BC 2026 Wave 2 深掘りPart2|Fabric統合・クロス環境マスターデータ管理の2本を読み解く

おはようございます。室長こと吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。

今日、10月28日は欧州のDynamicsエコシステムにとって最も熱い週の真っ只中です。

フランスの首都パリ(Palais des Congrès de Paris)では、昨日10月27日から世界最大級のDynamicsパートナーカンファレンス「Directions EMEA 2026」が開幕しています。

冒頭図|BC × Fabric 統合 — 3ステップセットアップとデータフロー
冒頭図|Directions EMEA 2026での発表内容を元に作図

ヨーロッパを中心に、世界中からパートナー、ISV、開発者、そしてMicrosoftのプロダクトチームが一堂に会し、Business Centralの未来について熱い議論を交わしています。今年は、57カ国から3373名が集まっているようです。

Directions EMEAの初回のカンファレンス(同じようにパリにて開催)は180名くらいだったので、毎年規模が大きくなっていることを、とても嬉しく思っています。運営側も凄いんですよ。ヨーロッパの皆さんのネットワーキングの巧さというか、和気あいあいと、話すのが好きなんですよね。

一方で、知人たちが頑張っている姿をSNSで見ながら、「あー、僕もMCP Serverつかったデモやりたかったなあ」とも思う訳です。みんな、頑張ってね!

僕は最近この季節がとても忙しく、渡欧できないのですが、情報収集は欠かさずおこなっています。

どうやらパリのセッション会場で、ひときわ熱狂的な注目を集めていたのは、「自律型AIエージェントの波」と、それを支える「エンタープライズデータ基盤の進化」のようです。

国境を越えて複数の法人・環境を展開する欧州の企業にとって、AIを活用する大前提となるのは「分散した環境間のマスターデータの整合性」と「ERPに閉じたデータをいかに分析・AI基盤へと解放できるか」という極めて実務的で、ホットなテーマだからですね。

 

昨日の記事では、AI・Copilot・Agent・MCP カテゴリの6本を深掘りしました。Copilot Chat の新しい統合体験から、開発者が AI を活用するための Agentic Developer Loop・MCP Server まで、BC が「対話できるシステム」へ進化する方向性を整理しました。

今日はカテゴリを変えて、「データ基盤」と「マスターデータ管理」の2本を取り上げます。BC のデータを分析・AI 活用のために外に出す Fabric 統合(Preview)と、複数環境間でマスターデータを同期するクロス環境 MDM です。この2本は、特にマルチカンパニー・マルチテナント環境で業務を展開している組織にとって、直接的な運用改善につながる内容です。大切なトピックです。


今日取り上げる2本

今日の2本 — Data/Fabric/Master Data カテゴリ

① Introducing: Business Central Integration with Microsoft Fabric Preview
BCのデータをFabric/OneLakeに継続的にミラーリング。Power BI Apps・SQL分析・AI活用への出口を開く。

② What’s new: Cross-environment Master Data Management
同一テナント内の複数環境をまたいだマスターデータ同期。国別・ブランド別環境の運用を標準機能でカバーする。


BC × Microsoft Fabric 統合 — データをOneLakeへ(Preview)

BC のデータを Fabric に同期するこの機能は、バージョン 29.x(Public Preview)として提供が始まる見込みです。動画では 29.1 が有力とされていましたが、正確なバージョンはリリース時の情報をご確認ください。「ミラーリング(Mirroring)」という仕組みで、BC の運用データを Fabric の OneLake に継続的に連携し、Power BI・AI・SQL 分析の基盤として活用できるようにします。

3ステップの初期セットアップ

セットアップはシンプルに設計されています。動画では「one, two, three」と繰り返し強調されていました。

Fabric統合セットアップ — 3ステップ

Step 1 Fabricでミラーリングデータベースを作成
Fabric の UI から「New mirroring database」を作成し、接続文字列(ワークスペース・データベース)をコピーする。

Step 2 BCからFabricへ接続
BC の「Microsoft Fabric Integration」アプリで Step 1 の接続情報を入力し、「Connect to Fabric」アクションを実行。テスト接続で書き込み権限を確認する。

Step 3 テーブルと会社を選択して同期開始
同期するテーブルと対象会社(単一または複数)を指定し、「Start synchronization」をクリック。ISV ソリューション向けには構成パッケージでテーブルを一括インポートできる。

OneLake上のデータとSQLエンドポイント

同期されたデータは、OneLake 上では Delta Parquet 形式で保存されます。ただし、Fabric 側では SQL エンドポイントが提供されるため、利用者は通常の SQL データベースと同じ感覚でクエリを書けます。AL テーブルの構造がそのまま Fabric のミラーリングデータベースに反映される点も、BC 開発者にとっては使いやすい設計です。

PowerBI Apps — シングル・マルチカンパニー版

BC 向け Power BI Apps(全9本)は、従来 API を通じてデータを取得していました。今回、Fabric バックエンドに対応した新版が用意されます。それぞれ シングルカンパニー版(BC に埋め込む形式と同等)と マルチカンパニー版(複数会社のデータを横断して表示)の2バリアントがあり、動画では AppSource またはコードサンプルとして近日提供予定とされています。マルチカンパニー版では、フィルターで「全社」または「特定の会社」を選択してデータを比較できます。

監視・API・権限管理

監視:BC のクライアント内に「Synchronization Overview(概要)」と「Synchronization Details(詳細)」の2つのビューが用意されています。エラーのみ表示するフィルターも標準で提供。同期ログは Fabric 側からも確認でき、SQL エンドポイント経由で Export Summary / Export Details を参照できます。

API:セットアップ・監視の全操作が API でも実行可能です。BC の API 概要ページで「Fabric」と検索すると、6本の API が見つかります。自動化や外部ツールとの統合にも対応できます。

権限管理:Fabric 統合を有効化・管理・参照するための3つのパーミッションセットが用意されており、誰でも統合を設定できるわけではない設計になっています。

詳しくは aka.ms/bcanalytics(Microsoft Learn)に BC × Fabric 統合の解説記事が掲載されています。

図1|BC × Fabric 統合 — 3ステップセットアップとデータフロー
図1|BC × Microsoft Fabric 統合 — OneLakeへのミラーリング、SQLエンドポイント、PowerBI Apps、監視の全体像

クロス環境マスターデータ管理 — 環境の壁を越えて同期する

BC のマスターデータ管理(MDM)はこれまで、同一環境内の会社間でのデータ同期に限られていました。国別・ブランド別に環境を分けているケース(同一テナント内の複数環境)では、標準機能での同期ができず、手動再入力・カスタムインテグレーション・外部連携などで対応するしかありませんでした。

Wave 2 ではこの制約が解消されます。同一テナント内の異なる環境間で、顧客・仕入先・品目などのマスターデータを同期できるようになります。追加のミドルウェアもカスタムコードも不要で、セットアップのウィザードや同期のUI は既存の MDM と同じです。

データフローの設計 — HQからのプル型

データの流れは「HQ(本社)が発信源、子会社がプル(取得)する」形式です。HQ は常に Read-only のマスターソースで、子会社が必要なデータを引き取る設計です。接続と同期には Microsoft Entra ID を使用し、HQ 管理者がどの子会社に何のデータへの読み取り権限を与えるかを制御します。

クロス環境MDM — 設計のポイント

対象範囲:同一テナント内の異なる環境のみ(テナントをまたいだ同期には対応しない)

認証:Microsoft Entra ID(Azure ポータルでアプリ登録)。HQ 管理者が子会社のアクセスを承認する。

同期方式:差分同期(初回は全件、以降は変更分のみ)。変更検知エンジンにより変更分のみを効率的に転送します。

添付ファイル:画像・添付ファイルもレコードと一緒に同期。ただし画像サイズは512KB以下の制限あり。

Entraアプリ共有:1つの Entra アプリを複数子会社で共有するか、子会社ごとに個別登録するかを選択可能。監査ポリシーに合わせて判断する。

セットアップと権限の流れ

子会社側では、MDM セットアップ画面の「Cross Environment Setup」から接続ウィザードを起動します。HQ の環境名・会社名、および Entra アプリのクライアントID・シークレットを入力します。資格情報はセキュアに保存されるため、後から平文で読み出すことはできません。

HQ 側では、Microsoft Entra のアプリケーション管理で子会社のアプリを承認(Consent)し、BC 上でそのアプリに専用パーミッションセットを割り当てます。デフォルトのテーブルに加えて独自テーブルを同期対象に追加する場合は、HQ 側でそのテーブルへの読み取り権限を含む新しいパーミッションセットを作成して Entra ユーザーに付与する必要があります。

初期同期とその後の変更追跡

初期同期は「Start All」で一括実行します。テーブルは依存関係の順番(Business Relation → Dimension → …)で処理されます。初期同期完了後は、動画のデモでは HQ 側での変更がおよそ1分程度で子会社に反映されることが確認されています(デモ環境での観察であり、本番環境での所要時間は条件によって異なる場合があります)。同期ログの UI も既存の同一環境 MDM と同じため、管理者の学習コストはほぼゼロです。

図2|クロス環境MDM — HQからのプル型同期とEntra ID認証フロー
図2|クロス環境マスターデータ管理 — 同一テナント内の異なる環境間でのHQプル型同期アーキテクチャ

まとめ — データの「出口」と「整合性」を同時に強化する

今日の2本は、BC の「データ戦略」に関わる機能です。

Fabric統合は、BCの運用データを分析・AI活用の基盤として外に出す「出口」を作ります。これまで BC のデータを Power BI で使うには API ベースのセマンティックモデルが必要で、管理コストと遅延が課題でした。Fabric へのミラーリングが実現すれば、OneLake を起点に Power BI・Azure AI・Spark などのツールを柔軟に組み合わせられます。マルチカンパニー対応の Power BI Apps も、複数法人を管理する組織にとって即戦力になります。

クロス環境 MDMは、複数環境に分散したマスターデータの「整合性」を保ちます。手動入力・カスタム連携・外部同期ツールに頼っていた組織は、これを標準機能で代替できます。セットアップも UI も既存の MDM と同じなので、既に MDM を使っているチームには導入ハードルがほとんどありません。

今日の2本 — 組織への問い

BCのデータを分析・AI基盤と接続するため、現在どんな手段を使っていますか。Fabricミラーリングに移行した場合、何が変わるかを一度整理してみる価値があります。

複数の BC 環境を運用している場合、マスターデータの整合性はどのように担保していますか。標準機能への移行コストと、現状の運用リスクを比較してみてください。

明日は視点を変えて、FO(Finance & Operations)側の話題に移ります。2026年12月に予定されている自動更新(バージョン 10.0.49)の前に確認しておきたい準備事項を整理します。


Let’s Enjoy our DX365LIFE!


本記事は BCLE(Business Central Launch Edition)の公開動画をもとに、2026年10月時点の情報を整理したものです。各機能の提供状況・仕様はリリース時点で変更になる場合があります。最新情報は Microsoft Docs / Microsoft Learn の公式ドキュメントをご参照ください。

dx365jp
  • dx365jp
  • 25年ほど、Microsoft Dynamics 365 【ERP(NAV/AX)+CRM】の導入コンサルティングに従事し、日本を含む34か国において導入コンサルティングを経験してきました。グローバル環境における“プロジェクト”と“マーケティング”を生業としております。

    最近は、【CRM/MKTG(攻めのDX)⇔ ERP(守りのDX)】+【ローコード】というDX365な活動に奮闘中です。Microsoft Dynamics 365 ビジネスで地球を92周中です。#DX365 #DynamicsIoT

    Microsoftの運営する外部技術者グローバル組織「Microsoft MVP(*日本163名/世界3674名)・ Microsoftのトラスティッドアドバイザーである「Microsoft Regional Director (*日本4名/世界167名)」として、複数のITコミュニティーにて活動中。(*2026/08/08時点)

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