Dynamics365 2026 wave1_ContactCenter

こんばんは。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
“室長”こと、吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications | Microsoft Regional Director)です。
Dynamics 365 2026 wave 1の情報が2026年3月18日に公開されたので、深夜コツコツ解説を書いています。
ここまで、9本のBlogを公開しました。
- Dynamics 365 2026 wave 1 – Deprecations
- Dynamics 365 2026 wave 1 – Business Central
- Dynamics 365 2026 wave 1 – SCM
- Dynamics 365 2026 wave 1 – Finance
- Dynamics 365 2026 wave 1 – Project Operations
- Dynamics 365 2026 wave 1 – Commerce
- Dynamics 365 2026 wave 1 – Human Resources
- Dynamics 365 2026 wave 1 – Sales
- Dynamics 365 2026 wave 1 – Customer Service
多くの方々に、お読みいただいているようでとても嬉しいです。
本稿では、Dynamics 365 Contact Centerについて、新機能を解説していきたいと思いますので、最後までお付き合いいただけますと幸いです。
Dynamics 365 Contact Center 2026 wave 1
―2026 release wave 1(2026年4月〜9月)におけるDynamics 365 Contact Centerの新機能・改善点―
D365 Contact Centerよ、君はどこへ向かおうとしているのか?
Dynamics 365 Contact Center 2026 wave 1の計画を眺めて、まず感じるのは、Customer Service以上に「変化の方向が分かりにくい」という印象です。音声、チャット、メッセージング、セルフサービス、有人対応。扱うチャネルは増え続け、AIの関与も一段と前に出てきていますが、それらを単純に「自動化が進んだ」「便利になった」と片付けてしまうと、今回のwave 1の本質は見えにくくなります。
これまでのコンタクトセンターは、いかに多くの問い合わせを効率よく捌くか、いかに待ち時間を減らすか、いかにオペレーターを支援するか、という軸で進化してきました。IVR、ルーティング、スクリプト、KPI。運用を安定させるための仕組みは整ってきましたが、その一方で、現場では「結局、どこで人が判断すべきなのか」という問いが、より重くのしかかるようになっています。
この問い合わせは本当にセルフサービスで完結させてよいのか。どのタイミングで人に切り替えるべきなのか。オペレーターは何を見て、何を優先して判断すべきなのか。スーパーバイザーは、どの兆候を見逃してはいけないのか。
Dynamics 365 Contact Center 2026 wave 1は、こうした問いに対して、「AIに任せるか、人がやるか」という単純な二択を提示していません。むしろ、セルフサービスと有人対応の境界を固定せず、状況に応じて揺らしながら判断できる余地を広げようとしているように見えます。AIは前に出て顧客対応を担う場面もあれば、裏側で状況を整理し、次の判断を支える役割に回る場面もあります。
Customer Service編で見えてきた「判断を支える基盤」という思想は、Contact Centerではさらに強く、よりリアルタイムな文脈で試されます。音声という即時性の高いチャネル、複数セッションが同時に走る現場、判断の遅れがそのまま顧客体験に影響する状況。その中で、AIと人がどう役割分担し、どこで主導権を持つのかが、より露骨に問われます。
この先の章では、Dynamics 365 Contact Center 2026 wave 1に含まれる具体的な新機能や改善点を通して、Contact Centerがどこへ向かおうとしているのかを整理していきます。AIが前に出る場面、裏に回る場面、その切り替えを誰がどう判断するのか。Customer Serviceの延長では見えにくい、Contact Centerならではの進化を、室長の勝手な解釈で追いかけていきたいと思います。
≪Copilot and AI Innovation≫
Evaluate multiple conversations using Quality Evaluation Agent
Contact Centerの現場では、会話は常に「点」ではなく「面」で起きています。個々の通話やチャットを振り返ることはできても、同じ時間帯に何が起きていたのか、同じテーマの問い合わせで対応品質に差が出ていないか、といった全体像を掴むのは簡単ではありません。Evaluate multiple conversations using Quality Evaluation Agentは、その“面”としての品質を捉えるための機能です。
この機能は、単一の会話を評価するのではなく、複数の会話をまとめて対象にし、品質評価を行えるようにします。応対の正確さやトーン、手順の遵守、顧客への配慮といった観点を、個別対応の巧拙としてではなく、「この時間帯」「このカテゴリ」「このシナリオ」で何が起きていたのかという視点で見られるようになります。Contact Centerにおける品質を、属人的なレビューから運用全体の傾向として扱おうとしています。
例えば、新しいIVR「Interactive Voice Response(自動音声応答)」フローやセルフサービスを導入した直後に、特定の種類の問い合わせが増えていないか、その際の有人対応の品質が落ちていないか、といった点をまとめて確認できます。あるいは、特定のスクリプトやガイダンスを使った会話群を横断的に見て、顧客満足やセンチメントにどんな影響が出ているのかを把握することもできます。これまでは、こうした確認は感覚や断片的なレビューに頼りがちでしたが、この機能によって「まとめて見て、まとめて気づく」ことが現実的になります。
2025wave2まででも、品質評価そのものは可能でしたが、多くの場合はサンプリングした一部の会話を人が確認する形に留まっていました。そのため、問題の兆候が個別のケースとして見過ごされたり、「たまたま悪かった」「個人差の問題」として処理されてしまうことも少なくありませんでした。複数会話を横断して見るための仕組みが弱く、品質改善が後追いになりやすい構造がありました。
2026wave1では、Quality Evaluation Agentによって、複数の会話をまとめて評価し、共通するズレや傾向を捉えやすくなります。どの観点で評価が下がっているのか、どのパターンの会話で問題が起きやすいのかが見えることで、個人への指摘ではなく、フローや設計そのものの見直しにつなげやすくなります。Contact Centerの品質を「誰が悪かったか」ではなく、「どこがズレているか」で語れるようになる点が、この機能の大きな意味です。
留意点としては、まとめて評価できるからといって、数字だけを見て結論を急ぐべきではない点です。複数会話の評価は傾向を掴むためのものであり、背景や文脈を無視してしまうと、誤った改善につながる可能性もあります。この機能の価値は、判断を自動化することではなく、「見るべき範囲を正しく切り出すこと」にあります。Contact Centerにおける品質管理を、個人依存から運用設計の問題へと引き上げる。そのための視点を与えてくれる機能だと言えるでしょう。
≪Omnichannel Customer Experiences≫
Use representatives for commercial proactive engagement
Contact Centerにおける顧客対応は、これまで基本的に「受け身」の仕事でした。顧客からの着信やメッセージを待ち、それに応答する。その前提のもとで、いかに速く、いかに正確に対応するかが設計の中心に置かれてきました。Use representatives for commercial proactive engagementは、その前提そのものを静かに揺さぶる機能です。
この機能は、問い合わせが発生するのを待つのではなく、状況や文脈に応じて、オペレーターが能動的に顧客へアプローチすることを可能にします。ただし、ここで意図されているのは無差別なアウトバウンドや営業色の強いコールではありません。あくまで、既存の関係性や履歴、顧客の状態を踏まえたうえで、「いま連絡する意味がある」場面に人が関与できるようにする設計です。
例えば、やり取りが途中で止まっているケースや、セルフサービスで解決しきれなかった兆候が見えている顧客に対して、オペレーターが適切なタイミングでフォローアップする、といった使い方が考えられます。あるいは、サービス利用の文脈の中で、顧客にとって有益な案内や次のアクションを、人の判断で届ける場面も含まれるでしょう。重要なのは、「売り込む」ことではなく、「関係性を前に進める」ための接点として設計されている点です。
これまでのContact Centerでは、こうした能動的な関与は、営業部門や別システムの役割として切り分けられがちでした。その結果、顧客との会話が分断され、タイミングを逃したり、文脈が共有されないまま別部門に引き渡されたりするケースも少なくありませんでした。この機能は、Contact Centerを単なる受信窓口ではなく、顧客との関係性を維持・深化させる場として再定義しようとしています。
2026 wave 1の流れの中で見ると、この機能もまた「AIが勝手に動く」ものではありません。誰に、いつ、どんな目的でアプローチするのかを判断するのは人です。AIやシステムは、その判断に必要な材料や候補を整える役割に留まっています。Contact Centerの現場に、営業的な役割を無理やり押し込むのではなく、人が納得して動ける余地を残したまま、対応の幅を広げようとしているように見えます。
留意点としては、能動的な接触は一歩間違えると、顧客にとって負担や不信につながりかねない点です。なぜ連絡するのか、その連絡は顧客にとって意味があるのか、誰がその判断を担うのか。これらを曖昧にしたまま使うと、便利な機能が逆効果になる可能性もあります。この機能の価値は、アウトバウンドを増やすことではなく、「人が関与すべき瞬間」をContact Centerの中に取り戻すことにあります。受け身の対応から一歩踏み出しつつも、判断の主導権は人に残す。そのバランスをどう取るかが、Contact Centerの成熟度を分けるポイントになっていくのだと思います。
Use SMS channel to engage with customers proactively
Contact CenterにおいてSMSは、長い間「補助的なチャネル」として扱われてきました。音声やチャットほどリッチではなく、メールほど正式でもない。そのため、通知や簡単な連絡に使われることはあっても、顧客との関係性を前に進めるための手段としては、あまり積極的に位置付けられてこなかったと思います。Use SMS channel to engage with customers proactivelyは、その位置付けを見直そうとする機能です。
この機能は、顧客からの問い合わせを待つのではなく、状況や文脈を踏まえたうえで、SMSを使って能動的に顧客へアプローチできるようにします。重要なのは、ここでも無差別な一斉送信や、押し付けがましい通知を想定していない点です。あくまで、既存のやり取りや顧客の状態を前提に、「このタイミングで、この内容なら意味がある」と判断できる場面に、SMSという軽量なチャネルを使えるようにする、という設計です。
例えば、セルフサービスで途中まで進んだものの完了していないケースに対して、短いフォローを送る、音声対応の前に要点だけを伝えて準備を促す、あるいは対応の区切りとして次の選択肢を簡潔に提示する、といった使い方が考えられます。電話をかけるほどではないが、メールでは重すぎる。そうした「間」にあるコミュニケーションを、意図的に設計できるようになります。
これまでのContact Centerでは、こうした軽い能動接触は、別ツールや個別運用に頼ることが多く、履歴や文脈が分断されがちでした。その結果、顧客にとっては唐突に感じられたり、対応する側も「なぜこの連絡をしたのか」を説明しづらかったりする場面がありました。この機能は、SMSをContact Centerの文脈の中に戻し、判断と責任の所在を明確にしようとしています。
2026 wave 1の流れで見ると、ここでもAIは主役ではありません。誰に、いつ、どんな内容を送るかを決めるのは人です。システムは、その判断に必要な材料や候補を整える役割に留まっています。SMSという即時性の高いチャネルだからこそ、「送らない」という判断も含めて、人が主導権を持つ前提が重視されています。
留意点としては、SMSは顧客との距離が近い分、使い方を誤ると不信や煩わしさにつながりやすい点です。なぜこの連絡が来たのか、今後どんな行動を期待しているのかが伝わらないと、価値は一気に下がります。この機能の本質は、SMSを増やすことではなく、「軽いが意味のある接点」をContact Centerの中に持ち込むことにあります。人が判断し、短く、適切に関与する。そのための選択肢として、SMSが正式に組み込まれたこと自体が、Contact Centerの役割が変わりつつあることを示しているのかもしれません。
Secure consult, transfer for PSTN numbers, and IVR
Contact Centerの音声対応において、「つなぐ」という行為は、単なる技術的な操作ではありません。誰に、いつ、どの文脈で引き継ぐのか。その判断ひとつで、顧客体験は大きく変わります。Secure consult, transfer for PSTN numbers, and IVRは、この「つなぐ」という行為を、より安全に、より意図を持って行えるようにするための機能です。
これまでの音声対応では、外線番号やIVRを介した転送やコンサルトは可能でしたが、運用上は「できるかどうか」が優先され、「どう制御するか」「どこまで守れるか」という点は後回しになりがちでした。その結果、意図しない転送、情報の分断、セキュリティやコンプライアンス面での不安を抱えたまま使われているケースも少なくありませんでした。
この機能が目指しているのは、PSTN番号やIVRを含む音声フローを、Contact Centerの文脈の中で“管理された接点”として扱うことです。単に通話をつなぐのではなく、誰が関与し、どの範囲まで情報が共有され、どの操作が許可されるのかを、あらかじめ設計されたルールの中で行えるようにします。音声対応を、属人的な判断や慣習に委ねるのではなく、運用として再現可能な形に寄せています。
例えば、オペレーターが外部の専門担当者に相談したい場合や、別部門へ転送する必要がある場合でも、その操作が無制限に許されるわけではありません。どの番号に、どの条件で、どんな形のコンサルトや転送ができるのかを制御することで、顧客情報の扱いや対応品質を一定水準に保ちやすくなります。また、IVRを含むフロー全体を前提にした設計ができることで、顧客が「たらい回しにされた」と感じるリスクも減らせます。
2025wave2まででも、音声フローの構築や転送は可能でしたが、セキュリティや統制は個別設定や運用ルールに依存する部分が大きく、設計者や管理者の経験に左右されがちでした。そのため、「便利だが怖い」「トラブルが起きないことを祈る」という不安定な前提で使われているケースもあったと思います。
2026wave1では、こうした音声連携を、Contact Centerの正式な設計要素として扱えるようになります。PSTNやIVRを含む通話の流れを、安全性と運用意図の両面から整理し、管理者が責任を持ってコントロールできる前提が整えられています。これは、音声対応を拡張するための機能というよりも、「音声を安心して使い続けるための基盤」に近いものです。
留意点としては、制御を強めれば自動的に顧客体験が良くなるわけではない点です。転送やコンサルトのルールが現場の実態と合っていなければ、対応が滞ったり、柔軟さを失ったりする可能性もあります。この機能の価値は、制限をかけることそのものではなく、「なぜその転送が必要なのか」「どこで判断を切り替えるべきなのか」を、組織として考え直すきっかけを与えてくれる点にあります。Contact Centerにおける音声対応を、より信頼できる判断の場として整えていく。その流れの中に、この機能は位置付けられているように感じます。
Use consent-based recording of voice calls
Contact Centerにおける音声通話の録音は、長らく「必要だが扱いが難しいもの」でした。品質改善やトラブル対応、教育のためには残したい。一方で、顧客の同意、法規制、プライバシーへの配慮を誤ると、組織にとって大きなリスクにもなります。Use consent-based recording of voice callsは、その曖昧な状態を前提にしたまま使われてきた音声録音を、判断と設計の対象として正面から扱おうとする機能です。
この機能は、通話を「録るか録らないか」を一律に決めるのではなく、顧客の同意を前提にしたうえで録音を行うことを可能にします。つまり、技術的に録音できるから録るのではなく、「この通話は録音してよい」「この通話は録音すべきではない」という判断を、明示的な合意とルールに基づいて行えるようにします。音声対応を、運用とコンプライアンスの両面から整理し直そうとしています。
例えば、品質評価やトレーニング目的では録音したいが、個人情報や機微な内容を扱う場面では録音を避けたい、といったケースは少なくありません。従来は、そうした判断を現場の注意喚起やマニュアルに頼るしかなく、実際の運用ではグレーな状態が残りがちでした。この機能によって、録音は「例外的に止めるもの」ではなく、「同意と目的を確認したうえで行うもの」へと位置付けが変わります。
2025wave2まででも、音声通話の録音自体は可能でしたが、同意の扱いは環境や運用に委ねられる部分が多く、「本当に大丈夫なのか」という不安を抱えたまま使われているケースもありました。その結果、録音を活用しきれなかったり、逆に必要以上に制限してしまったりと、極端な運用に振れやすい構造がありました。
2026wave1では、同意を前提とした録音という考え方が、Contact Centerの機能として組み込まれます。これにより、管理者やスーパーバイザーは、なぜ録音するのか、どの通話が対象なのかを説明しやすくなり、現場も安心して録音データを品質改善や教育に活かせるようになります。録音は監視のためのものではなく、信頼を前提にした改善の材料として再定義されているように見えます。
留意点としては、同意が取れているからといって、すべてを録音すればよいわけではない点です。録音の目的、保管期間、利用範囲が曖昧なままでは、顧客との信頼関係を損なう可能性もあります。この機能の本質は、録音を簡単にすることではなく、「録音することの意味を、組織として考え直す」ことにあります。Contact Centerにおける音声対応を、安心して振り返り、改善につなげるための前提を整える。その一歩として、この機能はとても象徴的だと感じます。
Split recordings speaker-wise in closed conversation view
Contact Centerの音声対応では、録音データは「残っているかどうか」以上に、「あとからどう振り返れるか」が重要になってきています。長時間の通話や複数人が関与する会話では、全体を通して聞き直すこと自体が負担になり、結局は活用されないまま埋もれてしまうケースも少なくありません。Split recordings speaker-wise in closed conversation viewは、そうした録音データの扱い方を、実務に耐える形へと引き戻すための機能です。
この機能は、通話録音を話者ごとに分離して表示できるようにします。顧客が話している部分、オペレーターが応答している部分、必要に応じて他の関係者が関与した部分を切り分けて確認できるため、「誰が何を言ったのか」「どこで会話の流れが変わったのか」を把握しやすくなります。録音をただ再生するのではなく、分析や振り返りの材料として扱える前提が整います。
例えば、品質評価の場面では、オペレーターの説明や対応姿勢だけを抜き出して確認したり、顧客の発言に含まれる不満や要望の変化を重点的に追ったりすることができます。トラブル対応やエスカレーション時にも、「顧客は何を求めていたのか」「どの説明が誤解を生んだのか」を短時間で特定しやすくなります。これまでは、録音全体を通して聞くか、断片的なメモに頼るしかなかった部分が、実際の会話に即した形で見えるようになります。
2025wave2まででも、通話録音は残せましたが、振り返りは人の記憶や要約に依存する部分が大きく、録音そのものが十分に活かされているとは言い難い場面もありました。特に、品質評価や教育用途では、「時間がかかる」「ポイントが掴みにくい」という理由で、録音確認が後回しになることも多かったと思います。
2026wave1では、話者ごとに分離された表示によって、録音は「全部聞くもの」から「必要なところを見るもの」へと変わります。これは、監視やチェックを強めるための機能ではなく、限られた時間で意味のある振り返りを行うための工夫です。会話を構造として捉え直すことで、改善点や学びを抽出しやすくなります。
留意点としては、分離表示ができるからといって、会話の文脈そのものを切り捨ててしまわないことが重要です。顧客の発言とオペレーターの応答は常に相互作用しており、片方だけを見ても本質が分からない場面もあります。この機能の価値は、会話を分断することではなく、「どこに注目すべきか」を明確にすることにあります。Contact Centerにおける録音を、証拠や保管物としてではなく、判断と改善につなげるための資産として扱う。そのための一歩として、この機能はとても実務的な意味を持っていると感じます。
Identify your customers with enhanced authentication
Contact Centerの現場では、「誰と話しているのか」が曖昧なまま会話が始まることは珍しくありません。匿名で始まるチャット、本人確認前の音声通話、最低限の情報しか分からない状態での問い合わせ。オペレーターは限られた手がかりを頼りに対応を進め、必要になった段階で本人確認や情報の突合を行う、という流れが長く前提になってきました。Identify your customers with enhanced authenticationは、その前提そのものを見直そうとする機能です。
この機能は、顧客をより確実に識別するための認証手段を拡張し、会話の途中でも安全に認証を行えるようにします。最初から厳格な本人確認を求めるのではなく、やり取りの文脈に応じて、必要なタイミングで認証を挟める点が特徴です。認証を「入口で必ず通る壁」にするのではなく、「対話の中で判断されるステップ」として組み込もうとしています。
例えば、匿名で始まったチャットが、途中から契約内容や個別の履歴に踏み込む必要が出てきた場合、オペレーターやAIエージェントの判断で認証を促し、そのまま会話を継続できます。これにより、最初から重い認証を求めて顧客を離脱させることも、逆に認証なしで曖昧な対応を続けることも避けやすくなります。顧客体験とセキュリティを二者択一にしない設計です。
2025wave2まででも認証は可能でしたが、多くの場合は会話の最初に完結させる前提が強く、途中で切り替える柔軟性は限られていました。その結果、認証を厳しくすると体験が重くなり、緩くすると対応の質や安全性が下がる、という分かりやすいトレードオフを抱えがちでした。今回の強化は、その構図から一歩離れ、「いつ、どこで、なぜ認証するのか」を運用として設計できる余地を広げています。
2026wave1では、認証方式の拡張に加え、AIエージェントと人の対応が混在する前提で、一貫した認証体験を提供できる方向が示されています。セルフサービスから有人対応へ、あるいはその逆へ切り替わる場面でも、顧客情報や文脈が分断されにくくなります。Contact Center全体を通した顧客識別の考え方が、より整理されたものになりつつあります。
留意点としては、認証がしやすくなるほど、「あえて認証しない」という判断も同じくらい重要になる点です。すべての会話で本人確認を求めればよいわけではなく、どの情報に触れるときに、どのレベルの認証が必要なのかを整理しておかないと、体験はかえって悪化します。この機能の本質は、認証を強化することそのものではなく、Contact Centerにおける「信頼の境界線」を会話の中で柔軟に引けるようにすることにあります。誰と話しているのかを、必要なときに、必要な深さで確認する。その判断を人が主導できるようにする点に、2026wave1らしい思想が表れていると個人的には感じています。
Delight your customers with the enhanced chat widget
Contact Centerにおけるチャットは、ここ数年で急速に「当たり前の入口」になりました。一方で、その体験が本当に顧客を満足させているかというと、必ずしもそうとは言えません。つながったはいいが何をすればよいか分からない、情報を何度も入力させられる、有人対応に切り替わった瞬間に文脈が途切れる。Delight your customers with the enhanced chat widgetは、そうした“よくある不満”を前提に、チャット体験そのものを見直そうとする機能です。
この機能が目指しているのは、単に見た目をきれいにすることや、入力項目を増やすことではありません。顧客がチャットを開いた瞬間から、「ここなら話が通じそうだ」「無駄なやり取りをしなくて済みそうだ」と感じられる入口を作ることです。チャットを、問い合わせの代替手段ではなく、Contact Centerにおける正式な対話チャネルとして再設計しようとしています。
例えば、チャット開始時の導線や質問の出し方が整理され、顧客が迷わず用件にたどり着けるようになります。また、途中で有人対応に切り替わった場合でも、それまでのやり取りや選択内容が引き継がれ、「また最初から説明する」必要が減ります。これは小さな改善に見えますが、顧客体験にとっては非常に大きな違いです。
これまでのチャットは、便利ではあるものの、「軽いからこそ雑に扱われがち」な側面がありました。とりあえず用意しておく、IVRの代わりに置いておく、という位置付けになりやすく、結果として体験の質が後回しになることも少なくありませんでした。強化されたチャットウィジェットは、その位置付けを改め、「ここが顧客との最初の対話になる」という前提で設計されています。
2026 wave 1全体の流れで見ると、この機能もまた、AIを前面に押し出すものではありません。チャットボットが勝手に会話を進めるのではなく、顧客がどう感じ、どこで迷い、どこで人の助けが必要になるのかを、設計として織り込もうとしています。チャット体験を良くすることは、対応を減らすためではなく、判断をスムーズにするための準備だ、という思想が感じられます。
留意点としては、入口が洗練されるほど、その先の対応品質との差が目立ちやすくなる点です。チャットで期待値を上げたのに、有人対応が追いつかない、あるいはナレッジやフローが整っていないと、逆に不満が大きくなる可能性もあります。この機能の価値は、チャット単体で完結するものではなく、Contact Center全体の設計とセットで初めて活きてきます。
Delight your customers with the enhanced chat widgetという名前が示しているのは、単なる満足度向上ではなく、「話し始めてよかった」と感じてもらえる最初の一歩を作ることです。Contact Centerにおいて、どこから対話が始まり、どんな印象を残すのか。その入口を真剣に作り直そうとしている点に、2026 wave 1らしい姿勢が表れているように感じます。
≪Service Representative Experiences≫
Cancel voice consult with external number
Contact Centerの音声対応では、コンサルト『顧客との通話を保留し、裏で相談する』や転送『顧客を別の担当につなぐ』は「助けを求めるための保険」として使われることが多くあります。対応に迷ったとき、専門担当に確認したいとき、外部の番号につなぐ必要があるとき。その一方で、一度コンサルトを開始すると、簡単には引き返せない、あるいは意図せず顧客を待たせてしまう、といった場面も少なくありませんでした。Cancel voice consult with external numberは、その“戻れなさ”に目を向けた機能です。
この機能は、外部番号へのコンサルトを開始した後でも、それを安全にキャンセルできるようにします。つまり、「やっぱり今はつながなくてよかった」「この判断は早すぎた」と気づいたときに、無理に話を進める必要がなくなります。音声対応における判断を、一方向の流れに固定せず、途中で見直せる余地を残そうとしています。
これまでのContact Centerでは、コンサルトや転送は技術的には可能でも、運用上は慎重にならざるを得ませんでした。一度つなげば、相手が出るまで待つしかない、顧客に説明しづらい、操作を誤ると混乱を招く。そうした経験から、「本当は相談したいが、リスクを考えてやめておく」という判断が現場で繰り返されてきた面もあります。この機能は、その心理的なブレーキを少し緩めます。
例えば、顧客と話しながら状況を整理する中で、「一瞬外部に確認した方がよさそうだ」と思ってコンサルトを開始したものの、会話が進むうちに自己解決できた、あるいは別の選択肢が見えた、という場面は珍しくありません。そのときに、無理につなぎ続けるのではなく、判断を撤回できることは、顧客体験の面でも、オペレーターの安心感の面でも意味があります。
2026 wave 1全体の流れで見ると、この機能もまた「音声対応を賢くする」ためのものというより、「判断を柔らかくする」ためのものだと感じます。正しいか間違っているかではなく、状況に応じて判断を更新できる余地を残す。Contact Centerの音声対応を、手順通りに進める作業から、状況を見ながら調整する仕事へと寄せています。
留意点としては、キャンセルできるからといって、安易にコンサルトを乱用すべきではない点です。外部につなぐという判断そのものが、顧客体験に影響を与える行為であることは変わりません。この機能の価値は、操作を楽にすることではなく、「途中で立ち止まって考え直せる」余白を用意したことにあります。Contact Centerにおける音声対応を、より人の判断に寄り添ったものにする。その小さな一歩として、この機能はとても象徴的だと感じます。
D365 Contact Centerよ、君はどこに向かっているのかい?
Dynamics 365 Contact Center 2026 wave 1を一通り見渡して、最後に浮かび上がってくるのは、派手な進化や劇的な変化ではありません。むしろ、Contact Centerという仕事を、もう一段深いところで捉え直そうとする、かなり意図的で静かな方向転換です。
今回のwave 1で繰り返し現れていたのは、「自動化を進める」ことそのものではなく、「判断をどこで、誰が、どう行うのか」を丁寧に再設計しようとする姿勢でした。複数会話をまとめて評価する仕組み、能動的なアウトリーチの余地、SMSという軽量チャネルの正式な組み込み、音声通話における転送やコンサルトの制御、同意を前提とした録音、話者ごとの振り返り、そして会話の途中で認証を挟める設計。どれも、現場の判断を奪うものではなく、むしろ「判断しやすくする」ための下支えとして用意されています。
ここでのAIは、決して万能な主役ではありません。前に出て顧客と直接やり取りする場面もあれば、裏側に回って状況を整理し、評価や兆候を可視化する役割に徹する場面もあります。その切り替えを自動で決め切るのではなく、人が状況を見て判断できる余白を残している点に、今回のContact Centerの思想がよく表れています。
これまでのコンタクトセンターは、「受ける」「つなぐ」「捌く」ことを中心に進化してきました。しかし2026 wave 1では、その前提が少しずつ揺らされています。受け身で待つだけでなく、意味のあるタイミングで関与する。すべてを録るのではなく、納得と同意を前提に残す。すべてをチェックするのではなく、傾向として見る。判断を減らすのではなく、判断の質を揃える。その積み重ねによって、Contact Centerは単なる対応の場から、「関係性を扱う現場」へと歩みを進めているように見えます。
Customer Service編で見えてきた「判断を支える基盤」という流れは、Contact Centerではよりリアルタイムで、より厳しい条件の中で試されています。音声という即時性の高いチャネル、複数の会話が同時に進行する現場、判断の遅れがそのまま体験の劣化につながる状況。その中で、AIと人の役割をどう分け、どう重ねるのかが、これまで以上に明確に問われています。
Dynamics 365 Contact Centerよ、君はどこへ向かおうとしているのか。
その答えは、「AI主導のコンタクトセンター」でも、「人を減らすための仕組み」でもないように見えます。むしろ、人が判断し続けることを前提に、その判断が破綻しないように、迷わないように、振り返れるように整えていく。そのための土台を、静かに、しかし確実に積み上げている。それが2026 wave 1のContact Centerの姿だと、室長は感じています。Contact Centerという仕事を、単なるオペレーションではなく、判断と信頼の積み重ねとして捉え直す。その覚悟が、今回のwave 1にははっきりと表れているように思います。
次回予告|Dynamics 365 Field Service 2026 wave 1-現場は、どこまで「判断の最前線」になるのか
それでは、今日はこのくらいで。Let’s Enjoy our DX365 Life!
