エージェントを組み立てる—Copilot Studioで何ができて何ができないか|第4回

おはようございます。室長こと、吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。

皆さん、いかがお過ごしでしょうか? スポーツが熱い季節が続いていますね。

サッカーは来年のワールドカップに向けて各国の代表争いが激しくなっています。日本代表も世界を驚かせる存在になってきましたし、欧州トップリーグで活躍する日本人選手の数も本当に増えました。少し前まで「日本人がプレミアリーグで?」と思っていたのが嘘のようです。

ラグビーも来年はワールドカップがあります。前回のフランス大会での日本代表の戦いを振り返ると悔しさもありますが、世界と互角に戦える力がついてきたことは間違いありません。来年のオーストラリア大会、どこまで行けるか今から楽しみです。個人的には準決勝まで行ってほしいですね。

メジャーリーグも日々ドラマがあります。大谷翔平選手はもはや説明不要ですが、彼の登場によって日本人のベースボールIQが格段に上がった気がします。投打の数字だけでなく、試合の中での判断・走塁・守備まで解説できるファンが増えましたよね。それだけ野球が深く見られるようになったということで、スポーツの普及という意味でも大きな貢献だと思います。

そしてアメリカンフットボール。先日の2026年NFLドラフトでは、ハワイ大学のキッカー・松澤寛政選手が日本人初のNFL指名を目指してグリーンルームで待ち続けました。残念ながら指名はならなかったものの、ドラフト外新人としてラスベガス・レイダーズと契約を果たしました。千葉出身でもともとサッカー選手だった彼が、YouTubeで独学でキック技術を磨き、単身渡米してNFLの扉をこじ開けた——そのストーリーは本当に胸が熱くなります。「トーキョー・トー(Tokyo Toe)」というニックネームも最高ですね。これからのご活躍を心から応援しています。

さて、こうしてスポーツを見ていていつも思うのは、「個の能力」と「チームの設計」のどちらが欠けても勝てないということです。松澤選手の足の能力がいくら高くても、チームの戦術の中でどう組み込まれるかが問われます。エージェントも全く同じで、優れたAIモデルがあっても、それを「どう組み立てるか」の設計がなければ業務で機能しません。

今日は第3回に続く第4回、「エージェントを組み立てる——Copilot Studioで何ができて何ができないか」をお届けします。最近、提案活動に関わる事が多かったので、纏めておいた備忘録を整理しておきたいと思います。


Series #04 — Agentic Engineering × Dynamics 365

エージェントを組み立てる

Copilot Studioで何ができて何ができないか——司令塔の設計思想を理解する

2026年5月
第4回
Dynamics 365
Copilot Studio
名寄せ
Azure

ここで重要なのは、「何ができるか」だけではありません。むしろ、「どこに制約があるのか」を理解することの方が、本質的です。

 

エージェントは万能ではありません。与えられたコンテキストの範囲でしか判断できず、また設計された範囲を超えて行動することもできません。

 

つまり、Copilot Studioは「エージェントを構築するツール」であると同時に、「どこまでをエージェントに任せるかを決める設計の場」でもあります。

 

何ができるかではなく、「どこまで任せるか」

 

ここに、設計者の責任が発生します。

 

第1回でエージェントの定義と自律性の段階を、第2回でHuman-in-the-Loopの設計原則を、第3回でエージェントが使うデータの設計を整理してきました。ここまでで「何をするエージェントを作るか」「どこに人間を置くか」「どのデータを使うか」が揃いました。次の問いは「では、実際にどうやって作るか」です。Dynamics 365のエージェントを組み立てる主役はCopilot Studioです。しかしCopilot Studioは「何でもできるツール」ではありません。できることとできないことを正確に理解した上で設計しないと、「作ってみたら思っていたものと違う」「本番で動かない」という事態に陥ります。今回はCopilot Studioの設計思想・できること・できないこと・名寄せの落とし穴・CRMとERP連携の実装パターンを具体的に見ていきます。

Design philosophy

Copilot Studioとは何か——設計思想を理解する

Copilot Studioは、MicrosoftがPower Virtual Agentsを進化させた形で2023年に登場したエージェント開発プラットフォームです。「プロコードなしでエージェントを作れる」というローコード/ノーコードの思想を持ちながら、必要に応じてAzure FunctionsやカスタムAPIとの連携でプロコードの世界にも接続できるという設計になっています。

重要なのは、Copilot Studioは「チャットボットを作るツール」から「業務エージェントを組み立てる指揮台」へと進化しているという点です。2026 wave 1以降のCopilot Studioは、単なる会話フローの設計ツールではなく、複数のエージェントを組み合わせてマルチエージェントアーキテクチャを構成する「オーケストレーター」としての役割を担っています。

スポーツで例えると

Copilot Studioは試合の流れを作る司令塔の役割を担います。野球で言えばキャッチャー、サッカーで言えばミッドフィルダー、ラグビーで言えばフライハーフ、アメリカンフットボールで言えばクォーターバックのように、フィールド全体を見渡しながら、個々の選手(エージェント)に役割を割り当て、プレイの流れを組み立てています。
ただしこの構造において司令塔は一つではありません。エージェント同士の動きをリアルタイムに統率し、実行を成立させる司令塔がCopilot Studioである一方で、最終的な意思決定を担う司令塔は依然として人間側にあります。つまり、Copilot Studioは「人間の指示を受けて動くツール」ではなく、人間の判断とエージェントの実行の間に立ち、全体を統率するもう一つの司令塔として機能しています。

Copilot Studioの設計は大きく3つのレイヤーで考えます。

L1

知識(Knowledge)——エージェントは何を知っているか

エージェントが参照する情報源を定義します。SharePointのドキュメント・Webサイト・ナレッジベース・Dataverseのデータ・カスタムデータソースを「知識」として設定することで、エージェントはこれらを参照しながら回答・判断を行います。第3回で整理したFabricやDataverseのデータモデルの知識が、ここで活きてきます。

L2

アクション(Actions)——エージェントは何ができるか

エージェントが実行できる操作を定義します。Power Automateフローの呼び出し・Dynamics 365のエンティティの読み書き・Azure Functionsの呼び出し・外部APIへのHTTPリクエストがこれにあたります。「知識」を参照して判断し、「アクション」を実行する。この組み合わせがエージェントの自律実行の核心です。

L3

トピック(Topics)——エージェントはどう動くか

会話の流れ・分岐条件・エスカレーションのルールを定義します。「この条件が満たされたらこのアクションを実行する」「この状況になったら人間にエスカレーションする」という第2回で設計したHuman-in-the-Loopの介在ポイントが、ここで実装されます。

What Copilot Studio can do

Copilot Studioでできること

Copilot Studioが「できること」を正確に理解しておくことが、設計の失敗を防ぐ第一歩です。大きく5つに整理します。

①Dynamics 365との直接連携——CRMとERPからデータを取る具体例

Copilot StudioはDataverseと直接統合されており、Dynamics 365のCRMエンティティをノーコードで読み書きできます。2026 wave 1以降はERPのバーチャルテーブルへのアクセスも標準化されており、CRMとERPをまたいだデータアクセスがCopilot Studio上で設計できます。

CRMからデータを取る例:

商談の受注確度を参照して次のアクションを決定する:Dynamics 365 SalesのOpportunityエンティティから受注確度・金額・フェーズ・最終更新日を取得し、「7日間更新なし かつ 金額500万円以上」という条件を満たした商談を検知してフォローアクションを自律実行する
顧客のクレーム履歴を参照して対応を変える:Customer ServiceのCase履歴を参照し、過去6ヶ月以内にクレームがある顧客への見積送付時は自動で担当マネージャーへのレビュー依頼をトリガーする
Customer Insightsのセグメントを参照してメッセージをパーソナライズする:Customer Insights – DataのプロファイルからセグメントタグとWeb行動スコアを取得し、「競合製品のページを複数回閲覧している顧客」に対してエージェントが差別化提案を自動生成する

ERPからデータを取る例(バーチャルテーブル経由):

リアルタイム在庫を参照して見積に反映する:SCMの手持在庫・引当済み在庫・発注残をバーチャルテーブル経由でリアルタイム取得し、CRMエージェントが見積を生成する時点で「在庫あり・〇〇日後に納品可能」という情報を自動反映する
実原価を参照して値引き限界を自動判定する:FinanceまたはSCMの標準原価・実際原価をバーチャルテーブル経由で取得し、見積の値引き率が原価を下回らないようエージェントが自動チェックする
与信残高を参照して受注可否を判断する:Financeの与信限度額・現在の売掛残高・与信超過状況をリアルタイム参照し、受注確定前にエージェントが与信チェックを自動実行する。与信超過の場合は受注を自動保留し財務担当者に通知する
修理伝票の完了ステータスを参照してアフターフォローをトリガーする:SCMまたはBusiness CentralのService Order(修理伝票)の完了フラグをバーチャルテーブル経由で監視し、完了と同時にCRMエージェントが顧客への完了通知・次回点検案内・満足度アンケートを自動送付する
Business CentralのPayable Agentの処理結果をCRMに返す:Business CentralのPayable Agentが請求書の照合・承認を完了した時点で、CRMの関連商談・顧客レコードに支払完了ステータスを自動反映する。営業担当者はCRMを見るだけで入金状況を確認できる

①-補足:名寄せ——エージェント設計の隠れた最重要テーマ

CRMとERPからデータを取る話をしてきましたが、その前提として「取るデータが正しいか」という問いがあります。エージェントがどれだけ優れた判断ロジックを持っていても、名寄せが甘い状態では「同じ顧客が3つのレコードに分かれていて、エージェントが別々の顧客として処理する」という事態が起きます。これはラグビーで言えば、味方選手の位置情報が間違ったままノールックパスを出すようなものです。パスは正確でも、受け取る場所が違います。

名寄せとはシステム上に散在する重複・類似レコードを統合・整理し、「ひとつの実体に対してひとつのレコード」という状態を作ることです。エンタープライズ案件では、名寄せはシステム導入の成否を左右する最重要テーマのひとつです。

フェーズ1:システム導入前の名寄せ

新規にDynamics 365を導入する際、既存システムからデータを移行するタイミングが名寄せの最大のチャンスです。ここで名寄せを徹底しておかないと、汚いデータがそのままDynamics 365に持ち込まれます。

CRM(Sales):データインポート前にAzure Data FactoryやPower Queryで重複候補を洗い出し、マージルールを定義してからインポートします。会社名・電話番号・メールアドレス・住所の組み合わせでファジーマッチングを行い、一致度スコアが閾値を超えたレコードを重複候補としてリストアップします。

Business Central:顧客・仕入先マスタの名寄せをインポート前に行います。BCの標準機能として「重複する顧客の検索」機能があり、類似名称・同一住所・同一登録番号を検出できます。RapidStartサービスを使ったデータマイグレーション前に、Excelでの名寄せ作業を必ず挟む設計が推奨されます。

F&O(SCM・Finance):特に重要なのがGlobal Address Book(GAB:グローバルアドレス帳)です。GABはF&Oのすべての関係者を一元管理する住所録であり、名寄せの中心となります。導入前にGABの統合ルール——どの項目を名寄せのキーとするか(法人登録番号・VAT番号・DUNS番号等)——を明確に定義しておくことが必須です。

フェーズ2:システム導入後の名寄せ

導入後も日常的な業務の中で重複レコードは発生します。営業担当者が既存顧客を新規として登録してしまう・ECサイトからの新規登録と既存CRMレコードが重複するといったケースです。

CRM(Sales):重複検出ルール(Duplicate Detection Rules)を設定することで、レコード作成・更新・インポート時にリアルタイムで重複を検知・警告できます。マージ後はサブレコードが非アクティブ化され、関連する活動・商談・ケースはすべてマスターレコードに統合されます。

Business Central:「重複する顧客の統合」機能でレコードをマージできます。マージ時にすべての関連トランザクション(請求書・支払い・仕訳)がマスターレコードに紐付けられます。

F&O(SCM・Finance):GABの「Party統合」機能を使って重複するPartyレコードをマージできます。ただしF&Oのマージは影響範囲が広く——仕訳・発注・請求書・与信情報すべてに波及——するため、マージ実行前に必ず影響範囲を確認するプロセスを設けることが重要です。

フェーズ3:CRMとERP連携時の名寄せ

CRMとERPを連携させる場合、名寄せの問題は「単一システム内の重複」から「システム間の不一致」へと複雑化します。CRMのAccountレコードとERPのCustomerレコードが同一の取引先を指しているにもかかわらず、別々のIDで管理されていると、エージェントが不整合を引き起こします。

CRMとF&O連携(Dual-write):Dual-writeを使う場合、CRMのAccountとF&OのCustomer・VendorをリアルタイムでマッピングするDual-writeマップが設定されます。このマッピングを正しく設定するためには、まず両システムで名寄せが完了していることが前提です。

CRMとBusiness Central連携:標準のBC-CRM統合コネクタ(Integration Table Mapping)はCRMのAccountとBCのCustomerを1対1でマッピングする設計です。両システムの名寄せが完了していないと連携時にレコードが二重に作成されるという問題が発生します。

名寄せ失敗時の切り戻しシナリオ

どれだけ慎重に名寄せを行っても、誤ったマージが発生することがあります。「本来別々の顧客だったのに、名前が似ていたため誤ってマージしてしまった」というケースへの切り戻し方法は製品によって異なります。

CRM(Sales):マージ後のサブレコードは「非アクティブ」状態で保持されています。管理者が非アクティブレコードを再アクティブ化し、マージ前の状態に手動で戻す操作が必要です。CRMには「アンマージ」機能はなく、変更されたフィールドの値を手動で元に戻す作業が必要になります。エージェントが自動マージを実行する場合は、「マージ実行前に担当者の確認を必須とする」Human-in-the-Loopの設計を強く推奨します。

Business Central:マージ後の切り戻しはCRM以上に難しくなります。BCのマージはトランザクションデータにも影響するため、誤マージを検知した場合は手動でレコードを再作成し、関連トランザクションを新レコードに紐付け直す作業が必要です。

F&O(SCM・Finance):GABのParty統合は最も慎重な運用が必要です。標準の「アンマージ」機能はなく、誤マージの影響を受けたトランザクションを特定して修正する作業は専門知識が必要です。マージ前にデータベースのバックアップを取得し、最悪の場合はバックアップからのリストアを検討できる状態にしておくことも重要です。

名寄せの監査証跡——CRM・BC・F&O別の取り方

CRM(Sales):監査ログ(Audit Log)を有効化することでマージ操作を含むすべてのレコード変更を記録できます。エージェントがマージを実行した場合も、エージェントのサービスプリンシパルIDが操作者として記録されます。

Business Central:変更ログ(Change Log)を設定することでレコードの変更履歴を記録できます。マージ操作・フィールド値の変更・レコードの削除がChange Log Entryテーブルに保存され、エージェントによる操作もユーザーIDとともに記録されます。

F&O(SCM・Finance):データベースログ(Database Log)とAudit Workbenchの2つの仕組みがあります。エージェントがF&OのAPIを通じてマージ操作を実行した場合、そのAPI呼び出しのユーザーコンテキスト(サービスプリンシパル)が操作者として記録されます。

さらにどの製品においても、Azure Application InsightsとMicrosoft Sentinelを組み合わせることで、エージェントによる名寄せ・マージ操作の異常検知——「短時間に大量のマージが実行された」——をリアルタイムで監視する設計が可能です。

Customer Insights – Dataの名寄せ機能——Unify(統合)プロセス

Dynamics 365の製品群の中で、名寄せ機能が最も体系的かつ強力に設計されているのがCustomer Insights – Data(CDP)です。AIベースの予測マッチング機能を活用し、複数のデータソースからのデータを単一のマスターデータセットに統合します。

ステップ① Map

複数のデータソースを共通のデータモデルにマッピングします。「このフィールドが顧客の氏名」「このフィールドがメールアドレス」という定義をここで行います。

ステップ② Match

テーブル間で顧客レコードをマッチングするルールを定義します。完全一致だけでなくファジーマッチングにも対応しており、「株式会社」「(株)」の表記揺れも検出できます。

ステップ③ Merge

ソーステーブルのどの列を統合プロファイルに含めるか・除外するか・マージするかを決定します。統合実行時に一意のCustomerIdが割り当てられます。

Customer Insights – Dataの名寄せが他製品と根本的に違う点

CRM・BCのマージは「システム内のレコードを統合する」という操作です。一方Customer Insights – DataのUnifyは「複数のシステムのデータを横断的に統合した統一プロファイルを作る」という操作です。元のシステムのレコードはそのまま保持されたまま、Customer Insights – Data上に「統合プロファイル」という新しいレイヤーが生成されます。マッチングルールが誤っていた場合は、ルールを修正して再度Unifyを実行するだけで統合プロファイルが再生成されます。この「やり直しがきく」設計が、CRM・BCのマージ操作との大きな違いです。エンタープライズ案件での推奨アプローチは、まずCustomer Insights – DataのUnifyで「どのレコードが同一顧客か」を特定し、その結果を参照しながらCRM・ERPの各システムでのマージ操作を行うという順序です。

②Power Automateとの連携

Power Automateフローをアクションとして呼び出せます。承認フロー・メール送信・Teams通知・外部システムへのデータ連携といった処理をPower Automateで設計し、Copilot Studioのエージェントからトリガーする設計が可能です。第2回で設計したHuman-in-the-Loopの承認フローは、Power AutomateのApprovalコネクタとCopilot Studioの組み合わせで実装します。

③マルチエージェントオーケストレーション

2026 wave 1の最大の変化のひとつです。Copilot Studio上で複数のエージェントを「親エージェント(オーケストレーター)」と「子エージェント(スペシャリスト)」として構成できます。たとえばCRMの営業エージェントが親となり、在庫照会が必要になったときにERPの在庫エージェントを呼び出し、結果を受け取って見積を完成させるというような連携がCopilot Studio上で設計できます。QBがレシーバーに指示を出してパスを通すように、親エージェントが状況を判断し、最適なスペシャリストエージェントに仕事を振る設計です。

④カスタムコネクタ・HTTPアクション

標準コネクタでカバーできない外部システムとの連携は、カスタムコネクタまたはHTTPアクションで対応できます。E-CommerceプラットフォームのAPI・物流会社のトラッキングAPI・与信照会APIなどを、Copilot StudioのエージェントからHTTPリクエストで呼び出す設計が可能です。

⑤Azure AI Foundryとの統合——カスタムAIモデルをエージェントの判断に組み込む

Azure AI FoundryはCopilot Studioと統合されており、カスタムAIモデルをエージェントのアクションとして呼び出せます。具体的にはこういった活用が考えられます。

修理写真の損傷判定:サービス受付時に顧客がアップロードした車両の損傷写真をAzure AI Foundryのコンピュータビジョンモデルに送信し、損傷箇所・推定修理工数・必要パーツをエージェントが自動取得してService Order(修理伝票)の下書きを自動生成する
受注確度の高精度予測:過去の成約データ・失注データ・顧客属性・市場データをAzure AI Foundryのカスタム機械学習モデルで学習させ、エージェントがより精度の高い受注確度を判断材料として使えるようにする
契約書・仕様書の自動解析:顧客から受け取った契約書や仕様書のPDFをAzure AI Foundryのドキュメントインテリジェンスモデルで解析し、納期・数量・特別条件・リスク条項を自動抽出してCRMの商談レコードに反映する
需要予測モデルの活用:過去の販売データ・季節変動・市場トレンドをAzure AI Foundryのカスタム予測モデルで分析し、SCMエージェントが最適な発注量・タイミングを判断する材料として活用する
品質異常の早期検知:製造ラインのセンサーデータや検査画像をリアルタイムでAzure AI Foundryの異常検知モデルに送信し、品質基準を外れた製品を検知した時点でエージェントが製造ラインへの停止指示・担当者へのアラートを自動実行する

Azure AI FoundryとCopilot Studioの統合で重要なのは、モデルの改善はAzure AI Foundry側で行い、Copilot Studio側のエージェント設計は変えずに精度だけを上げていくという運用が可能になる点です。

What Copilot Studio cannot do

Copilot Studioでできないこと・苦手なこと

Copilot Studioの「できること」と同じくらい重要なのが「できないこと・苦手なこと」を正確に知ることです。ここを理解していないと、設計段階では問題なく見えても、実装・本番運用で壁にぶつかります。

01

複雑なビジネスロジックの実装

Copilot Studioはローコード/ノーコードが設計思想であるため、複雑な条件分岐・計算ロジック・データ変換を直接実装するのには向いていません。複雑なビジネスロジックはAzure FunctionsやPower Automateに切り出し、Copilot Studioはその呼び出しだけを担当する設計が正解です。

02

大量データのバッチ処理

Copilot Studioはリアルタイムの会話・アクション実行には向いていますが、大量データの一括処理には向いていません。「1万件の在庫レコードを一括チェックして発注候補リストを生成する」といったバッチ処理は、Azure Data FactoryのパイプラインやAzure Logic Appsのスケジュール実行に任せるのが適切です。Power Automateはイベント駆動の軽量フローには向いていますが、エンタープライズ規模の大量データのバッチ処理にはAzureのデータ基盤側で設計することが正解です。

03

長時間の非同期処理

Copilot Studioからアクションを呼び出す際にはタイムアウトの制約があります。長時間かかる処理はAzure Functionsの非同期実行パターンに切り出し、処理完了後にCopilot Studioのエージェントに結果を返す設計が必要です。

04

複雑なUI・帳票の生成

Copilot Studioが生成できるアウトプットは基本的にテキスト・カード・ボタンといった会話UIの範囲に限られます。PDFの見積書・Excelの発注リスト・複雑なレポートの生成はCopilot Studioの守備範囲外です。Power Automateと連携してWord・Excelテンプレートを使った帳票生成を行うか、Azure FunctionsでPDF生成ロジックを実装する設計が必要です。

05

精緻なエラーハンドリングと冪等性の保証

エージェントが自律実行する際、途中で失敗した場合の冪等性の保証はCopilot Studio単体で行うのは難しいです。Azure Functionsのリトライポリシー・Azure Service Busのメッセージキュー・Dataverseのトランザクション管理を組み合わせて設計する必要があります。

06

Dynamics 365のカスタマイズとの相性

Dynamics 365に深くカスタマイズが入っている環境では、Copilot Studioのエージェントがそのカスタマイズを認識できないケースがあります。特にプラグインがトリガーされる条件とエージェントのアクションが競合する場合、想定外の動作が起きることがあります。Dynamics 365の実装者としての深い理解がここで活きてきます。

Integration patterns

CRMとERP連携の実装パターン

Copilot Studioでエージェントを設計するとき、CRMとERPをまたぐ連携の実装パターンを理解しておくことが重要です。パターンは大きく3つあります。

パターン①:バーチャルテーブル経由のリアルタイム参照

ERPのデータをDataverse上の仮想テーブルとして公開し、Copilot StudioのエージェントがCRMのデータと同じ感覚でERPのデータにアクセスします。在庫照会・原価参照・与信残高チェック・修理伝票のステータス確認に適しています。バーチャルテーブルは「読み取り」には強いですが、「書き込み」には制約があるケースがある点に注意が必要です。

→ リアルタイムでERPデータを「読む」用途に最適

パターン②:Power Automate + Approvalコネクタによる承認フロー連携

Copilot StudioのエージェントがPower Automateフローを呼び出し、承認フロー・通知・ERPへのデータ書き込みを実行するパターンです。CRMエージェントが見積を自動生成→金額が閾値を超えているため承認フローをトリガー→承認者がTeamsで承認→承認完了後にERPの受注伝票を自動生成→完了をCRMエージェントに返す、という流れです。Human-in-the-Loopの実装に最も適したパターンです。

→ 人間の承認を挟んでERPに「書く」用途に最適

パターン③:Azure Functions経由のカスタム連携

標準のコネクタやバーチャルテーブルでは対応できない複雑な処理・タイムアウトを回避したい重い処理は、Azure Functionsに切り出すパターンです。Copilot StudioのエージェントがHTTPアクションでAzure Functionsのエンドポイントを呼び出し、Azure Functions側で複雑な処理を非同期で実行します。CRMプラグインの2分タイムアウト問題もこのパターンで解決します。

→ 複雑な処理・タイムアウト回避・外部システム連携に最適

野球で例えると

パターン①はキャッチャーが素早くサインを出してピッチャーに伝える瞬間の判断、パターン②は監督がベンチから選手交代を告げる正式な手続き、パターン③はビデオ判定室に映像を送って詳細な分析をしてもらう作業です。状況に応じて使い分けることが、実装の品質と保守性を決めます。

Summary

まとめ

今回はCopilot Studioの設計思想・できること・できないこと・名寄せと切り戻し・CRMとERP連携の実装パターンまで見てきました。改めて整理するとこうなります。

→Copilot Studioは野球のキャッチャー・サッカーのミッドフィルダー・ラグビーのフライハーフ・アメフトのQBです。個々のエージェントを束ね、全体の動きを作る「司令塔」です。もはや、「チャットボットを作るツール」ではありません。
→Copilot Studioの設計は「知識(何を知っているか)」「アクション(何ができるか)」「トピック(どう動くか)」の3つのレイヤーで考えます。CRMとERPからのデータアクセス・Azure AI Foundryのカスタムモデル統合・マルチエージェントオーケストレーションまで、エンタープライズ規模のエージェント設計を支える基盤です
→名寄せはエージェント設計の隠れた最重要テーマです。「導入前・導入後・CRMとERP連携時」の3つのフェーズで名寄せ戦略を設計し、誤マージへの切り戻しシナリオを事前に準備しておくことが、エンプラ案件での成否を分けます。Customer Insights – DataのUnify機能をマスターのマッチングエンジンとして使い、各システムの名寄せの「設計図」として活用する考え方が推奨されます
→Copilot Studioの「できないこと」を正確に理解することが設計の失敗を防ぎます。複雑なビジネスロジックはAzure Functionsへ、大量データのバッチ処理はAzure Data Factory・Logic Appsへ、長時間処理は非同期パターンへ——Copilot Studioの外側で設計すべきことを明確にすることが、実装者の腕の見せどころです
→CRMとERP連携の実装パターンは「バーチャルテーブルで読む(パターン①)」「Power Automate+Approvalで承認して書く(パターン②)」「Azure Functionsで複雑な処理を逃がす(パターン③)」の3つを状況に応じて組み合わせます

このシリーズの構成

4

エージェントを組み立てる——Copilot Studioで何ができて何ができないか ← 本記事

CRM連携ERP連携
5

エージェントを信頼できるか——ログ・監査・コンプライアンスの設計

CRM:通信ログERP:会計監査
6

CRMとERPをまたぐエージェント——統合設計の全体像

CRM + ERP 統合
7

これからのDynamics 365エンジニアに何が求められるか

CRMエンジニアERPエンジニア

次回は「エージェントを信頼できるか」をテーマに、ログ・監査・コンプライアンスの設計を掘り下げます。エージェントが自律的に動いた結果に対して、組織として「説明責任を果たせる」設計をどう作るかを考えていきます。

以上、今日も貫徹した、室長でした。

dx365jp
  • dx365jp
  • 25年ほど、Microsoft Dynamics 365 【ERP(NAV/AX)+CRM】の導入コンサルティングに従事し、日本を含む34か国において導入コンサルティングを経験してきました。グローバル環境における“プロジェクト”と“マーケティング”を生業としております。

    最近は、【CRM/MKTG(攻めのDX)⇔ ERP(守りのDX)】+【ローコード】というDX365な活動に奮闘中です。Microsoft Dynamics 365 ビジネスで地球を92周中です。#DX365 #DynamicsIoT

    Microsoftの運営する外部技術者グローバル組織「Microsoft MVP(*日本163名/世界3674名)・ Microsoftのトラスティッドアドバイザーである「Microsoft Regional Director (*日本4名/世界167名)」として、複数のITコミュニティーにて活動中。(*2026/08/08時点)

    プロフィールはこちら→bit.ly/Dynamics365JP