアラートを送るという自律実行が可能です。

支給材には大きく2種類があります。

無償支給(Free Issue)

自社の材料を外注先に無償で提供する形です。材料の所有権は自社に残ったまま、外注先が加工・製造を行います。Dynamics 365では「預け在庫」として管理されます。エージェントが預け在庫の残量をリアルタイムで監視し、自動補充指示を出す設計が可能です。ただし無償支給材は自社の在庫として貸借対照表に残るため、ERPの在庫モジュールと会計モジュールが正確に連携していることが前提です。

有償支給(Paid Issue)

自社の材料を外注先に販売し、外注先が製品を製造した後に買い戻す形です。「売る→買い戻す」という二重のトランザクションが発生するため、ERPのデータモデルは無償支給より複雑になります。有償支給の最終的な会計処理は人間が確認するプロセスを残しておくことが現実的です。

ERPデータの強み

ERPのデータモデルは、複式簿記の原則に基づいて設計されています。すべてのトランザクションは借方・貸方が一致し、在庫の動きは受け払い元帳に記録され、原価は正確に計算されます。この「正確性と一貫性」がERPをデータの正(Single Source of Truth)として位置づける理由です。CRMエージェントが見積を作るとき、原価はERPデータを正として参照する——この原則はここから来ています。

監査証跡データ——変更ログと監査ログ

エージェントが自律的に動く世界では、「誰が・いつ・何を・なぜ変えたか」を追跡できる監査証跡データが、データモデルの中で新たに重要な位置を占めます。

Dynamics 365 CRMには監査ログ機能が標準搭載されており、エンティティ・フィールド単位で変更履歴を記録できます。エージェントが商談のステータスを変更した・見積を自動生成した・承認フローをトリガーした——これらすべての操作がログとして残ります。Dynamics 365 ERP(Finance・SCM・Business Central)でも同様に、トランザクションの変更履歴・承認フローの記録・仕訳の修正履歴が監査ログとして保持されます。特にFinanceでは内部統制の観点から、誰が仕訳を入力し・誰が承認し・誰が修正したかの完全な証跡が監査要件として求められます。エージェントが自動生成した仕訳の証跡も同様に記録される設計が必須です。

さらに細粒度のテレメトリデータ——エージェントがどのくらいの頻度で動いているか・処理時間はどれくらいか・どこでエラーが起きているか——はAzure Application Insightsで収集します。Azure FunctionsやAzure Web AppsからApplication Insightsにテレメトリを送信することで、エージェントが呼び出す各処理のレイテンシ・エラー率・スループットをリアルタイムで監視できます。このデータをPower BIで可視化することで、「エージェントの稼働状況ダッシュボード」を実装者・運用者・経営者それぞれに合わせた粒度で提供できます。第2回で触れた「エージェントの閾値を継続的にチューニングする」という運用の、具体的な実装手段がここにあります。

Customer Insights

Customer Insightsが加わると何が変わるか

CRMのデータモデルとERPのデータモデルを整理してきました。しかしここまでの話には、まだ重要なピースが欠けています。「顧客が何をしたか」というデータです。CRMは「顧客との関係性」を、ERPは「モノと金の動き」を記録します。しかしどちらも、「顧客がWebサイトで何を見たか」「どのメールを開封したか」「どのキャンペーンに反応したか」というデジタル行動データは持っていません。これを補うのがDynamics 365 Customer Insightsです。

Customer Insights – Data(CDP)

複数のデータソースを統合して「ひとりの顧客の統一プロファイル」を作るCDP(Customer Data Platform)です。CRMの顧客データ・ERPのトランザクションデータ・Webサイトの行動データ・メール開封履歴・POSデータを統合し、「この顧客は誰で、何を買って、今何に興味があるか」を一つのプロファイルとして管理します。

Customer Insights – Journeys(デジタルマーケティング)

顧客の行動・属性・イベントをトリガーにして、メール・SMS・プッシュ通知・広告といったコミュニケーションを自動的に最適化するデジタルマーケティングのコンポーネントです。エージェントと組み合わさると「個々の顧客の行動にリアルタイムに反応して、最適なメッセージを最適なタイミングで届ける」アプローチが実現します。

たとえばこういうシナリオが実現します。顧客がWebサイトで特定製品のページを複数回閲覧する(行動データ)→ Customer Insights – DataのCDPがこの顧客のプロファイルを更新する → Customer Insights – JourneysのエージェントがこのシグナルをトリガーにCRMの担当営業にアラートを送る → SalesエージェントがCRMの商談データと組み合わせてフォロー提案を自動生成する → 担当者が確認・承認して送付する。この流れはCRM・ERP・Customer Insightsの3つがデータとして連携して初めて動きます。

Microsoft Fabric & Copilot IQ

構造化データと非構造化データ——Microsoft FabricとCopilot IQが開く世界

ここまで話してきたCRM・ERP・Customer Insightsのデータは、すべて「構造化データ」です。しかし実際のビジネスの現場には、構造化されていないデータが大量に存在しています。

→ 過去の商談で交わされたメールのやり取り
→ 修理現場で撮影した車両の損傷写真
→ 製造ラインのカメラ映像
→ 顧客サポートの通話録音
→ 設計図面やCADデータ
→ 契約書・仕様書などのPDFドキュメント

Microsoft Fabricは、構造化・非構造化を問わず、あらゆるデータを一元的に収集・統合・分析するデータ基盤プラットフォームです。SharePointに保存されたドキュメント・Teams上の会話・Azure Blob Storageの画像・動画・音声データまでを、ひとつのデータレイク(OneLake)に統合できます。Microsoft Copilot IQは、このFabricに統合されたデータを、エージェントが自然言語で検索・参照・活用できるようにする仕組みです。

非構造化データの活用シナリオ

01

リード・引き合いへの活用

新規リードが入ってきたとき、エージェントは過去の類似案件のメール履歴・提案書・成約・失注の理由をFabricから検索し、「この案件に最も近い過去の成功事例はこれで、そのときのアプローチはこうだった」という文脈を営業担当者に提示します。

02

受注・見積への活用

見積を作成するとき、エージェントは過去の類似案件の見積書・契約書・特別値引きの承認履歴をFabricから参照し、「この顧客規模・この製品構成では過去にこういう条件で成約している」という実績ベースの見積案を自動生成します。

03

修理伝票への活用(TASアーキテクチャ)

修理受付時にエージェントが過去の修理履歴・整備記録・車両の損傷写真をFabricから参照します。「この車両は2年前に同じ箇所を修理していて、そのときの部品はXXだった」「損傷写真から推定される修理工数はこれくらい」という情報をサービスアドバイザーに提示します。

04

製造への活用

製造ラインのカメラ映像や検査結果の画像データをFabricで管理し、エージェントが品質異常を検知したとき、「過去に同様の異常が発生したのはいつで、原因は何で、どう対処したか」を製造伝票・修理記録から自動検索して担当者に提示します。

Azure — Integration architecture

Azureサービスが支えるデータ統合アーキテクチャ

FabricとCopilot IQでデータを統合する話をしましたが、実際の実装現場では「どうやってデータをFabricに持ってくるか」「エージェントとシステムをどうつなぐか」というインフラ設計が重要になります。

2分のタイムアウト問題とAzure Functions

Dynamics 365 CRMのプラグイン開発をしたことがある方なら必ずぶつかる壁があります。プラグインの実行タイムアウトが2分に制限されているという問題です。重い処理・外部API呼び出し・大量データの処理をプラグイン内に書いてしまうと、タイムアウトエラーで落ちます。この問題の解決策がAzure Functionsです。重い処理・外部システムとの連携・バッチ処理をAzure Functionsに切り出すことで、タイムアウトの制約を回避できます。エージェントが長時間かかる処理をトリガーする場合も同様で、Copilot StudioからAzure Functionsを呼び出す設計が現実的です。

データ連携のAzureサービス群

Azure Logic Apps:Power Automateの「エンタープライズ版」です。Dynamics 365・SAP・Salesforce・Shopify・各種SaaSとのコネクタが豊富に用意されており、ノーコード/ローコードでシステム間のデータ連携フローを構築できます。
Azure Data Factory:大量データのバッチ処理・ETLに特化したサービスです。ERPの会計データをData Warehouseに定期転送したり、E-CommerceプラットフォームのデータをDynamics 365に取り込んだりする用途に使います。
Azure Data Lake Storage(ADLS):構造化・非構造化を問わず大量データを格納するストレージです。ERPのトランザクションデータ・修理写真・製造ラインの映像・ログデータをすべてここに集約し、FabricのOneLakeと連携させます。
Azure Key Vault:APIキー・接続文字列・証明書などの機密情報を安全に管理するサービスです。エージェントが外部サービスを呼び出すときの認証情報をKey Vaultで一元管理します。
Azure Web Apps / API Management:Dynamics 365とE-Commerceプラットフォーム(Shopify・Magento・独自ECサイト等)をつなぐカスタムAPIをホスティングし、セキュリティ・レート制限・モニタリングを一元管理します。
Azure AI Foundry:エンタープライズ向けのAIモデル開発・デプロイ・管理の統合プラットフォームです。修理写真から損傷箇所を推定するカスタム画像認識モデル、過去の商談データから受注確度を予測するモデル、製造ラインの映像から品質異常を検知するモデルをDynamics 365のエージェントからAPIとして呼び出す設計が可能です。

Microsoft Entra ID——すべての認証・認可の基盤

どれだけ優れたエージェントを設計しても、「誰がそのエージェントを動かせるか」「エージェントはどのシステムにアクセスできるか」を正しく管理しなければ、セキュリティリスクになります。これを担うのがMicrosoft Entra ID(旧Azure Active Directory)です。

エージェントのID管理:Copilot Studioで作成したエージェントは、Entra IDのサービスプリンシパルまたはマネージドIDとして登録されます。「エージェントはこのテーブルを読めるが書けない」「このAPIは呼び出せるが削除はできない」という細かい権限設計がEntra IDで実現できます。
条件付きアクセス:承認フローで人間が介在するとき、承認者がどのデバイスから・どのネットワークから・どの認証方法でアクセスするかをEntra IDの条件付きアクセスポリシーで制御できます。多要素認証(MFA)の要求・信頼されたデバイスからのアクセス制限といった設定が、エージェントの承認フローにも適用されます。
シングルサインオン(SSO):CRM・ERP・E-Commerce・Azure Portal・Power BIといった複数のシステムをまたいでエージェントが動く環境では、各システムへの認証をEntra IDのSSOで一元化することで、セキュリティと利便性を両立できます。Key VaultへのアクセスもEntra IDのマネージドIDを使うことで、接続文字列をコードに書かない設計が実現できます。

Agent 365——すべてが統合されたエージェントの世界

ここまで見てきたデータ基盤・Azureサービス群・Entra IDによるセキュリティ——これらが揃った上で動くのが、MicrosoftがAgent 365と呼ぶエージェント群です。

Agent 365とは、Dynamics 365のCRM・ERP・Customer Insightsに組み込まれた業務エージェントの総称です。Wave 1で登場したSales Agent・Customer Service Agent・Finance Agent・Supply Chain Agent・Business Central(Sales Order Agent・Payable Agent・Expense Agent)などが含まれます。これらはCopilot Studioを「指揮台」として複数のエージェントが協調して動くマルチエージェントアーキテクチャとして設計されています。

ラグビーで例えると

Agent 365はフィールドに立つ選手たちです。Fabricとデータ基盤がフィールド全体の状況認識、Entra IDがチームの規律とルール、Azure FunctionsやLogic Appsがチームのコミュニケーションとパスのルート、そしてCopilot Studioが監督です。すべてが揃って初めて、アンストラクチャーな状況でもノールックパスができるチームが完成します。

CRM・ERP・E-Commerceをまたぐ統合アーキテクチャの具体的な姿——顧客がECサイトで注文する → Logic AppsがDynamics 365の受注伝票を自動生成 → ERPのエージェントが在庫確認・与信チェックを実行 → 出荷完了後、CRMエージェントが顧客にフォロー連絡を自動送付 → 顧客の購買行動データがADLS経由でFabricに蓄積され、Customer Insightsのプロファイルが更新される → 次回の購買タイミングをエージェントが予測し、パーソナライズされたアプローチを営業担当者に提案する。インフラ側のエンジニアにとっては、「Dynamics 365のプロジェクト」が「Azureフル活用のアーキテクチャ設計」と不可分になる時代が来ているということです。

Summary

まとめ

今回はエージェントがデータをどう使うかをテーマに、CRM・ERPのデータモデル、Customer Insightsによるデータ統合、FabricとCopilot IQが開く非構造化データの世界、監査証跡・Application Insights・Entra ID、そしてAzureサービス群が支えるインフラアーキテクチャまで見てきました。改めて整理するとこうなります。

エージェントの判断品質はデータの品質で決まります。正確性・鮮度・文脈の3つが揃わなければ、エージェントはアンストラクチャーな状況でノールックパスを出せません
「月末にまとめてデータを入力する」運用ではエージェントは機能しません。エージェントの導入はリアルタイム経営への移行を否応なく迫ります。これは技術の問題ではなく、組織と運用の問題です
CRMは「顧客との関係性」、ERPは「モノと金の動き」を持ちます。製造伝票・修理伝票・製造委託(無償支給・有償支給)まで含めたERPのデータモデルを正確に設計することが、エージェントが製造・サービスプロセスをまたいで動くための前提条件です
エージェントの操作はすべて監査ログに記録される設計が必須です。Azure Application InsightsとPower BIによる可視化が、閾値の継続的なチューニングを支えます
Microsoft FabricとCopilot IQにより、構造化データだけでなく過去のメール・修理写真・製造映像・契約書といった非構造化データまでをエージェントの判断に組み込めるようになります
Entra IDがすべての認証・認可の基盤となり、Azure Functions・Logic Apps・Data Factory・ADLS・Key Vault・Web Apps・AI FoundryがCRM・ERP・E-Commerceをまたぐ統合アーキテクチャを支えます。Agent 365はこのすべての上で動く「企業の知的労働の実行層」です

このシリーズの構成

3

エージェントはデータをどう使うか——CRMとERPのデータモデル ← 本記事

CRM:顧客データERP:仮想テーブル
4

エージェントを組み立てる——Copilot Studioで何ができて何ができないか

CRM連携ERP連携
5

エージェントを信頼できるか——ログ・監査・コンプライアンスの設計

CRM:通信ログERP:会計監査
6

CRMとERPをまたぐエージェント——統合設計の全体像

CRM + ERP 統合
7

これからのDynamics 365エンジニアに何が求められるか

CRMエンジニアERPエンジニア

次回は「エージェントを組み立てる」をテーマに、Copilot Studioで何ができて何ができないかを掘り下げます。設計思想・できること・できないこと・CRMとERP連携の実装パターンを具体的に見ていきます。

あ、朝が来ちゃった。以上、いつもの室長でした。

dx365jp
  • dx365jp
  • 24年ほど、Microsoft Dynamics ERP(NAV/AX)+CRMの導入コンサルティングに従事し、日本を含む34か国において導入コンサルティングを経験してきました。グローバル環境における“プロジェクト”と“マーケティング”を生業としております。

    最近は、【CRM/MKTG(攻めのDX)⇔ ERP(守りのDX)】+【ローコード】というDX365な活動に奮闘中です。Microsoft Dynamics 365 ビジネスで地球を90周中です。#DX365 #DynamicsIoT

    Microsoftの運営する外部技術者グローバル組織「Microsoft MVP(*日本165名/世界3023名)・ Microsoftのトラスティッドアドバイザーである「Microsoft Regional Director (*日本4名/世界189名)」として、複数のITコミュニティーにて活動中。(*2022/07/06時点)

    プロフィールはこちら→bit.ly/Dynamics365JP