2026 Wave 2 深掘りPart1|Copilot Chat・Expense Agent・Agentic Dev Loop・MCP Serverの6本を読み解く

おはようございます。室長こと吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。過ごしやすい、いい季節になってきましたね。ちょっと冷える。毛布、出しておきましょうね。風邪、ひかないように。
ここ最近、国内外を問わず、クラウド連携の不備や過剰な権限付与、シャドーITなどを起因とする大規模なデータ漏洩・情報セキュリティインシデントのニュースが連日のように報じられています。
企業の機密情報や顧客データが一度流出すれば、信用失墜や事業停止のリスクに直結する―まさにセキュリティとデータガバナンスが経営の最優先課題として再認識されている時期です。
特に生成AIやエージェントの導入が進む今、現場や経営陣が最も懸念するのは「AIが社内のあらゆる重要データを勝手に読み取り、外部へ漏洩させてしまわないか」という境界線(Boundary)の設計ではないでしょうか。
だからこそ今、基幹システム(ERP)において「AIがどのような経路で、誰の権限で、どこまでデータにアクセスするのか」という統制の仕組みを正しく理解しておく必要があります。
昨日の記事では、BC 2026 Release Wave 2 の公式学習プレイリスト「Business Central Launch Edition(BCLE)」30本の全体像と、9カテゴリごとの拡張性の方向についてまとめました。
今日はその中から「AI・Copilot・Agent・MCP」カテゴリの6本を深掘りします。この6本は、BC がどのように「対話できるシステム」へ進化しようとしているかを示す、今回の Wave 2 の核心部分です。
今日取り上げる6本
BCLEの「AI・Copilot・Agent・MCP」カテゴリには6本の動画が収録されています。内容の流れとしては、①Copilot Chat の新UIを紹介し、②デモで実際のシナリオを見せ、③内部の仕組みを解説する、という3本のCopilot Chat シリーズ。そして④Expense Agent(Preview)の新機能概要、⑤開発者向けの Agentic Developer Loop、⑥MCP Server(Preview)の新機能、という構成です。
Copilot Chat の新体験 — 3本を横断して読む
Copilot Chat の3本は、それぞれ「紹介 → デモ → 仕組み解説」という流れで構成されています。3本を続けて見ることで、単なる機能紹介にとどまらない、設計思想まで理解できる内容になっています。
新しいCopilot Chatとは何か
BC 2026 Wave 2 で提供される新しい Copilot Chat は、これまでの BC 固有の Copilot パネルとは別物です。Word・Excel・PowerPoint・Teams など、他の Microsoft 製品での Copilot 体験と共通の設計思想を持つ「Microsoft Copilot 体験」が Business Central に組み込まれました。BC のデータにアクセスしつつ、あなたのロール・コンテキスト・権限を常に尊重して動作します。
追加の Microsoft 365 Copilot ライセンスを保有している場合は、カレンダー・メール・Teams の会話・OneDrive や SharePoint 上のファイルといった「Work IQ」データも参照できるようになります。
デモで見えた3つのシナリオ
動画②では、実際のデモシナリオが3つ示されました。
内部の仕組み — Agentic Loop と Intent Detection
動画③では「なぜこんなことができるのか」の仕組みが解説されました。以前の BC Copilot は「1回のプロンプトに1回の応答」という構造でしたが、新しい Copilot Chat は Agentic Loop で動作します。
ユーザーの質問とその時点のコンテキスト(現在開いているページ、ロール、会話履歴)を受け取った後、Intent Detection によって「何をすべきか」を判断し、その後ループを回しながら複数のツールを呼び出して回答を組み立てます。
BC データに基づく回答には Citations(引用元) が表示されます。引用元のピルをクリックすると BC のデータに直接アクセスでき、回答の正確性を自分で確認できる設計になっています。「信じてください」ではなく「確認してください」という思想です。
権限・ガバナンス
Copilot は常に「あなたとして」動作します。BC に対するデータアクセスは、操作しているユーザーの権限範囲内に厳密に限定されます。他のユーザーが閲覧できないデータを Copilot が取得することはありません。
管理者は「Copilot and Agent Capabilities」ページから、どのユーザーがどの Copilot 機能を使えるかを制御できます。オプトイン・オプトアウトの両方が可能で、組織の判断で段階的に展開することができます。
BC データへのアクセスは MCP Server 経由
動画③で明かされた重要な点があります。Microsoft Copilot が BC データを取得するための技術基盤は、Business Central MCP Server です。これは Copilot Chat 専用の API ではなく、BC のすべてのAgenttic統合で使われている共通の接続経路です。
この MCP Server 経由のアクセスにより、標準テーブルだけでなくインストール済みの拡張機能・カスタマイズのデータも、カスタム API を別途作成することなく Copilot から参照できるとされています。ただし、MCP Server は現時点では Preview 機能であり、利用には適切な権限・構成が必要です。詳細は aka.ms/bcmcp をご参照ください。

図1|Microsoft Copilot Chat in Business Central の全体構造。Intent Detection → Agentic Loop → BC Tools / Web / Work IQ / Custom Agent の多源泉参照 → Citations付き回答。権限はユーザーの BC 権限に準拠。
Expense Agent(Preview)— 経費処理のフルスタック進化
Expense Agent は 2026 Wave 2 で大きく進化しました。動画④のタイトルは「Overview」ですが、内容は多岐にわたります。本記事では主要なポイントを整理します。なお、Expense Agent は Preview 段階であり、機能によって提供時期が異なります。
マイレージ設定の強化
これまでの「1単価 × km/mile」というシンプルな設定から、期間別・車種別のマイレージレートに対応しました。年度ごとに変わる手当額や、国によって法的に求められる車種別(Car・Truck・SUV・Motorcycle等)の設定が可能になります。シンプルな運用を続けたい場合は以前と同じ設定のままで問題ありません。
クレジットカードフィード(2026年12月〜)
クレジットカード明細のインポート機能が追加されます。明細をアップロードすると、既存の経費レコードと自動照合します。事前にレシートをスキャンしていた場合は自動突合、スキャンがまだの場合は CC が経費レコードを自動生成してレシートの後付けを待つ仕組みです。この機能は BC 29.2(2026年12月)以降の提供予定です。
AI駆動の出張・経費ポリシー
カテゴリごとに「人間が読める形式」のポリシーを設定すると、AI がレシートをアップロードした際にポリシーへの適合性を自動チェックします。たとえば「エコノミー利用必須」というポリシーに対し、搭乗クラスが明記されていない場合は自動フラグが立ち、承認者に判断材料が提供されます。これはハードブロックではなく、承認者の意思決定を支援するための機能です。ポリシー準拠チェックを有効化すると AI 利用コストが発生するため、設定時に明示的な確認が必要です。
承認フローの強化と出張申請
承認フローには、暫定承認者・承認上限額・代理承認などのオプションが追加されます。また「Travel Request(出張申請)」が新機能として追加されました。カンファレンス等への出張を申請として起票し、マネージャーが承認すると、その出張に紐づく経費レポートが自動生成されます。出張期間中にアップロードしたレシートは、その経費レポートに自動割り当てされます。
モバイルアプリ・VAT・源泉徴収税
iOS・Android 対応のモバイルアプリが Preview として提供されます。レシートをスキャンすると背景を自動トリミングし、オフライン時はキューに保存して接続時に自動処理します。また、経費レポートに対する VAT 還付機能(自国発行レシートのみ対象、行単位での複数税率対応)と、従業員への源泉徴収税(Withholding Tax)対応も追加されます。

Agentic Developer Loop — 開発者のためのAgent活用
動画⑤は開発者向けの内容ですが、BC の Agent がどのように実環境の問題解決に使われるかを示す、非常に具体的なデモが含まれています。
3つの技術要素
Agentic Developer Loop を構成する要素は3つです。AL LSP(AL Language Server Protocol)はソースコードの定義・参照・型情報をAgent に提供し、意味的な理解を可能にします。Snapshot Debugging MCPは本番環境のバグ調査を、Sampling Profiling MCPはパフォーマンス問題の特定を、それぞれ Agent が調査できるようにします。
デモ①:本番バグのAgent調査
発注書のポスト時に「Advanced check failed」エラーが発生するケースを例に、Agent が自律的に調査するデモが示されました。プロンプトで「次のセッションでスナップショットを取得して原因を調べてほしい」と指示すると、Agent が AL ソースコードからエラー箇所を特定してスナップポイントを設定。ユーザーが翌日ログインして同じ操作をトリガーするとテレメトリを検出し、スナップショットを取得して変数の値を読み取り「3つのフィールドのうち2つが空白のため」という根本原因を特定しました。
デモ②:パフォーマンス問題のAgent分析
「BC が遅い」という状況に対し、Agent がテレメトリから対象セッションを特定し、Sampling Profiling を開始して原因を分析するデモも示されました。結果として「5秒間に30,000件のSQL文が実行されており、カテゴリコードによるインデックス問題が原因」という詳細な分析が出力されました。
AL LSP・Snapshot Debugging MCP・Sampling Profiling MCP の3つが「理解 → 証跡収集 → 計測 → 修正」というループとして機能することが、このデモの核心です。

MCP Server(Preview)— 新しい4つのDataツール
動画⑥は MCP Server の新機能を紹介します。MCP Server 自体は前の Wave でも Preview として提供されていましたが、Wave 2 では 4つの新しいDataツール が追加されました。
4つの新ツール
| ツール名 | 役割 |
|---|---|
| bc_data_find_tables | テーブル名を検索。Agentがどのテーブルを使うかを探索する起点。 |
| bc_data_get_table_schema | テーブルのフィールド一覧を取得。Agentがクエリを構成するために参照。 |
| bc_data_get_table_relations | テーブル間のリレーションを取得。JOIN クエリの構成に使用。 |
| bc_data_query | AL クエリを BC に送信してコンパイル・実行。結果データを返す(読み取り専用)。 |
表1|MCP Server — Wave 2 で追加された4つのDataツール
仕組みとデモ
Agent は「顧客・受注・明細を取得して購買分析を行って」というプロンプトを受け取ると、まず bc_data_find_tables でテーブルを探索し、bc_data_get_table_schema でフィールドを確認し、bc_data_get_table_relations でリレーションを把握します。その後 AL クエリを生成して bc_data_query で BC に送信し、コンパイル → 実行 → 結果取得 というサイクルを回します。
デモでは「すべての顧客・受注・明細を取得して購買分析を」という質問に対し、30ステップ・約2分のエージェント処理の結果として「Atlanta Whiteboard が全未処理受注の46.2%を占める」という洞察が出力されました。
ポイントは、Agent が AL クエリを自力で書き、BCコンパイラのエラーメッセージを受け取って自己修正しながら処理を完結する点です。これはカスタム API を必要とせず、BC の権限設定の範囲内でアドホックなデータ分析を可能にします。ただし AL Queryオブジェクトの制約(返却データ量・実行時間の上限)はそのまま適用されます。
セキュリティと管理設定
Wave 2 では MCP Server の設定 UI も刷新されました。「Server Features」ボックスで有効化する機能を選択すると、それによって解放されるツール一覧が右側に表示されます。また「Copilot and Agent Capabilities」ページに MCP Server 全体の有効・無効を切り替えるトグルが追加されました。
MCP Server の詳細・ドキュメントは aka.ms/bcmcp にまとめられています。

まとめ
今日の6本を通じて見えてくるのは、BC が「データを持つシステム」から「データと対話できるシステム」へと進化しようとしている方向性です。
明日(10/28)の深掘り②
Data / Fabric / Master Data — 2本を読む
BC と Microsoft Fabric の統合(Preview)と、クロス環境マスタデータ管理(GA)の2本を深掘りします。データ基盤の設計を考えている方にとって、特に重要な内容です。
Let’s Enjoy our DX365LIFE!
※本記事の内容は、Business Central Launch Edition(BCLE)の公式動画をもとに室長が解説・編集したものです。機能の詳細・提供条件・スケジュールは変更される場合があります。Preview 機能については本番環境での利用前に最新のドキュメントをご確認ください。Microsoft 製品の正式情報は Microsoft Learn をご参照ください。
