Microsoft Automotive Summit 2026

こんにちは。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?

“室長”こと吉島良平(Microsoft MVP for Business Applications|Microsoft Regional Director)です。

今、私の上司であるフレディー(Technosoft CEO)が、本日ご紹介するイベントに合わせ、来日しています。

弊社も本イベントに合わせ、4つのプレスリリースを一斉公開しました。

「個」から「関係性」へ |自動車ディーラーCRMの次の一手 TAS SFA日本ローカライズ機能を提供開始

データが見える、現場が動く|TAS DMS向けPower BIレポートテンプレート20種を提供開始

現場が変える帳票改革|TAS DMS向け日本ローカライズ帳票テンプレート20種を提供開始

顧客との絆を、データとAIで再定義する|CRM革新オンラインセミナー開催のお知らせ

よって、本稿は、いつもより熱量多めで、いつもより少し“硬め”に書いていきたいと思いますが、最後までお付き合いいただけますと幸いです!

昨日、2026年6月4日、日本マイクロソフト品川本社にて「Microsoft Automotive Summit 2026」が開催された。

(本サミットは、昨年度からスタートし、今回で2回目)

 

本サミットには、日本を代表するOEMをはじめ、グローバルテック企業、ソフトウェアベンダー、そしてパートナー企業が一堂に会し、「AI」「SDV(Software-Defined Vehicle)」「エージェント」といったキーワードを軸に、自動車業界の現在地と未来について議論が交わされた。

いま、自動車産業は「100年に一度」と呼ばれる変革期の真っただ中にある。電動化、ソフトウェア化、そしてAIによる意思決定の高度化—これら複数の変化が同時に進行する中で、競争のルールそのものが書き換えられつつある。一方で、AI投資の効果はすでに他産業を凌駕する水準に達しているにもかかわらず、その活用はまだ限定的であり、業界全体としてのポテンシャルは十分に発揮されているとは言い難い。

本記事では、この一日を通じて示された数多くの示唆をもとに、「AI Defined」「SDV」「Agentic」という3つの軸から、自動車業界がどこに向かっているのかを整理する。
単なるイベントレポートではなく、本サミットから見えた「構造の変化」と「次に取るべきアクション」について、個人的な見解を最後に示す。

Session 01 オープニング

09:00〜09:15 | 津坂 美樹 氏(日本マイクロソフト 代表取締役社長)

2026年6月4日、「Microsoft Automotive Summit 2026」が品川本社にて開幕した。Opening Keynoteに登壇した津坂 美樹氏は冒頭、「自動車業界は100年に一度の変革期」というメッセージを力強く打ち出した。EVシフトによる競争基盤のソフトウェア化、サプライチェーンを取り巻く地政学リスク、そして生成AIとフィジカルAIの融合——複数の変化が同時進行する現在、自動車業界が直面する構造転換の深刻さを改めて示した。

続いて津坂氏が示したデータは、会場に大きなインパクトを与えた。業界別の生成AI投資対効果(ROI)を比較すると、自動車/運輸が3.1倍で全業界トップであることが明らかになった。金融や通信を上回るこの数値は、AIがモビリティ領域においていかに大きな価値を生み出せるかを端的に示している。

しかし一方で、厳しい現実も浮き彫りとなった。ROIが高いにもかかわらず、生成AIを本格的に活用している「先進企業」の割合は、自動車/運輸がわずか14%と、主要産業の中で最低水準にとどまっている。「伸びしろがある」と捉えることもできるが、先行する金融(31%)や通信(27%)と比較すると、業界全体のデジタル変革が遅れていることは否めない。

この課題に対して津坂氏が提示した処方箋が、AI活用に成功している企業に共通する3つの特徴である。第一に、「経営陣自らがAIを活用する」こと。第二に、「AIファーストで業務プロセスを刷新する」こと。そして第三に、「AI筋トレによって組織の実践力を最大化する」こと。テクノロジー導入にとどまらず、経営変革そのものとしてAIを位置づける重要性が強調され、日本マイクロソフトとして自動車業界の変革を全力で支援する姿勢が明確に示された。

Session 02|Microsoftが考えるクルマの未来

09:15〜09:45 | 石黒 裕太郎 氏(日本マイクロソフト Chief Industry Technology Lead)

自動車業界が直面する構造変化をMicrosoftの視点から深掘りした本セッションは、石黒 裕太郎氏が5つのアジェンダ(①イントロダクション、②自動車業界におけるソフトウェアのトレンド、③自動車業界に対するMicrosoftの取り組み、④今後の自動車業界予想、⑤まとめ)に沿って展開された。

まず石黒氏は、2011年以前の「検証期(ハイブリッドシステム)」に始まり、「黎明期(ドメイン開発)」「成長期(CASE/ソフトウェアファースト)」「成熟期(SDV)」を経て、2026年以降は「衰退期(AI駆動開発)」に突入するという業界変遷の全体像を提示した。

衰退期の特徴として、ADASやコックピット領域におけるソフトウェア化が完成に近づいた一方で、これまでの投資・投資回収モデルが成り立たず、固定費の上昇により自動車会社の収益性が低下している現状を明確に指摘した。さらに、新興OEMの台頭により既存自動車メーカーの販売台数減少も予測されるとし、「自動車業界は冬の時代に突入した。ただし、日本の自動車会社は冬の時代だからこそ強くなってきた」という力強いメッセージを示した。

続いて提示されたのが、「ROI経営へのシフト」という業界の処方箋である。ヒト・モノ・カネの三観点からの課題——すなわち、ソフトウェア内製化による固定費増加、開発期間の長期化、市場飽和によるキャッシュフロー悪化—を整理した上で、自動車ソフトウェアにおける今後のホットテーマとして、以下の3点が挙げられた。

第一に、AIエージェントを活用した車載機能の高度化による、ローコストでの商品魅力強化。

第二に、クラウドサービスによる継続的アップデートを通じた、デジタルカスタマーロイヤリティの向上と収益化。

そして第三に、AI駆動開発による開発期間短縮を通じた、開発力強化と原価低減である。

こうした業界課題に対するMicrosoftの具体的な取り組みとして紹介されたのが、メルセデス・ベンツにおけるAIを活用した車内体験の向上、BMWにおけるクラウドとビッグデータを活用した顧客体験の実現、そしてSynopsysとの協業による次世代SDV開発環境の構築という3つの事例である。

さらに、SDV化の進展により、OEM・Tier1・Tier2という従来のサプライチェーン構造にテック企業が横断的に参入する、新たなエコシステムへの変化が示された。Microsoftは、その中核を担うテック企業として、自動車産業全体を支える役割を果たしていくと明言したことも印象的であった。

セッションの締めくくりでは、「SDV化の流れを受け、クルマ自体の機能高度化は一定の到達点に達した。今後はAIとクラウドコンピューティングをいかに使いこなし、ローコストでクルマ開発を進められるかが成功の鍵となる」と総括された。あわせて、本Automotive Summitが自動車産業をさらに活性化させる契機となることへの期待が述べられ、セッションは締めくくられた。

Session 03|基調講演:自動車業界の未来

09:50〜10:20 | 滝澤 琢 氏(ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター & パートナー)

BCGのグリーンカラーが印象的なスライドが次々と映し出される中、滝澤 琢氏は「AI Defined Automotive Industry—AIとソフトウェアが変える競争ルール」という骨太なテーマで、約30分にわたる基調講演を展開した。

まず提示されたのが、自動車産業の本質的な変容である。「これまで」はハードウェア中心で、「走る・曲がる・止まる」を出荷時に作り込む“ものづくり産業”だった自動車業界が、「これから」はAI、ソフトウェア、OTA、データ、シミュレーション、クラウドを武器とする「学習産業」へと転換していくと断言した。競争優位の源泉は、「いかに速く市場に投入し、そこから学習し、進化できるか」にあるという視点が明確に示された。

SDV(Software-Defined Vehicle)の進展により、車のあり方も大きく変化する。車両とクラウドが常時接続され、OTAによってソフトウェアが継続的に更新されることで、クルマは「継続進化するソフトウェアシステム」へと変貌する。その全体像が、具体的な構造図を用いて詳細に描かれた。

AI活用に関して強調されたのが、「DEPLOY」「RESHAPE」「INVENT」の3段階である。単に業務にAIツールを導入する「DEPLOY」(生産性10〜20%向上)にとどまらず、コア機能や業務プロセスを再設計する「RESHAPE」(生産性30〜50%向上)、さらには新たなビジネスモデルや収益源を創出する「INVENT」へと進むことが重要だと指摘された。「先進企業はAI投資の80%をReshapeとInventに集中させている」というデータは、会場に強いインパクトを与えた。

グローバル競争の現実についても、複数の示唆に富むデータが提示された。ソフトウェア開発速度では、伝統的なOEMが40〜50か月を要するのに対し、Teslaは24〜30か月、中国EV OEMは約24か月と、開発スピードに約2倍の差がある。OTAの更新頻度でも、Teslaが年間39回・約500か所のアップデートを行い、NIOが2024年に19回のFOTAを実施し666件の改善を追加するなど、継続進化のスピードにおいて大きな差が存在する。「これらの企業は、ソフトウェアを出荷時点で完成したものではなく、出荷後に進化させ続ける商品として運用している」という指摘は、日本の自動車業界への明確な問題提起となった。

具体的な企業事例として取り上げられたのがFoxconnである。「Future of AI factory」というビジョンのもと、「Agent Store」によって複数のAIエンジンを統合・継続進化させ、「Factory GPT」によって製造プロセスのPDCAを高速化する取り組みが紹介された。さらに、Siemens、NVIDIA、KUKAといった外部パートナーとの連携や、「AIが使えない人には厳しく」という“10-20-70から80:20への転換”といった大胆な組織変革も実行されており、AIを前提とした産業構造の変化が現実のものとなっていることが示された。

加えて、中国勢の台頭についても具体的に言及された。MomentaやHorizon Roboticsは、グローバルOEMと中国系OEMの双方に対して高いプレゼンスを持つADASソフトウェア企業として存在感を高めている。Momentaにおいては、要件整理からコード生成、テストケース作成に至るまで、ソフトウェア開発プロセス全体に生成AIを適用している実態が紹介された。

一方で欧州勢も、VolkswagenがXpengと提携し中国にR&Dセンターを設立するなど巻き返しを図っているほか、インドがグローバルケイパビリティセンター(GCC)として最大40%のコスト優位性を持つ開発拠点として台頭していることも示された。

Session 04|マツダのDX/AXの取り組みについて

10:30〜11:10 | 木谷 昭博 氏(マツダ株式会社 経営役員CIO 業務イノベーション・DX/AX推進担当)

自動車メーカーが自社のDX/AX推進の実態を率直に語る貴重なセッションとして、多くの参加者がメモを取りながら聴き入ったのが、マツダ株式会社の木谷昭博氏による講演である。

木谷氏はまず、マツダにおけるデジタル技術の歩みを振り返った。1960年に日本初として生産領域へIBM650コンピューターを導入し、1972年には内製のCAD/CAMシステムを開発。マツダは早期からデジタル技術を合理化の手段として取り入れてきた歴史を持つ。その積み重ねが、現在のDX/AX推進の土台となっている。

デジタル戦略の中核を担うのが、Mazda Digital Innovation(MDI)である。「ものづくり革新」を基盤に据え、その上位に「マツダらしい価値創造」を位置づけるピラミッド構造で整理され、2010年以降は本格的な「価値創造フェーズ」へと移行している。MDIの重要な柱の一つが、バトンタッチ方式のコンカレントエンジニアリングである。デジタルモックアップ、バーチャルテスティング、デジタルファクトリーという3D活用の三段構えにより、商品企画から設計、試作、実験、量産準備までを並行して推進し、開発期間の大幅な短縮を実現している。

2030経営方針「人とITの共創による価値創造」のもとで目指すのは、「人の能力の最大化」と「価値創造業務への集中」である。BLUEPRINTによる組織風土改革と、DX/AXによる業務構造改革を両輪とし、「生産性倍増」を掲げる。CIOの責任のもと、本部長主導でPDCAサイクルを回し、2024年Step1(現状分析・あるべき姿の定義)、2025年Step2(業務設計)、2026年Step3(自動化・高速化の実践)という3ステップで着実に改革を進めている。
具体的な成果も明確な数値で示された。コネクティッドサービスにおけるIT基盤については、当初はITベンダーへの委託が中心であり、膨大なクラウドコストが経営課題となっていた。しかし2021年以降、マツダ社員自らがプロジェクトマネジメントおよびソフトウェア開発を担う体制へと転換。QCDを自社でコントロールする体制を確立した結果、台当たりのクラウドコストを45%削減することに成功した。

また、システム開発におけるAI活用の進展も注目に値する。82のレガシーシステム刷新において、AIによる言語変換(.aspやVB.NETからC#への変換)を実施し、平均35%の工数削減を実現している。さらに、2025年12月から4か月間で「AI適用相談会」を146件実施し、コーディング工程における20%の工数削減を前提としたプロジェクトが進行中である。将来的には、2035年までにAXを通じてITシステム開発および運用保守の生産性を10倍に高めるというビジョンも提示された。

「マツダらしい価値創造」の具体例として紹介されたのが、MAZDA SPIRIT RACINGアプリの内製化である。モータースポーツのサブブランドとして2022年8月に公式アプリをリリースし、企画から開発、運用、保守に至るまでを完全内製で推進。2025年10月には限定200台の抽選販売において9,606件の応募を獲得し、現在では月間約1万人が利用するコミュニティへと成長している。

車載ソフトウェア開発領域においては、As-Isの課題—Excelに分散したデータ、人手によるチェック、サイロ化されたレガシーシステム——を解消するため、To-BeとしてALM(要求・リスク・成果管理)およびPLM(EBOM、コスト・重量、CAD、開発課題管理など)へデータを集約する構想が進められている。これにより、AI活用を前提とした開発基盤への移行が図られている。また購買部門においても、複数システムに分散していた情報をData Lakeで一元化し、コスト検討や発注戦略といった本来業務へ集中できる環境を整備している。

AX推進を担う中核組織として、2025年9月に発足した「MAXプロジェクト室」は、全社データ連携基盤の構築と業務変革のリードを担う存在である。社外からの高度IT・AI人材の採用と社内人材の育成を両輪とした3年計画を進め、各部門にDX/AX人材を配置する体制を構築している。今後の挑戦としては、AIエージェントを活用した「IT部門の変革」と「商品開発プロセスの変革」という2つのテーマを掲げ、取り組みは現在進行形で続いている。

Session 05|SDVデジタルプラットフォーム

11:10〜11:40 | 丹野清嗣氏(ベクター・ジャパン代表取締役社長)

マツダのセッションに続いて登壇したのは、自動車向けソフトウェアツールおよびコンポーネント開発でグローバルに高い実績を持つVector社である。76カ国9,000社以上の顧客基盤と、35年以上にわたる自動車業界での開発経験を背景に、SDV(Software-Defined Vehicle)実現に向けた包括的なアプローチが提示された。

セッションの核心メッセージは、「Hardware-Defined VehicleからSoftware-Defined Vehicleへの転換」である。従来のハードウェアが機能を規定する車両から、ソフトウェアを継続的に更新し、DevとOpsをループさせるフィードバックサイクルを前提とした「Big Loop」型の開発へと移行する必要性が強調された。

一方で、Vector社が評価したグローバルOEMの現状は、Software Platform、Software Factory、Software Know-How、Organizational Setupの4軸いずれにおいても、依然としてHDV側に位置しており、SDVへの移行には大きなギャップが存在することが示された。こうした現状を踏まえ、同社はSDV実現に向けた5つの重要要素—Software Platform主導の開発、モジュール化されたE/Eアーキテクチャと共通API、HPCエコシステム、パートナー連携によるコードファースト開発、そしてSoftware Factoryの確立—を提示した。

特に強調されたのが、Software PlatformとSoftware Factoryの2つの概念である。Software Platformは、車載とクラウドを統合したスケーラブルかつモジュラーな基盤として、継続的な機能更新と再利用性を支える。一方のSoftware Factoryは、DevOpsおよびEverything-as-Codeを前提とした統合開発環境であり、自動化、迅速なフィードバック、大規模並行開発を実現することで、ソフトウェア開発の生産性と品質を大幅に向上させる役割を担う。

また、従来のGUIベースの開発から脱却し、テキストベースかつコード中心の「Everything-as-Code」への移行も重要なポイントとして挙げられた。これにより、再利用性やトレーサビリティ、開発スピードの向上が実現される。

最後に、SDVへの移行は一足飛びに達成されるものではなく、機能ドメイン型からハイブリッド型、そして完全ゾーン型へと段階的に進む長期的なアーキテクチャ変革であることが示された。Software Platform主導の開発と、Software Factoryによる高速なフィードバックループ——この2つをいかに構築できるかが、SDV時代における競争力の鍵となることが明確に示された。

Session 06|AI defined Mobility

12:40〜13:10 | Dattatri Salagame氏(CEO,Bosch Global Software Technologies Private Limited)

昼食休憩後の最初のセッションに登壇したのは、自動車部品・システムのグローバルリーダーであるBoschである。同社は、AIによって再定義されるモビリティと、それを支えるエンジニアリングの変革について体系的に提示した。

まず示されたのが、AIドリブンモビリティを支えるエコシステムの全体像である。車両側のアプリケーション、OS・ミドルウェア、半導体といったレイヤーに加え、クラウド側のサービス、プラットフォーム、インフラが密接に連携する構造が描かれ、「Vehicle Stackからクラウドエコシステムへ」という視点でモビリティの進化が整理された。モビリティはもはや単体の車両ではなく、広範なパートナーが関与するエコシステムとして成立していることが明確に示された。

さらにBoschは、開発プロセス自体の変革にも言及した。従来の開発支援(Assisted Development)から、自律的に設計・開発を進める「Autonomous Engineering」への進化である。LLMやコンテキストエンジニアリングを基盤とし、複数の専門エージェントが連携して開発を推進するアーキテクチャが提示され、開発プロセスそのものが大きく変わろうとしていることが示された。

この流れを支えるのが「AI First Engineering Journey」である。従来のV字モデルに代表されるコード中心の開発から、仕様を起点としたAIネイティブな開発へと移行し、ワークフロー、ツール、知識基盤、インフラに至るまでが再設計される。Human in the Loopを前提としつつも、エージェントによる自律的なオーケストレーションを組み込んだ新たな開発モデルの方向性が示された。

また、顧客体験の側面では、AI-Powered Cockpitの構想が紹介された。車両がドライバーの状況や文脈を理解し、先回りして支援する「パーソナライズドコンパニオン」として進化する未来像である。車は単なる移動手段を超え、継続的に学習し、個別最適化された体験を提供する存在へと変わりつつある。

セッションの最後には、AI時代のモビリティを再定義する8つの原則が提示された。顧客体験、データ、AIファースト組織、エコシステムなどを軸に、「Value・Variety・Velocity」の3軸でパフォーマンスを高めることが重要であると強調された。モビリティの進化は、単なる車両の高度化ではなく、エンジニアリング、組織、そしてビジネスモデル全体の変革であることが改めて示されたセッションであった。

Session 07|塗装工程におけるリアルタイムデータ統合と製造現場の意思決定プロセス改革

13:20〜13:50 | 畠山 卓也 氏(豊田自動織機株式会社 長草工場生産技術部生技開発グループ)

本セッションでは、製造現場におけるデータ活用と意思決定プロセス改革のリアルな挑戦が共有された。登壇したのは豊田自動織機の畠山卓也氏である。

講演は「何が違ったかわからないが、確実に変わった」という印象的な言葉から始まった。製造現場において良品を作り続けるためには、「何が違ったのか」を特定し、それを共有し続けることが不可欠である。この“違いを理解すること”こそが、本セッションの中心テーマである。

豊田自動織機では、2017年のIoT導入を皮切りに、故障予知や品質分析など段階的にデータ活用を拡大してきた。その中でも大きな挑戦となったのが、AIによる良品条件の自動最適化である。熟練者が行っていた条件調整をAIで代替し、設備パラメータを自動制御する仕組みを構築したが、最終的な現場定着には至らなかった。ここから「技術的に実現できること」と「現場で使われること」は別であるという重要な示唆が得られた。

次に取り組んだのが、塗装工程における良品条件の可視化である。しかし、データに基づく意思決定を現場に委ねる設計としたものの、分析に時間がかかることや、結果の解釈が難しいことなどにより、意思決定サイクルが回らないという課題に直面した。すなわち、「データはあるが意思決定につながらない」状態である。

この課題を打破したのが、Sight Machineとの連携によるリアルタイムデータ統合であった。工程ごとに分断されていたデータを製品単位で統合・紐付けし、完全なトレーサビリティを実現したことで、要因分析のスピードが劇的に向上した。従来は数日を要していた分析が数時間で可能となり、「今、何をすべきか」を迅速に判断できる環境が整備された。

その結果、意思決定プロセスは大きく変化した。データ準備時間の大幅削減、不具合対応リードタイムの短縮、問題解決機会の増加など、定量的な改善が確認されるとともに、現場での意思決定サイクルが実際に回り始めた。さらに、データの可視化を起点に部門間の連携が促進されるなど、組織的な変化も生まれている。

本セッションで示されたのは、単なるデータ活用ではなく、「データに基づく意思決定が現場で回る仕組み」をいかに構築するかという本質的な課題である。データ統合と文脈付け、そしてインサイトの民主化—これらを実現した先に、製造現場におけるAI活用は初めて価値を生み出すことが示された。

Session 08|SDV化に伴うリーガルテックの重要性

14:00〜14:30 | 本間 隆浩 氏(ルネサスエレクトロニクス株式会社 法務統括部 ヴァイスプレジデント兼ジェネラルカウンセル)

技術系セッションが続く中で異彩を放ったのが、ルネサスエレクトロニクスの本間隆浩氏による講演である。テーマは「AI時代における法務の高度化——SDVビジネスへの貢献」。エンジニア中心の聴衆に対し、法務部門がいかにビジネスの推進力となり得るかを提示した点が印象的であった。

本セッションの出発点は、法務部門の役割の再定義である。その軸は2つに整理された。ひとつは、AI活用によって法務サービスの品質とスピードを高め、事業の意思決定を支える「Value Delivery」。もうひとつは、AIガバナンスやコンプライアンス体制を整備し、全社的なAI活用を可能にする「Governance」である。この両輪が、AI時代の法務の基本構造として提示された。

具体的な取り組みとしては、Copilotを活用した契約・文書分析、リサーチ、会議要約などの高度化に加え、リーガルテックの導入による業務全体のデジタル化が進められている。また、AI活用ガイドラインの整備、AI原則の明文化、経営レベルでの継続的な議論といった取り組みを通じ、全社でのAI活用を支える基盤構築が進められている点も強調された。

SDV時代においては、ソフトウェアが継続的にアップデートされ、それに伴い契約関係や規制環境も絶えず変化する。その中で法務部門は、単なるリスク統制の役割にとどまらず、AIを活用しながら事業のスピードに伴走する存在へと進化する必要がある。製品・サービスへのAI活用支援、規制動向の迅速な把握、契約構造の最適化といった領域で、法務はビジネスの中核に入り込んでいくことになる。

本セッションは、SDV時代における「攻めの法務」への転換こそが、企業競争力を支える重要な要素であることを示す内容であった。

Session 09|From Code to Competitive Edge: Reinventing the Automotive Supply Chain

14:40〜15:10 | Jens Petersohn氏 Head of Product Management HPC, Strategy and Portfolio, Director, Elektrobit Automotive GmbH)

フィンランド発の車載ソフトウェア専業企業Elektrobitは、SDV移行に伴い自動車サプライチェーンそのものが根本的な再設計を迫られている現実を提示した。AUTOSARをはじめとする長年のソフトウェア開発実績を背景に、同社は「コードの複雑性爆発」と「既存モデルの限界」という2つの課題を軸に議論を展開した。

まず強調されたのが、ソフトウェア開発における複雑性の急激な増加である。車載ソフトウェアのコード量は今後さらに増大し、それに比例して統合コストも急上昇する。従来は全体コストの一部に過ぎなかった統合作業が、今後は開発コストの中核を占める存在へと変わりつつあり、「コードを書くこと」以上に「統合すること」がボトルネックになる時代が到来しつつあることが示された。

この背景にあるのが、従来型の垂直統合サプライチェーンの限界である。OEM、Tier1、Tier2という階層構造のもとで、機能単位で分断された開発と統合を繰り返すモデルは、ソフトウェアの継続的アップデートとスケールを前提とするSDV時代には適合しなくなっている。長い直列プロセスと膨大な調整コストが、開発スピードと柔軟性の制約要因となっている。

こうした課題に対しElektrobitが提示したのが、垂直統合から水平分離への転換である。ソフトウェアとハードウェアを階層的に分離し、各レイヤーが独立して開発・更新されるアーキテクチャへと移行することで、再利用性とスケーラビリティを確保する。この中核を担うのが「Smart SDV Platform」であり、ソフトウェアの抽象化と共通化を通じて、複数の車種・地域・ブランドを横断した効率的な開発を可能にする。

さらに、このアプローチの特徴は「段階的な移行」を前提としている点にある。既存の車両アーキテクチャやサプライヤー構成を維持しながら、ソフトウェア主導の開発モデルへと徐々に移行することで、現実的なSDV化を実現する。その過程においても、顧客体験の継続的なアップデートを止めない設計が求められる。

本セッションが示したのは、SDV時代における競争優位が単なるソフトウェア技術ではなく、「いかに効率的に統合し、継続的に進化させられるか」というサプライチェーン全体の設計力に依存するという事実である。ソフトウェアの時代は、同時にサプライチェーン再設計の時代でもあることが明確に示された。

Session 10|AI時代のコックピット開発における3Dアセットの活用

15:20〜15:50 | 松原達也氏 (Unity APAC 営業本部長)

ゲームエンジンとして世界的に知られるUnityは、自動車業界における3Dアセット活用の新たな可能性を提示した。リアルタイム3D技術を核に、車載HMIから製造、販売、運用に至るまで、企業全体の業務を横断するデジタル変革が進みつつある現状が示された。

Unityが掲げるビジョンは「誰もが3Dデータを活用できる世界」である。その実現基盤として提示されたのが、CADデータを起点としたEnd-to-Endの3Dパイプラインである。設計データを軽量化・最適化する「Adapt」、データを共有・管理する「Bridge」、体験やアプリケーションを構築する「Create」、そしてあらゆるデバイスに展開する「Deploy」という一連の流れにより、3Dデータを単なる設計資産から「ビジネス全体で活用される資産」へと進化させる。

このアプローチの特徴は、3Dデータの活用を開発フェーズに閉じない点にある。製品設計やシミュレーションに加え、製造、販売、マーケティング、アフターサービスに至るまで、企業のバリューチェーン全体に適用される。特に、CRMやCPQ、ERPといった業務システムとの連携によって、販売段階でのリアルタイム3Dコンフィギュレーションや、運用フェーズでのサポート支援など、3Dデータの循環利用が実現される点が強調された。

具体的な事例として紹介されたのが、マツダとのパートナーシップである。車載HMI開発においてUnityの技術が採用され、新型CX-5では量産車向けのコックピットにUnityベースのランタイムが導入された。これは、ゲーム領域で培われた技術が自動車の中核体験へと拡張されていることを象徴する事例である。

さらに、川崎重工業との取り組みでは、産業用ロボット領域においても3Dプラットフォームの活用が進んでいることが示された。設計から導入、運用までを一貫して支援する仕組みにより、専門知識を持たないユーザーでも高度なロボット活用が可能となる環境が整いつつある。

セッションの締めくくりでは、「一度作ればどこへでも展開できる」というUnity Runtimeの特性が強調された。Web、モバイル、XR、そして車載HMIに至るまで共通のアプリケーション基盤で展開できることにより、開発効率と体験価値の双方を高めることが可能となる。3Dデータはもはや設計情報ではなく、企業全体の価値創出を支える中核資産へと変化していることが明確に示された。

Session 11|BMWが考えるバリューチェーンCX・AIの取り組み

16:00〜16:30 | 白井 宏忠 氏(BMW株式会社 General Manager)

本サミットの中でも、特に私自身が注目していたセッションが、BMW株式会社の白井宏忠氏による講演である。「社内改革から顧客価値創出へ—販売店と顧客体験をつなぐデジタル変革」というテーマのもと、グローバル企業におけるCRMとAIの“実装”のリアルが語られた。会場は満席に近く、日本法人における具体的な取り組みに対する関心の高さが感じられた。

まず示されたのが、BMW Groupのグローバルな事業基盤である。BMW、MINI、Rolls-Royce、BMW MOTORRADの4ブランドを展開し、41か国に営業拠点、32の生産・組立工場、18の研究開発拠点を有する。その中で、インドの開発拠点がアジア各国向けのMicrosoft Dynamics CRMを担っている点は、グローバルで統一された顧客データ基盤の重要性を象徴している。

BMW Group Japanのデジタル戦略は、①マネジメント改革、②ディーラープロセス改革、③全社デジタル化という3つの領域で構成される。この3つが相互に連携することで、単なるデジタル化にとどまらず、顧客体験と業務プロセスの連動を実現する構造が描かれている。

その中核となるのが、Microsoft Dynamics CRMを活用したディーラープロセス改革である。顧客接点はオンライン・オフラインの両方にまたがり、リード獲得から見積、受注、納車、アフターサービスに至るまでの全プロセスが一貫して管理される。「ONE Platform」を軸に、ファイナンス、納車、コネクテッドサービスといった各システムが連携し、顧客データ・行動履歴・販売履歴・入庫履歴を統合管理する。さらにコールセンターとディーラー間でデータを横断的に共有することで、どのチャネルでも一貫した顧客体験を提供できる基盤が構築されている。

組織面では、「AI Champion」制度を軸とした全社的なAI活用が推進されている。各部門に配置された担当者が現場でのAI活用をリードし、グローバルからリージョン、日本へと3層構造で展開される仕組みだ。加えて、Copilotを含む各種AIツールが全社員向けに提供され、単なる導入ではなく「行動変容」を伴う変革として進められている点が特徴的である。データ整備、ガバナンス、活用シナリオの定義といった前提条件を丁寧に整備した上で、AI活用が組織全体に浸透している。

さらに、BI化によるデータドリブン経営の推進も重要な柱である。従来のExcel中心のレポーティングからPower BIベースへ移行し、レポート数の削減と可視性向上を同時に実現した。商談パイプラインの一元管理やリテールCRM分析、ディーラーネットワークの可視化を通じて、現場と経営をつなぐデータ基盤が整備されている。

本セッションが示したのは、CRM導入そのものではなく、「顧客接点・業務プロセス・組織」を横断した実装としてのデジタル変革である。Dynamics 365を中核に据えながら、AIとデータを組み合わせ、現場で使われる形にまで落とし込む—その現実的なアプローチこそが、競争優位を生み出す源泉であることが明確に示された。

Session 12|MISRA Copilotが挑む、AIエージェントで変える車載ソフトウェア開発の未来

16:40〜17:10 | 小出粋玄氏 (Woven by Toyota,Head of DevBoost, World Understanding, ADAS)

一日の終盤を飾ったのは、Woven by Toyotaによる極めて示唆に富むセッションである。登壇したエンジニアは、「100億円のボトルネック」という強い言葉を起点に、車載ソフトウェア開発における品質保証の課題と、それをAIエージェントでどう変えようとしているのかを語った。単なるPoC紹介ではなく、生成AIを本番運用へ持ち込むために必要な思想と実装の両面が提示された点で、非常に完成度の高い内容であった。

まず示されたのは、車載ソフトウェアの規模がすでに従来の常識を大きく超えているという現実である。コード量はこの20年余りで急激に増加し、その品質を担保するためのMISRA準拠対応が開発現場に巨大な負荷を与えている。静的解析で検出された膨大な違反を人手で修正し続けるやり方は、もはや持続可能ではなく、品質保証そのものが開発全体のボトルネックになっているという問題意識が共有された。こうした背景から開発されたのが、MISRA違反の修正をAIエージェントで自動化する「MISRA Copilot」である。

しかし本セッションで印象的だったのは、単に「AIでコード修正ができます」という話にとどまらなかった点だ。MISRA CopilotはPoC段階で注目を集めた一方で、実用化に向けては大きな壁に直面したという。ひとつは、エンジニアが実際に使い続けられるUXをどう設計するかという壁。もうひとつはそれ以上に本質的な、生成AIを動かす本番インフラの壁である。「プロンプト部分は全体のごく一部にすぎず、残りの大部分は本番運用のためのソフトウェアエンジニアリングである」という指摘は、会場に強い印象を残した。生成AIを業務システムに組み込むには、データ、インフラ、LLM、ミドルウェア、アプリケーションに加え、セキュリティやResponsible AIを含めた包括的な設計が必要になることが率直に語られた。

この「死の谷」を越えるために採用されたのが、Woven by Toyotaが提示したHarness Engineeringという考え方である。これは、AIに単発でコードを書かせる発想ではなく、AIエージェントが自律的に働ける環境そのものを設計するという思想だ。Prompt Engineering、Context Engineeringのさらに上位概念として位置づけられ、エージェントが継続的かつ安全に価値を出せる実行環境をどう構築するかに焦点が置かれている。この発想の転換によって、AI活用は単発の支援ツールから、開発工程そのものを再構築する仕組みへと進化していく。

さらにMISRA Copilotは、単独のツールではなく「Automotive V-model Copilot」という大きなビジョンの一部として再定義された。V字開発モデルの各工程に、それぞれ役割を持つAIエージェントを配置し、コーディング、単体テスト、過去不具合の参照、仕様監査や設計文書生成までを支援する構想である。つまり、品質保証の一機能を自動化するのではなく、車載ソフトウェア開発全体をエージェント群で加速する方向へと発展していることが示された。

そして、この取り組みがWoven by Toyota社内に閉じたものではなく、すでに複数のOEMやTier1企業と共有される業界共通課題の解決へ広がり始めている点も重要である。現場の切実な課題から生まれた仕組みが、業界全体に展開可能なアーキテクチャへと進化しているという構図は、本サミット全体を通じて語られていた「Agentic」「AI Native」「Software-Defined」の流れとも強く呼応していた。Session 12は、その流れを最も鮮明に示したセッションのひとつであったと言える。

Session 13|半導体メーカーが語る生成AI時代の自動車開発のあり方

17:10〜17:50 | AMD × NVIDIA パネルディスカッション

坂本 寛之 氏(AMD Cloud Business Development Manager)
古屋 憲吾 氏(AMD)
吉見 英朗 氏(NVIDIA オートモティブ事業部 Head of AI Factory)

本サミットの最後を締めくくったのは、AMDとNVIDIAという半導体業界の中核を担う企業が並んで登壇するパネルディスカッションである。この2社が同じステージに立ち、自動車業界のAI化を語る場は非常に稀であり、Microsoftを支えるクラウドおよびAI基盤の視点から議論が交わされた点で象徴的なセッションであった。

まずAMDは、Microsoft Azureとの長年にわたるパートナーシップを軸に、自動車業界におけるAI活用基盤をどのように支えているかを説明した。両社の協業は2017年に始まり、EPYCプロセッサの進化とともにAzureのインフラは大きく拡張されてきた。現在では第5世代EPYCに加え、AI向けアクセラレータであるInstinctシリーズなどを組み合わせることで、学習・推論の双方を支える高性能なクラウド環境が提供されている。

重要なのは、こうしたインフラが単なる計算資源ではなく、OEMがAI開発を実行するための「前提条件」そのものになっている点である。車両開発におけるAI活用、生成AI、さらにはCopilotやエージェントの実装に至るまで、その裏側にはこうした計算基盤が不可欠である。AMDは、まさにその基盤を担う存在として、自動車業界のデジタル変革を支えている。

一方のNVIDIAは、自動運転を中心としたAI活用の全体像をコンセプトレベルで示した。「学習」「シミュレーション」「車載実行」という3つのコンピューティングレイヤーを連携させることで、データ収集からモデル開発、検証、そして実車適用までを一体化するアプローチが紹介された。また、生成AIやワールドモデルを活用したシミュレーション技術により、従来では困難だった長尾事象への対応が可能になりつつある点も強調された。

さらに、自動運転だけにとどまらず、顧客接点、コネクテッドサービス、サプライチェーン、ソフトウェア開発といった自動車バリューチェーン全体にAI活用の余地が広がっていることが示された。エージェントやCopilotの概念は、こうした領域すべてに適用される可能性を持っている。

パネルディスカッションでは、「Microsoftおよび自動車業界への期待」等をテーマに議論が行われた。両社ともに、クラウド、AI、データを中心としたエコシステムの重要性を強調し、単一企業で完結するのではなく、パートナーと協調しながら価値を創出していく必要性が共有された。

本セッションが示したのは、生成AI時代における競争力が、アプリケーション単体ではなく「基盤とエコシステム」によって決まるという事実である。AMDが支えるインフラ、NVIDIAが描くAIスタック、そしてMicrosoftが提供するプラットフォーム—これらが組み合わさることで、初めて次世代のモビリティ体験が成立する。その構造が、極めて明確に示されたセッションであった。

Session 14|クロージング

17:50〜18:00 | 日本マイクロソフト株式会社 竹内洋二(常務執行役員)

ここまで、多くのOEM、パートナー、ベンダーが一堂に会し、日本のオートモーティブ業界におけるDXの現在地と未来について議論が交わされた一日であった。

本サミットで提示された通り、AI投資効率では世界トップ水準にある一方で、その活用が進んでいる企業割合は依然として低い—この事実は、日本市場における課題と可能性の両方を象徴している。

そうした一日を締めくくったのが、本クロージングセッションである。

登壇した竹内洋二氏は、まず本サミットが昨年度に続き2回目の開催を迎えられたこと自体に大きな意義があると振り返った。単なる単発イベントではなく、OEM、テック企業、パートナーが継続的に議論を深める“場”として、このサミットが日本市場に根付き始めている——その継続性こそが、日本のオートモーティブ業界の進化にとって不可欠であるという点が強調された。

また、直近で開催されたMicrosoft Buildにも触れられ、AI、Copilot、そしてエージェント技術の進化が、単なる業務効率化にとどまらず「ビジネスの在り方そのもの」を変え始めているという認識が共有された。これは本サミット全体を通じて繰り返し語られてきた「AI Defined」「SDV」「Agentic」というキーワードとも強く呼応しており、車両開発・製造・販売・アフターサービスに至るまで、業界全体を横断した変革が進行していることを裏付けるものであった。

さらに竹内氏は、日本のオートモーティブ業界が今後も競争力を維持し成長を続けていくためには、単一企業での取り組みには限界があると指摘した。OEM、システムベンダー、そしてMicrosoftパートナーが分断された形で進むのではなく、エコシステムとして相互に接続され、価値創出を行うことの重要性が改めて示された。

締めくくりとして、「この場に集まったすべての企業・パートナーとともに、日本のオートモーティブビジネスの成長に全力で貢献していく」という力強いメッセージが発せられ、本サミットは幕を閉じた。

会場に残っていたのは、単なるイベント終了の空気ではない。「ここから次の取り組みが始まる」という明確な前進の感覚であった。その熱量こそが、本サミットの最大の価値であったと言えるだろう。

最後に、アンケートへの協力を呼びかける場面があった。来期のサミットでは、この一日で提示された数々の示唆が、どのような“実装された成果”として持ち寄られるのか—その答えが示されることを期待したい。

特に、本サミットで繰り返し語られた「エージェント」は、ソフトウェア開発、製造、顧客体験といった各領域において、すでに実装フェーズへと移行しつつある。その影響は今後さらに広がり、オートモーティブビジネスの構造そのものを変えていくことになるだろう。

懇親会|木谷 昭博 氏(Mazda CIO)による乾杯の音頭

総括と考察|「AIDefined」「SDV」「Agentic」が示した、自動車業界の次の秩序

今回のMicrosoft Automotive Summit 2026を通じて、私が最も強く感じたのは、いま自動車業界で起きている変化は、もはや個別技術の進歩や個社の先進事例として語れる段階を超えているということである。

AI、SDV、エージェント―これらは、それぞれ独立したテーマではない。むしろ相互に連動しながら、自動車産業における競争の前提そのものを、静かに、しかし確実に書き換え始めている。実際、本サミットを通じて語られた論点は、車両開発、製造、顧客体験、法務、サプライチェーン、ソフトウェア品質保証にまで及んでおり、その広がり自体が、変化の本質が産業構造レベルにあることを示していた。

従来の自動車産業は、卓越した設計力と製造品質によって競争力を築いてきた。優れた製品を企画し、開発し、量産し、市場に届ける。その完成度の高さが価値の中心であった。しかし今回のサミットで繰り返し示されたのは、その価値創出モデルが「出荷して終わる構造」から、「出荷後も継続的に学習し、更新し、価値を再構成し続ける構造」へと移行しつつあるという現実である。BCGのセッションで語られた「ものづくり産業から学習産業へ」という言葉は、その変化を最も端的に表現していた。Microsoftのセッションにおいても、AIエージェント、クラウドサービス、継続収益化という観点から、同じ方向性が提示されていた。

ここで重要なのは、SDVを単なる車両アーキテクチャの刷新として理解しないことである。SDVは確かにソフトウェアプラットフォーム、OTA、クラウド、E/Eアーキテクチャといった技術要素を含む。しかし、その本質は技術レイヤーの変化だけではない。SDVは、開発体制を変え、品質保証を変え、サプライチェーンを変え、法務や契約のあり方を変え、さらには顧客との関係性や収益モデルまでも変えていく。言い換えれば、SDVとは車両の定義変更であると同時に、企業の定義変更でもある。VectorやElektrobitが示したSoftware Platform、Software Factory、Everything-as-Code、水平分離型サプライチェーンの思想は、そのことを極めて明快に示していた。

そして、今回のサミットにおける最大のキーワードをひとつ挙げるなら、私は迷わず「Agentic」を挙げる。ただし、ここでいうAgenticは、単なる自律化や自動化ではない。Agenticの本質は、判断と責任の境界をどう設計し直すかにある。どの文脈をエージェントに見せるのか。どのルールの中で行動させるのか。どの段階で人が介在し、どこまでを機械に委ねるのか。この問いに向き合わずして、真の意味でのAgentic Transformationは成立しない。Boschが提示したAutonomous Engineering、豊田自動織機が示した「現場で意思決定が回る仕組み」、Wovenby Toyotaが語ったHarness Engineeringは、いずれもAIを単なる支援ツールではなく、組織の中に埋め込まれる実行主体として捉えていた点で共通している。

私は、日本企業にとって最も難しいのは、AIを導入することそのものではなく、AIが成果を出せるように業務、データ、権限、責任、評価指標を組み替えることだと考えている。Openingで示されたように、自動車・運輸分野はAI投資対効果において世界トップ水準にある一方で、本格活用企業の割合は依然として低い。これは技術力の問題ではない。むしろ、データの持ち方、部門の越え方、意思決定の再設計、責任の持たせ方といった、企業の構造設計の問題なのである。

この観点から見たとき、BMWのセッションは極めて示唆的であった。そこにあったのは、単なるDynamics365活用事例ではない。顧客接点、ディーラー、コールセンター、Connected App、BI、AI Champion制度をひとつの変革プログラムとして接続し、顧客体験と業務プロセスと組織文化を同時に動かしていた。私たちがDynamics365やCRMの価値を語るとき、本来目指すべきなのはこの水準の“実装”である。システムを入れることではなく、顧客との関係性、現場の行動、経営の意思決定までを変えること。BMWのセッションは、その現実解を極めて具体的に示していた。

同時に、このセッションは、私たちTechnosoft Automotiveの責任についても改めて考えさせるものであった。日本市場を見渡すと、こうした変化の本質にまだ十分に気づいていないOEMや関連企業は少なくない。AIを局所的な効率化ツールとして捉え、CRMを部門最適の道具として扱い、データ活用を単なる分析機能の追加として理解している企業も多い。しかし、競争のルールが変わり始めた以上、その遅れはやがて技術格差ではなく、事業格差、収益格差、顧客接点格差として表面化していく。

だからこそ、私たちはこれを評論として語るだけでは足りない。Dynamics365、CRM、DMS、データ統合、顧客接点設計、AI活用、そして現場定着までを含めた実装知見を持つ立場として、市場に対してもっと深く貢献しなければならないと私は考えている。変革の方向性を理解している一部の先進企業だけが前に進めばよいのではない。いままさに変化に気づき始めた企業、これから本格的に動き出す企業に対しても、現実的な道筋を示し、ともに変革を実装していくこと。それこそが、これからのTechnosoft Automotiveに求められる役割であり、私自身が強く担うべき責任だと感じている。

また、今回のサミットは、Microsoftの立ち位置を改めて鮮明にした。

Microsoftはもはや単なる業務アプリケーションベンダーでも、単なるクラウド事業者でもない。Azureが支える計算基盤、Fabricやデータ基盤、Copilotによる知的支援、Dynamics365による業務接点、そしてパートナーエコシステム全体をつなぐハブ――そのような存在として、自動車業界の再編の中心に位置し始めている。AMDとNVIDIAが同じステージに立ったことも象徴的であった。計算資源、AIスタック、業務アプリケーション、業界ソリューション、現場実装。そのすべてが相互接続されて初めて価値が生まれる時代に入ったのである。

では、この先に何が問われるのか。

私は、それは「何を知っているか」ではなく、「何を実装したか」だと考えている。

AIDefinedという言葉は、もはや遠い未来のキャッチコピーではない。

SDVという言葉も、研究開発部門の中だけにとどまる概念ではない。

Agenticという概念も、PoCの中で消費される流行語ではない。

これらはすでに、

  • 開発期間をどう短縮するか
  • 品質保証をどう再設計するか
  • 顧客接点をどう統合するか
  • 意思決定をどう高速化するか
  • 組織をどう変えるか

という、極めて現実的な経営課題に姿を変えている。

私は、このMicrosoft Automotive Summit2026が示した最大の価値は、未来を夢として語ったことではなく、すでに始まっている現実を、産業横断で可視化したことにあると考えている。

来年、この場で問われるのは、「どの技術が面白かったか」ではない。

「どの企業が、どこまで構造を変え、どこまで実装を前に進めたか」である。

そして、その問いに最も正面から向き合った企業こそが、次のオートモーティブビジネスにおける競争優位を手にすることになるだろう。

Microsoft Automotive Summit 2026は、その“始まり”を示した。

次に必要なのは、解釈ではなく実装である。

そして、構想ではなく接続である。

日本の自動車業界が真に強くなるかどうかは、この変化を個別技術としてではなく、産業構造の再設計として受け止められるかどうかにかかっている。

私は、その転換点が、確かにこの日ここにあったと感じている。

最後に

今回のサミットを通じて私は、変化の大きさ以上に、その変化がすでに“始まってしまっている”ことの重みを強く感じた。

AI、SDV、エージェント―それらは、もはや遠い未来の話ではない。

気づいた企業から、構造を変え、現場を変え、顧客体験を変え始めている。

だからこそ、私たちTechnosoft Automotiveもまた、この変化を単なる評論の対象として語るのではなく、市場の実装を支える当事者として、より一層強い責任と覚悟を持って向き合わなければならない。

日本のオートモーティブ業界が次の時代においても世界の中で存在感を発揮し続けるために、いま必要なのは傍観ではなく接続であり、理解ではなく実装である。

そのことを、この一日を通じて改めて確信した。

以上、室長でした。

dx365jp
  • dx365jp
  • 25年ほど、Microsoft Dynamics 365 【ERP(NAV/AX)+CRM】の導入コンサルティングに従事し、日本を含む34か国において導入コンサルティングを経験してきました。グローバル環境における“プロジェクト”と“マーケティング”を生業としております。

    最近は、【CRM/MKTG(攻めのDX)⇔ ERP(守りのDX)】+【ローコード】というDX365な活動に奮闘中です。Microsoft Dynamics 365 ビジネスで地球を92周中です。#DX365 #DynamicsIoT

    Microsoftの運営する外部技術者グローバル組織「Microsoft MVP(*日本163名/世界3674名)・ Microsoftのトラスティッドアドバイザーである「Microsoft Regional Director (*日本4名/世界167名)」として、複数のITコミュニティーにて活動中。(*2026/08/08時点)

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