Dynamics365 2026 wave1_CustomerService

こんばんは。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?

“室長”こと、吉島良平Microsoft MVP for Business Applications Microsoft Regional Director)です。

Dynamics 365 2026 wave 1の情報が2026年3月18日に公開されたので、深夜コツコツ解説を書いています。

ここまで、8本のBlogを公開しました。

多くの方々に、お読みいただいているようでとても嬉しいです。

本稿では、Dynamics 365 Customer Serviceについて、新機能を解説していきたいと思いますので、最後までお付き合いいただけますと幸いです。

Dynamics 365 Customer Service 2026 wave 1

―2026 release wave 1(2026年4月〜9月)におけるDynamics 365 Customer Serviceの新機能・改善点―

D365 Customer Serviceよ、君はどこへ向かおうとしているのか?

Dynamics 365 Customer Service 2026 wave 1の計画を眺めて、最初に感じるのは、今回のアップデートもまた「分かりやすい改善」や「目に見える効率化」を前面に押し出したものではない、という点です。問い合わせ対応を速くする、件数を多く捌く、オペレーターの作業を減らす。そうした従来の文脈だけで語れる進化ではなく、Customer Serviceという領域そのものを、少し違う角度から捉え直そうとしている印象を受けます。

これまでのD365 Customer Serviceは、「正しくケースを管理すること」「適切に割り当て、解決まで導くこと」が価値の中心にありました。ケース管理、ルーティング、ナレッジ、SLA。顧客対応を組織として安定運用するための基盤として、その役割は十分に果たしてきたと思います。ただ、2026 wave 1の機能群を俯瞰すると、その延長線だけでは説明しきれない変化が見えてきます。

顧客はいま、何に不満を感じているのか。この問い合わせは、単なる質問なのか、それとも関係性が崩れかけている兆候なのか。オペレーターが次に取るべき行動は、本当にその定型対応でよいのか。どこで人が判断し、どこまでをシステムに任せるべきなのか。

Customer Service 2026 wave 1は、こうした問いに対して、「処理を速くする」だけではなく、「判断の前提を整える」方向へと軸足を移しているように見えます。Copilotやエージェントは、答えを代わりに出す存在というよりも、状況を整理し、変化に気づかせ、次の判断を支えるための存在として配置されています。

Salesで起きている変化と同じく、Customer ServiceでもAIは主役ではありません。主役はあくまで人であり、AIはその判断を助ける補助線に過ぎない。その前提を保ったまま、顧客対応という仕事を「対応の連続」から「判断の積み重ね」へと変えようとしている。そんな意図が、2026 wave 1の随所から読み取れます。

この先の章では、Dynamics 365 Customer Service 2026 wave 1に含まれる具体的な新機能や改善点を通して、Customer Serviceがどこへ向かおうとしているのかを、室長の勝手な解釈で整理していきたいと思います。営業と同じく、顧客対応もまた「考える仕事」へと戻ろうとしているのか。その変化を、少し距離を置いた視点から見ていきましょう。

≪Copilot and AI Innovation≫

Simulate case‑resolution flows before production

Customer Serviceの現場でAIを本格的に使おうとするとき、最初に立ちはだかるのは「この振る舞いを本番で出して本当に大丈夫なのか」という不安です。顧客に返る文章のトーンは適切か、意図の解釈はズレていないか、ツールやエージェントの呼び出しは想定どおりか。もし間違えれば、その影響はそのまま顧客体験に跳ね返ります。Simulate case‑resolution flows before productionは、そうした不安を前提に、Customer ServiceにおけるAI活用を一段階前に進めるための機能です。

この機能は、実際の顧客に応答を返すことなく、ケース解決の流れ全体を事前に再現できるようにします。意図の判定から応答文のドラフト、内部ツールやカスタムエージェントの呼び出しまでを含めて、ケースがどのように処理されるのかをエンドツーエンドで確認できます。本番さながらの挙動を、安全な環境で試せる点が大きな特徴です。

例えば、Case Management Agentを使って問い合わせの一次対応や解決提案を自動化しようとする場面で、「この質問は正しく分類されるのか」「この文面は顧客に失礼ではないか」「不要なツール呼び出しが発生しないか」といった点を、顧客に影響を与える前に検証できます。従来であれば、こうした確認は限定的なテストか、実際に出してみてから調整するしかありませんでしたが、この機能によって“出す前に確かめる”という選択肢が現実的になります。

2025wave2まででも、Customer Serviceの設定やAI活用は可能でしたが、設定の良し悪しを判断する材料は感覚的になりやすく、「小さく出して様子を見る」以外に手段がないケースも多くありました。そのため、導入判断や承認に時間がかかり、結果としてAI活用が慎重になりすぎる場面も見られました。

2026wave1では、シミュレーションという形で、解決精度、曖昧なポイント、失敗パターン、ツール利用状況などを可視化し、設定や指示内容と紐づけて振り返れるようになります。これにより、どこを直せばよくなるのか、どこまでなら本番に出せるのかを、感覚ではなく材料を持って議論できるようになります。Customer ServiceにおけるAI活用を、一気に進めるための仕組みというよりも、段階的に育てていくための安全装置として位置付けられているように見えます。

留意点としては、この機能自体が自動化を保証するものではない点です。シミュレーションの結果が良好でも、それがすべての実ケースで通用するとは限りません。また、シミュレーションで何を見るのか、どのレベルを合格とするのかを組織として定義しておかないと、確認作業が目的化してしまう可能性もあります。この機能はCustomer Serviceを自動化するための近道ではなく、「安心して任せられる範囲を見極める」ための道具として使うことで、真価を発揮すると言えそうです。

View customer sentiment indicators on a case

Customer Serviceの現場では、ケースの内容そのものだけでなく、「顧客がいまどんな感情状態にあるのか」をどう捉えるかが、対応の質を大きく左右します。View customer sentiment indicators on a caseは、その感情の変化を担当者が感覚ではなくシグナルとして把握できるようにするための機能です。顧客のやり取りから読み取れるセンチメントをケース上に表示し、いまの対応が順調なのか、それとも関係性が悪化しつつあるのかを、作業の流れを止めずに確認できるようにします。

例えば、同じ問い合わせ内容であっても、顧客が冷静に質問しているのか、苛立ちや不満を強めているのかによって、取るべき対応は変わります。返信のトーンを少し柔らかくすべきか、早めに上位者に引き継ぐべきか、定型対応で済ませてよいのか。これまでは、メールやチャットの文面を読み返し、担当者の経験や勘に頼って判断するしかありませんでした。この機能によって、ケースを開いた瞬間に「感情の傾き」が可視化され、対応の方向性を考えるための前提が一段整います。

2025wave2まででも、会話の内容そのものは確認できましたが、感情の変化を俯瞰的に捉えるには、担当者が履歴を追って読み解く必要がありました。そのため、忙しい現場では兆候を見逃したり、問題が顕在化してから気づくケースも起こり得ました。特に、複数のオペレーターが関与するケースでは、引き継ぎの際に感情の文脈が抜け落ちやすいという課題もありました。

2026wave1では、顧客センチメントがケース上の指標として表示されることで、「何が起きているか」だけでなく「どう受け止められているか」を含めて把握できるようになります。これは、単にオペレーター向けの機能にとどまりません。スーパーバイザーがリスクの高いケースを早めに察知したり、対応方針を調整したりするための材料としても機能します。Customer Service全体を、事後対応ではなく、兆候ベースで立て直せる方向へ寄せているように見えます。

留意点としては、センチメントはあくまで補助的なシグナルであり、万能な判断基準ではないという点です。感情の読み取りは文脈や文化、表現の癖に左右されることもあり、数値や表示だけを見て対応を決めてしまうと、逆にズレる可能性もあります。この機能の価値は、判断を代替することではなく、「気づくきっかけ」を増やすことにあります。担当者がケースの背景を理解したうえで、センチメントという補助線をどう使うか。その使い方次第で、Customer Serviceはより人間的で、かつ一貫性のある対応に近づいていくのだと思います。

Use shadow mode for Case Management Agent predictions

Case Management Agentを使って予測や判断を自動化しようとしたとき、現場で必ず出てくるのが「本当にこの判断を信用してよいのか」という問いです。分類や優先度、次のアクションが自動で提示されるとしても、それが顧客対応に直接影響する以上、いきなり本番で使うことには強い心理的ハードルがあります。Use shadow mode for Case Management Agent predictionsは、そのハードルを下げるための機能です。

この機能は、Case Management Agentの予測や判断を実際のケース処理には反映させず、裏側で“影のように”走らせることを可能にします。エージェントは通常どおりケースを読み取り、分類や予測、次のアクションを導き出しますが、その結果はオペレーターや顧客対応の流れには影響を与えません。あくまで観測用として動かし、「もし使っていたら、こう判断していた」という結果だけを確認できる仕組みです。

例えば、ケースの優先度判定やエスカレーション判断、解決見込みの予測などを自動化したい場面で、いきなり本番適用するのではなく、既存の運用と並行してエージェントの判断を蓄積できます。現場はこれまでどおり対応を続けながら、裏側ではAIの判断と実際の対応結果を比較し、「この判断は当たっている」「ここはズレている」と冷静に見極めることができます。顧客に影響を与えずに精度を評価できる点が、この機能の大きな価値です。

2025wave2まででも、AIを試すこと自体はできましたが、多くの場合は限定的なパイロットか、影響範囲を極端に絞った本番利用に踏み出すしかありませんでした。そのため、評価の材料が十分に集まらないまま判断を迫られたり、逆に不安が先立って導入が止まったりすることもありました。Shadow modeは、その中間に位置する「安全に試し続ける」選択肢を用意します。

2026wave1では、このshadow modeによって、Case Management Agentの予測を実データで継続的に検証し、改善の根拠を積み上げられるようになります。どのタイプのケースで精度が高いのか、どんな条件で判断が外れやすいのかを把握したうえで、「この範囲なら任せられる」という合意を作りやすくなります。AI活用を一気に切り替えるのではなく、信頼を育てながら段階的に適用範囲を広げていくための設計だと言えます。

留意点としては、shadow modeはあくまで評価のための仕組みであり、それ自体が成果を生むわけではない点です。比較の軸や評価基準を決めずに動かしても、「なんとなく良さそう」「なんとなく不安」という感想に留まってしまいます。また、実運用とAI判断の差分をどう解釈し、どこまでを許容するかは、組織としての方針が必要です。この機能はCustomer Serviceを自動化するためのスイッチではなく、判断を安心して委ねられる範囲を見極めるための計測器として使うことで、真価を発揮するものだと思います。

Define critical questions in evaluation criteria

Customer ServiceでAIやエージェントを使った対応を評価しようとするとき、意外と難しいのが「何をもって良しとするのか」を言語化することです。正しく分類されたか、回答は丁寧だったか、手順に沿っていたか。なんとなくの感覚では判断できても、それを評価基準として落とし込むのは簡単ではありません。Define critical questions in evaluation criteriaは、その曖昧さを減らし、Customer ServiceにおけるAI評価をもう一段実務に近づけるための機能です。

この機能は、ケース対応やエージェントの振る舞いを評価する際に、「必ず確認すべき重要な問い」をあらかじめ定義できるようにします。単に正解か不正解かを見るのではなく、このケースでは何が重要だったのか、顧客対応として外してはいけない観点は何だったのかを、評価の軸として明示するイメージです。評価が結果論や印象論に流れやすい領域に、判断の型を持ち込もうとしています。

例えば、返答内容が正確だったかだけでなく、顧客の不満にきちんと共感していたか、次の行動を分かりやすく提示できていたか、社内ルールやナレッジに沿った説明になっていたか、といった問いを「重要な質問」として定義できます。評価者は、その問いに照らしてケースを確認するため、「なんとなく良い」「なんとなく微妙」という曖昧な判断から一歩離れやすくなります。

2025wave2まででも、ケース対応やAIの振る舞いをレビューすることは可能でしたが、評価の観点は人に依存しがちでした。評価者によって見るポイントが違ったり、レビューのたびに基準が揺れたりすることで、改善の方向性が定まりにくい場面もあったと思います。結果として、評価は行われていても、学習や改善につながりにくいという課題が残っていました。

2026wave1では、評価の前提となる「重要な問い」を明示的に定義できるようになることで、評価と改善の関係が整理されます。何が満たされていなかったのか、どの問いで引っかかったのかが見えるため、改善すべきポイントを具体的に議論しやすくなります。AIやエージェントの評価を、人の感覚に任せるのではなく、組織としての判断基準に沿って積み上げていくための仕組みと言えます。

留意点としては、問いを増やしすぎると、評価が形式的になってしまう可能性がある点です。すべてをチェックしようとすると、現場の負担が増え、本当に重要なポイントが埋もれてしまいます。この機能の価値は、「何でも評価できる」ことではなく、「このサービスにとって絶対に外せない問いは何か」を整理できることにあります。Customer Serviceをどんな品質で提供したいのか、その思想がはっきりしている組織ほど、この機能は効いてくるはずです。

Validate knowledge and process adherence with evaluations

Customer ServiceにAIやエージェントを取り入れていくと、次に必ず直面するのが「その対応は本当に、会社として正しいのか」という問いです。回答がそれなりに自然で、顧客の質問に答えていたとしても、使ってよいナレッジに基づいているのか、定められた業務プロセスを踏んでいるのか、という観点では別の評価が必要になります。Validate knowledge and process adherence with evaluationsは、その“正しさ”を感覚ではなく、評価として確認できるようにするための機能です。

この機能は、ケース対応やエージェントの振る舞いを、事後的に振り返りながら「ナレッジに準拠していたか」「業務プロセスを逸脱していなかったか」という観点で評価できるようにします。単に回答が合っていたかどうかではなく、どの情報を根拠にし、どんな手順で判断が行われたのかを確認し、その妥当性を検証するための仕組みです。Customer Serviceを品質の観点で運用していくための、チェックポイントを明示的に持ち込もうとしています。

例えば、顧客に返した説明が最新の公式ナレッジに基づいていたのか、ローカルルールや非公式な回答を含んでいなかったのか、エスカレーションが必要な条件を見落としていなかったのか、といった点を後から確認できます。オペレーターが対応した場合も、Case Management Agentが下書きや判断に関与した場合も、同じ基準で振り返れる点が重要です。対応の巧拙だけでなく、「会社として守るべき前提が守られていたか」を評価の軸にできます。

2025wave2まででも、対応履歴や会話ログを確認することはできましたが、ナレッジやプロセスへの準拠という観点で体系的に評価するのは、人手に頼る部分が大きくなりがちでした。レビューは行われていても、評価の観点が担当者ごとに異なり、改善につながるフィードバックとして蓄積されにくいケースも多かったと思います。その結果、「なぜ問題だったのか」「何を直せばよいのか」が曖昧なまま終わることもありました。

2026wave1では、評価という形で、ナレッジとプロセスへの準拠を明示的にチェックできるようになります。どの観点で引っかかったのか、どのルールやナレッジが守られていなかったのかが見えるため、改善点を具体的に議論しやすくなります。これは、オペレーターを監視するための機能というよりも、Customer Service全体の品質を揃え、再現性を高めるための土台に近いものです。

留意点としては、評価を厳密にしすぎると、現場の柔軟な判断を縛ってしまう可能性がある点です。すべてをルールで縛ることが顧客満足につながるとは限りませんし、例外対応が価値を生む場面もあります。この機能の本質は、対応を機械的に正解不正解で裁くことではなく、「どこまでが許容範囲で、どこからが逸脱なのか」を組織として共有することにあります。ナレッジとプロセスを守る理由をはっきりさせ、そのうえで人が判断する余地を残す。そのバランスを取るための仕組みとして、この機能はCustomer Serviceの成熟度を一段引き上げる存在になりそうです。

Control evaluation volume with sampling

Customer ServiceでAIやエージェントの評価を本格的に回し始めると、次に現実的な課題として浮かび上がるのが「全部は見きれない」という問題です。ケース数が増え、評価軸も増えれば増えるほど、すべての対応を同じ粒度でチェックするのは現実的ではありません。Control evaluation volume with samplingは、その前提を受け入れたうえで、評価を“続けられる運用”に落とし込むための機能です。

この機能は、すべてのケースや対応を評価対象にするのではなく、一定のルールに基づいて評価対象をサンプリングし、評価量をコントロールできるようにします。評価の質を保ちながら、量を現実的な範囲に抑えることで、レビューが形骸化せず、改善につながるサイクルを維持することが狙いです。評価を「やるかやらないか」ではなく、「どのくらいの頻度と密度でやるか」という運用の問題として扱っています。

例えば、すべてのケースを毎回チェックするのではなく、新しいフローを適用したケースだけを重点的に見る、特定のカテゴリやセンチメントが悪化しているケースを優先的に抽出する、あるいは一定割合をランダムに選んで全体傾向を把握するといった使い方が考えられます。これにより、評価は網羅性よりも“気づき”を重視したものになり、限られた時間で意味のある振り返りがしやすくなります。

2025wave2まででも、評価そのものは可能でしたが、どこまでを見るかの判断は人に委ねられがちでした。その結果、忙しい時期には評価が後回しになり、落ち着いた頃には問題が起きた理由を追えなくなる、という悪循環に陥ることも少なくありませんでした。評価を真面目にやろうとするほど現場の負担が増え、続かなくなるという構造的な問題がありました。

2026wave1では、評価対象の量をあらかじめ設計できることで、「評価を続けること」そのものが運用に組み込まれます。すべてを完璧に見るのではなく、必要なところを適切な頻度で見る。その前提に立つことで、評価結果を次の改善に結び付けやすくなります。評価が単なるチェック作業ではなく、品質を維持し、ズレを早めに検知するためのセンサーとして機能し始めます。

留意点としては、サンプリングの設計を誤ると、重要な問題を見逃す可能性がある点です。偏った条件だけを見る、件数を減らしすぎる、といった状態では、評価の意味が薄れてしまいます。この機能の価値は「評価を減らすこと」ではなく、「評価を意味のある形で続けること」にあります。何を見たいのか、どんな兆候を早く掴みたいのかを明確にしたうえでサンプリングを設計することで、Customer Serviceの品質管理は、無理のない形で一段成熟していくのだと思います。

≪Supervisor Experiences≫

Generate AI-driven dynamic forecasts with intelligent method selection

Customer Serviceの運用を見ていると、「予測」はあっても、それが現場の判断にそのまま使える形になっていない場面をよく目にします。過去実績をもとにした固定的な予測は作れるものの、問い合わせの質が変わった、チャネル構成が変わった、キャンペーンや障害で一時的に流入が増えた、といった変化には追従しきれません。Generate AI-driven dynamic forecasts with intelligent method selectionは、そうした前提の揺らぎを前向きに受け入れ、Customer Serviceの予測を「作って終わり」から「状況に応じて使い分けるもの」へと進める機能です。

この機能は、将来の問い合わせ量や処理状況を予測する際に、あらかじめ決めた一つの手法に固定するのではなく、状況に応じて最適な予測手法をAIが選択する前提を取ります。データの傾向や安定度、季節性の有無、直近の変動幅などを踏まえ、「いまはこの方法が妥当だ」と判断した手法で予測を生成するイメージです。予測を当てに行くというより、「外れにくい前提を選ぶ」ことに重きを置いています。

例えば、通常時は過去のトレンドが比較的安定している問い合わせカテゴリでも、製品アップデートや障害発生の直後には、これまでの傾向がほとんど参考にならなくなることがあります。そうした局面で、従来どおりの予測手法を使い続けると、必要な人員が足りなかったり、逆に過剰に配置してしまったりといったズレが生じやすくなります。この機能では、変動が大きい状況では別のアプローチを取り、落ち着いてきたら再び安定した手法に戻す、といった切り替えを前提にしています。

2025wave2まででも、予測自体は可能でしたが、どの方法を使うかは設計時点で決め打ちになることが多く、現場の変化に応じて柔軟に切り替えるには、分析や再設定が必要でした。そのため、予測は「参考資料」にはなっても、「いま判断に使うもの」としては距離があるケースも少なくありませんでした。

2026wave1では、予測手法の選択そのものをAIに委ねることで、スーパーバイザーやマネージャーは「どの手法が正しいか」を考える負担から一歩離れられます。その代わりに、「この予測をどう使って判断するか」「どこまでを想定内とするか」といった、より本質的な意思決定に集中しやすくなります。予測は絶対的な答えではなく、いまの状況をどう見るかの材料として扱われるようになります。

留意点としては、どれだけ手法が賢く選ばれても、予測はあくまで予測であるという前提は変わらない点です。突発的な出来事や外部要因まですべてを吸収できるわけではありません。また、予測が動的になるほど、「なぜこの数字になっているのか」を理解しようとする姿勢も重要になります。この機能の価値は、予測を信じ切ることではなく、変化に合わせて前提を更新し続けられることにあります。Customer Serviceの運用を、静的な計画から、状況を見ながら調整する生きたマネジメントへと近づけるための一歩だと言えそうです。

Enable enhanced screen recording controls for admins

Customer Serviceの運用では、画面録画はトラブル対応や品質改善、監督業務にとって重要な材料である一方、扱い方を誤るとリスクにもなり得ます。誰が録画できるのか、どこまで記録されるのか、どのデータが残り、どのデータが残らないのか。Enable enhanced screen recording controls for adminsは、その曖昧さを減らし、画面録画を「便利だが危うい仕組み」から「管理された運用ツール」へと位置付け直すための機能です。

この機能は、画面録画に関する制御を管理者側でより細かく設定できるようにします。録画の有無や範囲を現場任せにするのではなく、組織としてどのケースで、どの目的で、どこまで録画を許可するのかを明示的にコントロールできるようになります。Customer Serviceにおける画面録画を、個別対応の延長ではなく、運用設計の一部として扱おうとする流れが見て取れます。

例えば、品質評価や教育目的で録画を使いたい一方で、個人情報や機密情報が不用意に記録されることは避けたい、という場面は少なくありません。従来は、録画するかしないかを大まかに決めるしかなく、細かな例外や制限は運用ルールでカバーするしかありませんでした。この機能によって、管理者は録画の挙動を事前に定義し、不要な記録や想定外の利用を抑えやすくなります。

2025wave2まででも、画面録画自体は活用できましたが、その統制は十分とは言えず、「便利だから使うが、正直少し怖い」という位置付けになりがちでした。その結果、録画機能そのものを制限したり、特定のチームだけに閉じたりといった消極的な運用に寄るケースもありました。管理しきれないがゆえに、活用を諦めるという判断が起きやすかったと言えます。

2026wave1では、画面録画を前提とした運用を安心して設計できるようになります。管理者が主導してコントロールできることで、スーパーバイザーは評価や指導に必要な情報を確保しつつ、リスクを最小限に抑えられます。録画は監視のための道具ではなく、品質を揃え、改善を進めるための材料として使えるようになります。

留意点としては、制御が強化されるほど、設計の意図が現場に伝わっていないと誤解を生みやすい点です。なぜ録画するのか、どんな目的で使うのか、何を守るために制限しているのかを共有しないまま設定だけを固めると、現場には「縛られた」「監視されている」という印象が残ってしまいます。この機能の価値は、録画を制限することではなく、安心して使える前提を整えることにあります。Customer Serviceを支える仕組みとして、画面録画をどう位置付けるのか。その意思が問われる機能だと言えるでしょう。

D365 Customer Serviceよ、君はどこに向かっているのかい?

Dynamics 365 Customer Service 2026 wave 1を一通り眺め、個々の機能を追ってきて、最後に残る印象はとても静かなものです。派手な自動化や「これで人はいらなくなる」といったメッセージはなく、代わりに一貫して流れているのは、「人が判断するための前提を、いかに整えるか」という問いでした。

今回のCustomer Serviceは、対応件数をどれだけ速く捌けるか、オペレーターの手をどれだけ減らせるか、という従来の軸から一歩引いています。シミュレーション、shadow mode、評価基準、サンプリング、センチメント、予測、画面録画の統制。どれも即効性のある効率化ではありませんが、共通しているのは「安心して判断できる状態をどう作るか」という視点です。

AIやエージェントは、ここでは主役ではありません。答えを決める存在でも、現場を置き換える存在でもなく、判断の材料を揃え、ズレに気づかせ、振り返りを可能にする存在として配置されています。Customer Serviceの仕事を、単なる対応の連続ではなく、判断と調整の積み重ねとして捉え直そうとしているように見えます。

特に印象的なのは、「いきなり任せない」ことを前提にしている点です。本番前に試す、影で走らせる、評価する、量を絞って見る。その一つ一つが、AIを慎重に、しかし確実に現場へ馴染ませるための設計になっています。信頼は宣言して得るものではなく、検証と合意の積み重ねで育てるものだ、という姿勢が透けて見えます。

また、評価や統制の機能が増えていることは、Customer Serviceを管理しやすくするためだけではありません。むしろ、属人性を減らし、品質を揃え、改善を再現可能にするための土台作りに近いものです。ナレッジやプロセスを守る理由を明確にし、そのうえで人が例外を判断する。そのバランスを保つための仕組みが、丁寧に用意されています。

Dynamics 365 Customer Serviceは、2026 wave 1で大きく姿を変えたわけではありません。ただ、向かう方向はかなりはっきりしてきました。対応を自動化するツールから、判断を支える基盤へ。効率を競うシステムから、信頼を積み上げるシステムへ。

D365 Customer Serviceよ、君はどこへ向かおうとしているのか。

その答えは、「人の判断を前提にしたCustomer Serviceを、長く続けられる形にすること」なのだと、室長は感じています。派手さはありませんが、現場と向き合ってきた人ほど、その意味の重さが分かる進化です。Customer Serviceという仕事を、もう一度きちんと“仕事”として扱おうとする、その姿勢こそが、2026 wave 1の本質なのかもしれません。

次回予告|Dynamics 365 Contact Center 2026 wave 1-AIは前に出るのか、それとも裏方に徹するのか

Customer Serviceで見えてきたのは、AIが答えを出す存在ではなく、人の判断を支える存在として再配置されている姿でした。
では、音声やチャット、メッセージングが交錯するContact Centerでは、そのバランスはどう変わるのでしょうか。次回はDynamics 365 Contact Center 2026 wave 1を取り上げ、自己解決をどこまで任せ、人が介在する価値をどこに残すのか、そして現場とスーパーバイザーの視点がどう再設計されつつあるのかを見ていきます。
Customer Serviceの延長線では語れない、Contact CenterならではのAIとの距離感を、室長の視点で整理していく予定です。どうぞ次回もお付き合いください。

それでは、今日はこのくらいで。Let’s Enjoy our DX365 Life!

dx365jp
  • dx365jp
  • 24年ほど、Microsoft Dynamics ERP(NAV/AX)+CRMの導入コンサルティングに従事し、日本を含む34か国において導入コンサルティングを経験してきました。グローバル環境における“プロジェクト”と“マーケティング”を生業としております。

    最近は、【CRM/MKTG(攻めのDX)⇔ ERP(守りのDX)】+【ローコード】というDX365な活動に奮闘中です。Microsoft Dynamics 365 ビジネスで地球を90周中です。#DX365 #DynamicsIoT

    Microsoftの運営する外部技術者グローバル組織「Microsoft MVP(*日本165名/世界3023名)・ Microsoftのトラスティッドアドバイザーである「Microsoft Regional Director (*日本4名/世界189名)」として、複数のITコミュニティーにて活動中。(*2022/07/06時点)

    プロフィールはこちら→bit.ly/Dynamics365JP