Dynamics 365 Business Central 2026 release wave 1|GA『一般提供開始』

こんばんは。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?

“室長”こと吉島良平Microsoft MVP for Business Applications|Microsoft Regional Director)です。

今日、東京は少し冷える1日でした。風が強かったですね。1枚羽織って室長も外に出ました。

花粉症の方にとっても、厳しい時期ですよね。お薬飲んだりとか、マスクが離せないとか。

季節の変わり目です。体調管理に留意しながら、毎日を楽しんでいきましょうね!

そうそう、前回書いた架空のストーリー【ある製造業の物語の反響が大きくて、とても嬉しかったです。

あらゆるステークホルダーの方に、プロジェクトのキックオフ前に、目を通して欲しいと思って、夜な夜な書いたものなんです。

AIには、最後に誤字脱字チェックだけをヘルプしてもらいました。

室長の頭の中にある25年間のDynamicsプロジェクト群を、自分で言語化して、自らタイピングしたものです。

5時間くらいで一旦書き上げて、全体を読み直すと、矛盾点や違和感が見えてきて、

手直しをしていたら、結局、トータルで延べ6時間半使っていました。

実は、室長がお世話になってきたお客様、そして敬愛する知人のお名前を、物語用にお借りしました。

主人公(桐生)を除いて、実在する方のお名前なのです。

「彼なら、こういうアクションを取るだろう。」「彼女だったら、こんなふうに話すだろう。」などと、考えながら

過去のプロジェクトの各々のターニングポイントを思い出しながら、新たなストーリーに向かって、キーボードを叩き続けました。

主人公を除いたのは、その方のイメージに縛られてしまうからです。

物語には、6回ほど「居酒屋シーン」が含まれているのですが、その描写だけは、我ながらセンスあるなぁと思っています。

【逃げ場のない夜|選択が許されなかった時間】
【言葉にならない夜|違和感だけが残った5年後】
【要件定義の夜|要求より対話を選んだ人たち】
【結合テストの夜|席が空いている理由】
【UATの夜|Readyと呼べる瞬間、そして甘えないための合図】
【慰労の夜|記憶が未来に追いついた】

単なる飲み会ではなくて、プロジェクトの転換点・感情の結節点として使いました。

たまには、自画自賛しとかなきゃ。居酒屋ライター目指すかな。まぁ、冗談はこのくらいにしておきますねw

ごめんなさい。長くなりました。そろそろ本題にはいりますね!

本稿では、昨日4月1日に一般公開となったDynamics 365 Business Central 2026 wave 1(Update 28.0)について、

いくつかの重要なポイントに限定して、補足をしておきたいと思っています。

何故、「限定」「補足」かというと、このDX365Lifeのコアファンの皆さまは、室長が3月8日に公開している内容をご覧くださっているはずだからです。

同様に、『Dynamics 365 (CRM/ERP)の将来的になくなっていく機能』に関しても、3月20日に説明済みだからです。

今回のwaveを室長がどう読み解いたのか、その背景も含めてお伝えしますので、本日も最後までお付き合いいただけますと幸いです!

Dynamics 365 Business Central 2026 release wave 1 (Update 28.0) 技術・戦略解説レポート

1.エグゼクティブサマリー:設計思想の転換(Managing AI)

Dynamics 365 Business Central Update 28.0(2026 release wave 1)は、ERPにおけるAI活用のフェーズを決定的に変えるマイルストーンとなります。

これまでの「AIに業務を任せられるか」という検証段階は終わり、

本バージョンでは「AIの仕事を人間が管理・監督するERP」へと、その設計思想が根本から転換されました。

今回のアップデートの核心は、単なる自動化の拡大ではなく、「責任ある自律化(Autonomous with Responsibility)」の実現にあります。

ビジネスの基盤であるERPにおいて、AIが実行した処理の透明性を確保し、

人間が適切に介入・制御できる構造を整えることは、もはや機能ではなく「生存戦略」です。

Business Centralは、単なる業務アプリケーションの枠を超え、

「中堅中小企業の業務オペレーションをオーケストレーションするAI基盤」へと進化しました。

これは、ERPが「作業場所」から、AIと人間が責任を分担して働く「統制の舞台」へと、役割を変えることを意味しています。

2.Copilot & AI Agents:共生のための基盤整備(Coexistence base)

AIエージェントは、Update 28.0において「便利な追加機能」という立場を捨て、「管理されるべきデジタルな同僚」へと昇華しました。

AIを実運用に乗せるための「仕事の見える化」「人による介入の前提」「開発基盤の整備」という3つの軸に基づき、以下の主要機能が実装されています。

 主要AI機能・エージェント管理一覧

機能名 概要・ビジネス価値・戦略的意図
Payables Agentによる識別 AIが処理したメールをメールボックス上で明示的に識別。二重処理を防ぎ、人間が「AIの成果」を即座に視認できる。
商品に関する高度なKPI 商品の在庫・売上等のKPIをCopilotが要約。数値の羅列を「意味」へと解釈し、意思決定の速度を劇的に向上させる。
専用タスクペインによる一元管理 全エージェントの稼働状況を横断監視。レビュー待ちタスクを俯瞰し、AIに対する「監督権限」を明確化する。
業務ページ上での直接レビュー AI生成コンテンツを実際の業務画面(請求書等)で直接確認・修正可能に。画面遷移によるコンテキスト断絶を防ぐ。
特定エージェントの一括停止 異常発生時、特定エージェントの全タスクに即座にブレーキをかける「安全装置」。ガバナンスの最後の砦となる。
Copilot拡張のBYO-AI対応 自社のAzure OpenAIリソース等をCopilot拡張に利用可能。ガバナンスとコストの最適化、独自戦略の組み込みを実現。

AIが「何をしたか」を人間が常に把握・制御できる構造こそが、AI時代の業務システムに求められる最低条件です。

今回のアップデートは、その条件を技術的に完遂しています。

3‐1.財務・税務・サステナビリティ:前提条件の再定義(Redefining prerequisites)

財務領域における最大の戦略的転換は、税を「計算結果」ではなく、「AIが安全に動作するための前提条件」として再定義したことです。

AIが請求書を自律的に処理するためには、その取引の「責任構造」がシステム的に定義されていなければなりません。

税務・会計の「構造的責任」の強化

  • 物品特性に基づく課税(Excise Tax/物品税フレームワーク): 従来のVAT(付加価値税)のような金額ベースではなく、重量、数量、あるいは「100mlあたりの砂糖含有量」といった物品属性(Attributes)に基づく計算モデルを導入。プラスチック税や砂糖税など、複雑化する環境・健康税制を「取引の前提」として内包します。
  • 源泉徴収税(Withholding Tax)の構造化: 仕入先への支払と源泉税の負債計上を台帳レベルで完全に分離。Withholding Tax Bus. Posting Group などの専用投稿グループを新設し、源泉税をVATとは独立した「負債(Payable)としての責任構造」で管理します。これにより、AIが支払処理を行う際の法的整合性が担保されます。
  • 自己請求書(Self-billed invoices)の正式採用: 取引金額を正確に把握している側(買い手側など)が責任を持って請求を行う形態を標準化。取引確定の責任所在を明確化します。

サステナビリティ管理の日常化

サステナビリティは「特別な報告」から「日々の実務の副産物」へと変化しました。新しいAPIと販売請求書上のカーボンフットプリント表示機能により、環境負荷は売上データと並ぶ「日常の指標」となり、意識的なデータ収集を不要にする設計へと進化しています。

3-2.サプライチェーン & 製造:現場の迷いを払拭する(Eliminating field hesitation)

SCM・製造領域のテーマは、「熟練者の勘」を必要としないシステム設計への移行、そして「現場の心理的安全性の確保」です。

判断ミス」ではなく「判断の必要性」を減らす設計

  • 視覚化と属性管理: 品目バリアントへの画像登録と属性定義。ピッキングや受注時に「文字」ではなく「視認」で判断させることで、取り違えの不安を根絶します。
  • 統制と承認による安全策: 要求ワークシートおよび計画ワークシートに承認フローを導入。「勝手に発注される」恐怖を排除し、組織的な合意形成をプロセスに組み込みます。
  • 品質管理(Quality Management)の標準化: 受入・製造・組立の各工程における検査を標準拡張として提供。紙や外部ツールへの依存を脱却し、システムが合否判定と隔離を主導します。
  • 心理的安全性を支える柔軟性: ドロップシップメント(直送)における販売・仕入請求の独立処理、および請求前の柔軟な巻き戻し機能。一度の操作ミスが致命傷にならない設計が、現場の「システム利用への躊躇」を払拭します。

4.ガバナンス・開発・プラットフォーム:AI時代の統制基盤(Control base for AI era)

AIと自動化を前提とした「作り続けられる、守り続けられる」構造、

すなわち「職人芸」から「再現可能なエンジニアリングシステム」への転換が図られています。

ガバナンス:AIを閉じ込める「檻」としてのMCP

  • MCP(Model Context Protocol)Server: AIエージェントとBCを接続するこのサーバーは、AIに対する「ガードレール(檻)」として機能します。既定では「読み取り専用」に設定され、書き込み権限は管理者が意図的に許可しない限り解放されません。
  • Permissions Overview: 複数アプリを横断した権限の可視化。AIや人間が「どこまでアクセスできるか」を瞬時に棚卸し可能にします。

AL開発の工学化(Repeatable Engineering)

  1. セマンティック検索: メタデータを意味ベースで検索し、開発の初速を向上。
  2. NuGetからのシンボル取得: DockerやSandboxに依存せず、CI/CD環境でも標準的な手順で依存関係を解決可能に。
  3. MCP Serverのトラブルシューティング: AI連携時の通信や権限のボトルネックを可視化。
  4. BC-Bench: AI生成コードの品質と再現性を客観的に評価するベンチマーク。
  5. 完全修飾名(FQN)の利用: オブジェクト参照の曖昧さを排除し、大規模環境での事故を防止。
  6. VS Codeからのテスト実行: テストを開発の「外付け」ではなく「日常の作法」に統合。

5.廃止・変更機能の詳細と背景:アーキテクチャの近代化(Modernizing architecture)

Update 28.0では、将来のAI活用を阻害するレガシーが整理されました。

これは「画面・帳票中心」から「APIファースト・グローバル標準」への完全な転換を意味します。

廃止・変更対象 代替策・移行先 戦略的意図
レガシー Excelレポート Excel Layout / Power BI 「帳票を作るERP」から「データを分析・活用するERP」へ。
Business Central API v1.0 API v2.0 (GUID/SystemId) 複合キーを廃し、システム連携に最適化された一貫性のある構造へ。
UIページのAPI公開の廃止 専用のAPIページを作成 UIとAPIの厳密な分離。画面変更による外部連携エラーを根絶。
ローカル専用機能の統合 W1(世界共通版)への統合 単一コードベースによるグローバル運用の加速。

6.総括と次世代ERPの展望

Update 28.0は、Business Centralが「業務を記録する箱」から、人間とAIが協調して「ビジネスを動かす基盤」へと脱皮したことを象徴するリリースです。

特にOutlook連携の強化が示す通り、ERPはユーザーが「わざわざ開く場所」ではなく、日常の業務フローという「文脈の裏側にある統制基盤」へと姿を変えました。

今回のUpdate 28.0で実装された機能群を俯瞰すると、ERPはすでに『開く場所』ではなく『裏側で動く基盤』へと変化し始めています。

Outlookや日常業務フローに溶け込むその姿を見ると、ユーザーがERPを意識する場面は、今後確実に減っていくでしょう。

10年後、おそらく「ERP」という言葉は主語として語られなくなっているのではないでしょうか。

しかしその時、Business Centralは「どのAIにどこまで任せ、どこで人間が責任を持つのか」を決定する、

最も重要な「人とAIの責任分担の舞台装置」として機能し続けているはずです。

Update 28.0は、その未来を支える、地味だが揺るぎない、強固な土台なのです。

YouTube:Business Central Launch Event の紹介

今回のアップデートに関するさらなる技術的詳細や、開発チームによる直接の解説は、以下の公式リソースをご活用ください。私もまだ25%(1/4)くらいしか見れていません。

  • YouTubeプレイリスト: What’s new in Business Central 2026 release wave 1
  • 学習体験(BCLE): 全37本(2026年4月2日時点)のビデオを通じ、パートナーおよびユーザーが新機能を深く理解し、その価値を実業務で最大化するための包括的なスキル向上体験が提供されています。

ということで、ここまで解説した内容を、“より分かり易く”、AI君にプレゼンテーションしてもらいましょう!

<もう少し繊細なスライドがつくれるAIに育つように、教育・指導を継続します!>

では、ここからアーキテクト・開発者、コンサルタント、プロジェクトマネージャー、ガバナンス構築担当の方各々へ、

室長らしく、もう一段掘り下げていきたいと思います!

アーキテクト・開発者の視点で整理するAIAgentの実装レイヤー

AI Agentのアーキテクチャ

Business CentralのAI Agentは、単一のAI機能というよりも、いくつかの役割を分担した実行基盤として捉えるほうが理解しやすいです。

この構造を一度整理しておくことで、AIがどこで何をしていて、Business Centralがどこまでを担っているのかが見えてきます。

ユーザーがCopilot UIを通じて指示を出すと、その入力はCopilot Runtimeに渡されます。

Copilot Runtimeは、単にAIを呼び出す仕組みではなく、AI Agent全体の実行を支える基盤として機能しています。

その中で、処理の流れを組み立てているのがAgent Orchestratorです。

ユーザーの意図を解釈し、必要な業務情報をBusiness Central API経由で取得しながら、必要に応じてAzure OpenAI、

もしくはBYO-AIとして構成された外部モデルを呼び出します。

ここで押さえておきたいのは、AIがBusiness Centralのデータを直接操作するわけではない、という点です。

業務データとのやり取りは常にAPIを介して行われ、AIは主に判断や文章生成を担います。

定期実行や非同期処理が必要なシナリオではTask Schedulerが関与し、その実行結果や判断の痕跡はTelemetryやAudit logとして記録されます。

全体の流れを簡略化すると、次のようになります。

User

Copilot UI

Agent Orchestrator

Business Central API

Azure OpenAI / BYO AI

この構造を意識しておくと、AI Agentが「どこで考え、どこで業務ロジックにつながっているのか」を冷静に理解できるようになります。

BYO-AIの技術的な制約

BYO-AIは柔軟性の高い仕組みですが、実務で扱う際には、「できること」以上に「できないこと」を把握しておくことが重要です。

Business CentralからAzure OpenAI、あるいはBYO-AIに送信されるのは、Copilot Runtimeが生成したプロンプト単位の情報に限られます。

業務データが継続的にモデル側へ保持される構造ではありません。

プロンプトログは実行履歴として残りますが、それがモデルの再学習やトレーニングに利用されることはありません。

AIが業務データを学習して成長していく仕組みではない、という点は理解しておく必要があります。

セキュリティの観点ではTenant isolationが前提となっており、Business CentralのRBAC(Role-Based Access Control)も引き続き有効です。

AI Agentがユーザー権限を超えた操作を実行することはありません。

また、Data residencyについても、Business Centralのデータ配置ポリシーは維持されます。

AIを利用することで、データの所在が変わるわけではありません。

さらに、利用するモデルによって特性は異なります。

推論性能を重視したモデル、コスト効率に優れたモデル、構造化出力に強いモデルなど、それぞれ得意分野があります。

BYO-AIは選択肢を広げる一方で、設計側の判断がより重要になる領域でもあります。

拡張開発への影響

Business Centralの開発者にとって、AI Agentはまったく新しい開発モデルというよりも、「業務ロジックの呼び出し元が増えた」と捉えるほうが実感に近いかもしれません。

AI AgentはAL Extensionを直接操作するのではなく、拡張機能として公開されたAPIやCustom actionを通じて業務処理を呼び出します。

たとえば、次のようなCodeunitを用意しておきます。

——————————————————————————————————
codeunit 50100 SalesAgent
{
    procedure AnalyzeCustomer()
}
——————————————————————————————————
このAnalyzeCustomerをAI AgentがAPIとして呼び出し、返却された結果をもとに、次の判断やユーザーへの応答を組み立てます。業務ロジック自体は、これまでどおりAL Extensionの中にあります。変わるのは、「誰がそれを呼び出すのか」という点です。このように整理すると、AI Agentは既存の拡張開発を置き換える存在ではなく、その上に判断と対話のレイヤーを一段重ねるものとして捉えられます。
次はコンサルタント向けに、一段掘り下げます。

コンサルタントの視点で見る業務シナリオ

先ほど技術構成を整理しましたが、実際のプロジェクトでは、「このAI Agentで、誰の仕事がどう変わるのか?」が理解できないと議論が進まないと思います。そこで、いくつかの代表的な業務シナリオで整理しておきますね。

Finance業務:月次決算

月次決算は、Business Centralを導入している企業であっても、最終的には人の目と経験に頼っているケースが多い業務です。

従来の流れは、おおむね次のようになります。

 

仕訳チェック

異常の確認

説明資料・レポート作成

 

AI Agentを前提にすると、ここでの役割分担が少し変わります。

 

AI Agent
異常仕訳の検知

異常理由の推定(過去傾向・取引パターンとの比較)

CFO向けレポートの下書き生成

 

ここで重要なのは、AIが決算を締めるわけではないという点です。AI Agentは、異常を見つけ、説明の材料を整理するところまでを担います。最終的な判断、修正、承認はこれまでどおりFinance部門とCFOが行います。

購買業務:発注判断

購買領域では、AIの活用が過度に期待されがちですが、実務では線引きがとても重要です。想定されるAI Agentの役割は、次のようになります。

 

AI Agent
需要予測

発注案の作成

承認ワークフローへの連携

 

ここでのポイントは明確です。AIは「提案」まで。承認と責任は人間の担当です。発注数量やタイミングの「案」をAIが提示し、その妥当性を判断するのは購買担当者、もしくは管理者です。この構造にしておくことで、「判断責任の所在が曖昧にならない」「内部統制や監査の前提を崩さない」というメリットがあります。コンサルタントの立場では、この線引きを最初に合意できるかどうかが、プロジェクトの成否を分けます。

在庫管理:過剰在庫への対応

在庫領域は、Business Centralの顧客にとって特に関心が高いテーマです。ここでも、AI Agentは「判断の代行」ではなく「気づきの提供」を担います。

 

AI Agent
過剰在庫の検出

値下げ案の提示

キャンペーン案の生成

 

たとえば、「回転率の低下」「季節性との乖離」「過去キャンペーンとの比較」といった観点から、対応案を整理します。実際に価格を変更するか、キャンペーンを実施するかは、営業やマーケティング、経営判断の領域です。このように整理しておくと、AI Agentは「在庫を処分する存在」ではなく、意思決定の材料を前に出してくる存在として位置づけられます。

次は、プロジェクトマネージャー向けに補足しておきますね。

プロジェクト視点で見るAIAgent導入の進め方

AIAgentの話をすると、「最初からAIを前提に設計すべきか」という質問を受けることがあります。しかし、実際のプロジェクトでは、AIAgentは段階的に組み込まれていくものとして捉えるほうが現実的です。Business Central導入プロジェクトの流れに重ねると、次のように整理できます。

 

導入フェーズの整理

Phase1:AIなしのBusiness Central

まずは、AIを前提としないBusiness Centralの導入です。

 

業務プロセスの標準化
基本機能での業務定着
マスタとトランザクションの安定運用

 

このフェーズでは、「正しく入力され、正しく回るERP」を作ることが最優先です。

AIAgentを意識しすぎると、かえって設計が複雑になります。ここでは、AIはまだ登場しません。

 

Phase2:Copilotによる業務補助
次の段階で、Copilotによる業務補助が入ってきます。

 

検索や要約の支援
レポート作成の下書き
日常業務の負荷軽減

 

このフェーズでは、「AIが業務を理解してくれる感覚」を現場が体験し始めます。ただし、業務の流れそのものは変わりません。判断も承認も、引き続き人が行います。

 

Phase3:AIAgentの運用
最後に、AIAgentが業務フローの中に組み込まれます。

 

異常の検知
選択肢の提示
承認前の情報整理

 

ここで初めて、AIが業務プロセスの一部として常駐する形になります。重要なのは、Phase3はPhase1・2の延長線上にある、という点です。いきなりAIAgentから始めるプロジェクトは、ほとんど成功しません。

 

導入時に直面しやすい課題

プロジェクト視点で見ると、AIAgent導入の課題は技術よりも前にあります。

 

データ品質

AIAgentは、Business Centralにあるデータを前提に動きます。マスタが不揃いな状態では、提案や判断も安定しません。「AIが賢くない」のではなく、「AIに渡している前提情報が揃っていない」ケースがほとんどです。

 

マスタ整備

特に重要なのがマスタです。

勘定科目
取引先
商品
在庫分類

ここが整理されていないと、異常検知や傾向分析の精度は上がりません。AIAgent導入は、マスタ整備の重要性を改めて可視化するタイミングでもあります。

 

プロンプト設計

 

最後に残るのが、プロンプト設計です。AIAgentは、何を目的に、どこまで判断してよいのか。

この前提を曖昧にすると、期待と挙動がズレます。

 

どの情報を使ってよいか
どこで人に戻すか
どの表現で出力するか

 

これは技術設定というより、業務設計そのものです。

 

続いて、運用・監査責任者向けに、IT統制・ガバナンス領域における補足をしておきますね。

 

運用責任者の視点で考えるAIAgentにおける実行責任とガバナンス設計

運用ガバナンスという前提

ここまで、AI Agentの技術構造、業務シナリオ、導入フェーズを整理してきました。しかし、これらすべての前提として、運用ガバナンスを避けて通ることはできません。

 

テーマを一言で表すなら、「Autonomous with Responsibility」です。AI Agentは自律的に動きます。しかし、その自律性は「無制限」ではありません。責任を持って動くための枠組みがあって、初めてAutonomousと言えます。

 

AI運用ポリシー

 

まず必要になるのが、AI運用ポリシーです。AI Agentは何をしてよいのか、何をしてはいけないのか、どの業務レベルまで関与してよいのかこれを明文化しないまま運用を始めると、「便利だから」「動くから」という理由で、いつの間にか責務が拡張されていきます。ポリシーはAIを縛るためのものではなく、AIを業務に安心して組み込むための前提条件です。

 

Agent権限設計

 

次に重要なのが、Agentの権限です。AI Agentは、Business Centralのユーザーとして振る舞います。つまり、RBACの枠組みの中で、明示的に権限を与えられる存在です。

 

読み取り専用か
下書き作成までか
承認前の状態までか

 

この粒度を曖昧にすると、「誰がやった処理なのか」が後から説明できなくなります。エンタープライズでは、権限は“与えられたものだけができる”設計でなければなりません。

 

Agentログと可視性

 

Autonomous with Responsibilityを成立させるうえで、ログは単なる運用情報ではありません。

 

AI Agentが

何を判断し
どのActionを選び
いつ実行しようとしたのか

 

これが追えることが、信頼の前提になります。

 

Human overrideという考え方

 

最後に欠かせないのが、Human overrideです。

AI Agentは自律的に動きますが、最終的に止められるのは人でなければなりません。

 

承認を要求する
差し戻す
途中でキャンセルする

 

この「人に戻すポイント」を、設計段階で明示しておく必要があります。これはAIを信用していないからではありません。責任を引き受ける主体を明確にするためです。

 

監査の視点で見るAI Agent

エンタープライズ顧客にとって、最終的に問われるのは「説明できるかどうか」です。AI Agentの実行は、次のように再構成できなければなりません。

 

Agent

Action

Timestamp

User approval

 

つまり、

 

どのAgentが
どの操作を試み
いつ実行され
誰が承認したのか

 

この一連の流れが、後から追跡できることが前提になります。これはAI特有の話ではなく、これまでERPが守ってきた内部統制と同じ考え方です。運用ガバナンスというと、スピードを落とすための仕組みに見えることがあります。しかし実際には逆です。

 

責任の所在が明確で
止められる仕組みがあり
説明できる状態が保たれている

 

だからこそ、AI Agentは安心して業務に組み込めます。Autonomous with Responsibilityとは、自由に動くことではなく、責任を引き受けられる範囲で自律させることです。この前提があって初めて、AI Agentはエンタープライズの業務に耐える存在になります。

 

AIAgentを業務に組み込むための全体像

Business CentralにおけるAIAgentを、特定の機能紹介ではなく、役割と責務の構造として整理してきました。

まず、アーキテクト・開発者の視点では、AIAgentを単一のAI機能ではなく、Copilot Runtime、Agent Orchestrator、API、外部モデルによって構成される実行基盤として捉えました。この整理によって、AIがどこで考え、どこで業務ロジックと接続されているのかが見えてきます。また、BYO-AIの技術的制約やRBACによる権限制御を前提にすることで、「任せられること」と「任せてはいけないこと」の境界も明確になります。

次に、コンサルタントの視点では、「このAIAgentで、誰の仕事がどう変わるのか」という問いを、業務シナリオに落とし込みました。Finance、購買、在庫といった代表的な業務において、AIAgentは判断を代行する存在ではなく、判断の前段を整える存在として位置づけられます。最終的な意思決定と責任は、これまでどおり人が引き受ける。このHuman in the Loopの整理が、現場に受け入れられるかどうかを左右します。

さらに、プロジェクト視点では、AIAgent導入は段階的に進めるものだという整理を行いました。安定したERP運用を土台とし、Copilotによる補助を経て、AIAgentが業務に常駐する。その過程で必ず問われるのが、データ品質、マスタ整備、そしてプロンプト設計です。これらは技術課題というより、業務設計と組織成熟度の問題でもあります。

最後に、運用責任者と監査の視点から、Autonomous with Responsibilityという考え方を整理しました。AIAgentが自律的に動くためには、運用ポリシー、権限設計、ログ、Human override、監査可能性といったガバナンスの前提が欠かせません。これはAI特有の新しい考え方ではなく、ERPがこれまで守ってきた内部統制を、AIAgentの世界に拡張したものです。

ここまでを通して見えてくるのは、AIAgent導入は「AIを入れる話」ではない、ということです。

業務
データ
判断
責任

これらの関係を改めて整理し、合意するプロセスそのものが、AIAgent導入の本質だと感じています。AIAgentは、人の代わりに仕事を奪う存在ではありません。人が判断すべき場面で、迷わず判断できるように、必要な情報と選択肢を、少し早めに差し出してくる存在ですね。

最後に、アーキテクト・開発者、コンサルタント、プロジェクトマネージャー、運用ガバナンス設計者視点で今回のアップデートを補足しました。

あとは、最高のプロジェクトをお客様にお届けするだけですね!

祝 Dynamics 365 Business Central 2026 release wave 1 一般公開!

Dynamics 365 Business Centralの製品開発チームの皆さん、Update 28.0のリリース、おめでとうございます!

Dynamics 365 Business Centralのユーザー様、アップデートの準備を宜しくお願い致します!

Dynamics 365 Business Centralの導入パートナー様、お客様のアップデートサポートを宜しくお願い致します!

そろそろ、“室長”も、Directions Asia 2026のプレゼン準備に着手します。

パートナー様、マイクロソフト様、ホーチミンでお会いしましょう☺

以上、室長でした。

dx365jp
  • dx365jp
  • 25年ほど、Microsoft Dynamics 365 【ERP(NAV/AX)+CRM】の導入コンサルティングに従事し、日本を含む34か国において導入コンサルティングを経験してきました。グローバル環境における“プロジェクト”と“マーケティング”を生業としております。

    最近は、【CRM/MKTG(攻めのDX)⇔ ERP(守りのDX)】+【ローコード】というDX365な活動に奮闘中です。Microsoft Dynamics 365 ビジネスで地球を92周中です。#DX365 #DynamicsIoT

    Microsoftの運営する外部技術者グローバル組織「Microsoft MVP(*日本163名/世界3674名)・ Microsoftのトラスティッドアドバイザーである「Microsoft Regional Director (*日本4名/世界167名)」として、複数のITコミュニティーにて活動中。(*2026/08/08時点)

    プロフィールはこちら→bit.ly/Dynamics365JP