Dynamics 365 2026 wave1 | 総集編

こんばんは。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?

“室長”こと、吉島良平Microsoft MVP for Business Applications Microsoft Regional Director)です。

明日はMicrosoft AI Tour Tokyoが東京ビッグサイトで開催されますね。現地で室長を見かけたら是非声をかけてください。

さて、Dynamics 365 2026 wave 1の情報が2026年3月18日に公開されてから、室長の勝手な解釈集(本稿を含む全14回)を公開することができました。

多くの方々に、お読みいただいているようでとても嬉しいです。いつも、本当にありがとうございます!

Dynamics 365 2026 wave 1全体を俯瞰し、本稿にて、総集編としてお届けしますので、最後までお付き合いいただけますと幸いです。

Dynamics 365 2026 wave 1 総集編|Dynamics 365よ、君はいま何を変えようとしているのか?

― 判断を支えるために、静かに積み重ねられた 2026 wave 1 ―

Dynamics 365 2026 wave 1を、アプリケーションごとに追いかけてきました。Deprecationsから始まり、Business Central、SCM、Finance、Project Operations、Commerce、Human Resources、Sales、Customer Service、Contact Center、Field Service、Customer Insight – Journeys、そして Customer Insight – Dataと。

 

振り返ってみると、今回のwave 1は「分かりやすい目玉機能」で語れるリリースではありません。派手な新画面や、すべてを自動化するAIが前面に出てくるわけでもない。それでも読み進めるほどに、「これは偶然ではない」と感じる一貫した流れが見えてきます。

 

それは、人の判断を、どう支えるかというテーマです。

 

ここで一度、今回のDynamics 365 2026 wave 1を、アプリケーションごとに振り返ってみたいと思います。

 

それぞれが別の領域を担いながら、どんな形で「判断を支える」という共通テーマを受け持っていたのか。室長なりに、索引のように整理してみました。

Dynamics 365 2026 wave 1|索引風まとめ(室長的ひとこと)

 

  • Deprecations
    もう成り立たなくなった前提を、静かに手放すための整理。過去との決別というより、未来への準備。
  • Business Central
    中小企業ERPは「全部できる」より、「迷わず回せる」方向へ。日常業務の判断負荷を減らす改善が中心。
  • Supply Chain Management
    最適化を強めつつも、現実が崩れる前提を受け入れる設計へ。計画を守るより、計画を引き直せること。
  • Finance
    数字を締めるための仕組みから、経営判断に耐える前提づくりへ。AIは計算係ではなく補助線。
  • Project Operations
    計画と実行の分断を埋める一手。プロジェクトは管理対象ではなく、判断の連続であるという前提。
  • Commerce
    体験を派手にするより、壊さない方向へ。価格、在庫、チャネルを「迷わせない」ための地ならし。
  • Human Resources
    人事を管理するシステムから、人の意思決定を支える基盤へ。評価も配置も、説明できることが前提に。
  • Sales
    AIが売るのではなく、売る人が迷わないようにする。次の一手を“考えられる状態”を作る改善。
  • Customer Service
    対応を速くするより、判断を揃える。品質のブレを人の頑張りに頼らないための設計。
  • Contact Center
    AI応対の派手さより、現場が破綻しないことを優先。人とAIの役割分担を現実的に整理。
  • Field Service
    自動化が進むほど、人の最終判断が重要になる。視界(地図・週・部分調整)を整えるwave。
  • Customer Insight – Journeys
    体験は「流すもの」から「扱い続けるもの」へ。設計・修正・終了・行動化までを一本で考える。
  • Customer Insight – Data
    データを集める場所から、判断に耐える前提を揃える地盤へ。AI時代の裏方の本命。

 

こうして並べていると、2026 wave 1の各アプリケーションは、それぞれ違う場所で、同じ問いに向き合っていたように思います。

 

AIが前に出てくる時代だからこそ、自動化が進む時代だからこそ、Dynamics 365は一度立ち止まり、「人が考え続けられる余地」を守ろうとしている。2026 wave 1を通して見えてきたのは、そんな不器用で、でも誠実な姿勢でした。

 

この総集編では、これまで書いてきた各アプリケーションの話を横断しながら、Dynamics 365 2026 wave 1が本当は何を変えようとしているのか、そして、私たちに何を問いかけているのかを、改めて整理してみたいと思います。

自動化よりも、「判断が壊れないこと」

 

今回のwave 1を通して、Dynamics 365は一度立ち止まっているように見えます。「どこまで自動化するか」「どれだけAIに任せるか」ではなく、自動化した結果、人の判断が壊れていないかを、非常に気にしている。

 

Salesでは、エージェントは結論を出す存在ではなく、次の一手を考えるための補助線として配置されていました。Customer ServiceやContact Centerでも、AIは応対を置き換えるのではなく、「迷わせない」「見落とさせない」役割に留まっています。Field Serviceでは、最適化や自動割り当てが進む一方で、最終判断に必要な視界(地図、週番号、部分キャンセル)が丁寧に用意されていました。

 

どのアプリでも共通しているのは、「正解を自動で出す」ことより、人が納得して決め続けられる状態を作ることです。

体験は“流すもの”から、“扱い続けるもの”へ

 

Customer Insight – Journeysで特に強く感じたのは、ジャーニーが「設計して回すもの」ではなくなりつつある、という変化でした。

 

会話型SMS、ブランド化されたリンク、有効期限付きメッセージ、動的に更新されるメール。これらはすべて、「体験を派手にする」機能ではありません。むしろ、体験が古くならないこと、雑に終わらないこと、誤解を生まないことに焦点が当たっています。

 

さらに、Journeysの反応をそのままレコード作成につなげる流れは、体験を“配信”で終わらせず、行動へ変換するという明確な意思表示でした。

 

体験は、描いて終わりではない。体験は、判断し、修正し、終わらせ、次につなげ続けるものへ。Journeysは、その入口に立ったように見えます。

Dataは「集める場所」から「判断の地盤」へ

 

Customer Insight – Dataは、今回のwave 1で最も“裏方”でありながら、最も重要な役割を担い始めたプロダクトかもしれません。

 

エージェント精度を高める話も、OneLake連携も、過去キャンペーンの行動シグナル活用も、すべてが同じ問いに収束していきます。

『その判断は、どのデータに基づいているのか?』

 

Customer Insight – Dataは、AIを賢くするための材料庫ではありません。誰が見ても、同じ顧客を見ている状態を作るための判断の地盤です。

 

データが揃っていなければ、エージェントは自信を持って間違い、セグメントは静かにズレ、体験はいつの間にか破綻します。

 

だからこそ、2026 wave 1のDataは、「どこまでを自動にするか」より、どの前提を正とするかを、より強く人に問いかけてきます。

Deprecationsが語っていた、もう一つのメッセージ

 

最初に書いた Deprecationsの記事を、改めて思い出します。単なる機能削除や置き換えの話ではなく、「その前提は、もう成立していない」というメッセージが、静かに込められていました。

 

固定された画面、分断されたデータ、人が補完することを前提にした設計。

 

2026 wave 1は、そうした“人の頑張りで成り立っていた前提”を、少しずつ手放しにきているように見えます。

最後に|Dynamics 365よ、君はいま何を変えようとしているのか?

 

Dynamics 365 2026 wave 1を通して見えてきたのは、「AIで何ができるか」でも、「どこまで自動化できるか」でもありませんでした。

 

むしろ一貫していたのは、人が判断し続けられる状態を、どう守るかという問いです。

 

この問いは、Customer Experienceだけの話ではありません。ERP、Business Central、Supply Chain Management、Financeといった、いわゆる“基幹業務”の世界においても、同じ形で現れていました。

 

Business Centralでは、「全部できるERP」より、「迷わず回せるERP」へ。日々の仕訳、在庫、請求といった判断を、現場が無理なく続けられるかどうかに、明確に重心が移っています。

 

Supply Chain Managementでは、計画を完璧に守ることよりも、計画が崩れる前提で、引き直せる視界を持てるかが重視されていました。最適化は進んでいるのに、最終判断の余地は削られていない。これは偶然ではありません。

 

Financeにおいても同様です。数字を「締めるための仕組み」から、経営判断に耐える前提を揃える仕組みへ。AIは計算を代行しても、判断の責任までは引き取らない。その線引きが、非常に意識的に保たれていました。

 

Customer Insight – Journeysは、体験を「流すもの」から「扱い続けるもの」へと変え、Customer Insight – Dataは、判断を支えるための“地盤”を静かに整え直しています。

 

Sales、Customer Service、Field Serviceでも同じです。AIは結論を出す存在ではなく、次の一手を考えるための補助線として配置されていました。

 

こうして振り返ると、2026 wave 1のDynamics 365は、ERPからCXまで、レイヤーを問わず、同じ方向を向いていたように見えます。

 

それは、

  • 判断の前提を揃えること
  • 迷わせない視界を用意すること
  • 体験や業務を古くしないこと
  • 自動化が暴走しないようにすること

 

という、非常に地味で、しかし本質的な改善の積み重ねです。

 

Dynamics 365は、操作を増やす方向でも、AIを前面に押し出す方向でもなく、人が考えるための余白を守る方向へ、静かに舵を切っています。AIは主役ではありません。主役は、ERPでも、現場でも、CXでも、判断する人です。その人が、迷わず、疲弊せず、「自分はちゃんと考えて決めている」と感じられるかどうか。

 

Dynamics 365 2026 wave 1は、その一点に、驚くほど真剣に向き合ったリリースでした。派手ではありません。けれど、確実に“考える余白”を取り戻そうとしている。Dynamics 365よ、君はいま、業務のやり方ではなく、判断との向き合い方を変えようとしているのかもしれません。私には、そう見えています。

 

最後までお付き合いいただきありがとうございました。本稿が、誰かの何かに役立っていれば幸いです。

 

以上、室長でした。

dx365jp
  • dx365jp
  • 24年ほど、Microsoft Dynamics ERP(NAV/AX)+CRMの導入コンサルティングに従事し、日本を含む34か国において導入コンサルティングを経験してきました。グローバル環境における“プロジェクト”と“マーケティング”を生業としております。

    最近は、【CRM/MKTG(攻めのDX)⇔ ERP(守りのDX)】+【ローコード】というDX365な活動に奮闘中です。Microsoft Dynamics 365 ビジネスで地球を90周中です。#DX365 #DynamicsIoT

    Microsoftの運営する外部技術者グローバル組織「Microsoft MVP(*日本165名/世界3023名)・ Microsoftのトラスティッドアドバイザーである「Microsoft Regional Director (*日本4名/世界189名)」として、複数のITコミュニティーにて活動中。(*2022/07/06時点)

    プロフィールはこちら→bit.ly/Dynamics365JP