Microsoft Build 2026|Dynamics 365 実装者・アーキテクトが押さえるべき変化

こんにちは。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?

“室長”こと吉島良平Microsoft MVP for Business Applications|Microsoft Regional Director)です。

今週は、お客様へご挨拶に出向いていたり、Microsoft Automotive Summit 2026に参加してBlogを書いたり、プレスリリースを出したりと、慌ただしく過ごしていました。

そんな中、6月2日〜3日にサンフランシスコとオンラインで開催されたのが「Microsoft Build 2026」です。Microsoftが毎年開催する開発者向けの最大級のカンファレンスで、Azure・AI・Windows・開発ツールなど、Microsoftプラットフォーム全体にわたる最新技術と戦略の方向性が一気に発表される場です。世界中の開発者・パートナー・アーキテクトが注目するイベントで、毎年「今年のMicrosoftの動きを占う」大きな機会でもあります。

ライブ配信で見ることはできなかったので、先ほど録画を見たのですが、いやぁ、今回もとんでもないボリュームの新たな発表がありました……

全部を追いかけることはできないので、僕はMicrosoft Biz Apps領域のMVP/RDとして、「Dynamics 365を中心に実装・活用する方向け」に絞って、自分の責務を果たしたいと思います。

この記事の内容
  1. Microsoft IQ — D365エージェントの「文脈理解」が変わる
  2. D365 × Microsoft 365 — 組織データを横断するエージェント統合
  3. Windows 365 for Agents — Power PlatformとD365の組み合わせで広がる自動化
  4. Microsoft Foundry — Copilot Studioエージェントの本番運用設計が変わる
  5. Frontier Tuning — 業種特化D365実装への影響
  6. Build 2026を俯瞰する — MicrosoftはD365をAgentic Foundationと定義した

では、一つひとつ見ていきましょう。


1.Microsoft IQ — D365エージェントの「文脈理解」が変わる

今回のBuildで、個人的に一番インパクトが大きいと感じたのがこれです。

Work IQ 今月GA・Fabric IQ・Foundry IQが統合された「Microsoft IQ」が発表されました。

一言で言うと、「Copilot Studioで作るD365連携エージェントが、組織全体の文脈を理解できるようになる」ということです。

これまでのエージェントは、Dataverseのレコードを検索して返す、という動きが中心でした。悪くはないのですが、「このお客様の担当営業が先週Teamsでどんな会話をしていたか」「Outlookでのやりとりはどうだったか」「SharePointの最新提案書はどれか」—そういった文脈をエージェントが自分で拾いに行くには、開発者がコネクターを一つひとつ設計して繋ぐ必要がありました。

それが、Work IQが入ることで変わってきます。M365全体—Teams・Outlook・SharePoint・OneDriveを横断した「組織的な意味理解」がエージェントに流れ込む設計になるんです。

具体的なシーンで考えると

Dynamics 365 Salesの商談レコードを見ているエージェントが、「担当営業が顧客と交わした直近のTeams会話」「提案書の最新版(SharePoint)」「メールの返信状況(Outlook)」を同時に参照しながら、「次のアクションはこれがベストです」と提案できる—そういう世界です。

これまで
  • Dataverse単体の構造化データ参照
  • M365連携は開発者が個別設計
  • コンテキストはセッション内限り
  • コネクター追加が都度必要
これから
  • D365 + M365を意味的に横断
  • Work IQで組織知識を自動参照
  • Procedural Memoryで業務を学習
  • 一度構築で横断的に再利用

さらに、Procedural Memory(Preview)という機能により、エージェントが複数回の実行を跨いで「このチームはこのやり方で動いている」という業務の流儀を学習・記憶できるようになります。これは地味に大きい。

Fabric IQ Ontology(Preview)が正式化されると、Dynamics 365のデータモデルとFabricのデータレイクを「ビジネスの意味」として結びつけたエージェント設計が可能になります。D365とFabricを両方使っているお客様には、特に注目していただきたいポイントです。

📌 留意点:Work IQのCopilot Studio統合における具体的なAPI・設定方法はドキュメントを要確認です。GAとPreviewが混在しているため、「何がいつ使えるか」を機能ごとに把握することが実装設計の第一歩になります。また、DataverseのBU・チーム・レコード権限がWork IQ経由のエージェントアクセスにどう反映されるかも、設計段階できちんと検証したいポイントです。


2. D365 × Microsoft 365 — 組織データを横断するエージェント統合

上述1.とも関連するのですが、こちらはもう少し「エージェントの動き方」そのものが変わる話です。

今回発表された「Microsoft ScoutEarly Accessは、Microsoftが「Autopilotエージェント」と呼ぶ、常時稼働型エージェントの第一弾です。

これまでCopilotは「話しかけたら答えてくれる」存在でした。プロンプトを投げる→返ってくる、という往復が基本です。ScoutはそうじゃなくてEntra IDで管理された独自のIDを持ち、TeamsとOutlookを監視しながら、指示がなくても動き続けます。

D365実装者として気になるのは、このScoutがWork IQをコンテキストエンジンとして使っているという点です。

D365 Field Service × Teams の例で考えると

Field Serviceのワークオーダーが更新されたタイミングで、関連するTeamsチャンネルへの通知・担当者へのOutlookスケジュール登録・SharePointの作業手順書の参照—これらをエージェントが常時監視して自律的に処理する、というシナリオが現実味を帯びてきます。

営業プロセス × Outlook連携シナリオ

D365 Salesの商談ステージ変化を検知し、次アクションのドラフトメール作成・関係者へのTeams通知・提案書テンプレートのSharePoint検索を自律的に実行する—そんな動きが、エージェントに「仕込む」のではなく「常時稼働として任せる」形で実現できます。

これまで
  • Power Automateフローによる決定論的自動化
  • D365とM365は別々に設計
  • プロンプト待ちのCopilot
  • コンテキストはフロー内のみ
これから
  • 常時稼働・自律判断エージェント
  • D365+M365を横断した文脈理解
  • Entra IDで管理・監査可能
  • 指示なしで動き続ける

⚠️ 留意点:Microsoft ScoutはFrontier organizationsへのEarly Accessのみです。一般利用までのタイムラインは未公表のため、現時点では「こういう設計パターンが来る」として把握しておく段階です。ただ、「Power Automateフローと常時稼働エージェントをどう使い分けるか」という設計の問いは今から考え始める価値があると思っています。


3. Windows 365 for Agents — Power PlatformとD365の組み合わせで広がる自動化

Power Automate Desktopを使ってきた方には、特に注目していただきたい発表です。

Windows 365 for AgentsAgent 365ツール経由GA Copilot Studio Previewは、Copilot Studioのエージェントに対して、Entra ID・Intune管理下のCloud PCを割り当て、業務アプリのUIを直接操作させる仕組みです。

これまでのCopilot Studioエージェントは、APIやコネクター経由でしかシステムと連携できませんでした。APIのないレガシーシステムや、UIしか口がないアプリケーションは、Power Automate Desktop(RPA)で対応してきましたよね。

このWindows 365 for Agentsが変えるのは、そのRPAの「判断」の部分です。

D365 F&O × レガシーシステムの例

Dynamics 365 Finance & OperationsとAPIを持たない基幹システム(古い受注管理や在庫システムなど)を跨いだデータ照合・転記作業を、エージェントがCloud PC上でUI操作しながら、状況を判断して処理する—従量課金制で、Intune管理下で動く、というのが大きな違いです。

Power Automate Desktop(これまで)
  • 手順をすべて事前に定義
  • 例外処理も設計者が実装
  • 管理・監査は個別設定
  • スケールに手間がかかる
Windows 365 for Agents(これから)
  • 状況を判断して柔軟に対応
  • Entra ID/Intune管理で統制
  • 従量課金でスケール可能
  • Copilot Studioから直接制御

📌 「Power Automate Desktop(RPA)を置き換えるもの」ではなく、「判断が必要なシナリオに使うもの」と理解するのが正確です。完全に手順が決まった処理はRPAのまま、文脈に応じて判断・分岐が必要な処理にAgentsを使う、という使い分けが当面の設計指針になりそうです。従量課金のコスト設計も、D365実装の見積もりに早めに組み込んでおく必要があります。


4. Microsoft Foundry — Copilot Studioエージェントの本番運用設計が変わる

エージェントを「作る」のは、正直、だいぶ簡単になってきました。難しいのはその先—本番で安定させる、品質を継続的に上げる、ガバナンスを効かせる——という部分です。

今回のFoundryアップデートは、まさにその「プロトタイプ以後」を設計した内容だと感じました。注目すべきポイントは3つあります。

Teams・M365 CopilotへのワンクリックPublish 来月GA

Copilot Studioで作ったエージェントをTeams・Microsoft 365 Copilotにワンクリックで公開できるようになります。IDとテナントポリシーが自動的に引き継がれるので、セキュリティ設定の重複作業がなくなります。来月GAということで、もうすぐです。

トレース・評価・Agent Optimizer GA / Preview

エージェントの挙動をOpenTelemetryで記録・評価し、「回答が不正確なケース」を自動検出。Agent Optimizer(Preview)がプロンプト・ツール・コンテキストの改善案を自動提示し、差分確認後にワンクリックで更新・ロールバックができます。

D365 Sales Copilotエージェントの運用イメージ

商談支援エージェントの回答品質をFoundryでトレース→品質が落ちているパターンを検出→Agent Optimizerが改善案を提示→確認してワンクリック更新、ロールバックも即座に可能—この運用サイクルが標準化されます。

Agent Control Specification Preview

エージェントが本番でできることをコードで定義・強制できるようになります。D365の機密データを扱うエージェントでは、このガバナンス設計が重要な要件になるはずです。

これまで
  • 品質評価は個別設計が必要
  • 改善サイクルは手動対応
  • Teamsへの公開は設定作業あり
  • ロールバックも手動
これから
  • OpenTelemetryで標準化された評価
  • 改善案の自動提案+差分確認
  • TeamsへワンクリックPublish
  • ワンクリックロールバック

📌 「Copilot Studioで構築、Foundryで運用・CI/CD」という役割分担が今後の標準設計パターンになってくると考えています。この分業設計を今から整理しておくことが、本番エージェント運用の品質に直結します。


5. Frontier Tuning — 業種特化D365実装への影響

最後は、少し中長期の話です。今すぐ使えるわけではないのですが、D365業界クラウド(製造・金融・医療・小売)を担当しているパートナーの方には、早めに知っておいてほしい発表です。

Frontier TuningEarly Accessは、自社テナント内で業種・業務特化のAIモデルをファインチューニングできる基盤です。

これまでのCopilot Studioは、汎用モデルをベースにプロンプトエンジニアリングやナレッジベースでカスタマイズする、というアプローチでした。Frontier Tuningはそのレイヤーが一段下がります—モデル自体を、自社の業種固有の用語・業務フロー・社内ポリシーで鍛えることができる。

製造業 × D365 SCM での例

サプライチェーン固有の部品番号体系・調達ルール・品質基準を学習させたモデルをテナント内で運用し、汎用Copilotでは難しかった「製造業の言葉で話せるCopilot Studioエージェント」を構築する—というシナリオが現実的になります。

Copilot Studioエージェントのバックエンドとして、汎用モデルではなく業種チューニング済みモデルを使える設計が可能になる。これはD365業界クラウドを扱うパートナーにとって、大きな差別化要素になりうると思っています。

⚠️ Early Accessのため、一般利用はまだ先です。今は「将来の設計選択肢」として把握しておく段階ですが、ROI試算や顧客提案の準備という意味では、早めに情報を集めておく価値があります。D365業界クラウドを扱うパートナーは、Early Accessへの参加を検討してみてください。


6.Build 2026を俯瞰する — MicrosoftはD365を「Agentic Foundation」と定義した

ここまで5つの軸でD365実装者向けの変化をお伝えしてきましたが、最後に少し視座を上げて、今回のBuild全体を俯瞰してみたいと思います。

今回のBuildで発表されたものを並べると、改めてそのスケールに圧倒されます。

量子

Majorana 2。量子ビットの信頼性を1000倍に。

インフラ

Maia 200、Cobalt 200、MRC。自社シリコンでフルスタック。

OS・デバイス

OpenClaw on Windows、Aion 1.0、Project Solara。

AIモデル

MAI-Thinking-1、MAI-Image-2.5ほか。自社モデル群が揃う。

開発基盤

GitHub Copilot App、Microsoft Foundry、MAF v1.0。

セキュリティ

MDASH。マルチモデル・エージェント型セキュリティ。

これだけ並べると、Microsoftが何をしようとしているかが見えてきます。

垂直統合—チップからアプリまでを自分たちで握る

今回のBuildでMicrosoftが最も明確に見せたのは、「チップ〜インフラ〜OS〜開発基盤〜データ〜エージェント〜業務アプリ」という縦の軸を、自社で一気通貫に持つという意志です。

量子
Majorana 2
チップ
Maia 200 / Cobalt 200 / NVIDIA RTX Spark
OS・デバイス
OpenClaw on Windows / Aion 1.0 / Project Solara
AIモデル
MAI-Thinking-1 / MAI-Image-2.5 / MAI-Code-1-Flash ほか
開発基盤
GitHub Copilot App / Microsoft Foundry / MAF v1.0
データ・IQ
Microsoft IQ(Work IQ / Fabric IQ / Foundry IQ)
業務アプリ
Dynamics 365 ── Agentic Foundation

このスタックを見て気づくことがあります。上から下に向かって、すべての層が「エージェントを動かすため」に設計されています。量子コンピュータも、自社シリコンも、新しいOSも、AIモデルも—すべての矢印の先に「エージェントが業務を遂行する」という一点があります。

では、そのエージェントはどこで「仕事をする」のか

エージェントには「動く理由」が必要です。業務プロセス・データモデル・ビジネスルール・組織の権限構造—これらがなければ、エージェントはどこに向かえばいいかわからない。

その「動く理由」を持っているのが、Dynamics 365です。

Work IQがM365を横断しても、最終的に「何をすべきか」の判断軸はD365の業務文脈から来ます。Windows 365 for AgentsがUIを操作する先も、Foundryがエージェントをデプロイする先も、Copilot Studioエージェントが価値を発揮する場所も—結局、D365が定義した業務プロセスが中心にある。

今回のBuildで、MicrosoftはDynamics 365を「エージェントが動くための業務文脈の基盤」—すなわちAgentic Foundationとして、静かに、しかし明確に位置づけたと、私は理解しています。

これはBizAppsコミュニティへのメッセージでもある

D365の実装者・パートナーの皆さん、これは私たちにとって、自分たちの仕事の価値が上がるメッセージです。

エージェントがどれだけ賢くなっても、業務を理解していなければ動けません。業務プロセスを設計し、データモデルを整え、ビジネスルールを定義する—その仕事は、AIには代替できない。むしろ、エージェント時代になればなるほど、D365を正しく実装する人間の価値は高まっていく、と僕は思っています。

エージェントに仕事をさせるためには、業務の定義が必要。その業務の定義を持っているのがDynamics 365であり、それを設計・実装できるのが私たちBizAppsコミュニティです。

今回のBuild 2026、全体を通じて感じたのは「Microsoftはエージェント時代の本番化に本気で踏み込んだ」ということです。プロトタイプや実験の段階ではなく、企業が実際に動かせる・管理できる・改善できる基盤が、今回一気に揃ってきた印象です。

私たちBizAppsコミュニティにとって、これからの1〜2年は間違いなく正念場になるでしょうね。新しい技術をキャッチアップしながら、自分たちの業務設計の強みをエージェント時代の文脈で再定義していく—皆さんのその旅に、このBlogで伴走していければと思っています。

今すぐやること
  • Work IQ / Foundry IQのCopilot Studio統合ドキュメントを確認し、既存エージェント設計の見直しポイントを把握する
  • 来月のTeams/M365 CopilotワンクリックPublish GA前に、エージェントのデプロイ・ガバナンス設計を整理する
  • Windows 365 for AgentsのPreviewに参加し、現在のPower Automate Desktopシナリオとの使い分け基準を検討する
  • Copilot StudioとFoundryの役割分担を整理し、本番エージェントのCI/CD設計を準備する
  • D365業界クラウドを担当している場合、Frontier Tuning Early Accessへの参加を検討する

各機能のGAスケジュール・詳細に関しては、公式ドキュメントで最新情報をご確認ください。

以上、室長でした。

 

dx365jp
  • dx365jp
  • 24年ほど、Microsoft Dynamics ERP(NAV/AX)+CRMの導入コンサルティングに従事し、日本を含む34か国において導入コンサルティングを経験してきました。グローバル環境における“プロジェクト”と“マーケティング”を生業としております。

    最近は、【CRM/MKTG(攻めのDX)⇔ ERP(守りのDX)】+【ローコード】というDX365な活動に奮闘中です。Microsoft Dynamics 365 ビジネスで地球を90周中です。#DX365 #DynamicsIoT

    Microsoftの運営する外部技術者グローバル組織「Microsoft MVP(*日本165名/世界3023名)・ Microsoftのトラスティッドアドバイザーである「Microsoft Regional Director (*日本4名/世界189名)」として、複数のITコミュニティーにて活動中。(*2022/07/06時点)

    プロフィールはこちら→bit.ly/Dynamics365JP