Dynamics365 2026 wave1_CustomerInsights_Data

こんばんは。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?

“室長”こと、吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。

Dynamics 365 2026 wave 1の情報が2026年3月18日に公開されたので、深夜コツコツ解説を書いています。

ここまで、なんとか12本のBlogを公開しました。いやぁ、あと少しです。体力の限界に挑戦ですね!

多くの方々に、お読みいただいているようでとても嬉しいです。いつも、本当にありがとうございます!

さて、本稿ではDynamics 365 Customer Insight-Dataについて、新機能を解説していきたいと思いますので、最後までお付き合いいただけますと幸いです。

Dynamics 365 Customer Insight – Data 2026 wave 1

―2026 release wave 1(2026年4月〜9月)におけるDynamics 365 Customer Insight – Dataの新機能・改善点―

D365 Customer Insight – Dataよ、君はどこへ向かおうとしているのか?

Customer Experienceを語るとき、「体験」そのものに目が向くことは多くても、その判断の土台となっている「データ」については、つい後回しにされがちです。しかし、誰に何を届けるのか、どこで止めるのか、次に誰が動くのか。そのすべての判断は、顧客データの在り方に強く依存しています。Customer Insight – Dataは、表に出ない存在でありながら、すべての体験の前提を握っているプロダクトです。

これまでのCustomer Insight – Dataは、「散らばった顧客情報を一つにまとめる」「正しい顧客像を作る」ことが主な役割でした。もちろん、それ自体は今も変わらず重要です。ただ、2026 wave 1の計画を眺めていると、Dataは単なる“統合の箱”ではなく、「判断に耐える前提をどう作るか」という役割へ、静かに重心を移しているように見えます。

Journeysで体験を調整し、SalesやServiceで次の行動を決める。その裏側で、「その判断はどのデータに基づいているのか」「本当に同じ顧客を見ているのか」という問いが、これまで以上に重くなっています。Customer Insight – Dataは、その問いに答えられなければならない立場に置かれています。単にデータを集めるだけでは足りず、信頼できる形で、文脈を持って使われることが求められています。

2026 wave 1では、AIやエージェントの話題も増えていますが、ここでも主役はデータそのものではありません。主役は、データをもとに判断する人です。Customer Insight – Dataは、AIが勝手に結論を出すための材料庫ではなく、人が安心して判断できるための“根拠”を整える基盤として、再定義されつつあるように感じます。

この先の章では、Dynamics 365 Customer Insight – Data 2026 wave 1の新機能や改善点を通して、データはどこまで自動で整えられ、どこに人の意思が残されているのか。統合された顧客像は、誰のために、どの場面で使われるのか。その視点から、Customer Insight – Dataが向かおうとしている方向を、室長の勝手な解釈で読み解いていきたいと思います。

≪Agents and Copilot≫

Increase agent accuracy by grounding the agent in customer insights

AIエージェントが増えれば増えるほど、避けて通れない問いがあります。それは、「その判断は、本当に正しい前提に基づいているのか」という点です。どれだけ高度な推論ができても、参照している顧客情報が断片的であれば、判断は簡単にズレてしまいます。Increase agent accuracy by grounding the agent in customer insightsは、そのズレを前提から減らそうとする取り組みです。

この機能が示しているのは、とてもシンプルな考え方です。エージェントは賢くする前に、正しい前提を与える必要がある。Customer Insight – Dataで統合・整理された顧客プロファイルやインサイトを、Copilotや自律エージェントが直接参照できるようにすることで、エージェントの判断精度を底上げします。ここで重要なのは、新しい推論ロジックを足すことではなく、「何を知った状態で考えさせるか」を揃えることです。

例えば、CRM上では単なる新規リードに見えている顧客が、実は過去に複数の契約履歴を持つ既存顧客だった場合。従来であれば、エージェントは表面的な情報だけをもとに判断し、優先度を誤る可能性がありました。Customer Insight – Dataで統合された顧客像を参照できるようになることで、エージェントはその顧客の履歴、関係性、予測指標を踏まえた判断ができるようになります。精度が上がる理由は、AIが賢くなったからではなく、前提が揃ったからです。

2026 wave 1全体の流れで見ると、この機能もまた「エージェントに任せる」方向には振れていません。主役はあくまで人であり、エージェントは判断を補助する存在です。その補助が暴走しないために、Customer Insight – Dataは「信頼できる顧客理解」をエージェントに提供する役割を担い始めています。言い換えると、Customer Insight – Dataは、AIを賢くするための燃料ではなく、判断を誤らせないための地盤になろうとしています。

また、この仕組みはマーケティングだけの話ではありません。営業、サービス、サポートといった役割ごとに、同じ顧客を見ているつもりで、実は違う前提で判断している。そのズレを、エージェントがさらに拡大してしまうリスクもあります。Customer Insight – Dataで統合された顧客理解を共通の参照点にすることで、エージェントの判断も、人の判断も、同じ土台に揃えようとしています。

留意点としては、エージェントに渡す情報が増えるほど、「何を正として扱うか」を決める責任が重くなる点です。統合されたデータが常に正しいとは限りませんし、設計を誤れば、エージェントは自信を持って間違った判断をします。この機能は、エージェントを魔法の存在にするものではなく、「判断の前提を設計する責任」を、より明確に人に突きつける機能だとも言えます。

Increase agent accuracy by grounding the agent in customer insightsは、AIの精度を語る機能ではありません。Customer Insight – Dataが向かっているのは、「誰が判断しても、同じ顧客を見ていられる状態」を作ることです。その状態があって初めて、エージェントは“使える存在”になります。Customer Insight – Dataは、AI時代の裏方として、判断を支える地盤を静かに、しかし確実に固めにいっている。室長には、そう見えています。

≪Elevate Customer Experiences≫

Use Microsoft Fabric OneLake as a data source

Customer Insight – Dataを語るとき、避けて通れないテーマがあります。それは、「そのデータは、どこから来ているのか」という問いです。顧客データは、CRMだけに存在するものではありません。基幹システム、分析基盤、外部データ、ログ。現実の顧客理解は、常に複数の場所に分散しています。Use Microsoft Fabric OneLake as a data sourceは、その分散を“前提として受け入れる”ための一歩だと感じます。

この機能が意味するのは、Customer Insight – Dataが、Dataverseの中だけで完結する世界から一歩踏み出し、分析基盤そのものを顧客理解の源泉として扱い始めたということです。Fabric OneLakeに蓄積されたデータを、そのままCustomer Insight – Dataの入力として利用できるようになることで、「分析のためのデータ」と「体験や判断のためのデータ」が、別物である必要がなくなってきます。

これまで多くの組織では、分析用のデータ基盤と、業務アプリケーション用のデータが分断されていました。BIやデータサイエンスの世界で見えている顧客像と、現場のCRMで見えている顧客像が、完全には一致しない。そのズレは、判断の遅れや、説明できない違和感として現場に跳ね返ってきます。OneLakeをデータソースとして扱えるようになることは、そのズレを「運用で頑張る」以外の方法で解消しようとしています。

重要なのは、これが「より多くのデータを取り込めるようになる」という話ではない点です。本質は、「どこで整えたデータを、どこで使うのか」という責任の置き方が変わることにあります。OneLake側で定義されたデータモデルや加工結果を、Customer Insight – Dataがそのまま参照することで、顧客理解の前提が、分析チームと業務チームの間で揃いやすくなります。データをコピーして持ち回るのではなく、同じ湖を、違う立場から見るという発想です。

2026 wave 1全体の流れで見ると、この機能もまた、「AIを賢くするための拡張」ではありません。AIやエージェントが判断する以前に、その判断が立脚しているデータが、どれだけ一貫しているか。その地盤を整えることに、Customer Insight – Dataは強く意識を向けています。エージェントが参照する顧客像が、分析基盤と食い違っていては、精度以前に信頼が成立しません。

また、この取り組みは、Customer Insight – Dataを“CDP”として閉じた存在にしない、という意思表示にも見えます。データの主戦場がFabricに移りつつある中で、Customer Insight – Dataは、その上に乗る判断レイヤーとしての役割を強めています。データを集める場所ではなく、データをどう解釈し、どう使うかを担う場所へ。OneLake対応は、その方向転換を象徴しているように思います。

留意点としては、データソースが広がるほど、「どのデータを正とするのか」という設計の重要性が増す点です。OneLakeにあるから正しい、という話ではありません。どの加工結果を信頼し、どの粒度で顧客を捉えるのか。その判断は、人が設計し続ける必要があります。この機能は、データ活用を楽にするものではなく、「データ設計の責任」をより明確にするものだとも言えます。

Use Microsoft Fabric OneLake as a data sourceは、派手な機能ではありません。しかし、Customer Insight – Dataが向かっている「判断に耐える前提をどう作るか」というテーマを、最も構造的に示している機能のひとつだと感じます。顧客理解は、どこか一つのシステムで完結するものではありません。その現実を受け入れたうえで、判断の土台を揃えにいく。Customer Insight – Dataは、静かに、しかし確実にその方向へ進んでいるように見えます。

≪Turbocharge Your Pipeline to Drive Growth≫

Target right audience based on signals from earlier campaigns

顧客体験を設計するうえで、最ももったいない瞬間は、「すでに分かっている反応」を活かしきれないときです。誰がメールを開き、誰がクリックし、誰が何も反応しなかったのか。その情報は、これまで主に“振り返り”のために使われてきました。Target right audience based on signals from earlier campaignsは、その反応を次の判断に直接つなげるための機能です。

この機能によって、過去のキャンペーンでの行動シグナル──メールの開封、リンクのクリック、反応しなかったという事実──を、Customer Insight – Dataのセグメント定義にそのまま使えるようになります。つまり、「どんな顧客か」だけでなく、「これまでどう反応してきたか」を前提にしたターゲティングが、データ基盤側で自然にできるようになります。

例えば、高い価値が見込まれる顧客の中でも、直近のキャンペーンにきちんと反応している人と、まったく反応していない人では、次に打つべき一手は変わります。前者には踏み込んだ提案を、後者にはチャネルや文脈を変えたアプローチを検討すべきかもしれません。行動シグナルを使ったセグメントは、そうした判断を感覚ではなく、事実に基づいて行うための材料になります。

ここで重要なのは、反応した人だけを追いかける話ではない点です。「反応しなかった」というシグナルも、立派な判断材料です。何度も開封されなかったメール、無視されたリンク。それらを“失敗”として片付けるのではなく、「この顧客には別の接し方が必要だ」という前提として扱えるようになります。Customer Insight – Dataは、成功と失敗の両方を、次の設計に活かそうとしています。

2026 wave 1全体の流れで見ると、この機能もまた、「ジャーニーを賢くする」というより、「判断を揃える」方向に寄っています。誰を次のジャーニーに入れるのか、誰を外すのか。その判断が、部門や担当者の感覚に依存せず、共通のデータに基づいて行えるようになります。Journeysで起きた反応が、Data側に戻り、次のターゲティングに反映される。その循環が、ようやく自然につながり始めています。

留意点としては、行動シグナルを重視しすぎると、「声を上げない顧客」を切り捨ててしまう危険がある点です。反応しない理由は、関心がないからとは限りません。タイミングが悪かった、チャネルが合わなかった、忙しかった。その解釈は、人が考える余地を残す必要があります。この機能は、判断を自動化するものではなく、「判断の材料を増やす」ためのものです。

Target right audience based on signals from earlier campaignsは、Customer Insight – Dataが「静的な顧客像」から「行動の履歴を含んだ顧客理解」へ進んでいることを象徴する機能だと感じます。顧客を属性で切るのではなく、関係性の積み重ねとして捉える。その視点を、データ基盤の側から支え始めている。Customer Insight – Dataは、体験の裏側で、判断の質を静かに引き上げようとしているように見えます。

D365 Customer Insight – Dataよ、君はどこに向かっているのかい?

Dynamics 365 Customer Insight – Data 2026 wave 1を一通り見渡して、最初に感じるのは、「データを増やす話」では終わっていない、という点です。新しい接続先や、より高度な分析、AIとの連携。そうした言葉は並んでいますが、全体を貫いているのは、「そのデータは、誰のどんな判断を支えるのか」という問いです。

これまでのCustomer Insight – Dataは、散らばった顧客情報を集め、統合し、正しい顧客像を作ることに力を注いできました。それは今も変わらず重要です。ただ、2026 wave 1で見えてくるのは、Customer Insight – Dataが「正しい顧客像を作る場所」から、「判断に耐える前提を揃える場所」へと、静かに役割を変え始めていることです。

Journeysで体験を調整し、SalesやServiceで次の行動を決める。その裏側で、エージェントが提案し、人が判断する。その一連の流れが成立するかどうかは、「本当に同じ顧客を見ているか」「同じ前提で考えているか」にかかっています。Customer Insight – Dataは、その前提を揃えられなければ意味を持ちません。

AIやエージェントが前面に出てくる今だからこそ、Customer Insight – Dataの立ち位置はより重要になっています。エージェントを賢くするための燃料庫ではなく、エージェントも人も判断を誤らせないための地盤。統合された顧客理解を、共通の参照点として提供することで、「誰が見ても同じ顧客に見える」状態を作ろうとしています。

Microsoft Fabric OneLakeとの連携も、過去キャンペーンの行動シグナルの活用も、エージェント精度向上の話も、すべてこの一点につながっています。どこで整えたデータを、どこで使うのか。どの反応を次の判断に活かし、どこで解釈を人に委ねるのか。Customer Insight – Dataは、データを自動で処理する場所ではなく、「判断の責任を設計する場所」になりつつあります。

もちろん、ここにはリスクもあります。前提を誤れば、エージェントは自信を持って間違い、セグメントは静かにズレていきます。だからこそ、Customer Insight – Dataは魔法の答えを出すプロダクトではありません。むしろ、「どのデータを正とするのか」「どの判断を自動にし、どこを人に残すのか」という問いを、これまで以上に明確に突きつけてきます。

D365 Customer Insight – Data よ、君はどこに向かっているのかい?

その答えは、「より高度なCDP」ではないように思います。向かっているのは、体験・行動・判断のすべてが同じ前提で語れる世界です。データを集めるための場所から、判断を支えるための基盤へ。Customer Insight – Dataは、表には出ない裏方であり続けながら、Customer Experience全体の質を静かに底上げしようとしています。

派手さはありません。しかし、Journeysが迷わず動き、エージェントが暴走せず、人が納得して判断できる。そのすべては、このDataがどれだけ丁寧に設計されているかにかかっています。Customer Insight – Dataは、AI時代の主役ではありません。けれど、主役たちが立つための舞台を、誰よりも真剣に整えている。室長には、そう見えています。

データは語らない。けれど、正しく整えられたデータは、判断を裏切らない。

Customer Insight – Dataが、いよいよCDPとして本領発揮するステージに入ってきた気がします!

次回予告|Dynamics 365 2026 wave 1総集編―すべてを貫いていたのは、「判断」をどう支えるかだった

ここまで、Dynamics 365 2026 wave 1を、アプリケーションごとに追いかけてきました。

Deprecations から始まり、Business Central、SCM、Finance、Project Operations、Commerce、Human Resources、Sales、Customer Service、Contact Center、Field Service、そして Customer Insight – Journeys と Customer Insight – Data、以上13の内容をお届けしてまいりました。

それぞれ立場も役割も異なるプロダクトですが、読み解いていく中で、ある共通した流れが見えてきました。それは、「機能を増やすこと」や「AIを前面に出すこと」ではありません。むしろ一貫して語られていたのは、人が行う判断を、どう壊さずに支えるかというテーマでした。

現場で迷わず操作できるか。判断の前提となる情報は揃っているか。エージェントは暴走せず、人の意図を補助できているか。計画と実行、体験と行動、データと意思決定は、同じ文脈でつながっているか。

Sales でも、Service でも、Field Service でも、Customer Insights でも、Dynamics 365 2026 wave 1は、「自動化するか/しないか」ではなく、どこまでを人に残し、どこをシステムが支えるのかを、かなり慎重に設計しているように見えます。

次回の総集編では、これまでの各Blogを横断しながら、Dynamics 365 2026 wave 1全体を貫いていた思想を、改めて整理してみたいと思います。

なぜ、派手な新機能が少ないのか。なぜ、UIや裏側の改善が多いのか。なぜ、AIは主役ではなく、常に「補助線」に留まっているのか。

Dynamics 365は、いま何を変えようとしているのか。そして、その変化は、現場で働く私たちに何を求めているのか。

Dynamics 365 2026 wave 1 総集編では、個別機能の解説ではなく、「全体として、どこへ向かっているのか」を、室長の勝手な解釈で、静かにまとめてみる予定です。

長い旅も、いよいよ最後です。もう少しだけ、お付き合いいただければ幸いです。

それでは、今日はこのくらいで。Let’s Enjoy our DX365 Life!

dx365jp
  • dx365jp
  • 25年ほど、Microsoft Dynamics 365 【ERP(NAV/AX)+CRM】の導入コンサルティングに従事し、日本を含む34か国において導入コンサルティングを経験してきました。グローバル環境における“プロジェクト”と“マーケティング”を生業としております。

    最近は、【CRM/MKTG(攻めのDX)⇔ ERP(守りのDX)】+【ローコード】というDX365な活動に奮闘中です。Microsoft Dynamics 365 ビジネスで地球を92周中です。#DX365 #DynamicsIoT

    Microsoftの運営する外部技術者グローバル組織「Microsoft MVP(*日本163名/世界3674名)・ Microsoftのトラスティッドアドバイザーである「Microsoft Regional Director (*日本4名/世界167名)」として、複数のITコミュニティーにて活動中。(*2026/08/08時点)

    プロフィールはこちら→bit.ly/Dynamics365JP